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10 出逢い(sideアルカンシエル)3
しおりを挟むそうしてどのくらいか、鍋のスープが煮えて更に食欲をそそる匂いになった頃、バサッとテントの入り口が開いた。
「やあ、こんにちは」
「---へ?」
暫く固まった後、そそそっとテントに戻ろうとしたのを一瞬で見抜き、ばっと手首を掴んで止めた。
彼は驚くほど綺麗だった。
確かに聞いた特徴と一致する。
金のメッシュの入った黒髪を無造作に一括りして更に簪で器用にひとまとめにして留めているため、うなじが綺麗に見える。
切れ長の銀の瞳はやや潤んでいた。
掴んだ手首は折れそうなほど細い。
そして微かに震えていた。
---あぁ、人見知りだったな。
初対面で俺みたいな大柄の男に迫られたら怖いよな。
そう思って少し力を緩めた。
あからさまにホッとしたが、しかし俺が手を離さないから戸惑っているようだ。
可愛い。
「・・・・・・あー、すまない。安全地帯に来たら良い匂いがしていて、見たら誰もいないのに鍋が火にかかっていて。気配を探ったらテント内にいるのが分かったので、スープの番をしつつ待っていた」
「・・・・・・それは、どうも」
無愛想に、言葉少なに返されて、内心で苦笑した。
コレは手強そうだ。
「この迷宮で初めて(じゃ無いけど、嘘も方便!)冒険者にあったから、つい、ゴメンね」
一度退いた方がいいかと、その場を去ろうとしたら何故か袖口を引っ張られた。
---え?
お互い、ちょっと戸惑った。いや、ノアの方はかなり戸惑っているようだ。
本人も無意識の行動だったのかもしれない。
「あの、スープ・・・食べます?」
彼は戸惑いながらもそう言った。
結局、そのままスープをご馳走になった。
他にもサンドイッチや唐揚げなど、本当に美味かった。
食べながら話を聞くに、薬師だが錬金術師でもあり、錬金術で調薬をしているようだ。
薬草の他にも錬金術に必要な素材を得る為に、必要に駆られて冒険者稼業をしていると。
それでいつの間にかAランクになったそうだ。
いやそれ、別に自分で行かなくてもギルドに依頼を出せばとってきてくれるだろう、普通は。
そもそも、薬草自体は薬師ギルドに納品される契約を結んでいるだろうし。
---つまりはそういうことだ。
薬師ギルドがやっかみでノアのお爺さんの時から薬草を卸すのを拒否してたんだろう。
それで仕方なく自宅の裏庭で薬草を栽培し、他に必要な物はノアが冒険者登録をしてコツコツとランクをあげながら自分で採ってくるようにした。
薬師ギルドとの関係をノアが知ったら傷付くだろうと思って、そのお爺さんとやらは本当のことを言わなかったのかもしれない。
聞くところによると、血の繋がりはないそうだが、唯一の家族のお爺さんを6年前に亡くしてからはずっと独りらしい。
周りもどことなく一線を引いているようで、本当の意味で天涯孤独のようだ。
ほろりと涙を零すノアが綺麗で・・・。
不意に甘い薫りが鼻についた。
ハッとした。
この薫りは・・・・・・。
思わず呆然として、ノアの言葉が上手く頭に入ってこなかった・・・・・・。
次に我に返った時は、ノアが火の始末をしてテント以外は片付いて何もなくなっていて。
「ええっと、ノア、発情期は一人で籠もるのか?」
「そう、今までも一人だったし「なら、俺も一緒に!」・・・はぁ・・・?!」
戸惑うノアを半ば強引にテントまで連れて行けば、ノアに俺は入れないと言われて、聞けば錬金術で作ってあるから魔力登録が必要だとか。
「じゃあ、すぐやっちゃって」
ぐいぐい来られて戸惑っているノアは、何故か半ば棒読みな敬語で俺の魔力登録をしてくれた。
強引なのは百も承知だ。
そうしてさっきの俺とは逆に呆然としているノアを連れて入ると、そこは予想外の広さだった。
---なんだコレ。
こんな空間、作れるのは時魔法の最高クラスの空間拡張魔法くらいだろう。
とんだびっくり箱だ。
薬師で錬金術師で、おそらく大賢者クラスの魔導師で。
二人といないだろう、こんなヤツ。
俺がキョロキョロと室内を探索していたら、ノアが遣る瀬ない声で、小さく呟いた。
---ベッド、行きたい。
色々と限界だったようだ。
---ソレは俺もだったけれど。
ノアを横抱きにして寝室のベッドに下ろし、様子を窺うようにそっと口づけをすると、トロンとした銀の瞳が蕩けたように潤んで。
再び口づければ、ノアの理性はあっという間に溶けていった。
ノアから立ち上るフェロモンに、俺の体も熱くなっていく。
番い相手に自制は効かなそうだ。
---そう。ノアは俺のフェロモンにあてられて、俺はノアのフェロモンにあてられた。
おそらくノアにとっては予定外の発情期で、俺にとってはまたとない機会で。
まさかこんなところで唐突に出逢えるとは思わなかった。
---俺の運命。
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