8 / 533
4 旅は道連れ世は情け 1
しおりを挟む物思いに耽ってしまったが、ハッと我に返り、アークさんに声をかける。
「すみません、アークさん。とりあえず食べましょう」
「あぁ、それ。さん付けとか敬語はなしでいい」
「・・・え、でも、アークさん、年上だし、ランクも」
「そんなの関係ない。同じ冒険者だしな。そういえば幾つなんだ?」
カラカラ笑ってそう言うので、まあ良いかと敬語は止めた。
「俺は21歳。アークは?」
「俺は32歳だ。割と離れているな」
「・・・もっと若いかと思った」
「そうか? 俺はノアが21歳なのに驚きだ。もう少し上かと思ってたよ」
「---あー、見た目老けてるって言われる。どうせモテないから、別に、いい」
「ええ? モテるだろう」
「---ない。一度も」
でなきゃ、迷宮に八つ当たりしに来ない。
「もったいない」
アークが何かぽそっと呟いた。
「え?」
「いや、何でもない。ところでスープ、出来たのか?」
「あ、味見して塩コショウしたら」
「じゃあ早く食べようぜ。待ちきれなかったんだ」
そう子供のようにはしゃぐので、思わず笑ってしまった。
爺さんが死んで独りぼっちになって、初めて好意を持った男は結婚してしまって。
どうしようもない寂しさで笑う事なんてここ暫くなかったのに。
心の隙間がほんの少し埋まった気がした。
アークが俺の笑顔を見て顔を赤らめていたが、きっと変な笑い顔だったんだろう。
恥ずかしい。
スープをよそってアークに渡す。ついでに作り置きのサンドイッチも出してやれば目が輝いていた。
「いやあ、迷宮内でこんなに美味い物食べたの初めてだな!」
そういってガツガツ食べるアークを見やる。
あっという間に食べ終わるのに所作が綺麗だ。
貴族や豪商の出なのかも。
跡を継がない三男以下や豪商の子供なんかはよく冒険者になったりするらしいし。
ぼーっとアークを見る。
俺とは対照的に、肩甲骨辺りの長さの銀髪をうなじのあたりで一括りにしている。
金の瞳に褐色の肌。
筋肉は盛り上がっていて体の厚みも俺の倍くらい。
・・・・・・羨ましい。
涎でも出てそうな顔をしていたのか、ジッと見ていたのに気付いたアークが頬を染めた。
---ゴメン。気色悪いよね?
「もっと食べる? 肉料理もあるけど」
誤魔化すように言えば、ぱあっと顔を綻ばせて頷いた。
・・・・・・可愛い。
---いやいや、何を思ってんだよ。
どうしちゃったんだ、俺。
なんかおかしい。
邪念?を振り払ってマジックバッグから唐揚げを出してやれば目を輝かせて食べ始めた。
良いなあ。こんなに良い食べっぷりの旦那とかいたら、料理のしがいがあるよね。
こんなに美味そうに食べてくれる人いないし。
・・・・・・そもそも手料理食べてくれる人って爺さん以外いなかったな。
俺って実は寂しいヤツだったんだなぁ。
なんかしんみりしちゃって、気付いたアークが様子をうかがってくる。
「どうした? 大丈夫か?」
「・・・・・・いや、手料理食べてくれる人、死んだ爺さん以外にいなかったなって思って。アークが初めてだなって。そういえば俺、友人もいないし・・・・・・独りぼっちだと思ったら、なんか・・・その・・・ゴメン」
不意にぽろっと涙が溢れた。
おかしいな。
爺さんが死んで、泣いて泣いて、もう涸れたと思ったのに。
---あ、これはアレだ。
成人する少し前から年に一度来る、情緒不安定な日。
一週間くらい続く、体が熱くなって意識がぼんやりする日。
最初になったときに爺さんがやっぱり口を酸っぱくして言ってた。
『その一週間は変な野郎を近づけるな! 襲われたくなけりゃ、家に結界張って引き籠もれ!』
『襲われる』の意味がよく分からないなりに、毎年その時期になると言われた通りに家ごと頑丈な結界の魔導具で覆って引き籠もっていたっけ。
なんで今?
まだ当分先のはず・・・。
ヤバい。
『襲われる』意味をここ数年で悟った。
コレは発情期。
俺は自分が何の種族か知らない。
発情期がある種族はけっこうあるが、俺は目立った種族特性もなく、外見もコレといった特徴が出てないからだ。
更にはギルドの鑑定魔導具でも『種族不明』だったんだよな。
だから最初コレが発情期って分からなくて。
初めてなったときに気を使ったんだろうな、爺さん。
はっきりと発情期って言わなかった。
徐々に教えてくれようとしたんだろうな。
でもその前にぽっくり逝っちゃったけど。
爺さんが生きてたら俺の事分かったのかな?
爺さん、凄え人だったしな・・・。
とにかくアークに断って、片付けてテントに籠もろう。
何、一週間くらい籠もっても食料なんかはインベントリの中だし、テントは外見は普通に一人用だが内部は拡張してあって店舗の居住区並みに充実している。
家に籠もるのとさほど変わらない。
そう思って一言断ろうとアークを見たら、なんか呆然としていた。
---なんで?
464
お気に入りに追加
7,359
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる