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3 初めましてのSランク冒険者 2
しおりを挟むテントから慌てて出たら。
「やあ、こんにちは」
「---へ?」
---いや、誰だよ!
『こんにちは』じゃねえよ!
一瞬びびってテント内に戻りそうになったのは仕方ないだろう。
ていうか、俺!
いくら考え事してたとはいえ、なんで気付かなかった?!
テントが認識阻害、防音結界で物理、魔法無効というスペシャルな仕様の錬金魔導具とはいえ、普段なら気配を察知するのに。
・・・・・・コイツ、何モンだ?!
そのままそそそっとテントの中に戻ろうとしたら一瞬で手首を掴まれた。
ひぇ。
思わず体を固くして動きが止まってしまった。
---きっとモテないのはこういうとこ。
俺は半ば引き篭もり生活だったために人見知りが酷い。
街の人やギルドメンバーはしょっちゅう顔を合わせているからいい加減慣れたが、初対面の人は無理。
そうでなくても無愛想な顔が強張って恐ろしいことになっているはず。
元々無口なタチのこの口は全く役に立たず。
わいわいガヤガヤと煩いのは頭の中だけ。
何なら体は小さく震えている。
手首を掴んでいる男も気付いているのだろう。
やんわりと力を緩められた。
---離してはくれないが。
「・・・・・・あー、すまない。安全地帯にきたら良い匂いがしていて、見たら誰もいないのに鍋が火にかかっていて。気配を探ったらテント内にいるのが分かったので、スープの番をしつつ待っていた」
「・・・・・・それは、どうも」
スマン。人見知り発動中なので最低限しか話せない。
それを気にしたふうもなく、美丈夫さんは続けた。
「あぁすまない、自己紹介が先だったな。俺はアルカンシエルと言う。長いのでアークとかシエルと呼ばれている。好きに呼んでくれ。ちなみにSランク冒険者だ」
あぁ、Sランク。
通りで察知出来なかった訳だ。
自分より遥かに格上の冒険者だ。
AとSでは大きな壁がある。
故にSランクは数が少なく、国でさえSランク冒険者を無碍に出来ない。
機嫌を損ねでもしたら国一つ滅ぼせる力があるという。
今いるのは確か五指くらいだったか。
---そのSランク冒険者の一人が目の前にいる不思議。
それはともかく。
「・・・・・・俺はノア。一応Aランクだ」
「あぁ、だから一人でも潜れるんだ。俺はこの街に昨日来たばかりでね、迷宮には今日潜ったので勝手が分からなくて、ゴメンね?」
「いや」
そっか、俺が潜ってる間に街に来たなら俺のことを知らなくて当然だしな。
それよりも人見知り発動中の俺の方が態度が悪いわ。
「・・・こちらこそ、その、悪い。俺、人見知りで・・・・・・」
「いや、全然。俺も急に悪かった。初めて迷宮内で他の冒険者に会ったから、つい。じゃあ・・・」
そういって離れようとしたもんだから、咄嗟に袖口、掴んでしまった。
「え?」
「ぁ」
「「・・・・・・」」
気まずい。
いやいや、頑張れ、俺!
「あの、スープ・・・食べます?」
「---え、いや、だが良いのか?」
「煮込む間に調薬を、と思って、忘れてて・・・助かったので」
「あぁいや別に・・・ん? 調薬?」
「あ、俺、薬師で」
「え? Aランク冒険者なのに?」
「---あー、本職が薬師で、冒険者は薬草とか素材を手に入れる為、やむを得ず・・・・・・?」
「・・・へえ・・・」
思えば爺さん、無茶ブリだったよな。12歳で冒険者見習いにして、やれあの薬草採ってこいだの、やれあの鉱石掘ってこいだの・・・。
お陰で15歳の本登録の時点でCランクスタートだったし。
そんな思い出を掘り起こしていたから、アークさんが何やら思案していた事に気付かなかった。
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