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③名探偵の違和感
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「で、どうなのタワ。分かった?」
前回同様、ショサイという名の脱衣所に入り、ペタンと座るあやの。タワシも床に降ろして、二人の間に岡田がもらったメッセージの紙を置く。
さっきジムショという名のリビングで「とりあえず一回まとめよか」というタワシの言葉を聞いてここに来たあやのは、相棒である茶虎のマンチカンに期待を込めた眼差しを送る。
「まず、ワシのいう通りに別の紙に書いてくれや」
あのカワイコちゃん、この紙えらい大事そうやから落書きすんのは忍びないで。リョーカイ、とあやのはメモ紙にタワシの指示通りの文字を書く。
「これでいいの?」
タワシはメッセージの前半部分を書き写す様に指示していた。
「そうそう。これがフジコ先生とやらの謎かけのキモやろな」
「鍵になる五つの言葉ってヤツ?」
タワシは首をかしげる。
「まあ、な……うん」
ん?タワにしては歯切れが悪いなとあやのは思った。
「自分、このト書き、鏡、磨く、死骸ってどう思うん」
タワシがあやのを見上げる。ト書き、鏡、磨く、死骸でしょ…えーと。あやのは顎に手を当て考える。
「全部『が』がつく、とか?」
とがき、かがみ、みがく、しがい。全部二文字目に「が」がついている。コレはイダイなるゼンシン?でも、だいたいあやのの鋭いスイリはタワに鼻で笑われるパターンが多い……と思ったら
「自分にしては、あながち悪くない推理やな」
あら、意外と好反応。
「ここでヒントが生きてくるな」
「え?ヒントなんてあった?」
タワはあやの達には分からなかったヒントを見つけたんだろうか。どこに?
「答えはいつもシンプル、なんやろ」
タワシはあやのが書いたメモ紙にぺたんと手を置く。
「この言葉、シンプルにしてみい」
この言葉をシンプルに?何か漢字ばっかりで全然シンプルじゃない。ん?漢字ばっかり?じゃあ……
あやのは先程のタワシの指示に更に赤で何かを書き加える。
シンプル感が出た気がする。
「そうそう。自分冴えとるやんけ」
タワにまた褒められた!今日はあやのゼッコーチョーなの?やだ、これってカクセーのゼンチョー?
「なにニヤついとんねん。こっからや」
タワシが浮かれるあやのに釘を刺す。
「鍵となる言葉で謎を解いてみい」
鍵となる言葉は、とがき、かがみ、みがく、しがい、だよね。なんか「が」が多いヤツ。で、とかのやみはなし……なるほど、分からん。でも顔だけはキメるあやの。見かねたタワシが
「『が』が多いんやろ。とーがーきー、かーがーみー、みーがーくー」
がーを強調したアクセントでメモ紙の言葉を唱える。とーがーきー?と・が・き。と「が」き……え!あ!ゔぉっ!
思わずあやのが発した変な声にピクっとするタワシ。コイツどっから声出しとんねん。ノドにちっちゃいオッサンでもおんのか。
「これってさ、『と』が『き」になって『か』が『み』になるんじゃ」
そしたら……ペンを走らせるあやの。
そして「あっ」と声を漏らす。
「きみの、やくは、ない…」
と、つぶやくあやの。
「……ま、そうなるんやけど」
タワシは手で顔を拭っている。
「え、待って。何なのこのフジコフジオ先生ってヒト。手間ひまかけてわざわざ言うコトじゃないじゃん!」
「フジコフジオやのうて富田フジコ先生や。21エモンのオーディションとかやるんか」
プリプリと怒るあやのに冷静にツッコむタワシ。
「でもさ、君の役は無いとか、なんか言い方キツくない?」
これじゃ、あやかが可哀想だよ。コンカイはゴエンがナクテ~とか、ホンジツはオアシモトがワルイナカとか、他に言いようがあるじゃん、よく分かんないけど!唇を尖らすあやの。むー!
「でもそれが真剣に考えた結果なんやろ」
それがプロの世界なんやないか。元のあやかがもらった紙に手を置くタワシ。
「岡田のカワイコちゃんも学芸会やっとるワケやない。こういう世界と知ってチャレンジしたんとちゃうんか」
そりゃ、そうだろうけど。あやのだって、昔はそういう世界に身を置いていたから分からなくはない。けど、けどさ。
「まあ、謎は解けたんやから。後はカワイコちゃんに教えてやらな」
「うん…」
申し訳ないのはワシも同じやで。出来ればええ結果にしたかったけどな。でも、何や、ワシも何かスッキリせえへん。それっぽいカンジにはなったけど、コレでええんやろか。首をかしげるタワシ。
「……君の役は無い、かあ」
岡田と小島の待つ事務所(リビング)に戻ったあやのから、あやの(とタワシ、大部分タワシ)の推理を聞き、結果のメモ紙を見た岡田は深いため息をつく。
「うん。察してはいたけど、わざわざクイズにしてまで言われると、何かさ」
へこむよね、やっぱり。岡田は困り顔で唇を尖らせる。
「でも、とりあえず富田先生のクイズが解けたのは助かったよ。ありがとね、あやの」
岡田はあやのに微笑む。なんかゴメンね、あやか。お礼なんていいよ。あやの力になれなかったし。
「でもさ、最終まで残ってメッセージもらって、成長に期待されてるんだから、これからだよナ」
小島は華奢な両手をグッと握って岡田を励ます。
「そうだよ。こんなフジコフジオ先生のクイズごときで」
「富田フジコ先生ナ」
ルーティンの様に反応する小島。
「あやかのエンゲキジンセイがサユーなんてされないんだから!」
まだプリプリとした怒りが収まらないあやの。そんなあやのを見て岡田はアタシの演劇人生が左右?いやいやいや、アタシ別に引退しないよ?思わずフフッと笑ってしまう。でも、そこまでの気持ちで取り組んでくれたのなら、それはそれで嬉しいかも。
「君の役は無い」て、何や……なんか、こう引っかかる。うーん……
場の空気が「岡田あやかを励ます会」になりつつある中、一人思案をしているのは人間ではなく猫、タワシである。
わざわざクイズにしなくても。あやのはやたらプリプリしとったが。「渡河の闇は無し」で「君の役は無い」。最後、別に「無し」のままでも変わらんやんけ。「無い」にしたところで気遣いも感じられへんし。「無い」にする必要…それにそもそも「鍵になる言葉」は五つあったんか?
姉妹と同じ数……五人姉妹……
タワシはキョロキョロと辺りを見回すと部屋の隅に走り、そこにあった猫じゃらしを咥えてくるとあやのの前に落としてニャーニャーと何か訴えてかけるように鳴く。あやのはじっとタワシを見ている。
「ホラ、あやの。タワシが遊んで欲しいって言ってるよ」
小島がそう言うと、やや沈みがちだった空気がちょっと和らいだ。
「かわいいね、タワシ。アタシが遊んであげよっか」
岡田も笑顔になる。が、あやのにはタワシの「言葉」が聞こえていた。今、タワは遊んで欲しいワケじゃない。
「なあ、カワイコちゃんにもっかい五人姉妹の説明してもろてや」
タワのスイリは終わっていない。
前回同様、ショサイという名の脱衣所に入り、ペタンと座るあやの。タワシも床に降ろして、二人の間に岡田がもらったメッセージの紙を置く。
さっきジムショという名のリビングで「とりあえず一回まとめよか」というタワシの言葉を聞いてここに来たあやのは、相棒である茶虎のマンチカンに期待を込めた眼差しを送る。
「まず、ワシのいう通りに別の紙に書いてくれや」
あのカワイコちゃん、この紙えらい大事そうやから落書きすんのは忍びないで。リョーカイ、とあやのはメモ紙にタワシの指示通りの文字を書く。
「これでいいの?」
タワシはメッセージの前半部分を書き写す様に指示していた。
「そうそう。これがフジコ先生とやらの謎かけのキモやろな」
「鍵になる五つの言葉ってヤツ?」
タワシは首をかしげる。
「まあ、な……うん」
ん?タワにしては歯切れが悪いなとあやのは思った。
「自分、このト書き、鏡、磨く、死骸ってどう思うん」
タワシがあやのを見上げる。ト書き、鏡、磨く、死骸でしょ…えーと。あやのは顎に手を当て考える。
「全部『が』がつく、とか?」
とがき、かがみ、みがく、しがい。全部二文字目に「が」がついている。コレはイダイなるゼンシン?でも、だいたいあやのの鋭いスイリはタワに鼻で笑われるパターンが多い……と思ったら
「自分にしては、あながち悪くない推理やな」
あら、意外と好反応。
「ここでヒントが生きてくるな」
「え?ヒントなんてあった?」
タワはあやの達には分からなかったヒントを見つけたんだろうか。どこに?
「答えはいつもシンプル、なんやろ」
タワシはあやのが書いたメモ紙にぺたんと手を置く。
「この言葉、シンプルにしてみい」
この言葉をシンプルに?何か漢字ばっかりで全然シンプルじゃない。ん?漢字ばっかり?じゃあ……
あやのは先程のタワシの指示に更に赤で何かを書き加える。
シンプル感が出た気がする。
「そうそう。自分冴えとるやんけ」
タワにまた褒められた!今日はあやのゼッコーチョーなの?やだ、これってカクセーのゼンチョー?
「なにニヤついとんねん。こっからや」
タワシが浮かれるあやのに釘を刺す。
「鍵となる言葉で謎を解いてみい」
鍵となる言葉は、とがき、かがみ、みがく、しがい、だよね。なんか「が」が多いヤツ。で、とかのやみはなし……なるほど、分からん。でも顔だけはキメるあやの。見かねたタワシが
「『が』が多いんやろ。とーがーきー、かーがーみー、みーがーくー」
がーを強調したアクセントでメモ紙の言葉を唱える。とーがーきー?と・が・き。と「が」き……え!あ!ゔぉっ!
思わずあやのが発した変な声にピクっとするタワシ。コイツどっから声出しとんねん。ノドにちっちゃいオッサンでもおんのか。
「これってさ、『と』が『き」になって『か』が『み』になるんじゃ」
そしたら……ペンを走らせるあやの。
そして「あっ」と声を漏らす。
「きみの、やくは、ない…」
と、つぶやくあやの。
「……ま、そうなるんやけど」
タワシは手で顔を拭っている。
「え、待って。何なのこのフジコフジオ先生ってヒト。手間ひまかけてわざわざ言うコトじゃないじゃん!」
「フジコフジオやのうて富田フジコ先生や。21エモンのオーディションとかやるんか」
プリプリと怒るあやのに冷静にツッコむタワシ。
「でもさ、君の役は無いとか、なんか言い方キツくない?」
これじゃ、あやかが可哀想だよ。コンカイはゴエンがナクテ~とか、ホンジツはオアシモトがワルイナカとか、他に言いようがあるじゃん、よく分かんないけど!唇を尖らすあやの。むー!
「でもそれが真剣に考えた結果なんやろ」
それがプロの世界なんやないか。元のあやかがもらった紙に手を置くタワシ。
「岡田のカワイコちゃんも学芸会やっとるワケやない。こういう世界と知ってチャレンジしたんとちゃうんか」
そりゃ、そうだろうけど。あやのだって、昔はそういう世界に身を置いていたから分からなくはない。けど、けどさ。
「まあ、謎は解けたんやから。後はカワイコちゃんに教えてやらな」
「うん…」
申し訳ないのはワシも同じやで。出来ればええ結果にしたかったけどな。でも、何や、ワシも何かスッキリせえへん。それっぽいカンジにはなったけど、コレでええんやろか。首をかしげるタワシ。
「……君の役は無い、かあ」
岡田と小島の待つ事務所(リビング)に戻ったあやのから、あやの(とタワシ、大部分タワシ)の推理を聞き、結果のメモ紙を見た岡田は深いため息をつく。
「うん。察してはいたけど、わざわざクイズにしてまで言われると、何かさ」
へこむよね、やっぱり。岡田は困り顔で唇を尖らせる。
「でも、とりあえず富田先生のクイズが解けたのは助かったよ。ありがとね、あやの」
岡田はあやのに微笑む。なんかゴメンね、あやか。お礼なんていいよ。あやの力になれなかったし。
「でもさ、最終まで残ってメッセージもらって、成長に期待されてるんだから、これからだよナ」
小島は華奢な両手をグッと握って岡田を励ます。
「そうだよ。こんなフジコフジオ先生のクイズごときで」
「富田フジコ先生ナ」
ルーティンの様に反応する小島。
「あやかのエンゲキジンセイがサユーなんてされないんだから!」
まだプリプリとした怒りが収まらないあやの。そんなあやのを見て岡田はアタシの演劇人生が左右?いやいやいや、アタシ別に引退しないよ?思わずフフッと笑ってしまう。でも、そこまでの気持ちで取り組んでくれたのなら、それはそれで嬉しいかも。
「君の役は無い」て、何や……なんか、こう引っかかる。うーん……
場の空気が「岡田あやかを励ます会」になりつつある中、一人思案をしているのは人間ではなく猫、タワシである。
わざわざクイズにしなくても。あやのはやたらプリプリしとったが。「渡河の闇は無し」で「君の役は無い」。最後、別に「無し」のままでも変わらんやんけ。「無い」にしたところで気遣いも感じられへんし。「無い」にする必要…それにそもそも「鍵になる言葉」は五つあったんか?
姉妹と同じ数……五人姉妹……
タワシはキョロキョロと辺りを見回すと部屋の隅に走り、そこにあった猫じゃらしを咥えてくるとあやのの前に落としてニャーニャーと何か訴えてかけるように鳴く。あやのはじっとタワシを見ている。
「ホラ、あやの。タワシが遊んで欲しいって言ってるよ」
小島がそう言うと、やや沈みがちだった空気がちょっと和らいだ。
「かわいいね、タワシ。アタシが遊んであげよっか」
岡田も笑顔になる。が、あやのにはタワシの「言葉」が聞こえていた。今、タワは遊んで欲しいワケじゃない。
「なあ、カワイコちゃんにもっかい五人姉妹の説明してもろてや」
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