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①メイタンテイ登場?
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午前十時を過ぎ、朝のピリリとした緊張感も薄れた頃合い。それでいてまだ朝の健康的な爽やかもある。これぐらいの緩くて澄んだ空気が何かを始めるには丁度いい。そんな気がする。
ソファーに腰掛け、マグカップを傾けコーヒーを飲む。そしておもむろにタバコを咥えてみる。
でもコーヒーはともかくタバコなんて今まで吸った事もない。フンイキ作りの小道具であるココアシガレットをそれっぽく指で挟む。
眼鏡もかけてみたが、やはりヒゲも必要だったろうか。その方がプロっぽい気がする。
何事も形から入りがちな「彼女」は長く美しい黒髪を揺らして、窓辺で日向ぼっこをしている小さな相棒、茶虎のマンチカンである「タワシ」に端正な横顔を向ける。
ここは彼女とタワシの城でありアジトであり秘密基地かつ自宅兼事務所の賃貸マンション。その名も「ハヤシ探偵社」だ。という事にしている。こないだから。
長い黒髪の先端を両手の指先でくるりとつまみ、ヒゲを模して鼻の下にあてがいながら、こじんまりとしたタワシの背中、その向こうの青空に漂う雲を見つめる。
さて、今日はどんな日になるんだろうか。ハヤシ探偵社の社長、林あやのはコーヒーを一口飲むとココアシガレットを咥え、出るはずのない煙をふーっと吐いて、何かミッシツのサツジン事件とかミノシロキン目当てのユーカイとか推理するメイタンテイ感をエンシュツしてみた。フンイキ大事。
「ホントに探偵やってんの?」
昼過ぎに訪ねてきた小顔で華奢なお人形さんみたいな女子が、キョロキョロとハヤシ探偵社の室内を見渡している。部屋の中央にソファーと小さいテーブル。壁際にテレビ。窓際に猫。いたって普通の部屋なんだけど。つか、何で灰皿にココアシガレット置いてるの。コドモか。
実年齢よりずいぶんと幼い顔立ちの客人の名は小島ルナ。あやのはるなぽん、と読んでいる。青春を共に過ごした親友であり戦友。年齢はあやのの方がちょっとお姉さんなのに、昔からずっとイジられている。
「もしかして、るなぽんタンテイのお客さん?」
あやのはキラキラした目で親愛なる客人を見つめる。
「まあ、そうなるかナ」
小島は窓辺のタワシの背中を撫でながら答える。
「ヤッター!あやの頑張るよ!」
何せ初めてのお客さんだ。やる気がモリモリ湧いてくる。よっしゃ!
「ねえ何か飲む?水?お湯?ぬるま湯?」
ぴょんぴょん飛び跳ねんばかりのテンションで訊ねるあやの。
「あんたコーヒー飲んでんじゃん!アタシにも出しなよ」
「コーヒーは身体に悪いよ?」
「じゃあ何であやの飲んでんの」
あやののこういう所は昔から変わらない。小島に撫でられているタワシも、やれやれというように欠伸する。
「水よりコーヒーだなんて、るなぽんもオトナの階段昇ったんだねー」
「あやのよりは早いと思うよー」
小島は窓辺のタワシに語りかけるように、あるいはキッチンのハイテンションな親友には聞こえない声量で言ってみる。するとキッチンから
「ねえ、水割り?それともストレート?」
がぜん張り切ってる様子のあやのの声が届く。コーヒーに対する解釈が斬新すぎて、理解出来ないまま水に引きづられて「み、水割り」と答えてしまう小島。
「……ねえ、オマエの飼い主ホントに大丈夫なの」
思わずネコに不安を漏らしてしまった。小島はフッと苦笑して呟く。
「なんて、ネ」
タワシがチラッと振り向いた気がした。
ソファーに腰掛け、マグカップを傾けコーヒーを飲む。そしておもむろにタバコを咥えてみる。
でもコーヒーはともかくタバコなんて今まで吸った事もない。フンイキ作りの小道具であるココアシガレットをそれっぽく指で挟む。
眼鏡もかけてみたが、やはりヒゲも必要だったろうか。その方がプロっぽい気がする。
何事も形から入りがちな「彼女」は長く美しい黒髪を揺らして、窓辺で日向ぼっこをしている小さな相棒、茶虎のマンチカンである「タワシ」に端正な横顔を向ける。
ここは彼女とタワシの城でありアジトであり秘密基地かつ自宅兼事務所の賃貸マンション。その名も「ハヤシ探偵社」だ。という事にしている。こないだから。
長い黒髪の先端を両手の指先でくるりとつまみ、ヒゲを模して鼻の下にあてがいながら、こじんまりとしたタワシの背中、その向こうの青空に漂う雲を見つめる。
さて、今日はどんな日になるんだろうか。ハヤシ探偵社の社長、林あやのはコーヒーを一口飲むとココアシガレットを咥え、出るはずのない煙をふーっと吐いて、何かミッシツのサツジン事件とかミノシロキン目当てのユーカイとか推理するメイタンテイ感をエンシュツしてみた。フンイキ大事。
「ホントに探偵やってんの?」
昼過ぎに訪ねてきた小顔で華奢なお人形さんみたいな女子が、キョロキョロとハヤシ探偵社の室内を見渡している。部屋の中央にソファーと小さいテーブル。壁際にテレビ。窓際に猫。いたって普通の部屋なんだけど。つか、何で灰皿にココアシガレット置いてるの。コドモか。
実年齢よりずいぶんと幼い顔立ちの客人の名は小島ルナ。あやのはるなぽん、と読んでいる。青春を共に過ごした親友であり戦友。年齢はあやのの方がちょっとお姉さんなのに、昔からずっとイジられている。
「もしかして、るなぽんタンテイのお客さん?」
あやのはキラキラした目で親愛なる客人を見つめる。
「まあ、そうなるかナ」
小島は窓辺のタワシの背中を撫でながら答える。
「ヤッター!あやの頑張るよ!」
何せ初めてのお客さんだ。やる気がモリモリ湧いてくる。よっしゃ!
「ねえ何か飲む?水?お湯?ぬるま湯?」
ぴょんぴょん飛び跳ねんばかりのテンションで訊ねるあやの。
「あんたコーヒー飲んでんじゃん!アタシにも出しなよ」
「コーヒーは身体に悪いよ?」
「じゃあ何であやの飲んでんの」
あやののこういう所は昔から変わらない。小島に撫でられているタワシも、やれやれというように欠伸する。
「水よりコーヒーだなんて、るなぽんもオトナの階段昇ったんだねー」
「あやのよりは早いと思うよー」
小島は窓辺のタワシに語りかけるように、あるいはキッチンのハイテンションな親友には聞こえない声量で言ってみる。するとキッチンから
「ねえ、水割り?それともストレート?」
がぜん張り切ってる様子のあやのの声が届く。コーヒーに対する解釈が斬新すぎて、理解出来ないまま水に引きづられて「み、水割り」と答えてしまう小島。
「……ねえ、オマエの飼い主ホントに大丈夫なの」
思わずネコに不安を漏らしてしまった。小島はフッと苦笑して呟く。
「なんて、ネ」
タワシがチラッと振り向いた気がした。
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