上 下
6 / 11

第2話-②:友人と友情を育む莉緒奈

しおりを挟む
「ここの学食の天ぷらうどんがすごく美味しいんだよっ!」

 恵里に連れられたのは、姫宮高校の食堂。

 どの料理も美味しいと評判で、昼時には大勢の学生が集っている人気スポットだ。

 莉緒奈も興味はあったが、一人で行くのは抵抗があり、行ったことがない。恵里の誘いがなければ卒業まで行けないままだったろう。

 (こんなに人がいるなんて…うぅ…恥ずかしいです…)

 「莉緒奈さんは何頼むー?」

 「え?な、なんでも、いいです…」

 「分かった!じゃあ一緒に行こっ!」

 「あ、あぅ…」

 莉緒奈の心情を知ってか知らずか、恵里は手をぐいぐいと引っ張っていく。

 (変身したら…もう少し大胆になれるのでしょうか。でも、あんなドレスをみんなに見られたら、恥ずかしくてそれどころじゃないかも… )

 「ほら、莉緒奈さんも注文して!」

 「は、はい…じゃあ、天ぷらうどんで…」

 大胆な変身姿を思い出して顔を赤くしながら、莉緒奈は初の注文を終えるのであった。

 
 ****


 「う~~~~~ん、おいし~~~~!」

 数分後。

 天ぷらうどんは無事2人の元に届き、恵里は早速堪能し始めた。

 「い、いただきます」

 莉緒奈も箸を上品に割り、麺をつまんで口に運んだ。麺類、特にうどんは屋敷で出されないため、人生はじめての経験である。

 恐る恐る味を確かめるがー、

 「あ…おいしい!」

 「でしょでしょ~?」

 「これが、みなさんが食べてるものなんですね」

 「莉緒奈さん、いつもお昼ご飯何も食べてないから心配だったけどよかった!これからは一緒にご飯しない?」

 「恵里さん…」

 莉緒奈の胸に熱いものが込み上げる。だが、同時に疑問を浮かんだ。

 「その…1つお聞きして良いでしょうか」

 「?どうしたの?」

 「なぜ、恵里さんは私に声をかけてくれるのですか?私はいつも引っ込み思案で、なんの魅力もなくて、ウジウジしてるのに…」

 「…そんなことないよ」

 「え?」

 「あたし、見ちゃったんだ」

 「見た…まさか!」

 (変身を見られた!?恵里さんを戦いに巻き込むのは…)

 身構える莉緒奈だったがー、





 「莉緒奈さんが子猫助けるところ!」

 答えは予想外のものだった。

 「…え?」

 「1週間前、道で子猫が倒れてるところを必死に助けてたでしょー!あたし見ちゃったんだ!」

 「は、はい…確かに」


 莉緒奈は思い出した。

 《ドミネイト》の怪人を倒した帰り、白い子猫が親猫を呼んで鳴いていたことを。

 ーよしよ~し。もう、鳴かないでください。あんっ…胸に抱きついちゃ、だめです…♡

 そのまま一時期保護し、信頼できる方に引き取ってもらったのだ。

 「でも、それがどうして…?」

 「あたし思ったの。莉緒奈さんはいつも成績もトップで、どんな学校行事もひたむきに頑張ってて、猫も助けるなんてかっこいい人だなって!」

 「わたしが、かっこいい…?」

 「そんな理由で声をかけたら、迷惑かな?」

 「…」

 莉緒奈は、今胸の中にある気持ちを正直に答える。



 「嬉しいです…!恵里さん、私と…」

 「うん!友達になろー!」

 「あっ!まだ言ってません!」

 「莉緒奈さんは感情がすぐ顔に出るからね~」

 「あうう…」

 「よかったら遊びに行かない?チケットが1枚余っててね…」

 ささやからながらも確かな友情を感じ、莉緒奈の友情は和らぐのであった。


 ****


 「ここが、そうなのですか?」

 「うん!他の人に薦められるとちょっと驚かれるんだけど…どうかな?」

 放課後。

 恵里に連れられ、莉緒奈はある場所にいた。
 
 市民体育館にパイプ椅子が並べ、中央には四角形のリングが置かれた異様な空間。

 「がんばれー!」

 「今日の試合どうなるかな。楽しみ!」

 女性客が多く詰めかけており、黄色い声援を上げている。

 「もしかして、プロレスですか?」

 「そうなの!昔人気が低迷していたけど最近は復活しててね。女性ファンも多いんだー!」

 「なるほど…怪人と戦う時の参考になるやもしれませんね」

 「?」

 莉緒奈も多少興味のある分野だったため、恵里と共に試合開始を待つことにした。



 だが、現れない。

 開始時間が過ぎても、選手も司会も誰一人現れなかった。
 観客が不審の声をあげ始めた時ー、



 「聞きな!人間どもぉ!」

 荒々しい声と共に、リングに何者かが勢いよく飛び込んでくる。

 見た目は下級怪人であるゴブリンに類似していた。
 だが、ほぼ半裸である彼らとは違い、黒いレザーでできたボンテージに身を包んでいる。

 胸には膨らみがあり、一応女性であることを示していた。

 「あたしゃヒールってんだ!今からこのプロレスリングは《ドミネイト》さまが乗っ取った!大人しくしやがれ!」

 手にもった鞭をヒールが振り下ろすと、下級怪人であるゴブリンが数体現れる。

 「「「ブヒィィィィイイ!!!」」」

 どうやら女性客を拉致するつもりらしい。

 
 ****


 「きゃああああああ!」

 「助けてえええええええ!」

 たちまち観客はパニックに陥り、入り口に目掛けて殺到してくる。
 だが、そこにもゴブリンが先回りしており、女性客を次々と捕らえていた

 「た、大変!莉緒奈さん!あたしたちも逃げよう!」

 「…右側奥の入り口はゴブリンがいないようです。そこから逃げてください」

 「何言ってるの?莉緒奈ちゃんも…」

 「私は大丈夫です」

 「莉緒奈ちゃん…?」

 動揺する恵里に、莉緒奈は微笑む。

 「心配ありません。だから、先に行っててください」

 「…わかった。無理だけはしないでね!すぐに警察呼んでくるから!」

 恵里は唯一残された入り口から去っていく。

 それを確認してから、莉緒奈はポケットからブルージュエルを取り出した。



 「…変身!」

 周囲は光に包まれ、莉緒奈は怪人と戦う準備を始めた。


 ****


 「舞曲ロンド!」

 「ブヒィィィィイイイイイッ!」

 退魔剣姫リオナはゴブリンの1体を切り裂き、消滅させた。

 他のゴブリンやヒールは動揺し、こちらを振り返る。
 ヒールは怒りの表情を浮かべ叫んだ。
 
 「なんだぁ!うちの可愛いゴブリンに手ェ出しやがって!」

 「…あなた方に怒る権利はありません」

 リオナは怯まない。
 今の彼女は勇気、そして怒りが満ちていた。

 「多くの人が楽しむためのイベントを台無しにし、多くの女性を…そして、私の友人を危機に晒しました。絶対に許しません」

 自らプロレスリングに飛び込み、ヒールにサーベルを突きつける。

 「退魔剣姫リオナ!か弱い人々を守るため、あなた方を倒します!」

 「てめえ、うちの活動を邪魔してる退魔剣姫ってやつか!面白い、受けて立とうじゃない!」

 ヒールも鞭を構え、臨戦態勢を整える。



 こうして、再び戦いが幕を開けた。

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

妖精のお気に入り

豆狸
ファンタジー
羽音が聞こえる。無数の羽音が。 楽しげな囀(さえず)りも。 ※略奪女がバッドエンドを迎えます。自業自得ですが理不尽な要素もあります。

借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件

羽黒 楓
ファンタジー
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

処理中です...