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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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「寒い…」
太陽は玄関の扉を少し開けて、外の空気を吸った。瘴気を感じるものの冷たい空気は混乱した頭にちょうど良かった。
「セーヤ…あまり窓から顔出すなよ」
「サムイ」
寒さの苦手な悪男は、太陽から少し離れた場所に避難して声をかけた。ちなみに、更に離れた所には、護衛について来たエルフや鳥族、銀狼がいる。
でも扉の隙間から入る瘴気で近寄れず、離れた角から並んで顔だけ出して、太陽を見守っている。それがちょっと面白い。
太陽の様子がおかしいのを感じて、危険がない限りソッとしてくれる気遣いが有り難かった。
隙間から見える外は真っ暗だった。星も無いし、灯りも無い。闇夜に雪原だけが広がって静かだ。
なのに。
「……何でっ」
何故か雪原に花が見える気がした。小さな妖精達が飛び交い、歌いながら花畑と城を行き来する幻が見える気がして。
太陽は目を閉じる。こんな景色、自分は知らない。なのに、知っている。それが自分じゃない何かに塗り変わる様で、ただ怖かった。
「…寝れないのか?」
背後から低い男の声が聞こえた。振り向くと、いつの間にか魔王が立っていた。廊下の灯りに照らされて、美しい顔立ちが妖しい雰囲気を醸し出している。
「あ、すみません。寝れなくて」
「構わない」
扉を閉めようとした太陽を止める様に、魔王は軽く手を上げた。そしてジッと太陽を見つめる。
「……金の力がまた増したな」
「え?」
「…気にするな。アレの様子はどうだ?」
アレ。それがルースを指す事に気づき、太陽はぐっと言葉に詰まる。それでも助けてくれた恩人に容態を伝えた。
「記憶が?」
「はい。しかもオレの事だけ忘れてるんです」
「……記憶と深く結びついた物を奪われたのかもしれぬな」
「記憶と結びついた?」
脳裏にルースの左手が蘇る。彼の薬指からいつの間にか無くなっていた指輪。
もしかして無くしたのでなく、奪われた?
「……アレが羨ましいな。其方にここまで想われて」
「え?」
どういう意味か分からず焦る。これまでの奴らみたいに、まさか魔王が挨拶代わりに口説いてる訳…ないよね?
内心、焦った太陽は話題を変えた。
「魔王は誰か大切な人はいないんですか?恋人とか」
「おらぬ。我は完璧なのだ。他の種族の様に番や伴はいらぬ」
「そ、そうですか…」
我は完璧って。魔王てまさかナルシストキャラ?気まずくて黙った太陽の横に並び、魔王は扉を更に開けた。そのまま暗闇を指さす。
「我は相手がいなくとも、妖精の子達を産み育む事が出来るのだ。この周辺はかつて妖精達が宿る花々が咲いていた」
「……」
相手がいなくとも、妖精の子を産み育める。
それは即ち、完璧であると同時に、彼は他人を必要としない。
つまりは孤独という事だ。
外を見つめる魔王の横顔が気のせいか寂しさを宿してる様に見えた。
「いつか」
「何だ?」
「必要でなくても。ただ一緒にいたい。そんな相手に巡り会えたらいいですね」
魔王が無言で太陽を見つめる。その瞳に先ほどとは違う感情が見え隠れした。それをまるで隠す様に目を閉じるとー。
「そろそろ休むが良い」
魔王は踵を返して引き返して行った。
太陽は無言でその背中を見送る。
もしかして魔王は。一つの可能性を探り当てる。
でもそれが当たっていたとしても、自分には何も出来ない。太陽は扉を閉めて、悪男と共に部屋へ戻った。
太陽は玄関の扉を少し開けて、外の空気を吸った。瘴気を感じるものの冷たい空気は混乱した頭にちょうど良かった。
「セーヤ…あまり窓から顔出すなよ」
「サムイ」
寒さの苦手な悪男は、太陽から少し離れた場所に避難して声をかけた。ちなみに、更に離れた所には、護衛について来たエルフや鳥族、銀狼がいる。
でも扉の隙間から入る瘴気で近寄れず、離れた角から並んで顔だけ出して、太陽を見守っている。それがちょっと面白い。
太陽の様子がおかしいのを感じて、危険がない限りソッとしてくれる気遣いが有り難かった。
隙間から見える外は真っ暗だった。星も無いし、灯りも無い。闇夜に雪原だけが広がって静かだ。
なのに。
「……何でっ」
何故か雪原に花が見える気がした。小さな妖精達が飛び交い、歌いながら花畑と城を行き来する幻が見える気がして。
太陽は目を閉じる。こんな景色、自分は知らない。なのに、知っている。それが自分じゃない何かに塗り変わる様で、ただ怖かった。
「…寝れないのか?」
背後から低い男の声が聞こえた。振り向くと、いつの間にか魔王が立っていた。廊下の灯りに照らされて、美しい顔立ちが妖しい雰囲気を醸し出している。
「あ、すみません。寝れなくて」
「構わない」
扉を閉めようとした太陽を止める様に、魔王は軽く手を上げた。そしてジッと太陽を見つめる。
「……金の力がまた増したな」
「え?」
「…気にするな。アレの様子はどうだ?」
アレ。それがルースを指す事に気づき、太陽はぐっと言葉に詰まる。それでも助けてくれた恩人に容態を伝えた。
「記憶が?」
「はい。しかもオレの事だけ忘れてるんです」
「……記憶と深く結びついた物を奪われたのかもしれぬな」
「記憶と結びついた?」
脳裏にルースの左手が蘇る。彼の薬指からいつの間にか無くなっていた指輪。
もしかして無くしたのでなく、奪われた?
「……アレが羨ましいな。其方にここまで想われて」
「え?」
どういう意味か分からず焦る。これまでの奴らみたいに、まさか魔王が挨拶代わりに口説いてる訳…ないよね?
内心、焦った太陽は話題を変えた。
「魔王は誰か大切な人はいないんですか?恋人とか」
「おらぬ。我は完璧なのだ。他の種族の様に番や伴はいらぬ」
「そ、そうですか…」
我は完璧って。魔王てまさかナルシストキャラ?気まずくて黙った太陽の横に並び、魔王は扉を更に開けた。そのまま暗闇を指さす。
「我は相手がいなくとも、妖精の子達を産み育む事が出来るのだ。この周辺はかつて妖精達が宿る花々が咲いていた」
「……」
相手がいなくとも、妖精の子を産み育める。
それは即ち、完璧であると同時に、彼は他人を必要としない。
つまりは孤独という事だ。
外を見つめる魔王の横顔が気のせいか寂しさを宿してる様に見えた。
「いつか」
「何だ?」
「必要でなくても。ただ一緒にいたい。そんな相手に巡り会えたらいいですね」
魔王が無言で太陽を見つめる。その瞳に先ほどとは違う感情が見え隠れした。それをまるで隠す様に目を閉じるとー。
「そろそろ休むが良い」
魔王は踵を返して引き返して行った。
太陽は無言でその背中を見送る。
もしかして魔王は。一つの可能性を探り当てる。
でもそれが当たっていたとしても、自分には何も出来ない。太陽は扉を閉めて、悪男と共に部屋へ戻った。
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