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第六章 運命を壊す者

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「ラリエス!」
「来るな!」

 飛び出そうとしたキャスをラリエスが怒鳴りつけた。普段優しい恋人の乱暴な言葉に、キャスがビクリと怯えて止まった。

「封印は…まだ終わって…ない!」

 苦しそうなラリエスの額にはあぶら汗が浮かび流れ落ちた。

 側にいたかつての魔王。妖精王は今や完全にその姿を取り戻していた。
 
 真っ白な大地に立つ彼は、まさしく妖精の王に相応しい貫禄と美しさを兼ね備えていた。

 妖精王は人差し指を空に向け、くるんと回すと同時にその力を放った。

 妖精王の指先から放たれた1つの白い光は、強い輝きを放ちながらすごいスピードで上空に向かっていた。

 その光が空に消えると同時に、上空からヒラヒラと舞う沢山の白く柔らかい光が降って来た。太陽が見れば、それはまるで雪の様な光景だったろう。

 多数の淡く白い光が、北の大地に降り注ぐと同時に空気が澄んだ美しい物に変わった。

 これが北の長の張る結界。

 その場にいる全員がその美しい光景に見惚れていた。



◇◇◇



 結界を張り終えた妖精王は、再びラリエスの肩に手を伸ばした。今度はラリエスの身体から再び黒い瘴気が立ち込めた。

 だがそれは、明らかに先程の瘴気とは違っていた。瘴気をまるで押さえ込むかの様に、その周りにキラキラとした金の力が取り巻いていたのだ。

 それがそのまま、妖精王の身体に入り込んでいく。

 みんな何が起きているか分からなかった。

 これまでは対象物に瘴気を詰め込み、それが漏れ出さない様に対象を金の封印で覆っていたからだ。

 今目の前で起きているのは、瘴気自体に光の勇者の力が纏い、それが妖精王に入って行ってるのだ。

 全ての瘴気と、金の力が妖精王に取り込まれると、ラリエスはよろめき、膝をついた。

「ラリエス!」

 我慢できず、キャスが飛び出した。それを王女が追う。少し遅れて、ルースや空、悪男も続いた。

「ラリエス!大丈夫か?身体は?」

 キャスがラリエスに近づくと、彼の姿は変貌していた。あの輝く金の髪と瞳は光を無くし、淡い茶色に変化していた。

「キャス、待ってる様に…言ったのに」

 グッタリと雪の上に座り込むラリエスにキャスは寄り添い怪我が無いか確認している。

 それを一瞥して王女は妖精王に視線を向けた。

「どういう事なの?ラリエスの能力が無ければ光の封印が出来ない!」
「北に光の封印はいらぬ」
「どういう事…もしかして、また妖精王様は自分で瘴気を抱えるの?」

 王女の声が震えた。
 長年1人で耐えていたこの人を救いたくて、各地で瘴気を分散して受け持ったというのに。

「北は長年瘴気に閉ざされていた。これ以上この地を瘴気にさらしたくはないのだ」
「そんな…」
「案ずるな。もう我が闇堕ちする事は無い。ラリエスの金の力を取り込んだからな」

 そう言って妖精王は口角を微かに上げた。

 呆然と王女はラリエスを見た。

 金の力を無くした彼がそこには居た。かつて光の勇者に選ばれる前の姿で、座り込んでいる。王女と目が合うと彼は肩をすくめた。

 光の封印は2人いなければ成り立たない。だからもう、王女の金の力を使って封印は出来ない。そして、目の前の妖精王は、正気さえ保っていれば北の長として瘴気を押さえながら結界を保てる実力があった。

「あ…」

 そして気づく。
 わざわざ2人がこんな手のこんだ事をした理由を。

「もしかして…私の為?」

 これ以上、聖女が力を使わなくても良いように。王女の人格が消えてしまわない様に。

 どうして?この世界に私の居場所は無いのに?

 ハラハラと王女の瞳から涙が溢れ落ちた。

 妖精王が王女に歩み寄り、その肩に手を乗せた。

「違う。我の為だ。其方を失いたくない」
「なん…で」
「其方だけだ。永い永い時の中で、我を生かそうとしてくれたのは」
「……」
「だから我と共にいて欲しい」

 妖精王の言葉に我慢できず、王女は声をあげて泣き出した。

 覚悟して始めた旅だった。幾度も生死を繰り返してやっと戻ったこの世界に自分の居場所は無い。そうあきらめていたのにー。

「でも、でも、この身体は私の物じゃないっ」
「案ずるな。我は妖精王。実態の無い生き物は得意だ」

 そう言って妖精王は微笑んだ。
 それは初めて彼が見せた心からの笑顔だった。
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