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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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ルースの流し込んだ聖気が水の様に魔法陣を伝っていく。一瞬、カッと強く光って静かに光は治まった。
エルフの里に転移した事で、それまで人間に化けていたルースの姿も変化した。ここでは一度全ての変化は無効化されるからだ。耳が尖り、髪も瞳も本来の緑に戻っている。
「着いたよ」
振り返ったルースが真っ先に目についたのは、その艶やかな黒髪だった。
先ほどまで泣きじゃくっていたセーヤがいた筈のそこに、何故か今は黒髪に黒瞳の少年が座り泣いていた。
何が起きたか分からず立ち尽くすルースに、空がその疑問に答えた。
「セーヤの本来の姿は髪も目も黒い。お前が探してたのはセーヤだ」
「あ…」
空の言葉は、渇いた身体を潤おす様にルースの中に入ってきた。
探していたのは彼。
何の疑問も無く腑に落ちた。
太陽の隣へ座りその顔を覗き込む。綺麗な黒い瞳がルースに向けられた。金色の時とは違う、夜の帳の色。ずっと探していた色。
彼だ。金では無い、黒を纏った彼が探し求めていた相手。
「やっと…見つけた」
「ルースさん」
ルースが太陽を引き寄せ抱きしめた。その胸に顔を埋めて、太陽は更に泣き出した。
◇◇◇
その日、エルフの里はざわついていた。
今日は東、西、中央の代表。そして500年ぶりに誕生した金の者がこの地に集い、世界の行く末について話し合うからだ。
太陽達がエルフ族の館に着いた頃には、既に東の長ガソル、西の鳥の長、中央代表のアキエスが到着していた。
皆が集まっていた広間に通されると、真っ先に駆け寄って来たのは南の長ベイティとその妻のユナだった。
「ルース無事で良かった!」
「ルース!セーヤ君!」
2人は先に鳥の長やガソルからルースの状況は聞いていた。かろうじて生きてはいたが、太陽の事だけ覚えていないと。
太陽とルースが、どれだけの苦労を経て想いを告げあったかわかるだけに、心配も一際だった。
手を繋いで現れた太陽とルースに、みんなはもしや記憶が戻ったのでは?と期待した。
それに対してルースは申し訳無さそうに首を振った。
結局、ルースの記憶は戻らなかったのだ。
それでもルースにとって大事な相手は太陽だったと気づけた。もうそれだけで充分だ。彼はそう言った。
太陽もルースの側で頷いた。例え過去が無くても、ルースが生きてくれていて、これからの2人に未来があるなら充分だ。そう言って笑った。
「セーヤ君…」
ユナが太陽を抱きしめた。
愛しい人に自分の事を忘れられて平気な人間はいない。でも彼は、それでも幸せだと言ってしまえるほどの辛い経験をしたのだ。
「セーヤ君はもう私達の家族よ。一刻も早く瘴気の問題なんて片付けて、ルースの伴侶になっちゃいなさい」
「え!?」
太陽は慌てた。さっきルースに抱きしめられたけど…元々の約束は覚えていない筈。なら、改めて話し合ってからでないと許婚面なんか出来ない。
慌てる太陽の手を掴んでルースは口づけた。
「ル、ルースさん?」
「セーヤ。この瘴気の件が落ち着いたら、この世界で僕と一緒に生きてくれる?」
「それって…」
「僕の伴侶になって欲しい」
ダメかな?不安そうにルースが太陽を見つめた。
ダメな訳が無い。返事をしたいのに、胸が一杯で、うまく言葉が出ない。泣いてしまいそうだ。
だから代わりに、頷いてルースの胸に飛び込んだ。
エルフの里に転移した事で、それまで人間に化けていたルースの姿も変化した。ここでは一度全ての変化は無効化されるからだ。耳が尖り、髪も瞳も本来の緑に戻っている。
「着いたよ」
振り返ったルースが真っ先に目についたのは、その艶やかな黒髪だった。
先ほどまで泣きじゃくっていたセーヤがいた筈のそこに、何故か今は黒髪に黒瞳の少年が座り泣いていた。
何が起きたか分からず立ち尽くすルースに、空がその疑問に答えた。
「セーヤの本来の姿は髪も目も黒い。お前が探してたのはセーヤだ」
「あ…」
空の言葉は、渇いた身体を潤おす様にルースの中に入ってきた。
探していたのは彼。
何の疑問も無く腑に落ちた。
太陽の隣へ座りその顔を覗き込む。綺麗な黒い瞳がルースに向けられた。金色の時とは違う、夜の帳の色。ずっと探していた色。
彼だ。金では無い、黒を纏った彼が探し求めていた相手。
「やっと…見つけた」
「ルースさん」
ルースが太陽を引き寄せ抱きしめた。その胸に顔を埋めて、太陽は更に泣き出した。
◇◇◇
その日、エルフの里はざわついていた。
今日は東、西、中央の代表。そして500年ぶりに誕生した金の者がこの地に集い、世界の行く末について話し合うからだ。
太陽達がエルフ族の館に着いた頃には、既に東の長ガソル、西の鳥の長、中央代表のアキエスが到着していた。
皆が集まっていた広間に通されると、真っ先に駆け寄って来たのは南の長ベイティとその妻のユナだった。
「ルース無事で良かった!」
「ルース!セーヤ君!」
2人は先に鳥の長やガソルからルースの状況は聞いていた。かろうじて生きてはいたが、太陽の事だけ覚えていないと。
太陽とルースが、どれだけの苦労を経て想いを告げあったかわかるだけに、心配も一際だった。
手を繋いで現れた太陽とルースに、みんなはもしや記憶が戻ったのでは?と期待した。
それに対してルースは申し訳無さそうに首を振った。
結局、ルースの記憶は戻らなかったのだ。
それでもルースにとって大事な相手は太陽だったと気づけた。もうそれだけで充分だ。彼はそう言った。
太陽もルースの側で頷いた。例え過去が無くても、ルースが生きてくれていて、これからの2人に未来があるなら充分だ。そう言って笑った。
「セーヤ君…」
ユナが太陽を抱きしめた。
愛しい人に自分の事を忘れられて平気な人間はいない。でも彼は、それでも幸せだと言ってしまえるほどの辛い経験をしたのだ。
「セーヤ君はもう私達の家族よ。一刻も早く瘴気の問題なんて片付けて、ルースの伴侶になっちゃいなさい」
「え!?」
太陽は慌てた。さっきルースに抱きしめられたけど…元々の約束は覚えていない筈。なら、改めて話し合ってからでないと許婚面なんか出来ない。
慌てる太陽の手を掴んでルースは口づけた。
「ル、ルースさん?」
「セーヤ。この瘴気の件が落ち着いたら、この世界で僕と一緒に生きてくれる?」
「それって…」
「僕の伴侶になって欲しい」
ダメかな?不安そうにルースが太陽を見つめた。
ダメな訳が無い。返事をしたいのに、胸が一杯で、うまく言葉が出ない。泣いてしまいそうだ。
だから代わりに、頷いてルースの胸に飛び込んだ。
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