【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
141 / 181
第五章 果てなき旅路より戻りし者

32

しおりを挟む
 鞄屋の入口に店主が立っていて、親し気にルースに手を上げている。

 つられる様にルースが店主の元に歩いていく。手を繋いだままの太陽も、空も悪男もついて行く。

「お?あの時の美人さんじゃねぇか!何だお前らまだ一緒に旅してたのか?」
「あぁ、まあね」

 どう返事していいか迷うようにルースが答えた。恐らく、何で鞄屋の店主が太陽を知ってるんだろう?と不思議に思ってる顔だ。

「よう。美人さん。この前買った指輪はどうだ?問題は無いか?」
「はい。便利に使わせてもらってます」

 特に問題は無いと思うけど、と考えつつ、ルースの手を離して店主に指輪を見せた。店主も指輪を見て、うん問題なさそうだな、と呟いている。

 その横でルースは太陽の指輪の色を見て、ギョッと目を見開いた。自分の瞳の色と気づいたのだろう。

 チラッとルースが太陽を見た。ルースの反応を見ていた太陽と目が合って、みるみるルースの顔が赤くなった。

「ん?ルースどうした?顔が赤いぞ」
「いや…何でも無い」

 恥ずかしそうに顔を背けるルースに、店主がその手を取った。

「何だよ、その反応そそるじゃんか。どうせ寝れないんだろ?今夜は俺んとこ来いよ」

 再び太陽の危険察知アンテナがピコン!と反応した!

 店主が掴む手と反対側のルースの腕にしがみつく。

「ルースさんはもう、ぐっすり寝れますから大丈夫です!」
「お、そうなのか?」
「え。あ、まあ」
「俺達、今から行くとこがあるんです!人を待たせてて、なので失礼します」
「へ?おい、ルース!」

 店主の言葉を全部聞く事なく、太陽はグイグイとルースを引っ張ってその場を離れた。

 危なかった。ルースの貴重な照れ顔をこれ以上晒すわけにはいかない。ただでさえ、魅了なんて厄介な能力を振り撒いてるのに、ルースさんの可愛さを相手に知られる訳にはいかない。

 かくして恋敵からルースの操は守られた。



◇◇◇



 街の外れを少し歩くとルースの家が見えて来た。もうルースがフラフラしない様、ガッツリ腕を組んで無事に辿り着く。

「君は…僕の家も知ってるだね」
「前に聖女の件で、ルースさんにベイティさんとユナさんを紹介してもらったんです」
「あの2人に?」

 そう、とルースが何か考え込む。ショーキが、ニクー、と催促し出したので慌ててドアを開けた。

 中はひどい状態だった。

 正面の白い壁やテーブルには大きな剣で抉られた様な傷が出来ていた。ソファは蹴られた様に位置がズレている。
 寝室のドアも開け放たれ、部屋から見える寝室はベッドシーツが乱暴に剥がされた様に床に落ちていた。

「何が…」

 部屋の様子にルースが唖然としている。彼の中には綺麗に片付けて部屋を出た記憶しか無かった。

「ラドが荒らしたんだろう。セーヤを拐う時に」

 ルースが太陽に視線を向けた。太陽は何も言わず顔を伏せている。

 その様子を見て、ルースがギュッと拳を握った。

 目覚めてから今まで、多少の記憶は無くても生きていくのに支障は無いと思っていた。

 自分がこれまで生きて来た過去も、今起きている瘴気の問題も、この世界をより良くする為に大事な事はちゃんと自分の記憶にあったから。

 だけどルース自身にとって大事な過去を失ってるのかもしれない。初めてそう感じた。

「何があったのか教えてくれる?これまでの事」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑) 本編完結しました! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びに来る、舞踏会編はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました! おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。 心から、ありがとうございます!

処理中です...