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第五章 果てなき旅路より戻りし者
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鞄屋の入口に店主が立っていて、親し気にルースに手を上げている。
つられる様にルースが店主の元に歩いていく。手を繋いだままの太陽も、空も悪男もついて行く。
「お?あの時の美人さんじゃねぇか!何だお前らまだ一緒に旅してたのか?」
「あぁ、まあね」
どう返事していいか迷うようにルースが答えた。恐らく、何で鞄屋の店主が太陽を知ってるんだろう?と不思議に思ってる顔だ。
「よう。美人さん。この前買った指輪はどうだ?問題は無いか?」
「はい。便利に使わせてもらってます」
特に問題は無いと思うけど、と考えつつ、ルースの手を離して店主に指輪を見せた。店主も指輪を見て、うん問題なさそうだな、と呟いている。
その横でルースは太陽の指輪の色を見て、ギョッと目を見開いた。自分の瞳の色と気づいたのだろう。
チラッとルースが太陽を見た。ルースの反応を見ていた太陽と目が合って、みるみるルースの顔が赤くなった。
「ん?ルースどうした?顔が赤いぞ」
「いや…何でも無い」
恥ずかしそうに顔を背けるルースに、店主がその手を取った。
「何だよ、その反応そそるじゃんか。どうせ寝れないんだろ?今夜は俺んとこ来いよ」
再び太陽の危険察知アンテナがピコン!と反応した!
店主が掴む手と反対側のルースの腕にしがみつく。
「ルースさんはもう、ぐっすり寝れますから大丈夫です!」
「お、そうなのか?」
「え。あ、まあ」
「俺達、今から行くとこがあるんです!人を待たせてて、なので失礼します」
「へ?おい、ルース!」
店主の言葉を全部聞く事なく、太陽はグイグイとルースを引っ張ってその場を離れた。
危なかった。ルースの貴重な照れ顔をこれ以上晒すわけにはいかない。ただでさえ、魅了なんて厄介な能力を振り撒いてるのに、ルースさんの可愛さを相手に知られる訳にはいかない。
かくして恋敵からルースの操は守られた。
◇◇◇
街の外れを少し歩くとルースの家が見えて来た。もうルースがフラフラしない様、ガッツリ腕を組んで無事に辿り着く。
「君は…僕の家も知ってるだね」
「前に聖女の件で、ルースさんにベイティさんとユナさんを紹介してもらったんです」
「あの2人に?」
そう、とルースが何か考え込む。ショーキが、ニクー、と催促し出したので慌ててドアを開けた。
中はひどい状態だった。
正面の白い壁やテーブルには大きな剣で抉られた様な傷が出来ていた。ソファは蹴られた様に位置がズレている。
寝室のドアも開け放たれ、部屋から見える寝室はベッドシーツが乱暴に剥がされた様に床に落ちていた。
「何が…」
部屋の様子にルースが唖然としている。彼の中には綺麗に片付けて部屋を出た記憶しか無かった。
「ラドが荒らしたんだろう。セーヤを拐う時に」
ルースが太陽に視線を向けた。太陽は何も言わず顔を伏せている。
その様子を見て、ルースがギュッと拳を握った。
目覚めてから今まで、多少の記憶は無くても生きていくのに支障は無いと思っていた。
自分がこれまで生きて来た過去も、今起きている瘴気の問題も、この世界をより良くする為に大事な事はちゃんと自分の記憶にあったから。
だけどルース自身にとって大事な過去を失ってるのかもしれない。初めてそう感じた。
「何があったのか教えてくれる?これまでの事」
つられる様にルースが店主の元に歩いていく。手を繋いだままの太陽も、空も悪男もついて行く。
「お?あの時の美人さんじゃねぇか!何だお前らまだ一緒に旅してたのか?」
「あぁ、まあね」
どう返事していいか迷うようにルースが答えた。恐らく、何で鞄屋の店主が太陽を知ってるんだろう?と不思議に思ってる顔だ。
「よう。美人さん。この前買った指輪はどうだ?問題は無いか?」
「はい。便利に使わせてもらってます」
特に問題は無いと思うけど、と考えつつ、ルースの手を離して店主に指輪を見せた。店主も指輪を見て、うん問題なさそうだな、と呟いている。
その横でルースは太陽の指輪の色を見て、ギョッと目を見開いた。自分の瞳の色と気づいたのだろう。
チラッとルースが太陽を見た。ルースの反応を見ていた太陽と目が合って、みるみるルースの顔が赤くなった。
「ん?ルースどうした?顔が赤いぞ」
「いや…何でも無い」
恥ずかしそうに顔を背けるルースに、店主がその手を取った。
「何だよ、その反応そそるじゃんか。どうせ寝れないんだろ?今夜は俺んとこ来いよ」
再び太陽の危険察知アンテナがピコン!と反応した!
店主が掴む手と反対側のルースの腕にしがみつく。
「ルースさんはもう、ぐっすり寝れますから大丈夫です!」
「お、そうなのか?」
「え。あ、まあ」
「俺達、今から行くとこがあるんです!人を待たせてて、なので失礼します」
「へ?おい、ルース!」
店主の言葉を全部聞く事なく、太陽はグイグイとルースを引っ張ってその場を離れた。
危なかった。ルースの貴重な照れ顔をこれ以上晒すわけにはいかない。ただでさえ、魅了なんて厄介な能力を振り撒いてるのに、ルースさんの可愛さを相手に知られる訳にはいかない。
かくして恋敵からルースの操は守られた。
◇◇◇
街の外れを少し歩くとルースの家が見えて来た。もうルースがフラフラしない様、ガッツリ腕を組んで無事に辿り着く。
「君は…僕の家も知ってるだね」
「前に聖女の件で、ルースさんにベイティさんとユナさんを紹介してもらったんです」
「あの2人に?」
そう、とルースが何か考え込む。ショーキが、ニクー、と催促し出したので慌ててドアを開けた。
中はひどい状態だった。
正面の白い壁やテーブルには大きな剣で抉られた様な傷が出来ていた。ソファは蹴られた様に位置がズレている。
寝室のドアも開け放たれ、部屋から見える寝室はベッドシーツが乱暴に剥がされた様に床に落ちていた。
「何が…」
部屋の様子にルースが唖然としている。彼の中には綺麗に片付けて部屋を出た記憶しか無かった。
「ラドが荒らしたんだろう。セーヤを拐う時に」
ルースが太陽に視線を向けた。太陽は何も言わず顔を伏せている。
その様子を見て、ルースがギュッと拳を握った。
目覚めてから今まで、多少の記憶は無くても生きていくのに支障は無いと思っていた。
自分がこれまで生きて来た過去も、今起きている瘴気の問題も、この世界をより良くする為に大事な事はちゃんと自分の記憶にあったから。
だけどルース自身にとって大事な過去を失ってるのかもしれない。初めてそう感じた。
「何があったのか教えてくれる?これまでの事」
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