【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

文字の大きさ
上 下
90 / 181
第四章 誰がために、その金は甦るのか

しおりを挟む
 BL大賞に応募しました。今月は毎日更新予定です。応援頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。


ーーー


「さあ!さあ!今日は久しぶりに家族が集まった祝いだよ!宴だよ!大いに飲みな!」

 西の長の掛け声と共に宴は始まった。

 西の館は、中も外も多くの鳥族で溢れていた。

 彼らは一族を総じて「家族」と呼んだ。

 他の種族の様に長をきちんと敬っているものの、どちらかといえば「家長」というより「姉御」というイメージだ。

 そんな彼らは目覚めてすぐ、宴をすると決めてから一切に狩りを初めた。一体どこにこんなに食べ物があったのかと不思議になる程、宴は食べ物や飲み物に溢れていた。

 長の張った結界により、それまで口に出来ない状態だった獲物や数少ない植物達も食べれる様になったらしい。

 太陽やルースが持っていた大量の食材も提供した。それはもう大層喜ばれ、今では恩人扱いから大家族の一員に昇格した。

 そろそろ日も暮れるので辺りは薄暗い。なのに鳥族は鳥目だからという理由で、やたら大量の光る石があちらこちらに飾られ、まるで昼間の様に明るかった。

 そして鳥族の館の不思議な構造の理由が判明した。

 館内の出入口がやけに大きい、そして窓がただの大きな長四角の穴だった理由は、彼らの行動を見れば納得だった。

 歩くより早いという理由で、屋内だろうが普通に飛ぶし、玄関らしき物を無視して普通に窓から飛んで出入りしていた。

「赤の者は豪快な種族だね」

 そう評したルースの言葉に太陽も納得だ。

「そうだな。それに強引で人の話を聞かん」

 それは空もだろ!太陽は心の中でツッコンだ。

「でも気持ち良い種族だ。裏表が無い分、好感が持てる」

 その言葉には同意だ。

 長含め、鳥族のみんなは多少豪快で強引だが、気のいい人達だった。



「セーヤ!飲んでるかい?」

 呼ばれて顔を上げると、酒瓶らしき物を持った鳥族の長。悪男の姉だった。

「はい。何か甘い飲み物もらってます。美味しいですね、コレ」
「あぁ、砂漠にいる虫の体液だね」
「ぶほぉっ!」

 虫と聞いて思わず噴いた。
 北まで追いかけた気持ち悪い虫を思い出す。

 まさか、あれじゃ無いよな……?

「何してんだい」

 長が呆れた様に笑った。
 そのまま太陽にしなだれる様に寄りかかって来る。

 豊満な胸が腕に当たった。

「お、長、ちょっと近いデス」
「ん~?この位で緊張してるのかい?」

 長は見た目が20代半ばの綺麗な女性だった。服装も胸元が大きくカッティングされていて、セクシーだ。

 要は角度に関係なく、胸の谷間が見えるわけで…。

「ねぇセーヤ。2人きりになれるとこに行かないかい?」
「ぐっ…」

 今度は食べ物が詰まった。

 そんなセーヤの耳元で長が囁く。

「…ワルオリに聞いたよ。アンタの色」
「……!」
「…代々、西の長にだけ伝えられている魔王の秘密がある」

 ごく、と喉がなった。それは今きっと、太陽が1番欲しい情報かもしれない。

「…2人きりになれる場所に行くかい?」
「…はい」
「ふふ、赤くなって可愛いねぇ。こっちさ。ついておいで」

 長に続いて立ち上がる。

 チラリと横の空を見ると、その聴覚で話を聞いていたのか無言で頷いた。

 一方ルースは。

「私エルフって初めて会ったわ!噂通り美形ね!」
「もっと食べてくれよ!俺がとってきた獲物なんだ!」

 相変わらずモテモテで、多くの人に囲まれてルースの姿は見えなかった。

 俺のルースさんなのに…。ちょっと妬けてしまう。でも。太陽の腕には、ルースから贈られた腕輪があった。

 いつか2人一緒になろうという約束の証。だから、もう嫉妬はしない…というのは嘘で、嫉妬はする。

 ただ前ほど心配になったりはしない。

 空に軽く合図して、太陽は長に続いて部屋を出た。



◇◇◇



 てっきり2人だけになれる部屋に行くと思ったのに。

 まさか連れて行かれたのは深夜の空中デート(?)だった。

「アタイ以外の鳥族は夜は飛べない!だから秘密の話にはピッタリなのさ!」

 そう話す長は、片手を太陽の胴体に手を回して飛んでいる。どちらかといえば荷物みたいに運ばれている感じで、全くロマンチックなカケラも無かった。

「まずはこの地を救う為、アタイやワルオリを助けてくれてありがとう!感謝する、金の者よ!」

 先ほどまでの豪快な姉さんとうって代わり、長としての威厳を持って感謝を述べられた。

「いえ…西は魔王の配下と聞いてたのに。悪男がとっても良い奴だったので、ほっとけなかったんです」
「アッハッハ!そうか!アイツとショーキは可愛いだろう?自慢の弟だ!」
「はい。ショーキは可愛いし、悪男も強がってる癖に結構ぬけてて面白いです」
「アッハハ!いいね、アンタ。気に入ったよ。うちの弟に勝手に名付けしやがってと思ったけど。きっとこれも必然だね、弟の事を頼んだよ」

 そう言って長は渓谷の間を通る。
 そこは、キラキラと光る石が所々にあって、とても綺麗だった。

「わあ!綺麗!夜はこんな風に見えるんだ!」
「ハッハッハッ!綺麗だろ?なのに鳥族はココまで飛んで来れないんだよ。アタイの秘密の場所さ」

 長が渓谷の崖の広い場所に降りたった。

 暗闇の中、ほんのり光る渓谷は幻想的だった。

 崖を椅子代わり座り渓谷を見渡す。
 強い光や弱い光、その明かりに照らされる幾多もの赤い地層。自然が織りなす芸術がそこに広がっていた。

 何だか感動して涙が滲んだ。

「どうしたんだい?」
「昼の地層も雄大で感動したけど、この光景はただただ美しくて感動します」
「ふふ、ありがとう。アンタは本当に西の良さを分かってくれるんだね。今世に現れた金の者がアンタみたいな子で良かったよ」

 そこで、長はふぅと一息吐いた。

「さて、アンタはどこまでワルオリに聞いた?」
「瘴気を抑えてるのは魔王だって。俺は東と南で、魔王が瘴気の原因だって聞いてたから驚きました」
「そうだろうね。だがどちらもある意味当たってるよ」
「え?」
「魔王様は瘴気を抑えてる。だけど魔王様がこの世にいるからこそ、瘴気は無くならないのさ」

 その相反する話に困惑する。よく分からなかった。

「そもそも瘴気とは何か知ってるかい?」
「いいえ。北から来て徐々に生き物を狂わせるという位しか…」
「あれはね、この世界が生み出した歪みや穢れなのさ」

 元々この世界は大きな災害も無く大陸間の争いもない平和な世界だった。

 争いが無い理由は、この世界を作った絶対的な光の女神が存在し、その女神に寵愛された人族の王族が中心となって世界を治めていたからだ。

 それ以外の種族は敬愛する光の女神の意向に添い、人族の王族と親交を深め、それぞれの土地を守っていた。

 だが一見平和で理想的な世界には相応の代償があった。災害が無い。干ばつが無い。緑や花々、木々、食材が豊富。これらを継続させる為に、女神は本来起こる筈だった自然の災害や法則を捻じ曲げたのだ。

 そして限界が来た時。
 それらは瘴気となって世に溢れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...