30 / 181
第一章 銀狼は青に還りて
28
しおりを挟む
「何だよそれ!?今初めて聞いたんだけど!」
目上とか年上とか、すっかり忘れて、太陽は長の上着の襟を握り締めて食ってかかった。
「ハッハッハッ!今思い着いたからな!」
「勝手に決めんな!てか長とか森神様とか、勝手にやめていいのかよ!」
「ハッハッハッ!大丈夫だ、まぁ何とかなるだろう」
なるかー!と全員が心の中でツッコミを入れた。
そんな中、さっき太陽に襲いかかろうとした少年が前に踊り出てきた。
「お前が、お前が長を!唆したのかー!」
ハッと気づいた時には、既に少年から凄まじい風の刃が繰り出されていた。振るったその腕から青く光る刃が太陽に放たれた。
太陽は何も身を守る術を持たない。あ、俺死ぬんだ、そう思った瞬間。
ガキーンッ
硬い物同士がぶつかる音が響き渡り、太陽の前に砂埃の様な物が舞った。
思わず目を閉じる。
音と砂埃が落ち着いた頃、恐る恐る目を開けると。
太陽の前に半透明で所々角ばった壁が出現していた。それが少年の放った風の刃を防いでくれたのだとわかった。
「この場合、唆したのは森神の方でしょ」
懐かしい声がした。
広場入口から歩いて来たその人は、美しい緑の髪と黄緑の目をしていた。
「ルースさん、どうしてここに…」
ずっと会いたかった人の登場に太陽の声が震えた。信じられず、幻とさえ疑ってしまう。
ルースは玉座の近くまでやって来ると太陽に向かって微笑んだ。
「セーヤ探したよ。無事で良かった」
本物のルースだった。
いつも綺麗にしてる彼の額には汗で緑色の髪が貼り付いていた。きっと汗だくになって太陽を探してくれていたのだ。
「ルースさん!」
長の膝から飛び降り、太陽はルースの元へ駆ける。そして会いたかった人の胸に飛び込んだ。
抱き止めてくれたルースからは、優しい花の香りがした。
突然のルースの登場に、またもや周囲が騒然となった。
緑の者が何故ここに?とか、森の見回りか?とか様々な声が聞こえてくる。
そんな中、ルースに向かって声を上げたのは太陽に攻撃した少年だった。
「南の者が何でオレら東の土地にいるんだ!」
「森の見回りだよ。それが役割なのは君らも知っているだろ?」
太陽を庇う様に背で隠しながらルースは答えた。
「なら勝手に見回ればいいだろ!何故黒の者を庇う!南も魔王の手下に成り下がったか!」
少年が再び臨戦体制に入った。今度は両腕の外側に淡く青い光が宿る。そこに小さな風が渦巻いた。
ルースは懐から小さな緑色の木の実を取り出しす。それを数個少年に向かって投げつけた。
即座に少年が両腕の風の刃でそれを切り裂く。
瞬間。
切り裂かれた実からすごい勢いで幾重にも緑の蔓が生え出し、少年の身体に巻きついた。そのまま両手両足を縛り上げて自由を奪った。
「お前、何をするんだ!」
「君が人の話を聞かないからだろう」
ルースは一歩前に歩み出ると、拘束した少年と、周囲にいる獣人の群れをゆっくり見渡した。
「南は北に屈する事は無い。それに僕が保護した彼も黒を纏ってはいるが、北の者ではない」
ルースの声は決して大きくは無いのに、その声は洞内に良く響き渡った。
「北と南の確執は君達もよく知っているでしょう?もし彼が本当に北の黒の者であったならー」
続くルースの言葉に、太陽は全身鳥肌が立った。
「僕が真っ先に殺してる」
一瞬だったがルースから鋭い殺気が放たれた。普段穏やかな彼に似合わない程の迫力だった。
周囲の獣人もその迫力に息を飲んだ。それまで興奮状態で騒いでいた獣人達もルースの殺気に当てられたのか、怯える犬の様に尻尾を丸めて静かになる。
「わかったよ。悪かった。北と確執の強い南の者が言うなら信じる」
拘束された少年も、すっかり大人しくなった。それを見てルースはパチンと指を鳴らす。
少年を拘束していた蔦と、玉座の前にあった半透明の角ばった壁が一瞬で砂の様に崩れ消えた。
宙吊りにされていた少年は身軽に回転して着地した。その表情にもう太陽への憎悪や嫌悪感は無かった。
「それじゃ、僕はセーヤを迎えに来ただけなのでこれで失礼するよ」
行こうか、とルースは太陽の手を取った。
そこに空気をぶった斬って割り込んで来た者がいた。長だ。
「待て。オレも一緒について行くぞ」
長!何を!と再び獣人達が騒ついた。
目上とか年上とか、すっかり忘れて、太陽は長の上着の襟を握り締めて食ってかかった。
「ハッハッハッ!今思い着いたからな!」
「勝手に決めんな!てか長とか森神様とか、勝手にやめていいのかよ!」
「ハッハッハッ!大丈夫だ、まぁ何とかなるだろう」
なるかー!と全員が心の中でツッコミを入れた。
そんな中、さっき太陽に襲いかかろうとした少年が前に踊り出てきた。
「お前が、お前が長を!唆したのかー!」
ハッと気づいた時には、既に少年から凄まじい風の刃が繰り出されていた。振るったその腕から青く光る刃が太陽に放たれた。
太陽は何も身を守る術を持たない。あ、俺死ぬんだ、そう思った瞬間。
ガキーンッ
硬い物同士がぶつかる音が響き渡り、太陽の前に砂埃の様な物が舞った。
思わず目を閉じる。
音と砂埃が落ち着いた頃、恐る恐る目を開けると。
太陽の前に半透明で所々角ばった壁が出現していた。それが少年の放った風の刃を防いでくれたのだとわかった。
「この場合、唆したのは森神の方でしょ」
懐かしい声がした。
広場入口から歩いて来たその人は、美しい緑の髪と黄緑の目をしていた。
「ルースさん、どうしてここに…」
ずっと会いたかった人の登場に太陽の声が震えた。信じられず、幻とさえ疑ってしまう。
ルースは玉座の近くまでやって来ると太陽に向かって微笑んだ。
「セーヤ探したよ。無事で良かった」
本物のルースだった。
いつも綺麗にしてる彼の額には汗で緑色の髪が貼り付いていた。きっと汗だくになって太陽を探してくれていたのだ。
「ルースさん!」
長の膝から飛び降り、太陽はルースの元へ駆ける。そして会いたかった人の胸に飛び込んだ。
抱き止めてくれたルースからは、優しい花の香りがした。
突然のルースの登場に、またもや周囲が騒然となった。
緑の者が何故ここに?とか、森の見回りか?とか様々な声が聞こえてくる。
そんな中、ルースに向かって声を上げたのは太陽に攻撃した少年だった。
「南の者が何でオレら東の土地にいるんだ!」
「森の見回りだよ。それが役割なのは君らも知っているだろ?」
太陽を庇う様に背で隠しながらルースは答えた。
「なら勝手に見回ればいいだろ!何故黒の者を庇う!南も魔王の手下に成り下がったか!」
少年が再び臨戦体制に入った。今度は両腕の外側に淡く青い光が宿る。そこに小さな風が渦巻いた。
ルースは懐から小さな緑色の木の実を取り出しす。それを数個少年に向かって投げつけた。
即座に少年が両腕の風の刃でそれを切り裂く。
瞬間。
切り裂かれた実からすごい勢いで幾重にも緑の蔓が生え出し、少年の身体に巻きついた。そのまま両手両足を縛り上げて自由を奪った。
「お前、何をするんだ!」
「君が人の話を聞かないからだろう」
ルースは一歩前に歩み出ると、拘束した少年と、周囲にいる獣人の群れをゆっくり見渡した。
「南は北に屈する事は無い。それに僕が保護した彼も黒を纏ってはいるが、北の者ではない」
ルースの声は決して大きくは無いのに、その声は洞内に良く響き渡った。
「北と南の確執は君達もよく知っているでしょう?もし彼が本当に北の黒の者であったならー」
続くルースの言葉に、太陽は全身鳥肌が立った。
「僕が真っ先に殺してる」
一瞬だったがルースから鋭い殺気が放たれた。普段穏やかな彼に似合わない程の迫力だった。
周囲の獣人もその迫力に息を飲んだ。それまで興奮状態で騒いでいた獣人達もルースの殺気に当てられたのか、怯える犬の様に尻尾を丸めて静かになる。
「わかったよ。悪かった。北と確執の強い南の者が言うなら信じる」
拘束された少年も、すっかり大人しくなった。それを見てルースはパチンと指を鳴らす。
少年を拘束していた蔦と、玉座の前にあった半透明の角ばった壁が一瞬で砂の様に崩れ消えた。
宙吊りにされていた少年は身軽に回転して着地した。その表情にもう太陽への憎悪や嫌悪感は無かった。
「それじゃ、僕はセーヤを迎えに来ただけなのでこれで失礼するよ」
行こうか、とルースは太陽の手を取った。
そこに空気をぶった斬って割り込んで来た者がいた。長だ。
「待て。オレも一緒について行くぞ」
長!何を!と再び獣人達が騒ついた。
12
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される
志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。
帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。
だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。
なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。
そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。
かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました
おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる