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第三章 空を舞う赤、狂いて

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「攫った?何で?」

 状況がよくわからない。

 俺は南の街でラドに誘拐されて、いつどうやって鳥人間に西まで攫われたんだろう。

「オマエ、良いニオイ!マオウ様喜ぶ!」
「あ、馬鹿!むぐっ」

 聞かれた事に素直に答えるショーキを止める為、悪男が自分で自分の口を押さえた。

 もはやコントにしか見えない。

 とりあえずもらった情報を繋ぎ合わせて1つの推測に辿り着いた。

「西、魔王様、赤…。あ、もしかして西を守る一族か?」
「当たり!セーヤあたまイイ!」
「ありがとう。ショーキは素直で可愛いよ」
「…バレちゃったじゃん、はぁ」

 悪男は溜め息を吐くと、そういう訳だから、と太陽の腕を掴んだ。

「お前は魔王様の貢物だから帰す訳にはいかねーんだ」
「貢物って…俺、魔王様に食べられるの?頭からガブリって?」
「は?んなわけ、ねーだろ!魔王様はそんな巨大じゃねえぞ!」

 魔王は巨大じゃないのか。

 誘導されてポロリと情報を口にする辺り、悪男もあんまり頭が良くなさそうだ、と思った。

「…何かお前失礼な事考えてるだろ」
「じゃあ何で俺貢がれるの?食べても美味くないよ」
「マオウ様、さがしてる!」
「…魔王様が良い匂いのする人間をずっと探してるんだ。で、オレがずっと探し回ってお前を見つけた。黒髪は珍しいからな目立って助かったぜ」
「もしかして魔王様って、眼帯した金色の男?」
「チガウ!メしてるけどセーヤと同じ黒!」
「魔王様なんだから黒に決まってるだろ、金とか虫唾が走る」

 眼帯はしてるけど目の色は黒。
 もしかして、とは思ったけどやはり金の男では無かった。それよりも悪男の言葉に気になる事があった。

「お前、金色嫌いなの?」
「…大嫌いだ!」
「ウソ!ホントは好き!」
「そうか。本当は好きなのか」
「……(真っ赤)」

 こいつ、嘘がつけないタイプだ。
 見た目がヤンキーかチンピラなのに、悪男もショーキも根は素直なんだとわかった。

「…金がオレらを…西を嫌ってるんだ。仕方ないだろ」

 不貞腐れて悪男はソッポを向いた。もう行くぞ、と悪男が羽根を広げる。

「待って!俺ラドって男に誘拐されたんだ。仲間が心配してる。だから帰して欲しい!」

 本当は空は家族だって言いたいし、ルースは恋人だって言いたい。恥ずかしくて言えないけど。

「男シンダ!」
「あ、馬車から落ちて…?」
「ちげーよ。あの馬車はオレが乗ってた。止まんなくて落ちたから飛んだけどな」
「え?じゃあラドは?」
「ラドか知らないケド、ジャマだからオレコロシタ!」

 シャキーン、とショーキが自分の手を見せた。爪が太く鋭く鳥の鉤爪の様に変わった。爪には生々しい血が付いていた。

「カッコイイ?」
「カッコイイけど…血がついてて怖い」

 ゴメンとシュンと落ち込みながら、ショーキは爪を戻した。

 ラドは殺された。目の前のコイツに。
 
 話してると面白いと思ったのに、そのギャップに背中が冷えた。

 やはり魔王の手下なら人間を殺す事を何とも思わないかもしれない。目の前の悪男とショーキに対しての警戒心が上がった。

「お前の事は殺すつもりはねえよ。でも抵抗したら怪我はさせちまうかもしれない」

 だから逆らうな、と悪男の澄んだ左目が太陽をジッと見つめる。

「魔王は北にいるんだろ?俺そこに連れてかれるの?」
「そうだ」

 金の男に会いにどのみち北には行かないといけないとは思っていた。それなら、と太陽も覚悟を決めた。

「わかった。大人しくついてく。ただ1つお願いがあって、俺の大事な人が迎えに来るかもしれないから、心配するなって手紙を置いてっていいか?」
「好きにしろ」
「ありがとう」

 太陽は指輪からメモ書き用の紙と、鉛筆替わりの黒くて細い棒を取り出した。ルースが念の為入れていてくれた物だ。ありがたい。

 それを地面に広げて…太陽はピタと固まった。

「ど…どうしよう!」
「ナニ?」
「どうした?」
「俺こっちの文字わかんない!」

 盲点だった。普通に会話してたから気にしてなかったけど、何となく言語が違うのは分かる。頭で自動翻訳されて会話してる感じだ。

 でも文字はそうじゃない。街中でみた看板や文字は全く読めなかった!

「代わりに書いてくんない?」
「オレも人間の文字なんて書けねーよ」

 太陽と悪男が話してる間に、鳥人間の右手が黒棒を取って紙に何かを描き出した。ふんふん~と鼻歌を歌ってるから、ショーキの方だろう。

 かろうじて髪と目があるから多分人間かな?と思う落書きと、不気味なお化けみたいのと、少し離れた所にシンプルな線だけで人間みたいのを描いて、最後に左目にグルグルと黒丸を描いた。

「オレとオマエ、マオウ様とこイク!」
「あ、これ俺とショーキと魔王なんだ」
「ソウ!」
「オレは?」

 悪男を無視してイラストを観察する。

 そうか。魔王は金の男と眼帯が逆なんだな。もしかしたら、ルースと空が探しに来てくれた時に何かのヒントになるかもしれない。

 そう思った太陽はイラスト部分をその場に残して置く事にした。

 風で飛ばない様にそこらの石を拾って固定した。



「じゃあ今度こそ行くぞ」

 悪男が太陽の背後から腰に両手を回す。バサバサッと大きな羽ばたきが聞こえる。

 暴れるなよ、と声がして地面から足が浮いた。少しずつ身体が浮き上がる。

 十分な高さになった後、斜めに高度を下げて、一気に渓谷へ向かって飛び出した。

 少しのゾワリとする浮遊感を感じた後は、眼前に見事な景色が広がった。
 
「うわー!すげー!」

 見渡す限りの幾重にも重なった様々な色合いの赤。薄い物から濃い物まで、美しい濃淡の重なりが大自然を芸術的にさえ見せていた。

「キレイだなぁ!」

 風を受け髪や服を充分にはためかせながら、太陽は思わず声を上げた。

「キレイ?スゴイ?」
「すごい!東の森や南の自然も美しかったけど、ここは壮大だな!感動する!」
「…人間。お前にこの自然の凄さがわかるのか?」

 悪男が不思議そうに尋ねてきた。

「え?詳しい事はわかんないけど、コレって何万年、何百万年前の地層なんだろ?」
「アタリ!アタリ!」
「ふっ」

 ハッハッハッ!と鳥人間が愉快そうに大声で笑い出した。

 途端、いきなり高度を上げたり、下げたり、ぐるりと旋回し出した。
 動きに合わせて、太陽がギャー!と悲鳴を上げる。

「何すんだ!怖いだろ!」
「ナイテル!」
「普通、泣くわ!」
「セーヤ!」

 初めて悪男の方に名前を呼ばれた。
 左側から鳥人間を見上げる。
 悪男は嬉しそうに、笑っていた。

「人間でこの自然の偉大さを理解したのはお前が初めてだ!」
「え?うそ!」
「人間は、食べれる物が無いこの土地は見向きもしないからな!」

 再びハッハッハッ!と楽しそうに笑う。

「気に入ったぞセーヤ!西はお前を歓迎しよう!」

 その後も、テンションの上がった鳥人間が更に旋回して、峡谷に太陽の叫び声が響き渡った。
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