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第二部 乙女ゲーム?中等部編

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 薄暗い闇を漂ってるみたいだった。何だかフワフワする。

 誰かが呼んでる気がして。オレは瞼を振るわせながら、うっすら目を開けた。

「リア!良かった」

 視界にリッチの泣き顔が飛び込んで来た。綺麗な顔をクシャクシャにして、涙をボロボロ流して泣いている。

 拭ってあげたい。そう思ったけど、腕が上がらなかった。

「ジェード、落ち着け。今、浄化と回復が出来る聖職者が向かってるから…」

 メガネ君が、リッチに声をかけながら、オレの方を向いてハッと息を飲んだ。

「リアは…もしかして女なのか?」
「違うよ、よく見てみろ、胸もないだろ。本人も気にしてるから」

 ラナの言葉にメガネ君が、すまなかったと謝って来た。

 一体何が起きてるのか、よく分からなかった。

 視線だけ彷徨わせて、周囲をみる。どうやら孤児院に戻って来たみたいだ。オレはベッドに寝かされいた。

 良かった。無事、魔物を倒して生還できた様だ。

「連れてきた!」

 ネフリティスの声がした。バタバタと足音がして、パッと誰かがオレの顔を覗き込んだ。

 美しい金髪に意志の強そうな緑の目がオレを見ていた。変身魔法を解いたネフリティスだった。

 メガネ君がした様に、ネフリティスもオレの顔を見て息を飲んだのが分かった。

 帽子も布も外されて、オレはベッドで寝かされてるから、きっと絶世の美少女だとでも思ってるんだろう。

 残念。男だけどね。

「ごほっ」

 口から何かが出た。熱くて鉄の臭いがした。多分、血だ。

 ネフリティスが、ハッとして誰かを呼んだ。側に誰かが近づいて来たかと思うと、腹の周りが温かくなって少し呼吸が楽になった。

「リア、庇ってくれて助かった。ありがとう!」

 オレの左手を大事そうに握って、ネフリティスが御礼を述べて来た。

「もう…いいから、かえ、れ」

 掠れた声でオレはネフリティス達に帰るよう伝える。

「私のせいでこんな酷い怪我をさせたんだ!もう少し…」
「おまえに…できること…ないだろ」
「…っ」

 ギュッとネフリティスが唇を噛んだ。オレの言葉が図星で、悔しいのか、または罪悪感にかられているのか。その緑色の瞳にじわりと、涙が滲んだ。

 そうやってると普段の意地悪そうな印象が消えて、少しジェードに似てる。やっぱり血が繋がってるんだな。そう思ったら何だかほっとけなかった。

 オレはまだうまく力が入らない左手を、ネフリティスの手の中から、ゆっくり上に上げて。
 ネフリティスの滲んで溢れた涙を、そっと拭った。

「おまえにしか、できないこと、ある、だろ」
「…リア」
「おうじ、なんだから、じぶんにしか、できない、こと、がんばれ」
「……」

 またポロリと一筋涙が溢れた。拭ってやりたいけど、もう限界だった。力が入らなくて、左手がパタリと落ちる。

「リア?リア!」
「リア、大丈夫!?ねえ!」

 ネフリティスとリッチの声が聞こえるけど、もう返事も出来ない。

「大丈夫です。治癒魔法をかけたので命は助かります。このまま悪しきエネルギーを浄化します」
「本当か!?助かるんだな?」
「良かった…」

 こうやって聞いてると、声も似てるんだな。瞼を閉じながら、そんな事を思う。あぁ、眠い。

「リア、また来るからゆっくり休んでね」

 最後にリッチの声が聞こえて、耳に何かが触れた。

 リッチが、行ってしまう。

 ごめんね。もう、次は無いんだ。

 サヨナラ、オレのー。

 ー。

 …。



◇◇◇



 それから丸一日、オレは寝込んだ。起きたら次の日の昼で。

「やばい…」

 学校サボっちゃった。

「起きたか?」

 オレのベッドの近くに椅子に座っていたラナが、立ち上がって近寄って来た。

「オレ…助かったんだな」
「あぁ。あの王子が浄化と回復が出来る奴らを連れて来てくれたんだ」

 オレは自分の状態を確認する。上半身は裸で、腹を中心にグルグル包帯を巻かれていた。少し赤く滲んでいる。

「もう、あんなマネすんなよ」
「あんなマネ?」
「王子より、お前の方が大事なんだからな」

 泣きそうな顔で、ラナがオレの頭をグシャグシャとかき混ぜた。

 本当に、心配かけたんだな。不器用なラナの優しさに胸があったかくなる。

「それは約束できないよ」
「…何でだよ」
「お前が危ない時も、きっと庇うと思うからさ」

 ニヤと笑うオレに釣られて、ラナも顔を緩めて、バーカと笑った。



 結局オレは、数日は安静が必要な重体だった。

 何とか浄化してもらって、毒となる悪しきエネルギーは除けたけど。それでも回復は普通より時間がかかると言われた。無理すると傷も開いてしまうらしい。

 学校には勿論行けない。でも、いつまでも孤児院にお世話になってられない。だから無理して家に戻った。

 そして、傷口が熱を持ち発熱した。

「ヴィラちゃん、昨日はどこに行ってたの?お母様心配したわよ」
「うう、ごめんなさいですの」
「今朝、ライバン様が来てたのよ」

 いつまで待っても来ないオレを心配して、ライバンが離れにやって来たらしい。寝ていたお母様は、慌ててオレは発熱で寝込んでると誤魔化してくれたそうだ。

 結局、本当に発熱したけどね。

「お母様、婚約破棄の件なんですど、話がありますの」

 オレは熱に浮かされながらも、今度の卒業パーティーで無事、婚約破棄される予定である事。その後に冒険者としてこの国を出ようと思っている事を伝えた。

 前から話してはいたけど、その後の計画がまだ決まって無かったから、この国を出ようと思ってる事を初めて伝えた。

「そう…今はもう休みなさい」

 お母様がオレの頭を優しく撫でてくれた。手が冷たくて、気持ち良い。その安心感にオレはいつの間にか眠りに落ちていた。



◇◇◇



『ヴィラ…辛くは無いか?』

 ライバンの声が聞こえた。オレはまだ熱が高くて、息が荒くて、返事が出来なかった。

『ヴィラ~、早く良くなってよ。ヴィラが学校にいないとボク寂しいよ~』
『そうだ。今は遠くから見るくらいしか出来ないが、それでもヴィラ嬢がいないと、毎日が褪せてみえる』
『ちょっと!トンガリ君、抜け駆け禁止~!』

 何故か懐かしいスペッサとトンガリ君の声がした。こんな場所にいる筈ないのに。

『ヴィラトリア嬢。もうすぐ君も僕も自由だよ。今まで一人で辛い思いをさせて、ごめんね』

 今度はジェードの声がした。

 それでオレは、これが都合の良い夢だ、と思う。だって、ジェードはリッチの時に、嫌で嫌で仕方なかった役割から解放されるって喜んでたからだ。

 こんなに優しくヴィラトリアに語りかけてくれる筈無い。悲しいけど、さ。

 でも、そうだな。きっと長年の目標だった婚約破棄をしたら自由になれる。

 そう思ったら、何だか胸がすっと軽くなった。
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