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第二部 乙女ゲーム?中等部編

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 月日は流れ。

 とうとう貴族学校に入学する日がやって来た!

 そして、今日はオレが悪役令嬢デビューする日だ。

「ヴィラ、本当にこんな格好で行く気?」
「ヴィラちゃんの可愛さが全部かき消されて、もったいないわねぇ」

 本宅の化粧部屋でメイドさんに準備してもらったオレを見て、ベルデラとお母様は完全に呆れていた。

「でも、この位した方が相手に舐められないかと思いますの…」

 貴族としての教育が遅かったオレは、普通の令嬢みたいに、お友達同士のお茶会など社交的な事は全部後回しにされた。

 なので他の貴族の子供達から舐められる可能性がある、多分だけど。

 その為、オレは自分流の悪役令嬢のイメージをメイドに伝えて、それらしく仕上げてもらったんだけど…。

 学校の制服の胸元はレースリボンをあえてやめて、原色の赤の真っ赤なフリフリリボン。
 頭は派手な縦ロールにどデカいリボン。
 原型を留めないほどの、キツめのメイク。

 うう。全く似合ってない。

 でもこうでもしないと、オレの髪は艶やかでサラサラだし。紫の瞳は宝石みたいだし。肌もシミひとつない美しさだ。

 悪役令嬢というより、聖女ぽいんだもん。
 ……男なのに。オレ泣きそう。

「まぁ、いいわ。もう時間も無いから今日はそれで行きなさい」
「はい。行ってまいりますの」
 


「今日からヴィラと毎日通えるなんて嬉しいな」

 朝からご機嫌な異母兄ライバンと一緒に、オレは馬車に揺られて、学校に向かっていた。

 ライバンは今年15歳で来年は高等部に上がる。背も既に170cm近くあるし、体格もしっかりして、凛々しいイケメンに成長した。

 焦茶の少しウェーブのかかった髪に、澄んだ美しい水色の瞳が涼やかだ。こうしてみると、ライバンもかなりの美形なのが分かる。

 聞くところによると、貴族学校でもすごくモテるらしい。

 なのに残念な事に、ここ数年でライバンのシスコンは加速した。

 最近、本格的に婚約者を選びを始めたらしいけど。ライバンの相手になりそうな令嬢は、気が強いお嬢様が多いらしく、甘えたがりなライバンとは合わなかったらしい。

 今では妹のヴィラトリア(オレ)が理想のタイプだと公言してるとか。

 お兄様、ちょっと怖いです。

「お兄様。ワタクシの格好変じゃないですか?」
「ちょっと奇抜だけど。ヴィラの可愛さは罪だからな。隠せてちょうどいいと思う」
「そ、そうなんですのね」

 どうしよう。お兄様もシスコン末期かも。

 そうこうしてるうちに、目的地に着いた。家からそう遠くないのがありがたい。

 ライバンにエスコートされて降り立った場所は貴族学校の馬車を専用に停める場所だ。

 そして何故か、よく知ってる顔がオレを迎えてくれた。

「ライバンお兄様、ヴィラおはよう。今日からよろしくね~!」
「はい。よろしくお願いしますの」

 オレンジのふわふわ髪と、オレンジの丸っこい目のスペッサだ。オレの奇抜な格好を見事にスルーして、挨拶をして来た。

 150cmも無いオレとそう変わらない背丈だけど、ちょっとだけ男の子ぽくなってきた。それでも子犬ぽさは抜けず、相変わらずオレの癒しだ。

「おはよう。ヴィラ嬢。相変わらず可愛いな」
「…っ。おはようございますの」

 黒髪と赤い吊り目のトンガリ君もいた。トンガリ君は、こんな風にいつも会う度に褒めてくる。背もグンと高くなって、大人っぽい。

 クールで女に冷たいのに、オレにだけ優しい目をするから、ドキドキしてしまってちょっと困ってる。

 というか、この格好のどこが可愛いんだろ。トンガリ君の美的センスが心配になってくる。

「ここからは、僕がエスコートしますよ。ライバン」

 最後に登場したのはジェードだ。相変わらずの爽やかイケメンは健在で。身長もそこそこ伸びて令嬢達の間でも話題になってるらしい。

「……分かった。ジェード、婚約者と言っても適切な距離は保つように」

 ライバンは不機嫌そうにオレの手をジェードに譲る。

 ジェードとは、いつか婚約解消をしようと話してる仲だけど。それを知らないライバンは、やたらジェードへの風当たりが強い。

 というか…。

「あの、ジェード様もワタクシの格好が気になりませんの?」
「あぁ、いつもより派手だね。ヴィラトリア嬢なりのこだわりがあるんでしょ?」
「はいですの!ワタクシ背丈が小さいので、他の方に舐められない様に武装してきましたの」
「ぷっ。武装って、くく」

 何かツボに入った様で、ジェードはオレをエスコートしながら楽しそうに笑ってる。

 ジェードとの仲は良好だ。いつか婚約解消を目論む仲間として、戦友みたいな関係を築けている。

「それにしても、歩きずらいですの~」

 オレはジェードの腕に手を回して歩いている。オレの歩きに合わせて頭のデカいリボンも、ふよふよ揺れている。

 オレの周りにスペッサ、トンガリ君もいて。まるで取り巻きを連れてるみたいだ!

「でも初日だからさ、僕と君が婚約してると分かる様にした方がいいと思うんだよね?」
「そんなもんですの?なら今日だけですのね」
「ヴィラトリア嬢は、本当に他の令嬢と反応が違うよね。そこが新鮮なんだけど」
「そうですの?」

 ジェードが笑いながら、こっちだよ、と建物に向かって歩き出した。



 大きな講堂には、新入生らしき貴族達が集まっていた。みんな、オレと同じ位の年齢だけど、女子も含めて背はオレより高い。屈辱だ。

 案内された席に座ると、式が始まった。

 新入生の代表で挨拶したのは、メガネがピカッと光る男子だった。茶髪で茶色い目をして賢こそうな顔をしている。髪を撫で付け、見るからに真面目で、性格がキツそうに見えた。

 オレの横にいたジェードがそっとメガネ君の情報を教えてくれた。

「彼はブラウ・トパーズ。代々宰相を勤める家系の長男だよ」
「まあ、どうりで!賢そうなピカリンコメガネだと思いましたの」
「…ピカリンコメガネっ」

 ジェードが口を手で押さえて肩を振るわせた。何かツボに入ったみたいだ。

 メガネ君の次は、この国の第一王子ネフリティス・ジェダイト様。ジェードと同じ金髪に緑目だ。

 金髪緑目はこの国の王族の特徴だ。ジェードはネフリティス王子の従兄弟にあたる筈だ。

 ジェードは優しく爽やかな印象だが、ネフリティス王子は理知的で冷たそうな印象だ。もちろん、こちらも例を見ない美形だ。

 確かヒロインが王子とくっつくルートもあったなぁ、とぼんやりオレがそんな事を思ってる間に式典は終わった。

 この後は一度教室になる建物へ移動して、オリエンテーションの様な物があるそうだ。

 ジェードのエスコートで席を立った時に、人が倒れる音が聞こえた。

 見ればピンクの髪の女の子が、床に尻餅をついていた。

 シレネだった。

 その周囲に数人の令嬢が取り囲んで、クスクス笑ってる。シレネに悪意を持ってるのは明らかだった。なのに、周囲にいる誰も助けようとする様子は無かった。

「あれは…」

 ジェードが何かを言いかけたが、それよりも早くオレはシレネの元へ走った。そして、シレネと令嬢の間に入り込み、彼女を背後に庇う様にして令嬢達に対峙した。

 相手に対抗する様にオレも扇をバッと広げて口元を隠す。ベルデラ曰く、相手にこちらの表情や焦りを見せない為に、有効なんだとか。

「貴女方は何をされてるんですの?」
「な、何よ、貴女」

 突然のオレの登場に相手の令嬢達が怯んだ。もしかしたらド派手な格好にひいてるのかもしれない。

「その平民上がりにマナーを教えてやってるのよ。どきなさい」
「平民?おかしいですの。この学園には貴族しかいない筈ー」
「其方らは何をしている!」

 突然、厳しい怒鳴り声が聞こえた。いつの間にか周囲に野次馬が取り囲んでいて、その間からネフリティス王子とメガネ君が近寄って来た。令嬢達は大慌てだ。

 一方、オレも別の方向で焦っていた!

 いきなり何で王子? も、もしかして、これって乙女ゲームによくある出会いイベントってやつ?

 頭がぐるぐるしてきたオレをネフリティスが睨みつけて来た。

「そこの令嬢。この騒ぎは其方のせいか?」
「へ?」

 こいつは何を言ってるんだ?
 
 王子の言葉に、オレだけじゃなく、原因の令嬢達、シレネ、周囲の奴らも同じ印象を持ったと思う。どう見ても、オレは庇った側なのに。

 でも、好都合だと思った。

 多分、これは王子とヒロインの出会いの場面だろうと思ったし。
 目の前のシレネを笑った令嬢達も、まさかの王族登場に顔面蒼白でガタガタ震えてるし。

 だからオレは王子の言葉にのっかった!

「その通りですの。こちらのシレネさんにマナーを教えてましたの」

 オレは令嬢達を庇った。オレの言葉に令嬢達もシレネも困惑している。

 それを無視して、オレは尻餅をついたままのシレネを起こしてやる。ドレスについた埃も軽くはらってやった。

「でも、やり過ぎましたの。ごめんなさい、シレネさん」
「い、いえ」

 最後に王子とメガネ君に向き直って頭を下げた。

「騒ぎを起こして申し訳ありませんでしたの」
「………以後気をつけるように」
「はい」

 ここにいると注目されるし、オレは失礼しますと一言述べて、とっとと退散した。

 そそくさと歩くのに合わせてデカいリボンがふよふよ揺れて、ちょっと恥ずかしいと思いながら。

 そんなオレの後ろ姿を、王子とメガネ君が鋭い視線で睨んでるなんて知らずにー。



ーーー


 第二部始まりました!

 ストーリーの都合上、ちょっと切ない展開になりますが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
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