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第2部 呪いの館 救出編

16話

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 脱衣して頭からシャワーを浴びる。

 疲れがお湯と共に流れていくようで、気持ち良かった。ホッとする。

 徐々に心と身体がほぐれてきた。同時に、先ほど怜が言っていた言葉を思い出してー。

 今更ながら華は気恥ずかしくなって、その場にしゃがみこんだ。

「私…告白されたんだよね?」

 怜の言葉と真っ赤な顔に気を取られて、気づかなかったけど。

 怜の気持ちは少年から暴露されて、知ってはいたけど。

 本人からは勇輝と華を応援してるって言われたけど。

 素直に怜本人から好きだ、と言ってもらえたんだ。じわじわと嬉しさが込み上げてきた。

「私…怜ちゃんの事が好きなのかな?」

 怜と一緒にいると安心する。
 おっとりした華に寄り添い、守ってくれる人だ。

 今回、危険を冒してまで駆けつけてくれた事で、彼への信頼は絶対的な物になった。

 対して、勇輝は一緒にいて楽しい。
 大人しい華の手を取り、リードしてくれる人だ。

 積極的に好意も伝えてくれるので、最近は彼を意識してドキドキする事もあった。

 今の2人への気持ちは正直まだ幼馴染としての想いが強い。
 
 それでも、ちょっとずつ異性として意識出来てきた。少しずつかもしれないが、華なりに2人の気持ちに向き合っていきたいと思った。



◇◇◇



 シャワーを終えて出てくると、怜は既にソファで寝ていた。

 2つの腕輪が嵌まっていた。静かな寝息に、華は安堵の息を吐いた。

 そのまま起こさないように、華はベッドへ移動した。

 今日は朝から色々あったからか、思ったより身体は疲れていたようで、すぐ眠気がやって来た。

 少年のアドバイス通り午後はゆっくりして正解だった。

 うとうとしながら、華の瞼に桃や勇輝か浮かんだ。2人は元気だろうか。

 早く2人の元へ帰りたい。怜と一緒に。明日も改めてがんばろう。そう思ってるうちに、いつの間に眠りに落ちていた。



◇◇◇



 6日目。

 早朝。シャワー音で華は目が覚めた。カーテンの隙間から柔らかな朝陽が入り込んでいる。微かに鳥の鳴き声も聞こえ来た。

 自分以外の生活音が聞こえる。それがこんなに幸せな事だなんて。ベッドに横たわったまま、ボーっとする。

 ガチャ

 朝の日課のシャワーを浴びた怜が出てきた。タオルで頭を拭いて歩く彼と目が合った。

「怜ちゃんおはよう」
「…おはよう」

 ぷいっと視線を逸らされた。その耳が赤くて照れているのが丸わかりだ。

 先に食堂に行ってる。そう、ぶっきらぼうに言って怜は部屋から出て行った。昨日の事が尾を引いているのだろう。

 いつも冷静な彼のペースを乱してるのが自分だと思うと…。うまく言い表せない、むずがゆい気持ちになって、華は思わず枕に顔をボスッと埋めた。

「…こんな事してる場合じゃない」

 ちょっと冷静になった。

 今はこんな事してる場合じゃない!  
 しっかりしなきゃ!

 現実に戻った華は、いそいそと起きて準備をし出した。



 洗顔して、怜とお揃いの黒ジャージに着替えて食堂へ向かった。

 怜は奥のキッチンで朝ご飯を作っていた。何か手伝える事はないか尋ねると、華を振り返った怜の手が止まった。

「…ジャージ」
「あ、これ?昨日の服装は、村のお爺さんに破廉恥て言われたから、怜ちゃんとお揃いの格好にしたの」
「お揃い」
「これ、動きやすいね!」
「……ん」

 気のせいか、まだ照れている様だ。

 怜はベーコンと卵をフライパンで焼きながら、フォークや飲み物の用意を華に頼んだ。

 はーい、と元気に返事してせっせと準備する。何だか合宿みたいで楽しい。

 先に華が席に着くと、玲がトレーを持って奥から出て来た。

 トーストとベーコンエッグとサラダが載ったお皿を華の前に置いてくれる。そしてそのまま、華の斜め隣に自分の分を置いて玲は座った。

 いただきます、とお互い手を合わせてから、華は早速食事を口に運ぶ。お腹もペコペコだった。

「美味しい!」

 今日も身体に沁み渡る美味しさで、思わず声が出た。こんな美味しいベーコンエッグ食べた事ない!

 目をキラキラさせた華の反応に、玲は驚きながらもくすりと笑った。

「こんなので良ければ、いつでも作ってあげるよ」
「え?本当?」
「華が望むならね」

 そう言って微笑む玲の笑顔がとても幸せそうでー。

「どうかした?」
「ううん、何でもない」

 玲の笑顔に華は何だか頬が熱くなる気がした。自分のこんな言葉1つで、普段冷静な彼がこんなに幸せそうに笑うなんて。

 本当に、本気で、私の事が好きなんだ。

 そう自覚したら、ご飯の味なんてわからなくなってきた。それでも、食事を口に運ぶたび、胸を満たすあのぽかぽかした温かさは、しっかり華の身体を満たしてくれた。



 食事の後は朝の作戦会議に移った。

「怜ちゃん身体の様子はどう?」
「平気。まぁ、あいつらがうるさいけど」
「よかった!じゃあ次は彼女の部屋だね」
「そうだね」

 彼女とまず同化して、それでも謎が解けなければ、村へ探索に行く。

「あ!昨日のあの男の人どうしよう」

 すっかり忘れていた。一晩あの茂みに放置していた。

「放置すれば」
「え?死んじゃうよ!」
「どうせ解決すれば成仏する」

 でも…何となく気持ちが落ち着かない。

 華の様子を見て、それなら、牢を作って入れたらどうかと怜が提案してきた。欲しいと願えば何でも手に入る世界だ。簡単に増築できるだろう。

「じゃあ後で様子を見に行って、反抗するようなら考える」

 それで話がまとまった。

 皿をシンクに片付けて、卓上BOXからどんぐりを取り出す。今日で6個目。他のどんぐりの横に並べた。

 ついでにシュシュでお団子にする。これでここ数日のルーティーンは完了。気合いはバッチリだ。

「これ…」
「あ、日付がわりに置いてるの」

 並んだどんぐりの中に四つ顔が描いてある。

 聞かなくても誰を描いたか、怜にはわかった。その時の華の寂しさをを思うと胸が苦しくなる。

 そっと、怜が華の手を握った。

「怜ちゃん?」
「約束する。少なくとも、この世界にいる間はもう絶対1人にしない」
「ー!」

 今の華には1番嬉しいセリフだった。

 思わず泣きそうなり、顔をうつむかせた。その時、怜と繋いだ手と嵌めた腕時計が視界に入った。

「あ、そういえば腕時計」
「そのままつけてて」
「でも…」
「駄目?」

 優しい怜の眼差しに、それ以上何も言えなくなる。彼はこんな表情をする人だったろうか。それに空気が…。

「華?」
「わかった。お守りにするね」
「…ん」
 
 華の鼓動がトクトク早くなった気がする。何だか昨日から自分も様子がおかしい。頭がお花畑になったみたいだ。

 でも今はココを脱出する事に専念したい。恋愛事はそれからだ。

 華は改めてそう決めると、怜に行こう!と告げた。

 2人は共に食堂を出た。

 どちらからも手を離すことはなく。最後の部屋に行くまで、その手は繋がれたままだった。
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