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第1部 呪いの館 復讐編
1話
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まとわりつくような暑さ。
蝉の大合唱。
「肝試し?」
早めの夕飯も終わり、縁側で涼みながらアイスを食べようとした華は、桃の言葉に動きを止めた。
「そうなの。この近くに洋館の空き家があって~。夜見ると不気味だから昔友達と肝試しに行ってたの、懐かしい~」
そう言って、華の左隣に座った桃はニコニコして、シャクッとアイスをかじった。
栗色の天然パーマに、くりくりした大きな黒目。アイスおいし~と呟く桃は、見た目は肝試しとか苦手そうなのに意外だ。
縁側の向こうには木々や芝生が広がり、相変わらず蝉の大合唱が聞こえてくる。
「なにそれ!楽しそう!」
家の中から勇輝と怜もアイス片手に縁側に出てきた。
「俺、ホラーとか大好きなんだよね!」
勇輝がキラキラした笑顔で笑った。スポーツマンらしく健康的に日焼けしたその笑顔は、笑うと少し幼く見える。
「あはは!勇くん怖いのとか、度胸試しとか好きそうだもんね!」
「桃は意外だな。女の子ってそういうのに苦手そうなのに」
勇輝と桃、2人のやり取りをスルーして、怜はさっさっと華の隣を確保した。あっ、怜ずるっ!と勇輝の声が聞こえた気がしたが無視した。
「華、アイスたれてるよ」
怜が背中に背負ってたボディバッグからポケットティッシュを取り出して、華に差し出した。
「あ、ありがとう!怜ちゃん」
受け取ったティッシュで垂れたアイスを拭う。
肝試しとか、ホラーとか不穏なワードに気を取られ、すっかりアイスの事を忘れていた。
遅ればせながら、アイスを頬張る。
夏のうだるような暑さで、すでにアイスが溶け出していた。口の中に広がる甘さに、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、華ちゃん可愛い」
桃がつられて笑った。
華は見た目が清楚な上に性格もおっとりしているので、下手をするとお高くとまっているように誤解されがちだ。
だからこそ、こういう子供っぽく笑った時の笑顔はとても貴重で可愛らしい。
「華は怖い話が苦手だからね。桃の話でフリーズしたんじゃない?」
怜の言葉に、華はコクコク頷いた。さすが10年以上つきあいのある幼馴染。ばれてる。
「華ちゃん、怖いのダメなの?」
「苦手。桃ちゃんは平気なの?」
「そんな事ないよ。怖い事は怖いけど、ほら怖いもの見たさってやつ?」
???。怖いなら見なきゃいいのに。華にはその感覚は理解できそうにない。
そんな華に、怜が小声で華だけに聞こえるように囁く。
「理解しなくていいよ。どうせ勇輝の気を引きたいだけだから」
「え?」
華がビックリした表情で怜を見た。
おや?と怜も華を見つめる。
怜につられて華も小声で返してきた。
「ーすごい。何で理解できてないってわかったの?」
「ーそっち?はぁ…どんだけ付き合い長いと思ってるの」
桃が勇輝の気を引こうとしてる、という点を流すあたり、勇輝の恋は前途多難そうだ。
「ーもう。怜ちゃんお母さんみたい」
わかりにくいが少し拗ねた表情をする華を見て、怜は笑った。
普段あまり表情が変わらないと思われがちな華だが、親しい仲、例えば自分や勇輝の前では意外に表情豊かだ。
おっとりした華には勇輝がお似合いだ。そう思うのは本心だ。
でも、こんな可愛い表情を見せられると、誰にも渡したくない気持ちにもなる…。
「ちょっと、そこコソコソしない!」
焦った親友の声が聞こえた気がするが、怜は華麗にスルーした。
「勇くん、こっち座る?」
桃が自分の隣をトントン叩く。
え?え?と分かりやすく勇輝は動揺した。
桃が促すように見てくる。できれば座りたくない。
怜がどうするの?と観察するように見てくる。気のせいか圧が…。
華が何の意図もなく見てくる。眼中になさすぎて。つらい。
結果、勇輝は縁側にあったサンダルを履いて庭に飛び出た。
「いやー暑いから俺外でいいわ!」
「勇くん、暑いってそこ扇風機当たってないよ」
「そのサンダル女物だよ」
桃と華の的確なツッコミが心のHPをガリガリ削ってくる。勇輝は、平気~と、笑いつつ心で泣いた。
怜は勇輝の行動と2人のツッコミがツボにささったらしく、1人口元を抑えて爆笑していた。ちくしょう覚えてろ!
「勇くんがいいなら別にいいけど。さっきの話だけど、ホラーが好きならお化け屋敷とかも良く行ったの?」
「そうだな。遊園地のお化け屋敷とかはよく入ったかも。華はそういうの苦手だから外で待ってもらってて、俺と怜だけで入ってたな」
「男2人で?」
「男2人で」
ドッと桃と勇輝が笑いあう。お互い明るい性格のせいか、笑いのツボが合うようだ。
「わたしでよければ付き合うよ」
「え?」
一難去ってまた一難。
恋のアピールは勇輝より桃が上手だったようだ。
蝉の大合唱。
「肝試し?」
早めの夕飯も終わり、縁側で涼みながらアイスを食べようとした華は、桃の言葉に動きを止めた。
「そうなの。この近くに洋館の空き家があって~。夜見ると不気味だから昔友達と肝試しに行ってたの、懐かしい~」
そう言って、華の左隣に座った桃はニコニコして、シャクッとアイスをかじった。
栗色の天然パーマに、くりくりした大きな黒目。アイスおいし~と呟く桃は、見た目は肝試しとか苦手そうなのに意外だ。
縁側の向こうには木々や芝生が広がり、相変わらず蝉の大合唱が聞こえてくる。
「なにそれ!楽しそう!」
家の中から勇輝と怜もアイス片手に縁側に出てきた。
「俺、ホラーとか大好きなんだよね!」
勇輝がキラキラした笑顔で笑った。スポーツマンらしく健康的に日焼けしたその笑顔は、笑うと少し幼く見える。
「あはは!勇くん怖いのとか、度胸試しとか好きそうだもんね!」
「桃は意外だな。女の子ってそういうのに苦手そうなのに」
勇輝と桃、2人のやり取りをスルーして、怜はさっさっと華の隣を確保した。あっ、怜ずるっ!と勇輝の声が聞こえた気がしたが無視した。
「華、アイスたれてるよ」
怜が背中に背負ってたボディバッグからポケットティッシュを取り出して、華に差し出した。
「あ、ありがとう!怜ちゃん」
受け取ったティッシュで垂れたアイスを拭う。
肝試しとか、ホラーとか不穏なワードに気を取られ、すっかりアイスの事を忘れていた。
遅ればせながら、アイスを頬張る。
夏のうだるような暑さで、すでにアイスが溶け出していた。口の中に広がる甘さに、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、華ちゃん可愛い」
桃がつられて笑った。
華は見た目が清楚な上に性格もおっとりしているので、下手をするとお高くとまっているように誤解されがちだ。
だからこそ、こういう子供っぽく笑った時の笑顔はとても貴重で可愛らしい。
「華は怖い話が苦手だからね。桃の話でフリーズしたんじゃない?」
怜の言葉に、華はコクコク頷いた。さすが10年以上つきあいのある幼馴染。ばれてる。
「華ちゃん、怖いのダメなの?」
「苦手。桃ちゃんは平気なの?」
「そんな事ないよ。怖い事は怖いけど、ほら怖いもの見たさってやつ?」
???。怖いなら見なきゃいいのに。華にはその感覚は理解できそうにない。
そんな華に、怜が小声で華だけに聞こえるように囁く。
「理解しなくていいよ。どうせ勇輝の気を引きたいだけだから」
「え?」
華がビックリした表情で怜を見た。
おや?と怜も華を見つめる。
怜につられて華も小声で返してきた。
「ーすごい。何で理解できてないってわかったの?」
「ーそっち?はぁ…どんだけ付き合い長いと思ってるの」
桃が勇輝の気を引こうとしてる、という点を流すあたり、勇輝の恋は前途多難そうだ。
「ーもう。怜ちゃんお母さんみたい」
わかりにくいが少し拗ねた表情をする華を見て、怜は笑った。
普段あまり表情が変わらないと思われがちな華だが、親しい仲、例えば自分や勇輝の前では意外に表情豊かだ。
おっとりした華には勇輝がお似合いだ。そう思うのは本心だ。
でも、こんな可愛い表情を見せられると、誰にも渡したくない気持ちにもなる…。
「ちょっと、そこコソコソしない!」
焦った親友の声が聞こえた気がするが、怜は華麗にスルーした。
「勇くん、こっち座る?」
桃が自分の隣をトントン叩く。
え?え?と分かりやすく勇輝は動揺した。
桃が促すように見てくる。できれば座りたくない。
怜がどうするの?と観察するように見てくる。気のせいか圧が…。
華が何の意図もなく見てくる。眼中になさすぎて。つらい。
結果、勇輝は縁側にあったサンダルを履いて庭に飛び出た。
「いやー暑いから俺外でいいわ!」
「勇くん、暑いってそこ扇風機当たってないよ」
「そのサンダル女物だよ」
桃と華の的確なツッコミが心のHPをガリガリ削ってくる。勇輝は、平気~と、笑いつつ心で泣いた。
怜は勇輝の行動と2人のツッコミがツボにささったらしく、1人口元を抑えて爆笑していた。ちくしょう覚えてろ!
「勇くんがいいなら別にいいけど。さっきの話だけど、ホラーが好きならお化け屋敷とかも良く行ったの?」
「そうだな。遊園地のお化け屋敷とかはよく入ったかも。華はそういうの苦手だから外で待ってもらってて、俺と怜だけで入ってたな」
「男2人で?」
「男2人で」
ドッと桃と勇輝が笑いあう。お互い明るい性格のせいか、笑いのツボが合うようだ。
「わたしでよければ付き合うよ」
「え?」
一難去ってまた一難。
恋のアピールは勇輝より桃が上手だったようだ。
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