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「たたた」

 驚き過ぎてしばらく「た」を連呼して、一息ついてからようやく「貴司くん?」という言葉が出てきた。

「おう、久しぶり」

 数日ぶりにあったかのような気軽さで、彼は右手を上げて挨拶するとにっと笑った。

「変わってねーな、すぐわかった。星野若葉」

「いやいやいやいや、何でここにいるんですか?」

「お前が会いに来てくれないから、俺から会いに来たんだよ。何だよ、あの小学生の作文みてーな手紙!」

 回答になっているようでなっていない。

 ああ、何となく思い出してきた。このマイペースな感じ、確かに貴司君だ。

 いつだっけ、小学生のとき、絵を自由に書いてきてって先生が言って、時間になっても貴司くん1人だけ戻って来なくて、出席番号隣のよしみで私が呼びに行かされてたら、「まだ終わってないし」って言って結局そのまま書き終わるまで動かなかったんだ、この人。

 見た目は変わってるけど、この感じは確かに貴司くんだ。

「貴司くん……、変わってないね……」

 呆れた様に呟くと、貴司君はにっと笑った。

「だろ。そんなに変わってないんだよ、俺は。お前にはわかると思ったぜ」

「いや、私の住所何で知ってるんですか……」

「富岡ちゃんに聞いたら教えてくれたよ」

「富岡さん……」

 個人情報とかどうなってるんですか。
 貴司君は面白そうに言った。

「なかなか教えてくれないから、ケンと飲み会セッティングしてやるって言ったらあっさり教えてくれた」

 ケン、は貴司くんのいるグループのメンバーの1人だ。
 強面の、スキンヘッドでガタイが良い人だ。
 
 富岡さーん……。
 
 貴司君は私に向き直ると不満そうな顔になった。

「そもそもお前が悪いんだよ、急に引っ越して、誰も連絡先知らないから、ようやく番組の企画で探してもらったら本人来ないし」

 小学校の同級生が誰も連絡先を知らないのは、当時の知り合いに夫が浮気して離婚したことを誰にも知られたくなかった母親のせいだ。人間関係をリセットしたかったらしく、私が友達に書こうとした手紙も捨てられた。

 貴司君はじっと私を見た。

「連絡とろうと思ってたんだよ、ずっと」

「――何ででしょう」

「あれ、富岡ちゃんから聞いてない? ほら……」

 そこで貴司くんは口籠って黙った。
 
 『それで、TAKAさんの初恋の人ってことで、飯塚さんを探してまして……』

 富岡さんの言葉を思い出す。
 
 ――え、それ?

「私が、その、はつ」

「とにかく、今日だから、番組見よう」

 私の言葉を途中で止めて貴司くんはまくし立てた。

「今日……」

 今日は木曜日。確かに、今日放送日だ。

「――見るって、どこで見るんですかね」

「お前の家でもいい?」

 貴司くんは事も無げに聞く。
 ――うち?

「――あと、ですます止めてよ」

 驚いた私が黙っていると、彼は付け加えるように言った。
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