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6話1ヶ月前
しおりを挟むちょうど1ヶ月前。10月
その日は妙に胸がざわついていた。
いつものように起きて、いつものように学校に行って、授業を受けて、友達と喋って、昼ご飯を食べて、また授業を受けて、ホームルームを終えて、部活をして……。
何かをしていても、ずっとそのざわつきが治まる事はなかった。
ハタから見てもその日の私は変だったのだろう。
落ち着きがない事を指摘され、その原因が――
「霊。やっぱ、灰崎君がいないからじゃないのー? いつもべったりだもんねー。巧君ってさ、霊の精神安定剤だよね?」
クラスメイトの一人が、冗談っぽく私をからかってきた。
「灰崎君が? いや、ないない。絶対にないっ! 何か別の事だと思うよ。大雨が降るとかさ。だっ、大体私そんなに灰崎君にくっついてないし! 休んだぐらいで心が乱れるなんて、そんな訳ないじゃん。そもそも、学校に来る前から、調子悪いからかっ、関係ないよ!」
「ふーん。霊は巧君とは、何もないか……。そんじゃあさ、私が貰っちゃおうかな?」
「え?」
「だって、そうじゃん。霊と巧君がなぁーんにもないなら、それってフリーなわけじゃん。ってことは、私にもチャンスがあるってことで――」
「はいはい。ご自由に」
「いいんだー。じゃあ、明日学校に来たら告ろっかなー。そしたらさ、じゃあ霊から紹介してくんない? 私から、言うのはなんかテンパって恥ずい、っていうかぁーー」
「告白は自分でする! はい、この話はココで終わり。私、絵描くから。シッシ。ほら、シッシ」
「えー。霊―。何でぇよぉぉぉ、けちぃぃぃ」
何て、他愛もない話をして少しは心も落ち着きを取り戻したが、巧が珍しく欠席していたこと自体は、遅刻も最近多くなっていたこともあって、あまり気にも留めていなかった。
☆★☆
「ただいまー……って、あれ、お母さん。どうしたの?」
家に帰ると、お母さんは両腕を組んで仁王立ちで私を待っていた。
いつもちゃらんぽらんなお母さんが、見たこともないぐらいに深刻そうな顔をしていたから、吊られて私も身構えて、聞いた。
「……霊ちゃん。今日ちょっと忙しくなるかもしれん。家、空けるわ。飯はもう作ったから、一人で食べてくれん? ごめんな」
「……え? 別にいいけど、いつもの事じゃん。 何かあるの?」
「まあ、ちょっとなぁ。厄介なことになってしもうて。覚悟しておいた方がええかもな。霊ちゃんも関係あるかもしれへんし」
「?」
「何もなければ、それでええんやけどな……。全く、何考えてんねん。ミサトの奴」
ブツクサ文句を言いつつ、お母さんは身支度をパッパとして、足早に家を出て行った。
お母さんが家を空けること自体は、そんなにレアじゃない。
大抵、週に2~3回。
下手をすれば、半分以上いない事の方が多い。
お父さんも見たような感じ。
巧の家庭環境もそんな感じで、必然的に私と巧、そして巧の妹の舞ちゃんの3人で、どちらかの家でゲームをしたり、絵を描いたりして遊ぶことが多くなっていた。
「お母さんとお父さんってどんな事しているの?」という子供なら誰しもが親に抱くであろう疑問を口に出しちゃいけないんだ、って事は何となくそれが話題に上がりそうになった時の、お母さんの『雰囲気』を感じて分かった。
私は鈍い巧と違って、カンがいいから。
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