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前編③
しおりを挟む——地下牢にて
王女は一人の侍女と共にシスリーの元に出向いていた。
シスリーはここ数日でひどくやつれていた。
それこそ勇者と共に過酷な旅に出ていた時よりも。
食事もろくにとらずに、ただ看守に自分の無実を訴えてるのに声を枯らしていたのだから無理もないが。
そして、王女の姿が目に入るとそれはより一層なものになった。
王女はシスリーと話すと言い、看守に席を外すように命令し、侍女と共に牢の前に立った。
対面する両者。
シスリーは、王女が来るや否や、足元に縋って冤罪を主張した。
王女は侍女と共に、シスリーの話を最初黙って無表情で聞いていたが、当然堰を切ったようにクスクスと笑いだした。
戸惑うシスリーに、王女は言った。
――あなたが私に毒を盛っていないのは知っているわよ。だって、毒を盛ったのは彼女であって、指示を出したのは私だもの。
まるでいたずらっ子がいたずらがバレたかのように、告白する王女にシスリーはしばらく押し黙っていたが、目に見えて動揺の色を隠せなくなり、そしてハッと我に返ったように「病気だというのも………」と声を震わせて聞いた。
シスリーの反応を噛みしめるように唇をぶるっと震わせて、王女は告白を続けた。
――仕方がないじゃない。だって、病気だって言わなければ、彼は城に来ないでしょ。何度も、何度も手紙を送ったのに彼、全然返事してくれないじゃない。
絶句するシスリーに、なおも王女は続けて言った。
――それってかなり失礼な事だと思うの。だから、私もこうするしかなかったの。私の気持ちを踏みにじった彼……いいえ、貴女が悪いのよ。貴方も私の手紙が来ていたの知っていたでしょ? なんで、こうなるまで城に来なかったの?
開き直り、自分には非が無いと言い張る王女。
旅路で、たくさんの支援者から勇者宛に手紙がよく来ていたが、シスリーは中身を見ることはほとんどなく、ましてや王女も送ってきていたなど初耳であり、それが王女の逆鱗に触れるとは言われるまで、思いもしなかった。
が、それを加味してもそれだけで罪を被せられるのは、到底納得できない。
再度釈放を求め、認められない場合は看守に言うと王女に告げた。
――そうね。出してあげるわ。私だってそのつもりでココに来たわけだし。
ニコリ、と微笑んで意外にもあっさりと了承。
侍女に指示を出し、牢の鍵は開けられた。
安堵するシスリー。
だが、彼女の緊張の糸がプツンと切れたと同じタイミングで、侍女はその隙を見逃すまいと、手慣れた手つきでカチリとシスリーに鉄の首輪を嵌めた。
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