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プロローグ 聖剣誕生

聖剣誕生

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ここは日本、時代はおそらく今と同じくらい

違いがあるとすれば “魔法” が存在する世界ということ

そんな世界でのとある物語  ━━━


 日本といいながら始まりはイギリス王国にあるエトワール王立魔法学園の一室  


 ーー無造作に積まれた魔術書の山
 ーー羊皮紙と古いインクの特有の匂い
 ーー机に散らばった彩り鮮やかな魔法石

 その老人はぶつぶつと独り言を呟きながら水晶を見つめていた。

 サンタクロースのように伸びた白い髭は腰まで達し、羽織っている布はあまり清潔感を感じさせない。齢はすでに百まで達していそうな、見るからに魔導師という風体の老人。


「何みとるんでっか。見せモンちゃいまっせ」


 このナレーターの視線にすら反応できる訛りのある口調のご老人こそ、霊長類最強とまで賞賛を受けているイギリスが誇る大魔導師 ハッタリー・ボッター (138) である。

 138は背番号ではない。実年齢だ。

 通常では考えられない超高齢、世界最高齢ジョナサン(ゾウガメ)184歳に次ぐ、現在確認できる人類最長寿の訳は、その高い魔力にある。常軌を逸した魔力がその本来なら抜け落ちるはずの霊魂をその肉体に留めさせているのだ。


 そうだ、この世界には “ 魔法 ” が存在している。

 
コンコンッ ガチャ

 ノックを2回し、返事を待たずに部屋へと入ってきたその男は黒い外套のようなマントを羽織い、コツコツと靴を鳴らしながら足早に本棚へと向かった。
 
「ワトソン、何べん言わせんねん。ノックは三回や。ここ便所ちゃいまっせ。ワテが中でう○こしてたらどないしまんねん」
 ボッターは入ってきた男の顔を確認せずにそう答えた。
 
「また覗き見ですか?学園長」
 ワトソンと呼ばれた男は気にすることなく本棚に手をやり1冊の魔法書を手にした。

「人聞きの悪いこと言わんといてんか。最初が肝心なんでっせ。そんなにワテを悪モンにしたいんでっか。あんさん敵でっか」

「訳のわからないこと言ってないでたまには仕事してください」

 ワトソンは山積みになった魔法書にため息を付きながら、両手を掲げると、書物は宙に浮き、次々に本棚へと収納されていった。彼もまた魔法使いなのだ。


「それに、中でう○こしているなら、そこは間違いなくトイレでしょうに…」

「あかん、あかんで、、でてまうぅぅぅっ!!」

「う○こですか?」


 ボッターは水晶を見つめながら、急に顔を硬直させはじめた。その額には脂汗すらにじみ出ている。半ばからかい気味だったワトソンもその異変に遅らせながら気が付く。水晶が異様な輝きを放っていたのだ。

 それは今まで見たこともない反応だった。それはとても美しい輝きでもあった。


「学園長、何が起きようとしているんですか…?」
 ワトソンも水晶を覗き込むが眩い光の向こう側は以前として見えてこない。
 そのワトソンの問い掛けに対し、ボッターがぽつりと呟いた。


「あかん…、ほんまに刺さりよった…、聖剣の誕生や……」
 ボッターは静かに答えた。


「聖剣……、あのロストフォークロアの…聖剣のことでしょうか…?」
 ワトソンもその “ 聖剣 ” という単語を聞いて態度を一変させた。

「そや…、遡ること古くはアレキサンドロス3世、神聖ローマ帝国のオットー1世、近代では我等がエリザベス女王、1000年に1度この星に具現化しては世界地図を大きく塗り替える存在、それが現代に生まれよったんや……」

「お言葉ですが学園長、オットー1世から女王までは1000年も経ってませんし何より女王は女性です。聖剣所持者にはそもそもなれないのでは…?」
このような状況でもワトソンは至って冷静に間違いを指摘する。

「だまらっしゃいぃぃぃっ!!!」
それに対してボッターは冷静では居られないようだった。

「いきなりキレないでください…」

「兎も角、生まれよったんや。その聖剣が…」

「それは大預言者、ハッタリーボッターとしてのお言葉ですか?」
 ワトソンが確認を取る。

「そや、めっぽう当たる英国王立魔法占術省としての公式予言や」
 ボッターは初めてワトソンに目を向け、まじまじと答えた。

「一大事じゃないですか。もし本当なら…」

「そやからあかんゆうてるがな。英国ここならまだしも、別の国や。だいぶ東や。反応あるんわ。日本か…。なんせ東アジアで反応でよったわ」
 ボッターはそう言うと椅子に深く腰を下ろし、ふぅーーと大きく息を付いた。
 

「日本、ね…」


 ワトソンは部屋に貼られている古い世界地図に眼を向ける。遠く離れた東の島国。1000年前ならそれは異世界とも呼べる距離感があるが、今の時代においては半日で行ける距離でもある。そんな現代に聖剣が誕生した。それにどういう意味がありどのような未来が待っているのか、それは誰にもわからないことであった。


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