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第13話 アルラウネ
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「慎重に行きましょう」
「うむ、どんな危険があるか分からぬからくっ付いて行くとするかの」
腕を絡めてムギュっとぷにゅぷにゅを押し当ててくるリリス。
オークの巣穴に来ているのであって、デートしている訳じゃない。
それに……腕から伝わる感触が気になって集中できない。
ただでさえ薄暗い穴の中なのに、注意が疎かになってしまう。
いくらオークがそれほど強くない魔物とは言え、不意打ちの一撃をまともに喰らえば致命傷にもなりかねない。
「リリス、オークの巣穴は危険が付きのもです。離れるのは危険ですが、密着し過ぎるのもどうかと思いますよ」
「うむ……それもそうじゃな」
僕たちは付かず離れず適度な距離感を保ちながら慎重に巣穴を進んで行く。
何度も言うように、オークは嗅覚が非常に優れた魔物だ。
本来巣穴に侵入すればオークはイチ早くそのことを察知して襲ってくるのだが……一匹も襲って来ない。
その理由は明白だ。
巣穴を進む僕たちの足元には時折、肉塊と化したオークが転がっていた。
僕たちの前に巣穴へと侵入したレインたちの仕業だろう。
「それにしても……ひどい匂いじゃな。鼻がもげそうじゃ」
「オークの体臭はもちろん、その血液は恐ろしく臭いですからね」
「お前さま……一体何をしておるのじゃ!?」
「オークの血液を衣服に染み込ませているんですよ」
「げっ!? 妾は嫌じゃぞ! いや、よさんかッ……馬鹿者ッ! あっ、ああっん」
リリスの体にオークの血液を塗り付けると、僕の手が素肌に触れたことでまたイヤらしい声を響かせている。
意外と綺麗好きで潔癖なリリスは涙目になり、僕を恨めしそうに睨みつけた。
「可愛そうですが、これは大事なことなんですよ」
「グスンッ……だいじ?」
「奥に行けば必ずオークたちの寝床があります。そこにオークがどの程度居るか検討もつきません。そんな中、人間や悪魔の匂いのする者が近づけば一発でオークに気付かれ、あっと言う間に数十匹のオークに囲まれてしまいます。オークだけならまだしも、ハイオークやチャンピオンオーク、最悪オークロードが居ればかなり危険です」
「……我慢すれば良いのじゃろ? 早う風呂に浸かりたいわ」
肩を落としショボくれるリリス。
女の子がオークの臭い血液を体中に塗りたぐるのに抵抗があるのはわかるが、万が一が起こってしまう前に対策を取るのも大切なことだ。
薄暗い穴を進んで行くと、前方に光が見える。
それと同時に……。
「「「ブギャッ! ブギャッ!!」」」
「「っ!?」」
「お前さまッ!」
「はい、恐らくレインたちが戦っているのでしょう」
僕とリリスはできるだけ足音を立てずに素早く前方の開けた場所まで移動すると、壁に身を寄せるように屈んだ。
円形状に開けた場所には下へ続く階段が複数確認でき、吹き抜けになっているお陰で下の様子もはっきりと確認することができた。
「お前さま……あれはかなり不味い状況ではないのか?」
壁からひょっこり顔を出して〝その光景〟を目にしたリリスは、声を押し殺しながら険しい表情を窺わせた。
「不味いどころじゃありませんよ」
2階部分に当たる場所から見下ろした僕たちの視界には、血まみれのレインが倒れ込み、涙目の双子姉妹が彼の出血を止めようと奮闘している。
そんな3人を守るように、ランランは半透明な正方形の結界を張っているが……その表情はかなり辛そうだ。
オークたちはランランが張ったと思われる結界の周囲に集まり、威嚇の雄叫びを上げながら得物を振り回している。
「あの様子だと……結界も長くは持たないでしょう」
「じゃが……なぜあんなことに? あやつらは一応Cランクの冒険者なのじゃろ?」
「オークをよく見て下さい」
「あれは……? ハイオークに……チャンピオンオーク!? それも2体じゃと!?」
リリスの言う通り、あれはハイオークとチャンピオンオークだ。
通常のオークは太っちょオークなのに対し、ハイオークは筋肉質な体型をしている。
さらにチャンピオンオークはそれ以上のゴリマッチョ!
チャンピオンオークと1対1の戦闘なら、Cランク冒険者のレインたちでもなんとかなっただろう。
しかし、相手はチャンピオンオークが2体。
しかも30体以上のオークと5体のハイオークのおまけ付きだ。
あれだけの数を相手に……4人じゃとてもじゃないが勝ち目はない。
それに見たところランランは前衛のアタッカーではなく、後衛職のタンカーだろう。
双子姉妹も戦闘を行っていないところを見ると、恐らく前衛職ではないことがわかる。
レインたちは敵をただのオークだと思い込み、臭い消しの血染めもしていない様子だ。
意気揚々とこの場に乗り込み、追い込まれてしまったのだろう。
「すぐに助けないと手遅れになってしまいますね」
「しかし、いくらお前さまと妾でも……あの数を相手にするのはちと無謀ではないのか?」
「確かに、まともに乗り込んで行けばすぐに取り囲まれてしまいますね」
「ならどうするんじゃ?」
「そうですね……眠って頂きますか」
「眠って?」
そう言い、僕は素早く魔法陣を形成して、ある魔物を黄泉の国より喚び出した。
「力を貸して下さい……《アルラウネ》ッ!」
赤黒い魔法陣から美しい植物の魔物《アルラウネ》が姿を現すと、僕はそのまま頭部へと彼女を肉体憑依させる。
すると、僕の頭頂部からはニョキニョキッと大きな黄色いつぼみが生えてくる。
「なっ、なんじゃその間抜けな見た目はッ!?」
「言い方に気をつけて下さいよ! ファンシーで愛らしい見た目とか言い方があるでしょ、まったく」
「すっ、すまん。意外とお前さまも気にしておるんじゃな。それで、一体その奇妙はつぼみでどうする気なんじゃ?」
「見ていればすぐにわかりますよ」
僕はそっと壁上に立つと、《アルラウネ》のつぼみを開花させた。
《アルラウネ》のつぼみは開花させると、その拍子に大量の花粉を噴出させる。
この花粉には様々な効果があるのだが、今回飛ばす花粉は強い睡眠効果をもたらすものだ。
だから……ご覧の通り、《アルラウネ》の花粉をその体に浴びたオークたちがウトウトし始めて――バタンッとその場に倒れ込んでいく。
「おおっ! さすがはお前さま、見事じゃな」
「僕は一流のシャーマンですよ。このくらい朝飯前ですよ。どこかの頭の悪いエセ勇者とは違うんですよ」
褒められたことが嬉しくて、つい胸を張り高笑いを響かせていると……。
「オマエは圧倒的スケベ小僧! 助けてくれたアルか! 圧倒的感謝ね」
こちらに向かってランランが大手を振り、『早くワタシにスペシャルな夜を堪能させて欲しいね』と言っている。
決して口には出していないが、僕にはわかる。
「どうやらランランたちは結界を張っていたお陰で花粉からは免れたみたいですね」
「うむ、あとは寝ている間抜けなオークたちを一匹ずつ仕留めるだけじゃな」
僕は胸を張ってランランたちの元まで下りて行き、勝ち誇った顔で青白いレインに微笑みかけてやった。
冒険者ランクだけが強さじゃないんだと言うように……。
「うむ、どんな危険があるか分からぬからくっ付いて行くとするかの」
腕を絡めてムギュっとぷにゅぷにゅを押し当ててくるリリス。
オークの巣穴に来ているのであって、デートしている訳じゃない。
それに……腕から伝わる感触が気になって集中できない。
ただでさえ薄暗い穴の中なのに、注意が疎かになってしまう。
いくらオークがそれほど強くない魔物とは言え、不意打ちの一撃をまともに喰らえば致命傷にもなりかねない。
「リリス、オークの巣穴は危険が付きのもです。離れるのは危険ですが、密着し過ぎるのもどうかと思いますよ」
「うむ……それもそうじゃな」
僕たちは付かず離れず適度な距離感を保ちながら慎重に巣穴を進んで行く。
何度も言うように、オークは嗅覚が非常に優れた魔物だ。
本来巣穴に侵入すればオークはイチ早くそのことを察知して襲ってくるのだが……一匹も襲って来ない。
その理由は明白だ。
巣穴を進む僕たちの足元には時折、肉塊と化したオークが転がっていた。
僕たちの前に巣穴へと侵入したレインたちの仕業だろう。
「それにしても……ひどい匂いじゃな。鼻がもげそうじゃ」
「オークの体臭はもちろん、その血液は恐ろしく臭いですからね」
「お前さま……一体何をしておるのじゃ!?」
「オークの血液を衣服に染み込ませているんですよ」
「げっ!? 妾は嫌じゃぞ! いや、よさんかッ……馬鹿者ッ! あっ、ああっん」
リリスの体にオークの血液を塗り付けると、僕の手が素肌に触れたことでまたイヤらしい声を響かせている。
意外と綺麗好きで潔癖なリリスは涙目になり、僕を恨めしそうに睨みつけた。
「可愛そうですが、これは大事なことなんですよ」
「グスンッ……だいじ?」
「奥に行けば必ずオークたちの寝床があります。そこにオークがどの程度居るか検討もつきません。そんな中、人間や悪魔の匂いのする者が近づけば一発でオークに気付かれ、あっと言う間に数十匹のオークに囲まれてしまいます。オークだけならまだしも、ハイオークやチャンピオンオーク、最悪オークロードが居ればかなり危険です」
「……我慢すれば良いのじゃろ? 早う風呂に浸かりたいわ」
肩を落としショボくれるリリス。
女の子がオークの臭い血液を体中に塗りたぐるのに抵抗があるのはわかるが、万が一が起こってしまう前に対策を取るのも大切なことだ。
薄暗い穴を進んで行くと、前方に光が見える。
それと同時に……。
「「「ブギャッ! ブギャッ!!」」」
「「っ!?」」
「お前さまッ!」
「はい、恐らくレインたちが戦っているのでしょう」
僕とリリスはできるだけ足音を立てずに素早く前方の開けた場所まで移動すると、壁に身を寄せるように屈んだ。
円形状に開けた場所には下へ続く階段が複数確認でき、吹き抜けになっているお陰で下の様子もはっきりと確認することができた。
「お前さま……あれはかなり不味い状況ではないのか?」
壁からひょっこり顔を出して〝その光景〟を目にしたリリスは、声を押し殺しながら険しい表情を窺わせた。
「不味いどころじゃありませんよ」
2階部分に当たる場所から見下ろした僕たちの視界には、血まみれのレインが倒れ込み、涙目の双子姉妹が彼の出血を止めようと奮闘している。
そんな3人を守るように、ランランは半透明な正方形の結界を張っているが……その表情はかなり辛そうだ。
オークたちはランランが張ったと思われる結界の周囲に集まり、威嚇の雄叫びを上げながら得物を振り回している。
「あの様子だと……結界も長くは持たないでしょう」
「じゃが……なぜあんなことに? あやつらは一応Cランクの冒険者なのじゃろ?」
「オークをよく見て下さい」
「あれは……? ハイオークに……チャンピオンオーク!? それも2体じゃと!?」
リリスの言う通り、あれはハイオークとチャンピオンオークだ。
通常のオークは太っちょオークなのに対し、ハイオークは筋肉質な体型をしている。
さらにチャンピオンオークはそれ以上のゴリマッチョ!
チャンピオンオークと1対1の戦闘なら、Cランク冒険者のレインたちでもなんとかなっただろう。
しかし、相手はチャンピオンオークが2体。
しかも30体以上のオークと5体のハイオークのおまけ付きだ。
あれだけの数を相手に……4人じゃとてもじゃないが勝ち目はない。
それに見たところランランは前衛のアタッカーではなく、後衛職のタンカーだろう。
双子姉妹も戦闘を行っていないところを見ると、恐らく前衛職ではないことがわかる。
レインたちは敵をただのオークだと思い込み、臭い消しの血染めもしていない様子だ。
意気揚々とこの場に乗り込み、追い込まれてしまったのだろう。
「すぐに助けないと手遅れになってしまいますね」
「しかし、いくらお前さまと妾でも……あの数を相手にするのはちと無謀ではないのか?」
「確かに、まともに乗り込んで行けばすぐに取り囲まれてしまいますね」
「ならどうするんじゃ?」
「そうですね……眠って頂きますか」
「眠って?」
そう言い、僕は素早く魔法陣を形成して、ある魔物を黄泉の国より喚び出した。
「力を貸して下さい……《アルラウネ》ッ!」
赤黒い魔法陣から美しい植物の魔物《アルラウネ》が姿を現すと、僕はそのまま頭部へと彼女を肉体憑依させる。
すると、僕の頭頂部からはニョキニョキッと大きな黄色いつぼみが生えてくる。
「なっ、なんじゃその間抜けな見た目はッ!?」
「言い方に気をつけて下さいよ! ファンシーで愛らしい見た目とか言い方があるでしょ、まったく」
「すっ、すまん。意外とお前さまも気にしておるんじゃな。それで、一体その奇妙はつぼみでどうする気なんじゃ?」
「見ていればすぐにわかりますよ」
僕はそっと壁上に立つと、《アルラウネ》のつぼみを開花させた。
《アルラウネ》のつぼみは開花させると、その拍子に大量の花粉を噴出させる。
この花粉には様々な効果があるのだが、今回飛ばす花粉は強い睡眠効果をもたらすものだ。
だから……ご覧の通り、《アルラウネ》の花粉をその体に浴びたオークたちがウトウトし始めて――バタンッとその場に倒れ込んでいく。
「おおっ! さすがはお前さま、見事じゃな」
「僕は一流のシャーマンですよ。このくらい朝飯前ですよ。どこかの頭の悪いエセ勇者とは違うんですよ」
褒められたことが嬉しくて、つい胸を張り高笑いを響かせていると……。
「オマエは圧倒的スケベ小僧! 助けてくれたアルか! 圧倒的感謝ね」
こちらに向かってランランが大手を振り、『早くワタシにスペシャルな夜を堪能させて欲しいね』と言っている。
決して口には出していないが、僕にはわかる。
「どうやらランランたちは結界を張っていたお陰で花粉からは免れたみたいですね」
「うむ、あとは寝ている間抜けなオークたちを一匹ずつ仕留めるだけじゃな」
僕は胸を張ってランランたちの元まで下りて行き、勝ち誇った顔で青白いレインに微笑みかけてやった。
冒険者ランクだけが強さじゃないんだと言うように……。
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