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第7話 ブルーオーガ
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冒険者登録を終えた僕たちは、ギルドから目と鼻の先にある鉄扉の前までやって来ていた。
鉄扉の前には2人の兵が門番のように突っ立っている。
彼らはギルドに雇われた見張り役だ。
ダンジョンは危険な魔物を生み出す厄介な代物であると同時に、様々な素材が入手できる宝箱でもある。
許可なき者が宝箱の中に勝手に侵入し、素材を持っていくことをギルド側は良しとはしない。
その理由がギルドの運営方針にある。
ダンジョン内で入手したアイテムや素材は基本的にギルドにしか売ってはならないという決まりだ。
これはギルドの収益を守るためだとシェリルは言っていた。
しかし、ギルドは冒険者たちが命懸けでダンジョンで入手した素材などを買い取る際、買取手数料を取ってくる。
さらにそれを提携している商会に色をつけて売却する。
要はギルドは問屋さんということになる。
ただ、納得いかないのは買取手数料まで取られるということだ。
買取手数料は買取額の1割。
正直ぼりすぎだ。
商会から多額の売上を得ているにも関わらず、冒険者からも採取してやろうとする手口は汚すぎる。
だからと言って、ダンジョン内で入手した素材などをギルドに隠れて売ったことがバレてしまうと、冒険者登録を永久的に剥奪されるだけではなく、最悪重い処罰を与えられる。
僕とリリスは扉の前にたち、首から下げた冒険者の証であるゴム製の〝タグ〟を門兵に見せた。
この見るからに安そうな鼠色のタグはFランク冒険者のタグである。
冒険者としてのランクが上がればタグも高価になっていく、これもさっきシェリルから聞いたことだ。
「入っていいぞ」
「ただし、Fランクなんだからあまり無茶はしないことだ。ダンジョンは下層に行くに連れて出現する魔物の脅威度も上がるので、そのことを忘れるなよ」
「入った奴が戻ってこないのなんて日常茶飯事だが……気持ちのいいもんじゃない。命あっての金だからな」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
「まぁ、問題ないじゃろう」
僕たちがFランク冒険者だとわかると、門兵の2人が気遣いの言葉を掛けてくれる。
2人にお礼を言い。
僕たちは扉をくぐってダンジョンへと入って行く。
◆
ダンジョンはその構造も深さもダンジョンによって異なる。
だが、同じこともある。
それは今しがた門兵が教えてくれた通り、下層に行くに連れて魔物の脅威が上がり、簡単には侵入者を深層へと近づけさせないということだ。
ダンジョン内は肌寒く、どこまでも岩肌が続いている。
不気味なほどの静けさが侵入者の不安を煽るようにできているんだ。
「ところでお前さまよ、お前さまは戦えるのか?」
ダンジョンに入ってすぐ、リリスが僕の戦闘力を気にしている様子だ。
無理もない。
悪魔と契約を結んだ対象者が契約を満たす前に死んでしまうと、悪魔は契約違反により……消滅してしまう。
だからリリスもこのように僕を心配しているんだろう。
「問題ないですよ。ジャミコのような馬鹿力や体力はありませんが、僕はこう見えても村では次期族長と言われたほどのシャーマンです」
「うむ。確かに余計なお世話だったかもしれんな。妾を召喚できた時点でお前さまの実力はある程度証明されておるんじゃったな」
「それよりも……リリスの方はちゃんと戦えるんですか? 戦闘は苦手と言っていましたが」
「うむ。確かに妾は戦闘は得意ではない。じゃが妾は腐っても上位悪魔じゃ、足でまといにはならぬ。それにお前さまが戦えるのなら問題ない」
まぁ確かに問題はないかな。
コツコツと……ブーツを踏み鳴らしてダンジョンの奥へと歩みを進める。
そんな僕たちの前に……。
「グギャァァッ!!」
耳障りな声と共に一匹の魔物が姿を現した。
緑色の肌に小さな体を持つ小鬼、その名はゴブリン。
村にいた頃、森での狩りや山菜の収穫中にもよく遭遇した魔物だ。
繁殖率が非常に高く、比較的どこにでも居る魔物。
それほど驚異ではない魔物だが、人類にとってゴブリンは非常に厄介な存在だと言える。
その一番の理由が異種交配――ゴブリンはゴブリン同士で子孫を残すことはもちろん、人間やエルフといった様々な種族との間に子を宿すのだ。
異種交配する魔物はゴブリンだけではない。
ゴブリンの他にもオークやトロール、リザードマンなどがあげられる。
だが、異種交配する魔物の中で最も危険なのはゴブリンだ。
人間の女性が子を宿したとき、10月10日母体で子を育てるのに対し、ゴブリンは子を宿すと10日で子を産ませる。
その際、人間やエルフがゴブリンの子を宿してしまうと……高い確率で死に至る。
その理由は出産時にある。
ゴブリンの子は出産時、母体を突き破り自ら外の世界に這い出てしまう。
それはゴブリンだけではなく、オークなどの魔物の場合も同じなのだが、他の魔物と違い、ゴブリンの繁殖率と出産時までの期間があまりにも短いことが問題だ。
仮にゴブリンの子を宿してしまっても10日以内に、適切な処理――薬を調合して服用すれば助かるのだが、その薬自体がとても高価で貴族でもない限り手が出ないだろう。
と、村のじいさまたちから教わった。
僕は村にいた頃、立派な戦士に――シャーマンになるために様々な魔物や魔族の知識を叩き込まれた。
それはシャーマンにとって最も大切なことだったからだ。
シャーマンに必要なことは魔物や魔族の特徴や能力を知ることにある。
「ギャアギャアッ!」
僕たちに気づいたゴブリンが興奮した様子で威嚇するように唸りを上げた。
目は血走り牙を剥き出しにして、息が荒い。
「雑魚じゃな」
めんどくさそうにリリスがそう吐き捨てると、ゴブリンは興奮した様子で棍棒を地面に叩きつけた。
「じゃ、僕の実力をリリスに少しだけ見せてあげますよ」
「ほ~、それは楽しみじゃな。しかし、お前さまは得物を所持しておらんが……」
リリスは僕の全身に目を向けて首を傾げた。
リリスが不思議に思うのも無理はない。
通常シャーマンの戦闘スタイルで最もポピュラーなものは〝武装憑依〟と言われるものだ。
所持する得物に死霊を憑依させ、その死霊の能力を付与する。
だが、僕は武器を使わない。
「肉体憑依――《ブルーオーガ》……ッ」
こちらに向かって棍棒を振り回しながら駆けてくるゴブリンを視界に捉えて、僕は微かに唇を動かし――右手を素早く振るった。
すると、僕の右手からマナが溢れ出し、赤黒い幾何学的な文様を描いた。
魔法陣の中から青白い半透明の死霊が姿を現し、僕の右腕に吸い込まれるように入っていくと、次の瞬間――僕の右腕は『ビキッビキィッ』と音を立てながら青白く染まり巨大化する。
「これは……!?」
リリスは僕の右腕を見やり目を細めた。
これはシャーマンの能力の一つ、〝肉体憑依〟と言われる技だ。
黄泉の国より喚び出した死霊を体の一部に憑依定着させることで、そのモノが生前有していた能力を自分の力へと変えてしまう。
高難易度の術式だ。
シャーマンとして未熟な者が〝肉体憑依〟を行えば、最悪死霊に体を乗っ取られる危険性もある。
しかし、僕はこう見えてもポエマー族歴代トップクラスのシャーマンと言われた。
なぜ僕がそう言われたのかは、僕が生まれながらに所有している固有スキル――〝ペテン師〟にあるのだが……。
ま……、そんなことは今はどうでもいいか。
「グギャグギャァァアアッ!!」
肥大化した腕を見て、一瞬驚いたように目を見開いたゴブリンだったが、僕が何らかの呪いの類に犯されているとでも思ったのか、構わず突っ込んでくる。
僕の右腕は《ブルーオーガ》と呼ばれる特殊個体により強化されている。
その特性は桁違いの膂力からもたらされる破壊力と、巨大な爪がもたらす切れ味。
右腕だけ長く大きい不格好な見た目だが、この右腕から繰り出される一撃は凄まじい威力を発揮する。
ゴブリンは棍棒を振りかぶると同時に勢いよく飛び跳ねて、頭上から僕の脳天を粉砕する気らしい。
対する僕は嘆息し、やれやれと呆れの色を隠せずにいる。
リリスも動じることなく腕を組みじっと眺めていた。
上位悪魔であるリリスがゴブリン如きに動じるわけなんてないか。
ゴブリンが今の僕のこの姿を目の当たりにしても逃げないのは知性が乏しいからか、或は僕の容姿が幼い子供だから楽勝だと高を括ったのか……おそらく両方だろう。
リリスではなく僕に襲いかかってきたのがいい証拠だ。
しかし、もう少し知性があったなら逃げないにしろ、距離をとりつつ様子を窺うのがセオリーだ。
まっ、それをしないからゴブリンなのだが。
「ギャギャッ!?」
ゴブリンの目が驚愕に見開かれた。
当然だ。
自分の振るった棍棒が僕の腕に阻まれて、折れてしまったのだから。
頭部を右腕でガードした僕にダメージはない。
《ブルーオーガ》の皮膚はとにかく頑丈、ゴブリンの振るう棍棒程度では傷一つつけられやしないんだ。
傷がつくどころかこの通り、棍棒の方が耐えられず折れてしまう。
僕の右腕は何度も言うように特殊個体《ブルーオーガ》、ゴブリンなんかとは比べ物にならないほど格上の存在。
そんな僕を相手にゴブリンがどうこうできる訳がない。
――ズドンッ!!
重く鈍い音が響き渡る。
それと同時にゴブリンの体は破裂したトマトのように跡形なく、木っ端微塵に吹き飛んだ。
軽く、本当に軽くボディを入れただけでこの威力だ。
「弱過ぎますね」
「じゃな」
◆
妾はタタリを見やり内心焦っておった。
妾の目の前でゴブリンをいとも簡単に屠ったことにではない。
タタリが黄泉の国より喚び出し憑依定着させた魔物――《ブルーオーガ》を見てしまったからじゃ。
《ブルーオーガ》は数百年に一度オーガ種の王として誕生すると言われる魔物。
その気性は荒く、とても人間に制御できるような相手ではない。
仮に一流のシャーマンであったとしても、5分が限界じゃろう。
それ以上の時間憑依定着させれば必ず精神がやられ、肉体を奪われてしまう。
じゃが……タタリはそんな危険な魔物をゴブリン程度の雑魚処理のためだけに憑依させおった。
それはつまり……リスクがないと言っているのと同じ。
12歳という幼さで上位悪魔である妾を喚び出したことといい、やはり只者ではない。
「うん。魔物退治の後のパンティは最高ですね」
只者ではない……スカートをめくり上げられたことに気づけなかった。
いや、それだけではない。
スカートの中に顔を突っ込まれるまで気づけなかったのじゃ。
妾のパンティに顔をスリスリしてくるこやつを……愛らしいと思うと同時に、尋常ではない性欲に感心させられる。
色を司る悪魔である妾をこう何度もエロで感嘆させるとは……やはり只者ではない。
鉄扉の前には2人の兵が門番のように突っ立っている。
彼らはギルドに雇われた見張り役だ。
ダンジョンは危険な魔物を生み出す厄介な代物であると同時に、様々な素材が入手できる宝箱でもある。
許可なき者が宝箱の中に勝手に侵入し、素材を持っていくことをギルド側は良しとはしない。
その理由がギルドの運営方針にある。
ダンジョン内で入手したアイテムや素材は基本的にギルドにしか売ってはならないという決まりだ。
これはギルドの収益を守るためだとシェリルは言っていた。
しかし、ギルドは冒険者たちが命懸けでダンジョンで入手した素材などを買い取る際、買取手数料を取ってくる。
さらにそれを提携している商会に色をつけて売却する。
要はギルドは問屋さんということになる。
ただ、納得いかないのは買取手数料まで取られるということだ。
買取手数料は買取額の1割。
正直ぼりすぎだ。
商会から多額の売上を得ているにも関わらず、冒険者からも採取してやろうとする手口は汚すぎる。
だからと言って、ダンジョン内で入手した素材などをギルドに隠れて売ったことがバレてしまうと、冒険者登録を永久的に剥奪されるだけではなく、最悪重い処罰を与えられる。
僕とリリスは扉の前にたち、首から下げた冒険者の証であるゴム製の〝タグ〟を門兵に見せた。
この見るからに安そうな鼠色のタグはFランク冒険者のタグである。
冒険者としてのランクが上がればタグも高価になっていく、これもさっきシェリルから聞いたことだ。
「入っていいぞ」
「ただし、Fランクなんだからあまり無茶はしないことだ。ダンジョンは下層に行くに連れて出現する魔物の脅威度も上がるので、そのことを忘れるなよ」
「入った奴が戻ってこないのなんて日常茶飯事だが……気持ちのいいもんじゃない。命あっての金だからな」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
「まぁ、問題ないじゃろう」
僕たちがFランク冒険者だとわかると、門兵の2人が気遣いの言葉を掛けてくれる。
2人にお礼を言い。
僕たちは扉をくぐってダンジョンへと入って行く。
◆
ダンジョンはその構造も深さもダンジョンによって異なる。
だが、同じこともある。
それは今しがた門兵が教えてくれた通り、下層に行くに連れて魔物の脅威が上がり、簡単には侵入者を深層へと近づけさせないということだ。
ダンジョン内は肌寒く、どこまでも岩肌が続いている。
不気味なほどの静けさが侵入者の不安を煽るようにできているんだ。
「ところでお前さまよ、お前さまは戦えるのか?」
ダンジョンに入ってすぐ、リリスが僕の戦闘力を気にしている様子だ。
無理もない。
悪魔と契約を結んだ対象者が契約を満たす前に死んでしまうと、悪魔は契約違反により……消滅してしまう。
だからリリスもこのように僕を心配しているんだろう。
「問題ないですよ。ジャミコのような馬鹿力や体力はありませんが、僕はこう見えても村では次期族長と言われたほどのシャーマンです」
「うむ。確かに余計なお世話だったかもしれんな。妾を召喚できた時点でお前さまの実力はある程度証明されておるんじゃったな」
「それよりも……リリスの方はちゃんと戦えるんですか? 戦闘は苦手と言っていましたが」
「うむ。確かに妾は戦闘は得意ではない。じゃが妾は腐っても上位悪魔じゃ、足でまといにはならぬ。それにお前さまが戦えるのなら問題ない」
まぁ確かに問題はないかな。
コツコツと……ブーツを踏み鳴らしてダンジョンの奥へと歩みを進める。
そんな僕たちの前に……。
「グギャァァッ!!」
耳障りな声と共に一匹の魔物が姿を現した。
緑色の肌に小さな体を持つ小鬼、その名はゴブリン。
村にいた頃、森での狩りや山菜の収穫中にもよく遭遇した魔物だ。
繁殖率が非常に高く、比較的どこにでも居る魔物。
それほど驚異ではない魔物だが、人類にとってゴブリンは非常に厄介な存在だと言える。
その一番の理由が異種交配――ゴブリンはゴブリン同士で子孫を残すことはもちろん、人間やエルフといった様々な種族との間に子を宿すのだ。
異種交配する魔物はゴブリンだけではない。
ゴブリンの他にもオークやトロール、リザードマンなどがあげられる。
だが、異種交配する魔物の中で最も危険なのはゴブリンだ。
人間の女性が子を宿したとき、10月10日母体で子を育てるのに対し、ゴブリンは子を宿すと10日で子を産ませる。
その際、人間やエルフがゴブリンの子を宿してしまうと……高い確率で死に至る。
その理由は出産時にある。
ゴブリンの子は出産時、母体を突き破り自ら外の世界に這い出てしまう。
それはゴブリンだけではなく、オークなどの魔物の場合も同じなのだが、他の魔物と違い、ゴブリンの繁殖率と出産時までの期間があまりにも短いことが問題だ。
仮にゴブリンの子を宿してしまっても10日以内に、適切な処理――薬を調合して服用すれば助かるのだが、その薬自体がとても高価で貴族でもない限り手が出ないだろう。
と、村のじいさまたちから教わった。
僕は村にいた頃、立派な戦士に――シャーマンになるために様々な魔物や魔族の知識を叩き込まれた。
それはシャーマンにとって最も大切なことだったからだ。
シャーマンに必要なことは魔物や魔族の特徴や能力を知ることにある。
「ギャアギャアッ!」
僕たちに気づいたゴブリンが興奮した様子で威嚇するように唸りを上げた。
目は血走り牙を剥き出しにして、息が荒い。
「雑魚じゃな」
めんどくさそうにリリスがそう吐き捨てると、ゴブリンは興奮した様子で棍棒を地面に叩きつけた。
「じゃ、僕の実力をリリスに少しだけ見せてあげますよ」
「ほ~、それは楽しみじゃな。しかし、お前さまは得物を所持しておらんが……」
リリスは僕の全身に目を向けて首を傾げた。
リリスが不思議に思うのも無理はない。
通常シャーマンの戦闘スタイルで最もポピュラーなものは〝武装憑依〟と言われるものだ。
所持する得物に死霊を憑依させ、その死霊の能力を付与する。
だが、僕は武器を使わない。
「肉体憑依――《ブルーオーガ》……ッ」
こちらに向かって棍棒を振り回しながら駆けてくるゴブリンを視界に捉えて、僕は微かに唇を動かし――右手を素早く振るった。
すると、僕の右手からマナが溢れ出し、赤黒い幾何学的な文様を描いた。
魔法陣の中から青白い半透明の死霊が姿を現し、僕の右腕に吸い込まれるように入っていくと、次の瞬間――僕の右腕は『ビキッビキィッ』と音を立てながら青白く染まり巨大化する。
「これは……!?」
リリスは僕の右腕を見やり目を細めた。
これはシャーマンの能力の一つ、〝肉体憑依〟と言われる技だ。
黄泉の国より喚び出した死霊を体の一部に憑依定着させることで、そのモノが生前有していた能力を自分の力へと変えてしまう。
高難易度の術式だ。
シャーマンとして未熟な者が〝肉体憑依〟を行えば、最悪死霊に体を乗っ取られる危険性もある。
しかし、僕はこう見えてもポエマー族歴代トップクラスのシャーマンと言われた。
なぜ僕がそう言われたのかは、僕が生まれながらに所有している固有スキル――〝ペテン師〟にあるのだが……。
ま……、そんなことは今はどうでもいいか。
「グギャグギャァァアアッ!!」
肥大化した腕を見て、一瞬驚いたように目を見開いたゴブリンだったが、僕が何らかの呪いの類に犯されているとでも思ったのか、構わず突っ込んでくる。
僕の右腕は《ブルーオーガ》と呼ばれる特殊個体により強化されている。
その特性は桁違いの膂力からもたらされる破壊力と、巨大な爪がもたらす切れ味。
右腕だけ長く大きい不格好な見た目だが、この右腕から繰り出される一撃は凄まじい威力を発揮する。
ゴブリンは棍棒を振りかぶると同時に勢いよく飛び跳ねて、頭上から僕の脳天を粉砕する気らしい。
対する僕は嘆息し、やれやれと呆れの色を隠せずにいる。
リリスも動じることなく腕を組みじっと眺めていた。
上位悪魔であるリリスがゴブリン如きに動じるわけなんてないか。
ゴブリンが今の僕のこの姿を目の当たりにしても逃げないのは知性が乏しいからか、或は僕の容姿が幼い子供だから楽勝だと高を括ったのか……おそらく両方だろう。
リリスではなく僕に襲いかかってきたのがいい証拠だ。
しかし、もう少し知性があったなら逃げないにしろ、距離をとりつつ様子を窺うのがセオリーだ。
まっ、それをしないからゴブリンなのだが。
「ギャギャッ!?」
ゴブリンの目が驚愕に見開かれた。
当然だ。
自分の振るった棍棒が僕の腕に阻まれて、折れてしまったのだから。
頭部を右腕でガードした僕にダメージはない。
《ブルーオーガ》の皮膚はとにかく頑丈、ゴブリンの振るう棍棒程度では傷一つつけられやしないんだ。
傷がつくどころかこの通り、棍棒の方が耐えられず折れてしまう。
僕の右腕は何度も言うように特殊個体《ブルーオーガ》、ゴブリンなんかとは比べ物にならないほど格上の存在。
そんな僕を相手にゴブリンがどうこうできる訳がない。
――ズドンッ!!
重く鈍い音が響き渡る。
それと同時にゴブリンの体は破裂したトマトのように跡形なく、木っ端微塵に吹き飛んだ。
軽く、本当に軽くボディを入れただけでこの威力だ。
「弱過ぎますね」
「じゃな」
◆
妾はタタリを見やり内心焦っておった。
妾の目の前でゴブリンをいとも簡単に屠ったことにではない。
タタリが黄泉の国より喚び出し憑依定着させた魔物――《ブルーオーガ》を見てしまったからじゃ。
《ブルーオーガ》は数百年に一度オーガ種の王として誕生すると言われる魔物。
その気性は荒く、とても人間に制御できるような相手ではない。
仮に一流のシャーマンであったとしても、5分が限界じゃろう。
それ以上の時間憑依定着させれば必ず精神がやられ、肉体を奪われてしまう。
じゃが……タタリはそんな危険な魔物をゴブリン程度の雑魚処理のためだけに憑依させおった。
それはつまり……リスクがないと言っているのと同じ。
12歳という幼さで上位悪魔である妾を喚び出したことといい、やはり只者ではない。
「うん。魔物退治の後のパンティは最高ですね」
只者ではない……スカートをめくり上げられたことに気づけなかった。
いや、それだけではない。
スカートの中に顔を突っ込まれるまで気づけなかったのじゃ。
妾のパンティに顔をスリスリしてくるこやつを……愛らしいと思うと同時に、尋常ではない性欲に感心させられる。
色を司る悪魔である妾をこう何度もエロで感嘆させるとは……やはり只者ではない。
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