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第5話 呆れるくらいドスケベです

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 こっ、これでは羞恥プレイではないかっ!
 妾は完全にこのショタにいじめられておる。

 イヤらしい店で奇妙なブルブルマシーンを購入し、それをセットさせられた妾は……喘ぎ声を上げさせられながら街を練り歩かされている。

 先程からすれ違う男共は皆、にやり顔で妾を見て振り返っておるのじゃ。
 女は変態を見るような軽蔑の眼差しを妾に向けておる。

 その軽蔑の眼差しが妾に突き刺さる度に、ついついにやけてしまう。
 こんなド変態なことを平気でさせる人間に召喚されたのは初めてじゃ。

 一ヶ月間毎日何度も求められ続けた妾の体は干からびそうになっておったのだが……新たな何かを目覚めさせられそうじゃ。

 それはしきを司る悪魔である妾からすれば至高の喜びでもある。
 このタタリという少年は妾を新たな段階へと押し上げてくれる存在かもしれん。

 もしそうだとすれば、妾は悪魔としてさらに上位の存在へと生まれ変わる鍵を手に入れたことになる。
 その昔、妾が崇拝する色欲のアスモデウスさまが言っておった。

 今以上に色を司る悪魔へと成長するためには、必ず鍵が必要となる。
 その鍵は人間界でしか手に入らぬと……。

 鍵とはおそらく人間のことだと妾は考える。
 その人間に調教された時、色を司る悪魔は一段階上へと進めるのだろう。

 それに……このタタリという少年は超が付くほどの美少年。
 ショタコンではない妾でも……萌えてしまうほどじゃ。

「少し歩き疲れましたね。そこに座って休憩しますよ」
「ああぁっん!?」

 タタリに促されるまま石段に座ると、雷に打たれたような衝撃と快楽が全身を走った。
 思わず下半身に力が入り、スカートの上から手で押さえつけてしまう。

 そんな妾を横目に見て、タタリがにたーっとスケベな微笑みを浮かべた。

「このブルブルくんにはレベルが3段階あるんですよ。今までは弱、つまりレベル1ですね。でも今のは中、レベル2のブルブルパワーです。強のレベル3は……失神ものですよ!」
「ハァ、ハァ……あっん」

 妾は間違いなく調教されておる。
 それは妾が数百年望み続けていたこと。

 ああ、ダメじゃ。気持ちよすぎる。

 悪魔を調教してしまうほどの性欲の持ち主に出会えることなど、数百年に一度訪れるかどうかじゃ。
 そして……調教されればされるほどタタリが狂おしいほどに……愛おしくなっていくのは何故じゃ。



 ◆



 リリスは余程ブルブルくんがお気に召したのか、先程から僕を見る目がトロけている。

 リリスは跳ねた息遣いで僕にしなだれてくる。
 その表情も仕草もとても可愛い。

 そんなリリスの頭をいい子いい子するのは最高だ。

 ほら、道行く人々が羨ましそうに僕を見ている。
 誇らしげにしたり顔でいる僕の元に、商人らしき男たちの会話が聞こえてきた。

「おい、聞いたか? また出たらしいぞ」
「出たって……まさか例の喋る〝ホブゴブリン〟か?」

 ……っ!? 喋る〝ホブゴブリン〟だと!?

 男たちの会話を聞いた僕の体は一瞬金縛りに遭ったように固まってしまう。
 なぜなら、僕の脳裏には史上最強の怪物ジャミコが浮かんでいたんだ。

 僕は身悶えるリリスをよそ目に、男たちの会話に聞き耳を立てた。

「ああ、なんでも祟りはどこだ祟りはどこだと、村や街を破壊しながら呪いの書を探しているって話だ」
「呪いの書!?」
「ああ、さすがに不味いと判断したBランク冒険者が討伐しようとしたらしいんだが、一撃だったらしい。一撃でBランク冒険者数名が即死だったそうだ」
「冗談だろ!? だって相手はただの〝ホブゴブリン〟だろ?」
「ああ、噂では奇行種――或は特殊個体じゃないかって話だ。お前も気をつけた方がいいぞ」

 冗談じゃない……その〝ホブゴブリン〟は間違いなくジャミコじゃないか!?
 祟りはどこだ……ってタタリはどこだでしょ!?
 僕のことじゃないかッ!?

 それをみんな聞き間違えて、祟りを探すイコール呪いの書だと勘違いしてるんだ。

 それに……男たちはとんでもないことを言っていた。
 Bランク冒険者数名が一撃で死んだと……。

 Bランク冒険者と言えば一般的にベテランと言われる冒険者じゃないか!?
 冒険者はギルドに登録してランクによって強さの位置づけをされる。
 それは各冒険者が自分に見合った依頼を受けるためだ。

 冒険者のランクは通常7段階まで存在する。
 ランクは以下の通りだ。

 Fランク
『駆け出し』冒険者ギルドに登録した際、例外なくこの階級から始まる。

 Eランク
『見習い』一度でもギルドで依頼を行した者が昇格するランク。新米冒険者の証である。

 Dランク
『下級冒険者』一人前の冒険者と見なされるランクである。実力はそこまで期待されていないのが現状。

 Cランク
『中級冒険者』下級冒険者が複数で討伐する魔物を単騎討伐することの可能な冒険者に与えられるランク。それなりに腕の立つ冒険者と見なされるランクである。

 Bランク
『上級冒険者』中級冒険者が複数で討伐する大型魔物を単騎討伐することの可能な冒険者に与えられるランク。ベテランと呼ばれる者の多くがこのランクに位置する。

 Aランク
『超人級冒険者』災害クラスの危機から大都市を守った者や、それが可能と見なされたされた者が得る称号である。
 世間一般的に一流冒険者と呼ばれるランクである。

 Sランク
『勇者、伝説級冒険者』
 魔王を討伐、或いは国を救った英雄に与えられる称号である。このランクに上り詰めた冒険者は無条件で貴族の地位を与えられる。
 すべての冒険者が憧れ目指すランクである。

 さらにその上も存在するが、そのランクは歴史上ただ一人だけに与えられた称号。
 それが……。

 Qクエストランク
『神級冒険者』世界を破滅から救った救世主、アポロ・ポルメニアに与えられた称号。

 男たちの話しが事実だとするなら……やっぱり村のじいさまたちの言う通り、ジャミコは最強なんだ!

 例えAランクの冒険者であったとしても、Bランクの冒険者を数名――それもたったの一撃で屠ってしまうなど不可能だ。
 ジャミコが嘗て勇者パーティーが適わなかったという魔王軍の幹部を一撃で倒したことを考慮すれば……Sランク以上であることは間違いない。

 僕はこのときようやく、村のじいさまたちが言っていたジャミコが最強と言う言葉を信じたのだ。
 こうしちゃいられない。

 ハーレムを……仲間を探すのも大事だけど、お金を貯めて逃走資金を稼がなきゃ!

 僕は呑気にいつまでも感じているリリスを見てムッとした。

「いつまでやってるんですかッ!?」
「あっ、ああぁんっ……だってぇ、ひっ……あれ!?」

 僕はブルブルくんを切った。
 そしてリリスの肩をガシッと両手で掴んだ。

「今の話し聞いていましたか?」
「なにが……じゃ?」

 リリスは物欲しそうな顔で人差し指を下唇に押し当てて僕を見ている。
 なんってスケベなお姉さんなんだ!

「ジャミコが僕たちを追ってすぐそこまで来ているかもしれないんですよ! もしも見つかったら間違いなくジ・エンド。僕たちは殺されます! そうなる前に逃走資金を稼ぎに行きますよ。まずはダンジョンに入るためにギルドで登録です」
「ちょっ、調教はどうなる!? まだ途中ではないか!」
「こんな時に何を言ってるんですかッ! 怒りますよ!」

 疲れ果ててあんなに嫌がっていたのに、回復してしまったのかリリスはエロエロパワー全開になっている。

 その証拠に、ブルブルくんを止められたリリスが頬を膨らませて恨めしそうに僕を見ていた。
 いや、睨んでいる。

 不満げな表情でまったく動こうとしないリリス。
 まるで玩具を取り上げられた3歳児のようだ。
 まっ、玩具は今も変わらずリリスが所持しているのだが……。

「早く行きますよ、立って下さい!」
「だからッ! 調教はどうするんじゃ、まだ途中ではないか! それに肝心の仲間も見つかっておらん!」
「さっきから調教って何のことですか!? それに仲間だってそのうち見つかります。今は資金を稼ぐのが先決です!」
「言っていることが最初と違うではないかッ!」
「それはリリスもでしょ! 状況は常に変わるんですよ!」


 納得できないと言った顔を見せるドスケベ悪魔の腕を引っ張り、僕は街の中央付近に位置するギルドへと足を運んだ。


 本当に呆れるくらいドスケベなんだから、まったく。
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