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第36話 不吉の前兆
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「華の都はパラダイス~♪ みんなみんなミラちゃんが大好きよ~♪」
ルンルン気分で自室へ帰り、クルリンパッと華麗なターンを決めてお尻で扉を閉める。
「ん……随分とご機嫌じゃの、お前さまよ」
「何かいいことがあったんですか、ご主人さま?」
「まぁねぇ~♪ おっ、昨夜の売り上げも絶好調のようだな。感心、感心」
最近すべてが順調過ぎて少し気味悪いな。
そういえば……大昔に亡くなった祖父に聞いたことがある。
我がペンデュラム王家が光の加護を受けし時――幸運が訪れる。
しかしそれは不吉な前兆とかなんとか……まっ、単なる迷信だろうなと気にしていない。
それにどちらかというと光というよりは闇の加護なのだから。
しかしそれから数日。
事態は思わぬ方向へ急展開をみせていた。
「これは……とんでもないことになりましたぞ、陛下っっ!!」
玉座に腰をおろした俺とフォクシーの御膳には大臣が顔面蒼白で立っている。
王の間には能史たちが集い、さらにフォクシー軍で各地を任されている隊長兵たちの姿もある。
「早急に手を打たねば……我が国ににもユーゲニウム国が進軍を開始しかねますまい!」
そんな俺は苛立ちと湧きあがる憤怒に身を焦がしていた。
「南の……ユーゲニウム国が、エルビン国を侵略したというのは事実なのか?」
肘掛けをぎゅっと握りしめた手が震える。
我が国に攻め入ろうとしているユーゲニウム国に恐れているわけではない。
ユーゲニウム国がエルビン国を侵略し、選別と題して民を殺し回っていると聞いたからだ。
せっかく……せっかく魔物が苦労して美少女の命を守るべく労力を費やしたというのに、こともあろうにそれを殺しているだと!?
俺の……俺の女を……許せんっ!!
「へ、陛下っっ!?」
「なぜ……なぜ殺す必要がある? 殺す必要などどこにもないではないかっ――!!」
王の間に俺の悲しみと無念が幾重にも重なる。
美少女を失うことがどれほど世界に損失を与えるか……俺の腕の中で微笑んでいたかもしれない幻の美少女を思うと……涙が止まらないっ。
「陛下……」
「お前さま……」
「……ご主人、さま」
重苦しい空気に包まれる王の間で、大臣の憤る声音が小さく木霊した。
「おそらく……ユーゲニウム国はエルビン国を吸収したはよいものの、それらすべてを養うことが不可能と判断したのでしょう」
「うむ、そうなれば飢えた国民が暴動を起こし、自国の窮地になりかねないと判断したのじゃな」
「暴動を抑えるために危険分子を狩り殺す。その中でユーゲニウムに忠実な者たちを生かして取り込むか……悪質極まりねぇやつらだな、相棒」
早急に手を打たねば、さらなる美少女ちゃんが悪魔の手に堕ちてしまう。
「陛下っ! 緊急事態です、陛下っ!」
「何事だっ! いまは大事な話し合いの場であるぞ!」
「も、申し訳ありません。しかし、早急に陛下にお伝えしたい事態がございます」
王の間に駆け込んできた兵に大臣が畏怖を振り下ろすと、兵はたじろぎながらに言葉を紡ぎ出す。
「よい、申してみよ」
俺は大臣に構わないと掌を突き出し、兵の言葉に耳を傾ける。
「はっ! 南の国境沿いにユーゲニウム兵三万を確認との情報が入って参りましたっ!」
王の間がざわつくと、頭の中が猛吹雪に襲われる。真っ白に染まって何も考えられない。
そんな中、さらに兵が駆け込んでくる。
「陛下っ! ご報告を。東の国境沿いに三万の兵を確認との報告であります」
エルビンの兵を吸収し、そちら側からも攻めいるかっ。ユーゲニウムめっ!
「陛下っ、ご報告を。北の国境沿いにて三万の兵力を確認とのご報告であります」
「なにっ!? 北だと!?」
予想外の兵の報告に声が裏返ってしまった。
しかしちょっと待て!
なんで北のアルスタルメシア国までししゃり出てくるんだよ。
「やられましたな……陛下」
「どういうことだっ!」
「このままユーゲニウム国が我が国まで侵略してしまえば、次は確実に北のアルスタルメシア国へとユーゲニウムは攻め入るでしょう。我が国の兵を吸収した上で……そうなってしまえばアルスタルメシア国に打つ手はございません」
そうなる前に我が国を吸収し、少しでも戦力を増そうということか。
冗談じゃないっ……どうするんだよこれ!?
我が国の兵力はペンデュラム国六千と、フォクシー軍の一万……二つ合わせても一万六千。
対して三方向から攻め入ろうとしている兵力は全部で九万!?
さらに三方向に兵を分散したとなれば、一つの戦場に送り込める兵の数は五千三百程。
対する敵は三万……その兵力差は約六倍。
勝てるわけないだ!?
「どうするのです、陛下!」
「早急にご指示をっ!」
「このまま悠長にしておれば、我が国は破滅ですぞ!」
「わかってるよっ――! わかってるから……少し黙ってくれ」
考えろっ……考えるんだ。どうすればこの窮地を打破することが可能か。
このままでは我が国は時間の問題で……くそっ。
ルンルン気分で自室へ帰り、クルリンパッと華麗なターンを決めてお尻で扉を閉める。
「ん……随分とご機嫌じゃの、お前さまよ」
「何かいいことがあったんですか、ご主人さま?」
「まぁねぇ~♪ おっ、昨夜の売り上げも絶好調のようだな。感心、感心」
最近すべてが順調過ぎて少し気味悪いな。
そういえば……大昔に亡くなった祖父に聞いたことがある。
我がペンデュラム王家が光の加護を受けし時――幸運が訪れる。
しかしそれは不吉な前兆とかなんとか……まっ、単なる迷信だろうなと気にしていない。
それにどちらかというと光というよりは闇の加護なのだから。
しかしそれから数日。
事態は思わぬ方向へ急展開をみせていた。
「これは……とんでもないことになりましたぞ、陛下っっ!!」
玉座に腰をおろした俺とフォクシーの御膳には大臣が顔面蒼白で立っている。
王の間には能史たちが集い、さらにフォクシー軍で各地を任されている隊長兵たちの姿もある。
「早急に手を打たねば……我が国ににもユーゲニウム国が進軍を開始しかねますまい!」
そんな俺は苛立ちと湧きあがる憤怒に身を焦がしていた。
「南の……ユーゲニウム国が、エルビン国を侵略したというのは事実なのか?」
肘掛けをぎゅっと握りしめた手が震える。
我が国に攻め入ろうとしているユーゲニウム国に恐れているわけではない。
ユーゲニウム国がエルビン国を侵略し、選別と題して民を殺し回っていると聞いたからだ。
せっかく……せっかく魔物が苦労して美少女の命を守るべく労力を費やしたというのに、こともあろうにそれを殺しているだと!?
俺の……俺の女を……許せんっ!!
「へ、陛下っっ!?」
「なぜ……なぜ殺す必要がある? 殺す必要などどこにもないではないかっ――!!」
王の間に俺の悲しみと無念が幾重にも重なる。
美少女を失うことがどれほど世界に損失を与えるか……俺の腕の中で微笑んでいたかもしれない幻の美少女を思うと……涙が止まらないっ。
「陛下……」
「お前さま……」
「……ご主人、さま」
重苦しい空気に包まれる王の間で、大臣の憤る声音が小さく木霊した。
「おそらく……ユーゲニウム国はエルビン国を吸収したはよいものの、それらすべてを養うことが不可能と判断したのでしょう」
「うむ、そうなれば飢えた国民が暴動を起こし、自国の窮地になりかねないと判断したのじゃな」
「暴動を抑えるために危険分子を狩り殺す。その中でユーゲニウムに忠実な者たちを生かして取り込むか……悪質極まりねぇやつらだな、相棒」
早急に手を打たねば、さらなる美少女ちゃんが悪魔の手に堕ちてしまう。
「陛下っ! 緊急事態です、陛下っ!」
「何事だっ! いまは大事な話し合いの場であるぞ!」
「も、申し訳ありません。しかし、早急に陛下にお伝えしたい事態がございます」
王の間に駆け込んできた兵に大臣が畏怖を振り下ろすと、兵はたじろぎながらに言葉を紡ぎ出す。
「よい、申してみよ」
俺は大臣に構わないと掌を突き出し、兵の言葉に耳を傾ける。
「はっ! 南の国境沿いにユーゲニウム兵三万を確認との情報が入って参りましたっ!」
王の間がざわつくと、頭の中が猛吹雪に襲われる。真っ白に染まって何も考えられない。
そんな中、さらに兵が駆け込んでくる。
「陛下っ! ご報告を。東の国境沿いに三万の兵を確認との報告であります」
エルビンの兵を吸収し、そちら側からも攻めいるかっ。ユーゲニウムめっ!
「陛下っ、ご報告を。北の国境沿いにて三万の兵力を確認とのご報告であります」
「なにっ!? 北だと!?」
予想外の兵の報告に声が裏返ってしまった。
しかしちょっと待て!
なんで北のアルスタルメシア国までししゃり出てくるんだよ。
「やられましたな……陛下」
「どういうことだっ!」
「このままユーゲニウム国が我が国まで侵略してしまえば、次は確実に北のアルスタルメシア国へとユーゲニウムは攻め入るでしょう。我が国の兵を吸収した上で……そうなってしまえばアルスタルメシア国に打つ手はございません」
そうなる前に我が国を吸収し、少しでも戦力を増そうということか。
冗談じゃないっ……どうするんだよこれ!?
我が国の兵力はペンデュラム国六千と、フォクシー軍の一万……二つ合わせても一万六千。
対して三方向から攻め入ろうとしている兵力は全部で九万!?
さらに三方向に兵を分散したとなれば、一つの戦場に送り込める兵の数は五千三百程。
対する敵は三万……その兵力差は約六倍。
勝てるわけないだ!?
「どうするのです、陛下!」
「早急にご指示をっ!」
「このまま悠長にしておれば、我が国は破滅ですぞ!」
「わかってるよっ――! わかってるから……少し黙ってくれ」
考えろっ……考えるんだ。どうすればこの窮地を打破することが可能か。
このままでは我が国は時間の問題で……くそっ。
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