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57話 曇り模様
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あらゆる状況をできる限り想定して、今の俺にできることはすべてしたつもりだ。
だけど、肝心の切り札がどう動くかはわからない。
わからないけれど今は突き進むしかない。
俺はダンジョンを足早に出てメアちゃんの背に飛び乗り、荒野を駆け抜けた。
目指す場所はただ一つ。
糞国王の、千金楽が待ち受ける王都だ。
俺は外套のフードをギュッと握り、ただ真っ直ぐ先を見つめた。
最悪この国を、この世界のすべてを敵に回したとしても、俺は大切な友を、仲間を守り抜いてみせるんだ。
「急いでくれメアちゃん!」
「ムグゥゥウウウウウウッ!!」
勇ましく吠えるメアちゃんは速度を上げた。
頼むから……間に合ってくれよ。
◆
月影遊理が幻魔獣ナイトメアにまたがり荒野を駆けていたその頃、王都では『悪魔死刑祭』と銘打たれた祭りが開催されていた。
街のあちこちで露店が出回り、楽しそうに街を駆け回る子供たちや昼間からエールを飲んで頬を染める者たち、皆それぞれが祭りを楽しんでいる。
そんな人々が街のメインストリートへと一斉に顔を向けて、歓喜の声を蒼穹へと響かせた。
人々の視線の先には巨大な牙を生やしたマンモスに似た生き物が巨大な鉄格子の檻を運んでいる。
鉄格子の中にはあどけなさ残る5人の少女の姿がある。
少女たちの瞳には涙が滲み、5人で身を寄せ合うように塊まりその身を震わせていた。
そんな少女たちを見て指差し嘲笑う者や、足元に転がっていた石を拾い上げて投げつける者など反応は様々。
容赦なく少女たちに襲い来る罵声と暴力。
投げつけられた石礫が華奢な体に鈍い音を立てると、少女の一人がその場に倒れ込む。
倒れた少女に残った4人の少女が次々と庇うように覆い被さっていく。
「なんで……私たちがこんな目に逢うのよ」
「私たちが何したって言うのよ」
「怖いよ……早く家に帰りたい」
「みんな……気をしっかり持つのよ。きっと、きっとゆかりが……遊理君が助けに来てくれるわ。それまでの辛抱よ」
「そうよ。私たちはもっと過酷な数ヶ月を生き抜いてきたのよ。こんなところで負けて堪るか!」
恐怖を振り払い、自らを奮い立たせるように希望の言葉を口にする少女たちだが、彼女たちの言葉は誰にも届かない。
四方から投げつけられた石は容赦なく少女たちの体を叩きつけ、愛らしい顔が赤く染まっていく。
「やっと……見つけた」
噛み締めるように囁かれた声音は人々の喧騒に掻き消され、決して少女たちに届くことはない。
建物の屋上で檻の中の少女たちを見つめるその少女も、囚われの5人の少女たち同様、瞳に涙を溜め込んでいた。
少女たちの友人、ゆかりである。
そのゆかりの右肩にそっと手を添えるフィーネアは、燃え上がる紅蓮の瞳を真っ直ぐに少女たちへと向けながら小さく呟いた。
「大丈夫ですゆかり、彼女たちは必ず助けてみせます」
ゆかりがフィーネアへと顔を向けて力強く頷くと、その少し後方に大股で腰を屈める明智も問題ないと口にする。
「安心するでござるよゆかり殿。それがし……このクソみたいな国には恨みがあるでござる。例えこの街に居るすべての者を敵に回したとしても、必ずそれがしとフィーネア殿が5人を助け出してみせるでござる。そして、みんなで元の世界に笑って還るでござるよ」
「明智……」
優しく微笑んだ明智を見やり、ゆかりは小さく彼の名を呼んだ。
そしてすぐにキリッと表情を引き締めいつもの調子で言う。
「ゴ、ゴキ男の癖にななな、生意気なのよっ! 嫌だって言っても無理やり戦わせるんだからっ」
明智はそっと立ち上がり屋根の縁に片足をかけると、指で眼鏡をクイッと持ち上げて、どこか彼方を見つめながらカッコをつけた。
「言ったでござろうゆかり殿。それがしはここからまた生まれ変わると……大切な者を目の前で奪われるくらいなら……死ぬ覚悟はできているでござるよ」
「ゴキ男……」
「なりません」
「へっ!?」
せっかく格好良く決めて2人を惚れさせようと考えていた明智の一世一代の決め台詞を、フィーネアは簡単に一掃する。
予想外のフィーネアの反応に明智の口からは情けない声が漏れてしまった。
「明智が死んでしまえばユーリがきっと悲しみます。ユーリを悲しませることだけはフィーネアが許しません。もしユーリを悲しませたときは……フィーネアが明智を殺しますから」
「……言ってることが無茶苦茶でござろう、フィーネア殿!」
「はい。無茶苦茶でもそれがフィーネアの願いなのです」
「…………心得たでござるよ」
フィーネアと明智は互の顔を見ては楽しげに肩を揺らした。
その様子に眉根を寄せて小首を傾げるゆかり。
「さて、それでは行動開始と行くでござるか」
「はい」
「うん」
フィーネアに明智とゆかりの3人は、5人を救出すべく移動を開始する。
まず3人が考えたことは一つ。
このまま5人を入れた檻が街の中央広場に設置された処刑台に搬送されれば、救出は困難となる。
そこでフィーネアたち3人は5人が処刑台に搬送されるまでの間に救出することを計画していた。
そこで重要になってくるのは明智の役割である。
明智はメインストリートから離れた場所で騒ぎを起し、王国兵や騎士団の注意を自分へと向ける。
その隙にフィーネアとゆかりが5人を救出し、正面突破で速やかに街から離脱する。
一番懸念された千金楽の足止めは通信コンパクトミラーを通して、瓜生に頼んでいた。
の、だが――
果たしてそんな無謀な作戦が上手くいくのだろうか?
◆
「禅、転移スクロールで王都へ戻ってきたのはいいが……どうするんだ?」
「んー、めんどくさいことになったなぁ。円香? お前の未来予知ではどう出てる?」
「はっきりとしたことは見えません……ごめんなさい」
「いやいや、まぁーそんなに上手いことわかるわけないかぁ。せやけど……どっちにつくべきやろな?」
俺は手持ち無沙汰な両手を頭の後ろに回しながら、城の自室のテラスから街を一望して考える。
月影のあのメイドと明智……それにゆかりとかいう女が通信コンパクトミラーを使って連絡してきたんはええんやけど、その内容がちょっちヤバ過ぎるわ。
なんでも同郷の女が5人ほど教会に捕まったちゅう話しや。
街中で張り付けられて晒し者にされとったダークエルフを助けたっちゅうのは、素直に賞賛に値するんやけど……。
現在のこの国の状況を考えたら……教会の教えに背く者を罰して教会に媚を売りたい言うんもようわかる。
仮に俺があいつらに手を貸してこの国と敵対行動をとってしもうたら、その時点で教会も敵に回してしまうっちゅうことやろ?
百歩譲ってこの国と敵対するのは別に構わんねんけど、教会は不味ないか?
教会を敵に回すっちゅうことは早い話がこの世界……人類を敵に回すってことでもある。
いくらんでも見ず知らずの女を助けるために世界を敵に回せるか?
そないなアホなことあるか?
しかも俺の役割は千金楽の奴の足止めやって言うやん。
あいつはすばしっこくてめんどくさいわぁ。
「まっ、しばらく様子見やな」
テラスから部屋に戻りベッドに腰掛けると、月影から預かっとった女がごっつい眼で俺を見てきよる。
志乃森真夜……やったっけか?
「なんやそんな怖い顔して、どないしたんや?」
「瓜生先輩、遊理君を裏切るきじゃありませんよね?」
「あのなぁ~、嬢ちゃんなんか勘違いしとらんか?」
「勘違い?」
志乃森真夜は不信感丸出しの眼を向けてきてる。
「そや、勘違いや。俺と月影は友達やない。ましてや仲間でもない。ただお互いに利害が一致してるから同盟を組んでるだけや。せやからお互いの考え方に、或はどちらかが不利益になると判断したときには、それは自然と解消されると思わんか? 月影も多分俺と同じ考えやと思うけどな」
と、俺が言い終わると、志乃森真夜はカッと目を見開いて床を蹴りつけるように詰め寄ってくる。
「ふざけないで下さいっ! 瓜生先輩は死んでしまうかもわからないところを遊理君に助けられたんですよね? なら恩を返すのが筋ってものじゃないですかっ!!」
「いやいや、嬢ちゃんの言いたいことももちろんわかるけどな、あれはただの取引や」
「取引!?」
「なんや? 聞いとらんか? 俺をオークロードから助けるという条件を飲む代わりに、俺は月影の脱獄と罪をなかったように国王に進言する。つまり恩もクソもないねん」
俺の言葉を聞いてもまだ納得がいかんのか、志乃森真夜は軽蔑の眼差しを向けてきよる。
「それならなおさらおかしいですよね?」
「はぁ? 何がや?」
「だって遊理君は現在もあの時の罪を問われて、王様に追われているじゃないですか? 取引不成立じゃないですかっ!」
うわぁ! 鋭すぎやろ。
「瓜生先輩はペテン師じゃないですか。誰もが憧れていたスーパースター瓜生禅はどこに行ったんですか? まさか自分の命惜しさに遊理君を騙して、自分だけ助かろうって考えている訳じゃないですよね。もしもそうなら、はっきり言って最低です! 瓜生先輩も神代も、あの千金楽とかいう子もどこが勇者なんですか? 正しいことをした人が罰せられて、弱い者を寄ってたかっていじめるあなたたちは勇者なんかじゃないっ!」
泣き出しそうな志乃森真夜の声が俺を責め立ててくる。
その言葉に反論することは俺にはできひんかった。
いや、俺だけやない。
蒼甫も円香も、他の女たちも皆俯いてる。
「必死に友達を助けようとしている彼らの方がずっと勇者に見えるのはどうしてなんですかっ!? どれほど優れたステータスを持っていたとしても、正しいことを正しいと言えない、正しい行いをすることのできない人を私は勇者だなんて認めない! 私が小さい頃に読み聞かせられたおとぎ話の中の勇者は……遊理君のような人でした! 少なくても瓜生先輩のように自分のことを考えて行動する人じゃなかったっ!!」
グウの音も出えへん俺を見かねて、蒼甫が間に入ってきた。
「志乃森、お前の言っていることもわからなくはない。だけどな、瓜生にも瓜生なりの考えがあるんだ。わかってやってくれ」
「そんなこと……わかってますよ。わかってるけど……」
俺は徐に立ち上がり、息苦しい部屋からもう一度テラスに出て晴れ渡る大空を見上げた。
「本日は晴天なりってか……。俺の心は……曇っとるわ」
俺はどうするべきなんやろな?
答えが出えへん俺が街を見下ろしたら、どこからともなく騒がしい声が響き渡ってきた。
あの3人が動き出したんやろうな。
せやけど俺は……未だ出ぬ問を抱えたまま動けずにおった。
だけど、肝心の切り札がどう動くかはわからない。
わからないけれど今は突き進むしかない。
俺はダンジョンを足早に出てメアちゃんの背に飛び乗り、荒野を駆け抜けた。
目指す場所はただ一つ。
糞国王の、千金楽が待ち受ける王都だ。
俺は外套のフードをギュッと握り、ただ真っ直ぐ先を見つめた。
最悪この国を、この世界のすべてを敵に回したとしても、俺は大切な友を、仲間を守り抜いてみせるんだ。
「急いでくれメアちゃん!」
「ムグゥゥウウウウウウッ!!」
勇ましく吠えるメアちゃんは速度を上げた。
頼むから……間に合ってくれよ。
◆
月影遊理が幻魔獣ナイトメアにまたがり荒野を駆けていたその頃、王都では『悪魔死刑祭』と銘打たれた祭りが開催されていた。
街のあちこちで露店が出回り、楽しそうに街を駆け回る子供たちや昼間からエールを飲んで頬を染める者たち、皆それぞれが祭りを楽しんでいる。
そんな人々が街のメインストリートへと一斉に顔を向けて、歓喜の声を蒼穹へと響かせた。
人々の視線の先には巨大な牙を生やしたマンモスに似た生き物が巨大な鉄格子の檻を運んでいる。
鉄格子の中にはあどけなさ残る5人の少女の姿がある。
少女たちの瞳には涙が滲み、5人で身を寄せ合うように塊まりその身を震わせていた。
そんな少女たちを見て指差し嘲笑う者や、足元に転がっていた石を拾い上げて投げつける者など反応は様々。
容赦なく少女たちに襲い来る罵声と暴力。
投げつけられた石礫が華奢な体に鈍い音を立てると、少女の一人がその場に倒れ込む。
倒れた少女に残った4人の少女が次々と庇うように覆い被さっていく。
「なんで……私たちがこんな目に逢うのよ」
「私たちが何したって言うのよ」
「怖いよ……早く家に帰りたい」
「みんな……気をしっかり持つのよ。きっと、きっとゆかりが……遊理君が助けに来てくれるわ。それまでの辛抱よ」
「そうよ。私たちはもっと過酷な数ヶ月を生き抜いてきたのよ。こんなところで負けて堪るか!」
恐怖を振り払い、自らを奮い立たせるように希望の言葉を口にする少女たちだが、彼女たちの言葉は誰にも届かない。
四方から投げつけられた石は容赦なく少女たちの体を叩きつけ、愛らしい顔が赤く染まっていく。
「やっと……見つけた」
噛み締めるように囁かれた声音は人々の喧騒に掻き消され、決して少女たちに届くことはない。
建物の屋上で檻の中の少女たちを見つめるその少女も、囚われの5人の少女たち同様、瞳に涙を溜め込んでいた。
少女たちの友人、ゆかりである。
そのゆかりの右肩にそっと手を添えるフィーネアは、燃え上がる紅蓮の瞳を真っ直ぐに少女たちへと向けながら小さく呟いた。
「大丈夫ですゆかり、彼女たちは必ず助けてみせます」
ゆかりがフィーネアへと顔を向けて力強く頷くと、その少し後方に大股で腰を屈める明智も問題ないと口にする。
「安心するでござるよゆかり殿。それがし……このクソみたいな国には恨みがあるでござる。例えこの街に居るすべての者を敵に回したとしても、必ずそれがしとフィーネア殿が5人を助け出してみせるでござる。そして、みんなで元の世界に笑って還るでござるよ」
「明智……」
優しく微笑んだ明智を見やり、ゆかりは小さく彼の名を呼んだ。
そしてすぐにキリッと表情を引き締めいつもの調子で言う。
「ゴ、ゴキ男の癖にななな、生意気なのよっ! 嫌だって言っても無理やり戦わせるんだからっ」
明智はそっと立ち上がり屋根の縁に片足をかけると、指で眼鏡をクイッと持ち上げて、どこか彼方を見つめながらカッコをつけた。
「言ったでござろうゆかり殿。それがしはここからまた生まれ変わると……大切な者を目の前で奪われるくらいなら……死ぬ覚悟はできているでござるよ」
「ゴキ男……」
「なりません」
「へっ!?」
せっかく格好良く決めて2人を惚れさせようと考えていた明智の一世一代の決め台詞を、フィーネアは簡単に一掃する。
予想外のフィーネアの反応に明智の口からは情けない声が漏れてしまった。
「明智が死んでしまえばユーリがきっと悲しみます。ユーリを悲しませることだけはフィーネアが許しません。もしユーリを悲しませたときは……フィーネアが明智を殺しますから」
「……言ってることが無茶苦茶でござろう、フィーネア殿!」
「はい。無茶苦茶でもそれがフィーネアの願いなのです」
「…………心得たでござるよ」
フィーネアと明智は互の顔を見ては楽しげに肩を揺らした。
その様子に眉根を寄せて小首を傾げるゆかり。
「さて、それでは行動開始と行くでござるか」
「はい」
「うん」
フィーネアに明智とゆかりの3人は、5人を救出すべく移動を開始する。
まず3人が考えたことは一つ。
このまま5人を入れた檻が街の中央広場に設置された処刑台に搬送されれば、救出は困難となる。
そこでフィーネアたち3人は5人が処刑台に搬送されるまでの間に救出することを計画していた。
そこで重要になってくるのは明智の役割である。
明智はメインストリートから離れた場所で騒ぎを起し、王国兵や騎士団の注意を自分へと向ける。
その隙にフィーネアとゆかりが5人を救出し、正面突破で速やかに街から離脱する。
一番懸念された千金楽の足止めは通信コンパクトミラーを通して、瓜生に頼んでいた。
の、だが――
果たしてそんな無謀な作戦が上手くいくのだろうか?
◆
「禅、転移スクロールで王都へ戻ってきたのはいいが……どうするんだ?」
「んー、めんどくさいことになったなぁ。円香? お前の未来予知ではどう出てる?」
「はっきりとしたことは見えません……ごめんなさい」
「いやいや、まぁーそんなに上手いことわかるわけないかぁ。せやけど……どっちにつくべきやろな?」
俺は手持ち無沙汰な両手を頭の後ろに回しながら、城の自室のテラスから街を一望して考える。
月影のあのメイドと明智……それにゆかりとかいう女が通信コンパクトミラーを使って連絡してきたんはええんやけど、その内容がちょっちヤバ過ぎるわ。
なんでも同郷の女が5人ほど教会に捕まったちゅう話しや。
街中で張り付けられて晒し者にされとったダークエルフを助けたっちゅうのは、素直に賞賛に値するんやけど……。
現在のこの国の状況を考えたら……教会の教えに背く者を罰して教会に媚を売りたい言うんもようわかる。
仮に俺があいつらに手を貸してこの国と敵対行動をとってしもうたら、その時点で教会も敵に回してしまうっちゅうことやろ?
百歩譲ってこの国と敵対するのは別に構わんねんけど、教会は不味ないか?
教会を敵に回すっちゅうことは早い話がこの世界……人類を敵に回すってことでもある。
いくらんでも見ず知らずの女を助けるために世界を敵に回せるか?
そないなアホなことあるか?
しかも俺の役割は千金楽の奴の足止めやって言うやん。
あいつはすばしっこくてめんどくさいわぁ。
「まっ、しばらく様子見やな」
テラスから部屋に戻りベッドに腰掛けると、月影から預かっとった女がごっつい眼で俺を見てきよる。
志乃森真夜……やったっけか?
「なんやそんな怖い顔して、どないしたんや?」
「瓜生先輩、遊理君を裏切るきじゃありませんよね?」
「あのなぁ~、嬢ちゃんなんか勘違いしとらんか?」
「勘違い?」
志乃森真夜は不信感丸出しの眼を向けてきてる。
「そや、勘違いや。俺と月影は友達やない。ましてや仲間でもない。ただお互いに利害が一致してるから同盟を組んでるだけや。せやからお互いの考え方に、或はどちらかが不利益になると判断したときには、それは自然と解消されると思わんか? 月影も多分俺と同じ考えやと思うけどな」
と、俺が言い終わると、志乃森真夜はカッと目を見開いて床を蹴りつけるように詰め寄ってくる。
「ふざけないで下さいっ! 瓜生先輩は死んでしまうかもわからないところを遊理君に助けられたんですよね? なら恩を返すのが筋ってものじゃないですかっ!!」
「いやいや、嬢ちゃんの言いたいことももちろんわかるけどな、あれはただの取引や」
「取引!?」
「なんや? 聞いとらんか? 俺をオークロードから助けるという条件を飲む代わりに、俺は月影の脱獄と罪をなかったように国王に進言する。つまり恩もクソもないねん」
俺の言葉を聞いてもまだ納得がいかんのか、志乃森真夜は軽蔑の眼差しを向けてきよる。
「それならなおさらおかしいですよね?」
「はぁ? 何がや?」
「だって遊理君は現在もあの時の罪を問われて、王様に追われているじゃないですか? 取引不成立じゃないですかっ!」
うわぁ! 鋭すぎやろ。
「瓜生先輩はペテン師じゃないですか。誰もが憧れていたスーパースター瓜生禅はどこに行ったんですか? まさか自分の命惜しさに遊理君を騙して、自分だけ助かろうって考えている訳じゃないですよね。もしもそうなら、はっきり言って最低です! 瓜生先輩も神代も、あの千金楽とかいう子もどこが勇者なんですか? 正しいことをした人が罰せられて、弱い者を寄ってたかっていじめるあなたたちは勇者なんかじゃないっ!」
泣き出しそうな志乃森真夜の声が俺を責め立ててくる。
その言葉に反論することは俺にはできひんかった。
いや、俺だけやない。
蒼甫も円香も、他の女たちも皆俯いてる。
「必死に友達を助けようとしている彼らの方がずっと勇者に見えるのはどうしてなんですかっ!? どれほど優れたステータスを持っていたとしても、正しいことを正しいと言えない、正しい行いをすることのできない人を私は勇者だなんて認めない! 私が小さい頃に読み聞かせられたおとぎ話の中の勇者は……遊理君のような人でした! 少なくても瓜生先輩のように自分のことを考えて行動する人じゃなかったっ!!」
グウの音も出えへん俺を見かねて、蒼甫が間に入ってきた。
「志乃森、お前の言っていることもわからなくはない。だけどな、瓜生にも瓜生なりの考えがあるんだ。わかってやってくれ」
「そんなこと……わかってますよ。わかってるけど……」
俺は徐に立ち上がり、息苦しい部屋からもう一度テラスに出て晴れ渡る大空を見上げた。
「本日は晴天なりってか……。俺の心は……曇っとるわ」
俺はどうするべきなんやろな?
答えが出えへん俺が街を見下ろしたら、どこからともなく騒がしい声が響き渡ってきた。
あの3人が動き出したんやろうな。
せやけど俺は……未だ出ぬ問を抱えたまま動けずにおった。
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