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12話 喪失、初体験

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 俺が扉を開けると、雪崩込むように明智のボケが部屋に入って来やがった。

「早く扉を閉めて欲しいでござるよっ! ユーリ殿っ!!」
「なんなんだよお前っ! たくっ!」

 俺は扉を閉めて、部屋に入るや否や床に転がり込んだ明智を一睨してやる。
 すると明智は、言った。

「この間は本当に申し訳なかったでござるよ。人間というのは不思議なもので、場の空気に飲み込まれやすい生き物でござろう? それがしも会場に住み着く魔物に取り付かれていたみたいでござるよ」
「ふざけんじゃねぇぞっ! それが人に謝るた――」
「おおっ! この美少女メイドはどちら様でござるか? まるでそれがしが大好きだったアニメ、戦国萌え萌え乙女キャラのようではござらんか」

 明智は俺の言葉を遮り、無視した挙句。俺のフィーネアを厭らしい目で見ていやがる。
 そんな明智を、フィーネアは誰? この人と小首を傾げている。

 腹が立った俺は明智の頭をひっぱたいて、

「お前人の話聞いてんのかよっ! 謝りに来たのか喧嘩売りに来たのかどっちなんだよっ!!」
「おお! そうでござった。聞いてくだされユーリ殿! それがし酷い目に遭ったのでござるよ。実は――」

 なんでも明智の話を聞くと。
 前回あの会場には300人ほど生き残りがいたらしいのだが。
 王様にステータスを認められて王国兵になった者は、約半数の150人ほどだったという。

 しかし、問題はこのあとに発生した。
 王国兵になった150人は、一月銀貨一枚という破格の値段で雇われ、馬車奴隷の如くこき使われることになった。

 明智たちは銀貨一枚がどの程度の価値かもわからずに雇われたらしいのだが。
 ある日、王国兵の話を盗み聞きして、その安さを知ってしまったという。

 あまりの安さに腹を立てた150人は、一致団結して王様に抗議したのだが、願いは聞き入れられなかった。
 そこで、こんなことなら雇われ兵などやってられるかとなり、兵を辞めることを伝えると。

 契約違反だの反逆行為だのいちゃもんを付けられたのだとか。
 挙句の果て、一部の有力貴族に目を付けられ、ダンジョンへ調査隊として50人ほど向かわされるハメになった。

 しかし、そのダンジョンは以前、王国兵の調査隊が調査に向かったきり帰ってこなかったと言う、曰く付きの危険ダンジョンらしい。

「つまり、お前はそのダンジョン調査隊に選ばれて、俺の元へ逃げてきたと言う訳か?」

 明智は違うと首を振る。
 その間にフィーネアは気を利かせて、部屋に備え付けられていたティーセットで、お茶を淹れ。俺たちに出してくれる。

「ああ、これはすまんでござるな」

 明智はズズッと下品な音を立てながらそれを啜り、話を続けた。

「確かにそれがしも調査隊に選ばれてしまったでござるよ。だけどそんなとき、王国兵の方が口を利いてやると、それがしに言ってくれたでござるよ」
「なら別に問題ないじゃないかよ」
「それが大問題なんでござるよっ!!」

 どういうことだ? いまいち話が見えてこない。

「その兵が言うんでござるよ。口を利いてやったんだから、それなりの礼をするのが筋だと」
「当然だろう?」
「その礼というのが……それがしの体だと言うでござるよっ!」
「……内臓でも渡せってか?」
「そんなことよりもっと恐ろしいことでござるっ! それがしのケツの穴を寄越せと言うでござるっ!! それがしはレイプされる寸前で隙を突き、逃げ出してきたでござるよっ!」
「……」

 こいつは内臓を取られるよりも、ケツの穴の方が大事なのか……。
 それにしても、明智を……ね。
 とんだ物好きも居たもんだな。

「聞いてるでござるか? ユーリ殿っ!」
「……帰れっ! お前のケツなど俺は知らん」
「なんと言う無責任なっ! それでも友達でござるかっ!!」

 なにが友達だっ! バカタレッ!
 お前は俺のことを嘲笑ったじゃねぇーかよ! お前も俺のギルティーリストに入ってるんだからなっ。

 それに俺は今からフィーネアと……うふふ。
 でも……待てよ。
 俺は気になったことを明智に尋ねた。

「真夜ちゃんはどうした? まさかその50人に入ってるんじゃないだろうな?」
「……」

 なんで黙るんだよっ!

「お前まさか……また見捨てたんじゃないだろうなっ!」

 俺は咄嗟に明智の胸元を掴み上げていた。

「しっ、仕方なかったでござるよ。それがしにはどうすることも出来なかったでござる」

 何言ってんだよこのボケッ!
 仕方なかったで許される訳ないだろっ!!

 真夜ちゃんはまた泣いているかもしれない……。
 見捨てないでって叫んでいるかもしれない。
 あの日の真夜ちゃんの顔が、俺の脳裏に鮮明に蘇る。

 真夜ちゃんは唯一あの会場で俺を笑わなかった子だぞ!
 あんなに優しい子を、このクズはまた見捨てたのかよっ!

 ……助けなきゃ。俺が真夜ちゃんを助けに行かなきゃ!
 だけど……俺には武器がない。

 明智の野郎は見たところ安そうな革鎧に身を包んでいるが。
 俺は……ボロボロの制服のままだ……。

 だからって見捨てていいわけじゃない。
 俺は真夜ちゃんに言ったじゃないか『――もうこれ以上俺の友達は誰一人殺させやしないっ』て。

 真夜ちゃんは俺の友達だ。
 俺を笑わなかった、優しい俺の友達なんだよ!
 こうしちゃいられない。

「おい、明智!」
「なんでござるか? 真夜ちゃんが向かったダンジョンの場所はわかるんだろうな?」
「……まさか助けに行くつもりなのでござるかっ!? こんなことは言いたくないでござるが……ユーリ殿はオールFの最弱でござっ……」

 俺は明智を殺す勢いで睨みつけた。
 強いとか弱いとかじゃねぇーんだよっ!
 友達が助けを求めてるなら、行くのが当然なんだよっ!!

「場所は……わかるでござるよ」
「案内しろっ! いいなっ!!」

 項垂れるように頷き、俺は明智にもう一つ聞いた。

「ちなみに……お前のケツを狙っていたってのはどんな奴だ?」
「……おそらくまだその辺に居るでござるよ」

 明智は部屋の窓から外を覗き、指差した。

「あっ! あいつでござる」

 俺は窓からそいつを確認した。
 まるでアメリカの特殊部隊のように、筋骨隆々としたスキンヘッドの男。
 服装は明智と同じく、安っぽい革の胸当てを装備している。
 俺は明智に、言った。

「俺が話をつけてくるから、お前は安心してここで待っていろ。いいな、どこにも行くなよっ!」
「ユーリ殿っ!」

 明智は感激して、涙を流していた。
 俺はフィーネアを連れて、部屋を出て。男の元へと歩み寄り、話をつけた。

 男は去り際、情報料だと言いながら、ウインクと共に銀貨一枚を俺にくれた。俺はそれをありがたく頂き、ポッケへとしまった。

 男が俺の泊まっていた宿に向かった1分後。
 先ほどまで俺とフィーネアが居た部屋から、

「アッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 と、言う叫びが昼間の街に木霊すると。

《MFポイント240ポイント獲得》

 えっ……!?
 俺が驚きそれを凝視していると、フィーネアがにこやかに微笑み、口にする。

「凄いです! 相手を一度安心させ、友情という名の幸福度を極限まで高めた後に、一気に不幸のどん底に叩き落とす。まさに高等テクニック! ユーリ凄いです! フィーネアも頑張らなきゃ!」
「……そっ、そうだろ?」

 ホントのことを言うと、真夜ちゃんを見捨てた明智に天罰を与えてやろうと思ったのだが……まさか明智のケツの穴が……こんなに高ポイントだったとは! 意外だっ!

 しかし、これはラッキーだ。
 思いもよらない形で真夜ちゃん救出の、貴重なポイントを獲得する結果に繋がったのだ。

 しかも、銀貨一枚のおまけ付き。
 これで残り資金は銀貨二枚に増えた。
 この元手で何か装備を揃えられるといいんだが。


 俺は明智が貴重な初体験をしている間に、武具屋で装備を整えることにした。
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