29 / 35
第29話 来る敵
しおりを挟む
「にゃーにゃー」
あれから一月、飼い猫ランスとなった俺は、101回目にして至福の人生を満喫していた。
「(猫になった人生がこれまでで一番充実して幸せだなんて、信じられない気持ちだな……)」
嬉しいやら悲しいやら、なんとも言えない感情に浸っていた。
「(よく言うにゃ。御主人様は用もないのににゃの体で好き勝手やってるだけにゃ)」
ゴロにゃーんゴロにゃーんとレーヴェンの膝の上で喉を鳴らし、至高の顎下もふもふを味わう俺に、ブランキーが突っかかってくる。
最近のブランキーは以前よりも生意気になっていた。
されど、そんな甘い日々を楽しむ一方で、俺とクローの精神融合による監視は続いていた。
「どうやら、指揮を執るのはあの男のようです」
セドリックと一緒に一般人に変装した帝国兵が、列車から続々と降りてくる。その中に、冒険者に扮した男を発見する。奇妙な髪型をした男だ。
たしか、ドレッドヘアだったか。
以前、南部地方を訪れたとき、同じような髪型の人々を見かけたことがあった。
彼の肌は褐色で、南部部族の伝統的な髪型をしていた。身長は約190センチ前後で、年齢は30代前半から半ばのようだ。腰に帯びた武器が湾曲刀であることから、彼は聖騎士ではない。
帝国の聖騎士が湾曲刀を使用するなど聞いたことがない。
あの身のこなしや歩き方から判断すると、おそらくプロの暗殺者だろう。かつての経験から、帝国が密かに暗殺部隊を組織していることを知っている。
「あの積荷は……」
「ああ、間違いなく武器と弾薬だろうな」
わざわざ変装した上で積荷を装っての武器の運搬か。
「(主、やつらの狙いは……)」
「(お前の読み通り、レーヴェンの暗殺だろうな)」
表立ってレーヴェンを暗殺したとなれば、民衆からの反感は避けられない。だからこその偽装。
「やはり、シュナイゼルとクラーク公爵は、レーヴェンを歴史から消し去るつもりのようだ」
たった7人の命を奪うために、百人以上の兵を派遣してきたということは、それだけシュナイゼルは戦場の死神――レーヴェンを恐れているということか。
にしても、この数は少々厄介だな。
「隊を分散しているようです」
「あの人数だからな」
最寄り駅からポセル村までは、馬で移動したとしても数時間はかかってしまう。あれだけの数が馬や荷馬車で移動したとなれば、目立って仕方がない。時間帯を分け、さらに徒歩での移動も考えているのだろう。
「どういたしましょう」
「平民に扮した一般兵より、気になるのはあの男だな」
シュナイゼルが送り込んできた暗殺者か……。でも待てよ、だとしたらこの人数はなんだ? 暗殺ならば少数精鋭、もしくは単独に限る。
何か、引っかかる……。
「どうかしましたか?」
あの人数が一斉に屋敷に攻め入れば、さすがにポセル村の住人も異変に気がつくだろう。
「!」
そういうことか。
目撃者となってしまったポセル村の人々を消すための人員。そう考えれば、あの数にも納得がいく。
シュナイゼルは初めから、レーヴェンごとポセル村の住人を消すつもりだ。
「引き続き監視を頼む」
「了解」
俺は精神融合を解除し、自分の肉体に戻った。
「そっちがその気なら、こっちだってやってやる!」
剣帝な師匠は言った。
戦闘において最も有利な状況は、待ち伏せであると。
この待ち伏せの利点を最大限に生かすために、戦略を怠ってはいけない。戦略を練った上で、具体的な手段――戦術を実行できる者だけが、戦場を生き残ることができる。
生存率を1%でも上げるため、思考を止めずに死ぬ気で動く!
この世は必ずしも腕節の強い奴が勝つとは限らない。だからこそ、勝利への執着と欲望が必要なのだ。
「今は誰よりも、何よりも貪欲になるんだ!」
剣帝な師匠の教えを胸に、俺はポセル村へと走った。
「あっ、お兄ちゃん先生!」
「あんた、久しぶりじゃないかい」
ルーナとおばさん(村人A)に挨拶もそこそこに、俺は村の人々を広場に呼び寄せた。
村人たちには理由を明かさず、ただここが戦場になることだけを伝えた。
当然、彼らは半信半疑だった。
突然そんなことを言われても、信じてもらえるはずもない。
だが、その時――
「で、あたしらは何をすればいいんだい、先生!」
「え……信じてくれるのか?」
「正直、こんな辺鄙な村が戦場になるなんて信じられないけどさ、あたしらを助けてくれた先生の言うことだもん。先生を信じないで誰を信じるって言うのさ」
村人たちは皆口々に、「信じるよ」「何をすればいい」と、頼もしくもそんな風に声をかけてくれた。
俺は襲いくる敵を一網打尽にするため、ポセル村の人々に協力を求める。
「そんなことでいいのかい?」
「ああ、俺はみんなを救いたいだけなんだ」
「あんたって人は……泣かせるね」
「痛っ!?」
「大げさだね」
肩をさする俺を見て、みんな笑っていた。
ひとまず、これでポセル村の人々は安心だ。
あとは決戦の時を待つだけ。
そんな風に考えながら森を歩いていると、ブランキーから緊急のソウルテレパシーが入った。
「どうかしたか?」
『御主人様、敵だにゃ!』
「なっ!?」
それはまったく予想外の出来事であり、こちらの裏をかいた、完璧な奇襲だった。
あれから一月、飼い猫ランスとなった俺は、101回目にして至福の人生を満喫していた。
「(猫になった人生がこれまでで一番充実して幸せだなんて、信じられない気持ちだな……)」
嬉しいやら悲しいやら、なんとも言えない感情に浸っていた。
「(よく言うにゃ。御主人様は用もないのににゃの体で好き勝手やってるだけにゃ)」
ゴロにゃーんゴロにゃーんとレーヴェンの膝の上で喉を鳴らし、至高の顎下もふもふを味わう俺に、ブランキーが突っかかってくる。
最近のブランキーは以前よりも生意気になっていた。
されど、そんな甘い日々を楽しむ一方で、俺とクローの精神融合による監視は続いていた。
「どうやら、指揮を執るのはあの男のようです」
セドリックと一緒に一般人に変装した帝国兵が、列車から続々と降りてくる。その中に、冒険者に扮した男を発見する。奇妙な髪型をした男だ。
たしか、ドレッドヘアだったか。
以前、南部地方を訪れたとき、同じような髪型の人々を見かけたことがあった。
彼の肌は褐色で、南部部族の伝統的な髪型をしていた。身長は約190センチ前後で、年齢は30代前半から半ばのようだ。腰に帯びた武器が湾曲刀であることから、彼は聖騎士ではない。
帝国の聖騎士が湾曲刀を使用するなど聞いたことがない。
あの身のこなしや歩き方から判断すると、おそらくプロの暗殺者だろう。かつての経験から、帝国が密かに暗殺部隊を組織していることを知っている。
「あの積荷は……」
「ああ、間違いなく武器と弾薬だろうな」
わざわざ変装した上で積荷を装っての武器の運搬か。
「(主、やつらの狙いは……)」
「(お前の読み通り、レーヴェンの暗殺だろうな)」
表立ってレーヴェンを暗殺したとなれば、民衆からの反感は避けられない。だからこその偽装。
「やはり、シュナイゼルとクラーク公爵は、レーヴェンを歴史から消し去るつもりのようだ」
たった7人の命を奪うために、百人以上の兵を派遣してきたということは、それだけシュナイゼルは戦場の死神――レーヴェンを恐れているということか。
にしても、この数は少々厄介だな。
「隊を分散しているようです」
「あの人数だからな」
最寄り駅からポセル村までは、馬で移動したとしても数時間はかかってしまう。あれだけの数が馬や荷馬車で移動したとなれば、目立って仕方がない。時間帯を分け、さらに徒歩での移動も考えているのだろう。
「どういたしましょう」
「平民に扮した一般兵より、気になるのはあの男だな」
シュナイゼルが送り込んできた暗殺者か……。でも待てよ、だとしたらこの人数はなんだ? 暗殺ならば少数精鋭、もしくは単独に限る。
何か、引っかかる……。
「どうかしましたか?」
あの人数が一斉に屋敷に攻め入れば、さすがにポセル村の住人も異変に気がつくだろう。
「!」
そういうことか。
目撃者となってしまったポセル村の人々を消すための人員。そう考えれば、あの数にも納得がいく。
シュナイゼルは初めから、レーヴェンごとポセル村の住人を消すつもりだ。
「引き続き監視を頼む」
「了解」
俺は精神融合を解除し、自分の肉体に戻った。
「そっちがその気なら、こっちだってやってやる!」
剣帝な師匠は言った。
戦闘において最も有利な状況は、待ち伏せであると。
この待ち伏せの利点を最大限に生かすために、戦略を怠ってはいけない。戦略を練った上で、具体的な手段――戦術を実行できる者だけが、戦場を生き残ることができる。
生存率を1%でも上げるため、思考を止めずに死ぬ気で動く!
この世は必ずしも腕節の強い奴が勝つとは限らない。だからこそ、勝利への執着と欲望が必要なのだ。
「今は誰よりも、何よりも貪欲になるんだ!」
剣帝な師匠の教えを胸に、俺はポセル村へと走った。
「あっ、お兄ちゃん先生!」
「あんた、久しぶりじゃないかい」
ルーナとおばさん(村人A)に挨拶もそこそこに、俺は村の人々を広場に呼び寄せた。
村人たちには理由を明かさず、ただここが戦場になることだけを伝えた。
当然、彼らは半信半疑だった。
突然そんなことを言われても、信じてもらえるはずもない。
だが、その時――
「で、あたしらは何をすればいいんだい、先生!」
「え……信じてくれるのか?」
「正直、こんな辺鄙な村が戦場になるなんて信じられないけどさ、あたしらを助けてくれた先生の言うことだもん。先生を信じないで誰を信じるって言うのさ」
村人たちは皆口々に、「信じるよ」「何をすればいい」と、頼もしくもそんな風に声をかけてくれた。
俺は襲いくる敵を一網打尽にするため、ポセル村の人々に協力を求める。
「そんなことでいいのかい?」
「ああ、俺はみんなを救いたいだけなんだ」
「あんたって人は……泣かせるね」
「痛っ!?」
「大げさだね」
肩をさする俺を見て、みんな笑っていた。
ひとまず、これでポセル村の人々は安心だ。
あとは決戦の時を待つだけ。
そんな風に考えながら森を歩いていると、ブランキーから緊急のソウルテレパシーが入った。
「どうかしたか?」
『御主人様、敵だにゃ!』
「なっ!?」
それはまったく予想外の出来事であり、こちらの裏をかいた、完璧な奇襲だった。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる