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第29話 来る敵

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「にゃーにゃー」

 あれから一月、飼い猫ランスとなった俺は、101回目にして至福の人生を満喫していた。

「(猫になった人生がこれまでで一番充実して幸せだなんて、信じられない気持ちだな……)」

 嬉しいやら悲しいやら、なんとも言えない感情に浸っていた。

「(よく言うにゃ。御主人様は用もないのににゃの体で好き勝手やってるだけにゃ)」

 ゴロにゃーんゴロにゃーんとレーヴェンの膝の上で喉を鳴らし、至高の顎下もふもふを味わう俺に、ブランキーが突っかかってくる。
 最近のブランキーは以前よりも生意気になっていた。

 されど、そんな甘い日々を楽しむ一方で、俺とクローの精神融合による監視は続いていた。

「どうやら、指揮を執るのはあの男のようです」

 セドリックと一緒に一般人に変装した帝国兵が、列車から続々と降りてくる。その中に、冒険者に扮した男を発見する。奇妙な髪型をした男だ。

 たしか、ドレッドヘアだったか。
 以前、南部地方を訪れたとき、同じような髪型の人々を見かけたことがあった。

 彼の肌は褐色で、南部部族の伝統的な髪型をしていた。身長は約190センチ前後で、年齢は30代前半から半ばのようだ。腰に帯びた武器が湾曲刀シャムシールであることから、彼は聖騎士ではない。

 帝国の聖騎士が湾曲刀シャムシールを使用するなど聞いたことがない。
 あの身のこなしや歩き方から判断すると、おそらくプロの暗殺者だろう。かつての経験から、帝国が密かに暗殺部隊を組織していることを知っている。

「あの積荷は……」
「ああ、間違いなく武器と弾薬だろうな」

 わざわざ変装した上で積荷を装っての武器の運搬か。

「(主、やつらの狙いは……)」
「(お前の読み通り、レーヴェンの暗殺だろうな)」

 表立ってレーヴェンを暗殺したとなれば、民衆からの反感は避けられない。だからこその偽装。

「やはり、シュナイゼルとクラーク公爵は、レーヴェンを歴史から消し去るつもりのようだ」

 たった7人の命を奪うために、百人以上の兵を派遣してきたということは、それだけシュナイゼルは戦場の死神――レーヴェンを恐れているということか。
 にしても、この数は少々厄介だな。

「隊を分散しているようです」
「あの人数だからな」

 最寄り駅からポセル村までは、馬で移動したとしても数時間はかかってしまう。あれだけの数が馬や荷馬車で移動したとなれば、目立って仕方がない。時間帯を分け、さらに徒歩での移動も考えているのだろう。

「どういたしましょう」
「平民に扮した一般兵より、気になるのはあの男だな」

 シュナイゼルが送り込んできた暗殺者か……。でも待てよ、だとしたらこの人数はなんだ? 暗殺ならば少数精鋭、もしくは単独に限る。

 何か、引っかかる……。

「どうかしましたか?」

 あの人数が一斉に屋敷に攻め入れば、さすがにポセル村の住人も異変に気がつくだろう。

「!」

 そういうことか。

 目撃者となってしまったポセル村の人々を消すための人員。そう考えれば、あの数にも納得がいく。
 シュナイゼルは初めから、レーヴェンごとポセル村の住人を消すつもりだ。

「引き続き監視を頼む」
「了解」

 俺は精神融合を解除し、自分の肉体に戻った。

「そっちがその気なら、こっちだってやってやる!」

 剣帝な師匠は言った。
 戦闘において最も有利な状況は、待ち伏せであると。

 この待ち伏せの利点を最大限に生かすために、戦略を怠ってはいけない。戦略を練った上で、具体的な手段――戦術を実行できる者だけが、戦場を生き残ることができる。

 生存率を1%でも上げるため、思考を止めずに死ぬ気で動く!

 この世は必ずしも腕節の強い奴が勝つとは限らない。だからこそ、勝利への執着と欲望が必要なのだ。

「今は誰よりも、何よりも貪欲になるんだ!」

 剣帝な師匠の教えを胸に、俺はポセル村へと走った。

「あっ、お兄ちゃん先生!」
「あんた、久しぶりじゃないかい」

 ルーナとおばさん(村人A)に挨拶もそこそこに、俺は村の人々を広場に呼び寄せた。
 村人たちには理由を明かさず、ただここが戦場になることだけを伝えた。

 当然、彼らは半信半疑だった。
 突然そんなことを言われても、信じてもらえるはずもない。
 だが、その時――

「で、あたしらは何をすればいいんだい、先生!」
「え……信じてくれるのか?」
「正直、こんな辺鄙な村が戦場になるなんて信じられないけどさ、あたしらを助けてくれた先生の言うことだもん。先生を信じないで誰を信じるって言うのさ」

 村人たちは皆口々に、「信じるよ」「何をすればいい」と、頼もしくもそんな風に声をかけてくれた。

 俺は襲いくる敵を一網打尽にするため、ポセル村の人々に協力を求める。

「そんなことでいいのかい?」
「ああ、俺はみんなを救いたいだけなんだ」
「あんたって人は……泣かせるね」
「痛っ!?」
「大げさだね」

 肩をさする俺を見て、みんな笑っていた。
 ひとまず、これでポセル村の人々は安心だ。

 あとは決戦の時を待つだけ。
 そんな風に考えながら森を歩いていると、ブランキーから緊急のソウルテレパシーが入った。

「どうかしたか?」
『御主人様、敵だにゃ!』
「なっ!?」

 それはまったく予想外の出来事であり、こちらの裏をかいた、完璧な奇襲だった。
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