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第8話 初体験
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「す、すまない! 決して盗み聞くつもりはなかったんだ!」
俺は一にも二にも謝罪した。とんでもないことを聞いてしまった俺は、最悪屋敷から叩き出されることも覚悟していた。
「なんだ、ランスか。驚かせるな」
ところが、俺を認めるなり、彼女の顔からは怒りの色が消えた。
「湯浴みをしていたのか。ちゃんと髪を乾かさなければ風邪を引くぞ」
「え、あっ……」
首にかけていた手拭いを取り、レーヴェンは俺の髪をくしゃくしゃに撫でまわした。
「ちょっ―――!?」
「こら、動くな」
とても優しい口調の「こら」に、俺は「はい」と俯いてしまう。顔に火がついたのかと錯覚してしまうほど、顔が熱くなっていた。
「屋敷で迷ったか?」
「まあ、その……はぃ――!?」
顔を上げると、お人形さんのような彼女の顔が視界を覆う。女性らしい長いまつ毛に縁取られた柘榴色の瞳が、俺を見つめている。その瞳に見つめられると、俺は呼吸さえ忘れてしまう。頭の中が一瞬で真っ白に染まり、目をそらせなくなった。
身長がほぼ同じくらいの俺と彼女、少し顔を近づけたら唇が触れそうな距離にいた。
「ほら、もっとこっちに来ないと後ろを乾かせんだろ」
「―――ひぃっ!?」
引き寄せられた拍子に、彼女の大きな胸と俺の薄い胸板がピタッとくっついた。これまで100回にわたり人生をループしてきた俺だが、この感覚と感触は初体験だった。柔らかくも弾力があり、服の上からでも彼女の体温が直に伝わってくる。そのたびに心臓が今にも破裂してしまうのではないかと思うほど、凄まじい速さで脈を打った。
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まってくれぇッ――――!
ぴったりくっつく彼女の隣にいると、心臓の鼓動がまるで彼女に聞こえてしまうかのように感じ、それがますます恥ずかしさを増幅させ、自分は恥ずかしさのあまりに死んでしまいそうだと思わざるを得なかった。
「……うぅっ」
「ん?」
ようやく密着させていた身体を引き離してくれたと思ったのだが、今度は頬を両手で押さえられ、まさかの頬グイを経験することになる。
「随分と顔が赤いな、のぼせたか? それとも疲れが出てしまったのか。どれ、熱を測ってやろう」
「………っ!?」
前髪を持ち上げ、おでこを合わせるレーヴェン。ゼロ距離に彼女がいる。非常に無防備な顔をしている彼女が…
―――ポッ!!
俺の頭上からは、まるで蒸気機関車のように煙が噴き上がる。もはや限界だった。
「なっ、なんだこの熱はっ!?」
「……ぁっ、うぅぅっ」
「ランス! 気をしっかり持つのだ、ランス!」
も、もうダメだ……。
息をずっと止めていたこともあって、俺は後ろに倒れた。
「ランス! しっかりしろ、ランス!」
「ランス殿っ! お気をたしかに!」
レーヴェンとハーネスの声が遠ざかっていく。
俺の意識はそこでぷつりと途切れてしまった。
俺は一にも二にも謝罪した。とんでもないことを聞いてしまった俺は、最悪屋敷から叩き出されることも覚悟していた。
「なんだ、ランスか。驚かせるな」
ところが、俺を認めるなり、彼女の顔からは怒りの色が消えた。
「湯浴みをしていたのか。ちゃんと髪を乾かさなければ風邪を引くぞ」
「え、あっ……」
首にかけていた手拭いを取り、レーヴェンは俺の髪をくしゃくしゃに撫でまわした。
「ちょっ―――!?」
「こら、動くな」
とても優しい口調の「こら」に、俺は「はい」と俯いてしまう。顔に火がついたのかと錯覚してしまうほど、顔が熱くなっていた。
「屋敷で迷ったか?」
「まあ、その……はぃ――!?」
顔を上げると、お人形さんのような彼女の顔が視界を覆う。女性らしい長いまつ毛に縁取られた柘榴色の瞳が、俺を見つめている。その瞳に見つめられると、俺は呼吸さえ忘れてしまう。頭の中が一瞬で真っ白に染まり、目をそらせなくなった。
身長がほぼ同じくらいの俺と彼女、少し顔を近づけたら唇が触れそうな距離にいた。
「ほら、もっとこっちに来ないと後ろを乾かせんだろ」
「―――ひぃっ!?」
引き寄せられた拍子に、彼女の大きな胸と俺の薄い胸板がピタッとくっついた。これまで100回にわたり人生をループしてきた俺だが、この感覚と感触は初体験だった。柔らかくも弾力があり、服の上からでも彼女の体温が直に伝わってくる。そのたびに心臓が今にも破裂してしまうのではないかと思うほど、凄まじい速さで脈を打った。
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まってくれぇッ――――!
ぴったりくっつく彼女の隣にいると、心臓の鼓動がまるで彼女に聞こえてしまうかのように感じ、それがますます恥ずかしさを増幅させ、自分は恥ずかしさのあまりに死んでしまいそうだと思わざるを得なかった。
「……うぅっ」
「ん?」
ようやく密着させていた身体を引き離してくれたと思ったのだが、今度は頬を両手で押さえられ、まさかの頬グイを経験することになる。
「随分と顔が赤いな、のぼせたか? それとも疲れが出てしまったのか。どれ、熱を測ってやろう」
「………っ!?」
前髪を持ち上げ、おでこを合わせるレーヴェン。ゼロ距離に彼女がいる。非常に無防備な顔をしている彼女が…
―――ポッ!!
俺の頭上からは、まるで蒸気機関車のように煙が噴き上がる。もはや限界だった。
「なっ、なんだこの熱はっ!?」
「……ぁっ、うぅぅっ」
「ランス! 気をしっかり持つのだ、ランス!」
も、もうダメだ……。
息をずっと止めていたこともあって、俺は後ろに倒れた。
「ランス! しっかりしろ、ランス!」
「ランス殿っ! お気をたしかに!」
レーヴェンとハーネスの声が遠ざかっていく。
俺の意識はそこでぷつりと途切れてしまった。
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