悪役令息のやり直し~酷い火傷でゾンビといわれた俺、婚約破棄を言い渡されたけど幸せになってやります

葉月

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第24話 注意、眼を見るな!

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「バジちゃん!」
「へ……?」
バジちゃんだとなんだそのふざけた呼び名はっ!?」

 歓喜の声を上げながら湖へと駆け寄るサシャール先生は、今にも泣き出しそうな顔でバジリスクへと両手を広げている。
 まるで迷子の我が子と再会を果たした母親のようだ。

「リオニス、見てはいけませんわ!」
ちょっとッ何しやがるんだァッ!?」

 いきなりアリシアに抱きつかれたことで、俺はバランスを崩して横転してしまう。
 地面に手をついてバジリスクを確認しようとしたのだけれど、馬乗りになった彼女に両手で顔を挟まれてしまった。

「眼を見たら石にされてしまいますわよ!」
「!?」

 ハッとした俺はバジリスクの特性を思い出していた。
 バジリスクとは蛇の王であり、石眼によって様々なモノを石に変えてしまう特定危険モンスターである。

「(なぜあのような危険モンスターがアルカミアにいるのだ!?)」

 こんな展開は前世の記憶になかった。

「どうやら石化事件の犯人は、あのバジリスクで間違いなさそうですわね!」

 だとしたらサシャール先生は犯人ではないということになるのだが、愛しそうにバジリスクを見上げる先生が無関係だとは思えない。

「たぶん、あのバジリスクはサシャール先生のペットですわ」
ペットモンスターだぞ!?」
「サシャール先生は学校に内緒で特定危険モンスターを飼っていたんですのよ。それが何らかの拍子で逃げ出してしまった。逃げ出したバジリスクは校内で生徒を次々に石に変えていってしまう。そのことに気が付いたサシャール先生は、他の先生方に気付かれる前にバジリスクを見つけ出そうとした。すべては事件の真相を隠蔽するために! これが事件の全容ですわ!」

 名探偵アリシアの推理になるほどと納得させられた次の瞬間――

「(―――なんだ!?)」

 逢魔時に目が覚めるほどの衝撃音が轟いた。

「ゔぅッ……」

 遅れて短いうめき声が聞こえてくる。

「えっ!?」
そんな何がどうなってやがる!?」 

 慌てて起き上がり音の方に顔を向けると、サシャール先生が背中から大木に叩きつけられていた。
 巨木に背を預けた状態でぐったりする先生の体が、徐々に石と化していく。

 バジリスクに吹き飛ばされた拍子に、眼が合ってしまったのだろう。

全然懐いていないではないか間抜けにも程がある! 所詮モンスターはモンスターということかてめぇのペットに弾き飛ばされた上に石にされてりゃ世話がない
「悪態をついている場合ではありませんことよ! こちらに来ますわ!」
これは呪いのせいだ足手まといだすっこんでろ!」
「―――ちょっと!?」

 俺はアリシアを突き飛ばし、突貫してくるバジリスクを引きつけながら走った。

「後ろから来てますわよッ!」
わかってるよ糞ったれっ!」

 振り返り直接バジリスクを確認したい気持ちは山々だが、目が合ってしまえば俺も物言わぬ石像となってしまう。中々に面倒な相手だ。
 しかし、このまま逃げていても埒が明かない。

「(やるしかない!)」

 俺は意を決して地面を蹴り上げ、反撃すべく背中から後ろ向きに跳んだ。

「リオニス!?」
要は目を合わせなければいいのだデカ過ぎる図体が仇となったな!」

 バジリスクの顔面に着地した俺は、素早く魔力吸着を発動させる。そうすることにより魔力が吸盤のような役割を果たし、バジリスクの皮膚と靴底を吸着させる。これで振り落とされる心配はないだろう。

「肉を火薬に血を石油に、骨ごと爆ぜろ―――爆発の剣エクスプロージョン

 俺はすかさず杖剣に魔法をかける。
 すると、刀身は熱を帯びて赤く染まった。
 爆発の剣エクスプロージョンとは文字通り、斬った先から爆発する剣のことである。

「や、やめ……てっ」

 もう殆ど石像となりつつある先生のか細い声が朧気に聞こえた。が、だからといって俺が手心を加えることはない。

 全身全霊ラスボス然とした俺の圧倒的超高速剣術が、バジリスクの背中に炸裂する。

『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

 重々しい響きとともに、バジリスクの全身から黒い煙が一筋薄くなびいていく。同時にバジリスクの巨体が地に沈む。

「アリシア!」

 そこに聞き覚えのある声が響いてくる。
 ふと声の方角へ視線を流せば、アレスがアリシアに駆け寄っていた。

「バジリスクだと!? そうか! そういうことだったのか! しかし、この僕が来たからにはもう何も心配いらないぞアリシア! 僕が相手だバジリスク! せい! やぁッ!! とうっ!!! どんなものだ!!!!」
「………」

 すでに朽ちているバジリスクにやりたい放題のアレス。
 さあれども、髪をかき上げたアレスがアリシアに向かってウインクすると、彼女の顔があっという間に赤く染まってしまう。

「(また例の謎現象かッ!)」

 このままではアリシアが再び鬼畜な主人公の毒牙にかかってしまう。
 何とかせねばと思案する俺は「(ん……なんだあれ?)」アレスの背後に薄っすらと何かを発見した。

「(んん?)」

 目元を擦ってもう一度アレスの背後を凝視すれば、やはりぼんやりとだけど初めて見る種類の精霊が見える。光の輪を頭に浮かべた謎の精霊である。

 そいつがアレスの意思を汲み、オートで眼前のアリシアに魅了チャーム的な魔法をかけていた。

「(あれは精霊の加護!?)」

 精霊の加護とは、人が生まれながらに持ち合わせた才能のことをいう。
 俺が肉眼で精霊を見ることができるのも、精霊から必要以上に愛されるのもすべては生まれ持った才――加護によるところが大きい。

 【恋と魔法とクライシス】の主人公であるアレス・ソルジャーには、異性からモテるための加護が生まれつき付与されていたのだ。

「(異性を魅了する加護か。エロゲの主人公らしい厄介な加護だな)」

 アレスにぴったり憑いている精霊の特徴から判断するに、おそらくあれは光の精霊だろう。

「(だからかっ!)」

 今朝クレアがアレスに言い寄られても魅了されなかったのは、光の精霊による魅了チャームだったからだと考えられる。
 クレアいわく、ダークエルフは光の精霊との相性がいまいちらしいからな。
 もしくは、加護の効果は純粋な人族に限定されたものなのかもしれない。

「(いずれにせよ、あの卑猥な加護精霊を何とかせねば!)」

 【恋と魔法とクライシス】において、プレイヤーが攻略可能なヒロインが人族オンリーだったことも、アレスの加護に関係していたとすれば納得だ。

 そこで俺は造形魔法で瓢箪を作り、続けて鬼魔法金閣銀閣の監禁部屋ネペンテス・トランカータを発動させた。

 金閣銀閣の監禁部屋ネペンテス・トランカータとは、精霊を封じる魔法である。媒体は造形魔法で作った手のひらサイズの瓢箪を使用する。

 この魔法は物などに精霊を宿す際に用意られる、いわゆる職人系の魔法である(本来は精霊を見ることができるようになる魔具を装着した上で執行するのが一般的)。

「アリシアよ、さあ僕の胸に飛び込んで来るがいい! 未練がましい元婚約者に二人の熱い抱擁を見せつけよう!」
「…………」
「……? どうしたんだい、マイハニー?」

 俺は瓢箪をこっそりアレスの背後に向けて、一思いに精霊を吸い込んでやった。

 魅了チャームをかけていた精霊が消えたことで、アリシアにかけられていた魅了チャームも完全に解けた。風呂上がりでのぼせてしまったような顔色も、またたく間に元に戻っていく。

「今はそれどころではありませんわ。リオニス! 大丈夫ですの!」
「ふぁっ!?」

 アレスに憑いていた精霊を瓢箪に閉じ込めたことにより、彼の偽りのモテ男オーラは完全に消滅してしまった。

 俺は悪魔のような精霊を封じた瓢箪を、ポイッと湖に投げ捨てた。
 何処からか強烈な歯軋りが聞こえてきたけど、聞こえない振りをする。

「怪我していますわ」
「あっ、本当だ。どっかで擦りむいたのかな?」
「今手当を致しますわ」
「ありがとう!」
「これくらい当然ですわ。私はリオニスの婚約者なのですから」

 これで何もかも上手くいくと安心した矢先、回復魔法を唱えるアリシアの背後から凄まじい殺気を感じる。

「(げっ!?)」

 アリシアの背後に、今にも俺を呪い殺そうとする男が立っていた。心なしかそいつの周囲に黒い炎のエフェクトが見える、気がした。

 森で獰猛な獣に遭遇した際は、なるべく目を合わせてはいけないと教わったことがある。
 俺がザッと視線を外すと、

「きゃっ!? ちょっと何をしますの、アレス!」
「それはこっちの科白だッ! お前は僕の女だろ! それなのに何で僕じゃなくてこいつを気にかけてんだよ!」
「おい、よせ―――っ!?」
「僕に触るなッ!」

 癇癪を起こしたアレスがアリシアに掴みかかったのを止めようとしたのだが、いつかと同じように突き飛ばされてしまう。

「―――!?」

 尻もちをついてしまった俺の胸ぐらを、般若の面を付けたようなアレスが掴みかかってくる。

「何なんだよお前はッ! ちゃんとシナリオに沿って敵らしくしろよ!」
「は……? ――痛ッ!?」

 聞き捨てならぬ言葉が耳に突き刺さったと思った転瞬、顔に激痛が走った。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「リオニス!? 貴方リオニスに何をしましたの!?」
「ぼ、僕はなにも……」

 突如、俺の顔面を激痛が襲う。
 まるで炎で炙られているような熱と痛みに、俺は堪らずその場で顔を押さえてうずくまった。

 しかし、痛みと熱は一向に引くことはなく激しさを増し、徐々に俺を呼ぶアリシアの声が遠のいていく。

 気がついた時には、俺は意識を手放していた。
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