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第24話 茶会と噂
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今日は学友と親睦を深めるために茶会を開くことにした。
と、言っても、招待状を出した相手はジェネルとシェルバ、それにマーカスとラナだ。
もちろん、レイラにも招待状を出したのだが、来る可能性はかなり低いだろう。
最近のレイラは特に機嫌が悪い。
学園で会っても誰も近づけさせないほどだ。常に眉間に皺を寄せて他を遠ざけている。
ただでさえ気位の高いレイラが般若様のような顔で居れば、誰も近づける者はいない。
俺だって茶会の招待状を手渡す時はかなり緊張した。
だけど、何もアクションを起こさなければ彼女の帝国に対する心象が変わることはない。
恐怖を振り払い招待状を手渡したが、案の定睨まれて終わった。
一応招待状を受け取ってはくれたが、あの御様子だとレイラが今日の茶会に来ることはないだろう。
「おっ、いい感じに仕上がっているじゃないか!」
「オイラもかなり頑張ったんだぞ!」
「お庭でお茶会なんてとても素敵ですね、ジュノス殿下」
うん、本当に素敵だ。
まるで不思議の国のアリスの茶会を彷彿とさせるセッティングは、女の子ならときめいてしまうんじゃないかな。
花瓶に飾られた花は庭先に咲いていたものをレベッカが摘んだのだろう。
彼女のセンスが光っており、嫌味がなくてとても可愛らしい。
「ジュノォォオオオオ!」
「げっ……!?」
会場のセッティングに心を躍らせていると、猪娘ことシェルバちゃんがこちらに向かって突進してくる。
唐突に始まるぶつかり稽古……このイベントだけは回避できないのか、って呑気なことを考えてる場合じゃない!
このままだと突き飛ばされる!
思った時には時既に遅し。
「ぬぉぉおおおおおおおおおおおっ!?」
突き飛ばされて、視界をお星様がクルクル回る。
「おおおお! 茶会に招待してくれるなんて感激だぞ、ジュノス!」
何とか立ち上がると、今度はジェネルが駆け寄って来た。そのまま熱い抱擁に俺の体力が削られる。
ギブギブッ、マジでギブ!
馬鹿力で抱きしめられて体が軋む。このバカは俺を絞め殺すつもりかっ!
「ぜぇぜぇ……し、死ぬかと思った」
つーか、茶会くらいで大袈裟なんだよ!
これから茶会を開く度に、お前達兄妹に突き飛ばされて絞め殺されそうになるのか……先が思いやられる。
「そうかそうか、俺の抱擁が死ぬほど嬉しかったか!」
「んッなわけあるかぁあああああっ!」
この兄妹は凄くいい奴なのだが、如何せん時々バカだ。
ん……? 妙な視線が気になってレベッカの方に視線を移すと、
「ハッ!?」
レベッカがいいな、いいな。
と、言った様子で指を咥えている。
そうか! レベッカは恋をしているのか!
考えてみればレベッカも年頃の娘さんなんだから、恋の一つくらいするよね。
俺はなんてバカなんだ! これまで気づいてあげられなくてごめんね、レベッカ。
だけど、気持ちは確かに受け取った。
ジェネルに恋するレベッカを、おっさんは全力でサポートするぞ!
娘の幸せはおっさんの幸せだからね!
任せてよと、ウインクで応えておく。
――ボッ!
ふふ、おっさんに乙女の秘密を知られて照れている。可愛い奴めっ!
「本日はお招き頂き光栄です、ジュノス殿下」
「まさか帝国の第三王子、ジュノス殿下のお茶会にお招き頂けるなんて、昨日からマーカスと浮かれていたんですよ」
「こちらこそ、突然のお誘いに快く応じてくれて嬉しいよ!」
馬車で駆けつけたマーカスとその婚約者ラナを歓迎していると、どこかで聞き覚えのある声が……。
「まちゃか、またあなちゃにおしゃしょいしゃれるなんて……わたくちにこいをちているのではないでちょうね!」
げっ!?
ななな、なんでチョココルネ……ヘレナちゃんまで来てるんだよ!
咄嗟にどういうことだと2人に目で訴えかけると、マーカスは頭を掻きながら苦笑いを浮かべ、ラナはわざとらしくサッと顔を背けやがった。
「ちょっと、まちゃかえちゅこーとのちかたをわちゅれたのかちら?」
右手を腰に当て、左手でチョココルネを払う悪役令嬢ポーズ。
おーほっほっほっ……と、高笑いをする様は紛うことなき悪役令嬢そのもの。
帰って下さい……なんて失礼なことを言える訳もなく。
仮にそんな言葉を発したら、ヘレナ嬢に何を言われるかわかったものじゃない。
それに、マーカスには先日の革命軍の件で大変世話になった。
今回は我慢するか。
「おい、俺の最高の茶を淹れてやるから早く座れよ!」
「まっ、なんでちゅの……このへんちぇこりんなまにゅけはっ!」
「ん……? なんだお前のその変な喋り方は? こいつも客なのか?」
「ちょっと! なんでちょの、このしちゅれいなおこちゃまは! ふゆかいでちゅわっ!!」
とんでもない者同士が出会ってしまった。
悪役令嬢対元スラムのやんちゃ坊主……睨み合っている。
助けを求めようと兄のマーカスに視線を流すが……知らぬ顔でジェネル達と談笑している。
あの野郎っ! 毎度毎度俺に妹を押し付けやがって!
これどうするんだよ!
「偉そうなガキだな。俺の大嫌いな貴族の典型だな」
「なんでちゅってっ! たちぇばちゃくやくちゅわればぼちゃん、あるくしゅがたはゆりのはなとうちゃわれた……このわたくちにむかってぶれいでちゃわっ! ちょけいなちゃいっ!!」
デジャヴか!?
レイラと初めてあった日にも似たようなことを言われた気がする。
それに……あの時のレイラのように地団駄を踏んでいる。
まさにミニチュア版!?
この2人に構っていては時間の無駄だと判断し、皆を席へと案内した。
身分も国も関係なく、こうやって話し合える友人はいいものだ。
「まちゃか……あなたがおちゃをいれるとおっちゃるの? あなたにいれれるのかちら?」
「ふんっ、オイラの淹れたお茶を一口飲めば、美味しさのあまりワルツを踊ってしまうほどさ!」
「ためちてあげまちてよ!」
おや? 意外と仲良くやっているじゃないか。
年齢も6歳と同じだし、意外と気が合うのかもしれないぞ。
この際、ヘレナちゃんの御守はアゼルに任せるとするか。
決してヘレナちゃんをアゼルに押し付けている訳ではない。
断じて違う。
アゼルだってまだ子供なんだから、同年代の友人は必要だろう。
主としてその辺も考えてやらねばならない。
そう、これはアゼルのためなんだ。
「30てんでちゅわね!」
「なんだと!? 適当なこと言ってんじゃないやい!」
「わたくちはおちゃにはうるちゃくてよ。あなたのおちゃはまだまだでちゅわ。おーほっほっほっ」
「キィーーーッ! なら、お前が淹れてみろよ!」
「あなたはおばかちゃんでちゅの? わたくちはしょのようなことをちないのよ、こうきなわたくちはいれられたものをのむだけでちゅのよ。あなたとはちゅむちぇかいがちがうのでしゅわ、おーほっほっほっ」
うわぁ、アゼルが押されている。
さすが悪役令嬢だな。
「そういえばジュノ! アメストリアのお姫様も誘ったんでしょ? 彼女は来ないの?」
「う~ん、多分ね」
「アメストリアは今それどころじゃないだろうね」
シェルバの問いかけに頷き、レベッカが焼いてくれたクッキーを味わっていると、マーカスが気になることを口にする。
「それどころじゃないって……アメストリアで何かあったの?」
「知らないんですか? 今アメストリアは西風邪が蔓延しているって噂で持ちきりですよ?」
「西風邪?」
そういえば以前、レベッカも似たようなことを言っていたな。
「ここだけの話しですが……アメストリアは何かを隠匿するために西風邪と言っているだけで、実際は全然違うとも言われていますよ」
「違う?」
「ええ、商人の間ではアメストリア国内で災いが起きているともっぱらの噂です。レイラ・ランフェストさんも近頃機嫌が悪いようですし、このことが原因でしょうね」
災い? 一体なんのことだ?
俺がこの世界の歴史を変えてしまったから、一種のパラドックスが起きているのかも知れない。
或いは最初から俺が知らないだけでアメストリアに災いが起きていたのか? それを確かめる術はない。
ないが……気になるな。
俺のバッドエンドに関わることじゃなければいいのだが……それを知るためにはアメストリアに、レイラに直接訪ねるしかない。
だけど、なんて聞けばいいんだろう?
親睦を深め、楽しいはずの茶会は微かな胸騒ぎをこの胸に植えつける結果となった。
と、言っても、招待状を出した相手はジェネルとシェルバ、それにマーカスとラナだ。
もちろん、レイラにも招待状を出したのだが、来る可能性はかなり低いだろう。
最近のレイラは特に機嫌が悪い。
学園で会っても誰も近づけさせないほどだ。常に眉間に皺を寄せて他を遠ざけている。
ただでさえ気位の高いレイラが般若様のような顔で居れば、誰も近づける者はいない。
俺だって茶会の招待状を手渡す時はかなり緊張した。
だけど、何もアクションを起こさなければ彼女の帝国に対する心象が変わることはない。
恐怖を振り払い招待状を手渡したが、案の定睨まれて終わった。
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「おっ、いい感じに仕上がっているじゃないか!」
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うん、本当に素敵だ。
まるで不思議の国のアリスの茶会を彷彿とさせるセッティングは、女の子ならときめいてしまうんじゃないかな。
花瓶に飾られた花は庭先に咲いていたものをレベッカが摘んだのだろう。
彼女のセンスが光っており、嫌味がなくてとても可愛らしい。
「ジュノォォオオオオ!」
「げっ……!?」
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唐突に始まるぶつかり稽古……このイベントだけは回避できないのか、って呑気なことを考えてる場合じゃない!
このままだと突き飛ばされる!
思った時には時既に遅し。
「ぬぉぉおおおおおおおおおおおっ!?」
突き飛ばされて、視界をお星様がクルクル回る。
「おおおお! 茶会に招待してくれるなんて感激だぞ、ジュノス!」
何とか立ち上がると、今度はジェネルが駆け寄って来た。そのまま熱い抱擁に俺の体力が削られる。
ギブギブッ、マジでギブ!
馬鹿力で抱きしめられて体が軋む。このバカは俺を絞め殺すつもりかっ!
「ぜぇぜぇ……し、死ぬかと思った」
つーか、茶会くらいで大袈裟なんだよ!
これから茶会を開く度に、お前達兄妹に突き飛ばされて絞め殺されそうになるのか……先が思いやられる。
「そうかそうか、俺の抱擁が死ぬほど嬉しかったか!」
「んッなわけあるかぁあああああっ!」
この兄妹は凄くいい奴なのだが、如何せん時々バカだ。
ん……? 妙な視線が気になってレベッカの方に視線を移すと、
「ハッ!?」
レベッカがいいな、いいな。
と、言った様子で指を咥えている。
そうか! レベッカは恋をしているのか!
考えてみればレベッカも年頃の娘さんなんだから、恋の一つくらいするよね。
俺はなんてバカなんだ! これまで気づいてあげられなくてごめんね、レベッカ。
だけど、気持ちは確かに受け取った。
ジェネルに恋するレベッカを、おっさんは全力でサポートするぞ!
娘の幸せはおっさんの幸せだからね!
任せてよと、ウインクで応えておく。
――ボッ!
ふふ、おっさんに乙女の秘密を知られて照れている。可愛い奴めっ!
「本日はお招き頂き光栄です、ジュノス殿下」
「まさか帝国の第三王子、ジュノス殿下のお茶会にお招き頂けるなんて、昨日からマーカスと浮かれていたんですよ」
「こちらこそ、突然のお誘いに快く応じてくれて嬉しいよ!」
馬車で駆けつけたマーカスとその婚約者ラナを歓迎していると、どこかで聞き覚えのある声が……。
「まちゃか、またあなちゃにおしゃしょいしゃれるなんて……わたくちにこいをちているのではないでちょうね!」
げっ!?
ななな、なんでチョココルネ……ヘレナちゃんまで来てるんだよ!
咄嗟にどういうことだと2人に目で訴えかけると、マーカスは頭を掻きながら苦笑いを浮かべ、ラナはわざとらしくサッと顔を背けやがった。
「ちょっと、まちゃかえちゅこーとのちかたをわちゅれたのかちら?」
右手を腰に当て、左手でチョココルネを払う悪役令嬢ポーズ。
おーほっほっほっ……と、高笑いをする様は紛うことなき悪役令嬢そのもの。
帰って下さい……なんて失礼なことを言える訳もなく。
仮にそんな言葉を発したら、ヘレナ嬢に何を言われるかわかったものじゃない。
それに、マーカスには先日の革命軍の件で大変世話になった。
今回は我慢するか。
「おい、俺の最高の茶を淹れてやるから早く座れよ!」
「まっ、なんでちゅの……このへんちぇこりんなまにゅけはっ!」
「ん……? なんだお前のその変な喋り方は? こいつも客なのか?」
「ちょっと! なんでちょの、このしちゅれいなおこちゃまは! ふゆかいでちゅわっ!!」
とんでもない者同士が出会ってしまった。
悪役令嬢対元スラムのやんちゃ坊主……睨み合っている。
助けを求めようと兄のマーカスに視線を流すが……知らぬ顔でジェネル達と談笑している。
あの野郎っ! 毎度毎度俺に妹を押し付けやがって!
これどうするんだよ!
「偉そうなガキだな。俺の大嫌いな貴族の典型だな」
「なんでちゅってっ! たちぇばちゃくやくちゅわればぼちゃん、あるくしゅがたはゆりのはなとうちゃわれた……このわたくちにむかってぶれいでちゃわっ! ちょけいなちゃいっ!!」
デジャヴか!?
レイラと初めてあった日にも似たようなことを言われた気がする。
それに……あの時のレイラのように地団駄を踏んでいる。
まさにミニチュア版!?
この2人に構っていては時間の無駄だと判断し、皆を席へと案内した。
身分も国も関係なく、こうやって話し合える友人はいいものだ。
「まちゃか……あなたがおちゃをいれるとおっちゃるの? あなたにいれれるのかちら?」
「ふんっ、オイラの淹れたお茶を一口飲めば、美味しさのあまりワルツを踊ってしまうほどさ!」
「ためちてあげまちてよ!」
おや? 意外と仲良くやっているじゃないか。
年齢も6歳と同じだし、意外と気が合うのかもしれないぞ。
この際、ヘレナちゃんの御守はアゼルに任せるとするか。
決してヘレナちゃんをアゼルに押し付けている訳ではない。
断じて違う。
アゼルだってまだ子供なんだから、同年代の友人は必要だろう。
主としてその辺も考えてやらねばならない。
そう、これはアゼルのためなんだ。
「30てんでちゅわね!」
「なんだと!? 適当なこと言ってんじゃないやい!」
「わたくちはおちゃにはうるちゃくてよ。あなたのおちゃはまだまだでちゅわ。おーほっほっほっ」
「キィーーーッ! なら、お前が淹れてみろよ!」
「あなたはおばかちゃんでちゅの? わたくちはしょのようなことをちないのよ、こうきなわたくちはいれられたものをのむだけでちゅのよ。あなたとはちゅむちぇかいがちがうのでしゅわ、おーほっほっほっ」
うわぁ、アゼルが押されている。
さすが悪役令嬢だな。
「そういえばジュノ! アメストリアのお姫様も誘ったんでしょ? 彼女は来ないの?」
「う~ん、多分ね」
「アメストリアは今それどころじゃないだろうね」
シェルバの問いかけに頷き、レベッカが焼いてくれたクッキーを味わっていると、マーカスが気になることを口にする。
「それどころじゃないって……アメストリアで何かあったの?」
「知らないんですか? 今アメストリアは西風邪が蔓延しているって噂で持ちきりですよ?」
「西風邪?」
そういえば以前、レベッカも似たようなことを言っていたな。
「ここだけの話しですが……アメストリアは何かを隠匿するために西風邪と言っているだけで、実際は全然違うとも言われていますよ」
「違う?」
「ええ、商人の間ではアメストリア国内で災いが起きているともっぱらの噂です。レイラ・ランフェストさんも近頃機嫌が悪いようですし、このことが原因でしょうね」
災い? 一体なんのことだ?
俺がこの世界の歴史を変えてしまったから、一種のパラドックスが起きているのかも知れない。
或いは最初から俺が知らないだけでアメストリアに災いが起きていたのか? それを確かめる術はない。
ないが……気になるな。
俺のバッドエンドに関わることじゃなければいいのだが……それを知るためにはアメストリアに、レイラに直接訪ねるしかない。
だけど、なんて聞けばいいんだろう?
親睦を深め、楽しいはずの茶会は微かな胸騒ぎをこの胸に植えつける結果となった。
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