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6:思いもよらぬ接点
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「ああ、美味しかった。やっぱり千代さんの手料理は格別だね」
食事を終えた朝霧の父が満足げに言った。
「旦那さまに、そんな風に言って頂けるなんて光栄ですわ」
食後のコーヒーを運びながら千代も嬉しそうに微笑んでいる。
「本当ならね、毎日こうして伊織くんと一緒に千代さんの手料理を食べられたら、こんなに幸せなことはないんだけどね」
差し出されたカップを「ありがとう」と、受け取りながら朝霧父は感慨深げに言った。
その時、今まで聞き役に回っていた朝霧が静かに口を開いた。
「仕事…忙しいみたいですね」
「ん?ああ、まあそうだね。どうしても医療以外の余計な仕事が山積みでね。外出したり遅くまで掛かってしまうものが多いので、なかなか家に帰って来れなくて…。伊織くんには本当に申し訳ないと思っているよ」
「…別に、それは…」
何か言いたげながらも口を噤んでしまう朝霧に、父は微笑みを浮かべる。
「実際、性に合ってないんだなぁとつくづく実感しているよ。僕は病院経営に関わるような器じゃない。まぁ引き継いでしまった以上は責任もってやるけどね」
「………」
「もう、こういうのはさ…。今時世襲制でやっていくのは苦しい時代なんだと思う。僅かながら経営に携わって行くのは良いとしても全てを家で引き継いでいくのは、流石に難しいよね」
僅かに肩をすくめると苦笑を浮かべた。
食事を終えた朝霧の父が満足げに言った。
「旦那さまに、そんな風に言って頂けるなんて光栄ですわ」
食後のコーヒーを運びながら千代も嬉しそうに微笑んでいる。
「本当ならね、毎日こうして伊織くんと一緒に千代さんの手料理を食べられたら、こんなに幸せなことはないんだけどね」
差し出されたカップを「ありがとう」と、受け取りながら朝霧父は感慨深げに言った。
その時、今まで聞き役に回っていた朝霧が静かに口を開いた。
「仕事…忙しいみたいですね」
「ん?ああ、まあそうだね。どうしても医療以外の余計な仕事が山積みでね。外出したり遅くまで掛かってしまうものが多いので、なかなか家に帰って来れなくて…。伊織くんには本当に申し訳ないと思っているよ」
「…別に、それは…」
何か言いたげながらも口を噤んでしまう朝霧に、父は微笑みを浮かべる。
「実際、性に合ってないんだなぁとつくづく実感しているよ。僕は病院経営に関わるような器じゃない。まぁ引き継いでしまった以上は責任もってやるけどね」
「………」
「もう、こういうのはさ…。今時世襲制でやっていくのは苦しい時代なんだと思う。僅かながら経営に携わって行くのは良いとしても全てを家で引き継いでいくのは、流石に難しいよね」
僅かに肩をすくめると苦笑を浮かべた。
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