【完結】眠り姫は夜を彷徨う

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
92 / 95
エピローグという名の日常

9-3

しおりを挟む
「好きな…きもち…?」


呆然と呟く紅葉に、圭は「うん」と小さく頷いた。

「今回のことで、もっとちゃんと自分の想いを言葉にしないと駄目なんだなって痛感した。今までは…僕と紅葉の関係は、余程のことがない限り現状が変わることはないと思っていたんだ。良い意味でも悪い意味でも」

「…悪い意味も、あるの?」

紅葉が不安気に聞き返すと、圭は眉を下げて笑った。

「そうだね、僕にとっては…だけどね」

「圭ちゃんに、とって?」

「良い意味では幼馴染みであり、家が隣同士で、まるで兄妹みたいな今の関係が続くということ。でも、逆に悪い意味では…それ以上の関係にはなれないということ、かな」

「圭ちゃん…」

「僕はずっと…紅葉のことが好きだったんだ」

「……っ…」

さらっと大事なことを言われて、その意味を頭で理解するのと同時に一気に頬へと熱が集中する。そんな紅葉を真っ直ぐに見つめながらも圭は続けた。

「でも、僕は紅葉と一緒に過ごせる時間が少なからずある今の、この現状を手放すことだけはしたくなかった。下手に想いを伝えて紅葉に嫌われてしまったら今の関係さえ壊れてしまうかも知れない。そう考えたら、特に進展を急ぐ必要なんてないんじゃないかって思っていたんだ。でも…」

一旦、区切って息をつくと。圭は再び口を開いた。

「本当は、今のこの関係さえ維持出来る確証なんて何処にもないんだってことに気付いた。桐生さんと笑い合ってる紅葉を見掛ける度に、いつだっていたたまれない気持ちになったよ。自分は何も想いを口に出来なかった癖に、一丁前に嫉妬したんだ」

「圭ちゃん…」

「そんな中で紅葉とも暫くまともに会えない日が続いて…。あんなに会わなかった日が続いたことって今までなかったよね?」

「そう、だね…。なかったかも…」

それ位、二人はいつも一緒だったから。紅葉が頷くと圭も納得したように小さく頷いた。

「正直、あれがもう少し続いたら僕はどうにかなっていたかも知れない」

今度は独り言のようにそう言って僅かに空を仰ぐと、当時を思い出しているのか痛々しそうに遠くを見つめた。

「紅葉がいない景色に慣れてないんだ。いつも…本当にいつも一緒だったから。学校でクラスが違って会う機会がなくても、朝一番に紅葉の笑顔を一目でも見られれば、僕はいつも通り過ごすことが出来た。…なんて、こんなの紅葉にとっては迷惑な話かも知れないけどね」

そう言って困ったような笑みを浮かべる圭に、紅葉がたまらず声を上げた。頬が熱かった。きっと、真っ赤に染まっているに違いないと頭の片隅で思った。

「迷惑なんてっ。そんなのある訳ないっ!そんなのっ…私だっておんなじだもんっ」

「紅葉…」

「こないだのは、幼馴染みだからって圭ちゃんの優しさに甘えてるって指摘されて。自分でも自覚はあったし、このままじゃ駄目かなって思ったからっ…。でも、私だって圭ちゃんと一緒にいたかったよ。圭ちゃんと磯山さんがいつも一緒に歩いてるのを見て、私…寂しか…っ…」

声が詰まる。

涙が出そうだった。


圭ちゃんの言葉がたまらなく嬉しくて。



道端で二人向き合って。

自転車を片手に支えながら、涙を堪える私をそっと慰めてくれる圭ちゃんに改めて言われた言葉。


「僕は、紅葉のことが好きだよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...