上 下
87 / 95
君のために出来ること

8-14

しおりを挟む
「俺はただ情報提供をしただけなのに、先輩ってば本気で怒りだすんだもん。とんだとばっちりを食らっちゃいましたよ」

立花が苦笑を浮かべる。

「そりゃ、当然だろ?あんだけ如月のことを『大切です』アピールしといて、実は他の女と…なんて耳を疑うっつーの」

「…って言われても…。それ自体俺のせいでも何でもないんですけどね…」

隣で立花が小さくぼやいていたが、それをスルーして桐生は続けた。

「だが、脅しとはな。穏やかじゃねぇよなァ?嬢ちゃん」

口調は普段通りで口元は変わらず緩やかな上向きの曲線を描いているが、目が笑っていない。

(こ…怖い…)

素で睨みを利かせている時とはまた違った怖さだった。

隣にいる立花は勿論のこと、紅葉と圭もその桐生の眼力に思わず顔を引きつらせたが、ただ一人。香帆にはその圧力は伝わらなかったようだ。

突然現れた、校内でも知らぬ者などいない人気の先輩コンビの登場に驚きはしたものの、強気の態勢は崩さない。

「人聞きの悪いこと言わないでくださいっ。これは立派な取引なんだからっ」

開き直るように言い返してきた香帆に立花が再び苦笑を浮かべた。

「いやいや、弱みに付け込んでる時点で脅しでしょ。第一、そんな風に条件付きで本宮くんに傍にいて貰って、キミは楽しいのかい?」

「楽しいわよっ!だって、好きなんだものっ。好きな人が自分のものになるんだったら何だってやってやるわっ!」

半ばキレ気味の香帆に。桐生は溜息を吐くと憐れみの目で見つめた。

「それで…?だからって本宮と仲の良い如月を妬んで、わざと狙ってボール投げたりすんのかよ?」

「っ!!」

「え…?ボール…?」

思わぬところで自分の名が出てきて紅葉は目を丸くした。が、何のことを言っているのか分からず思わず首を傾げてしまう。その間にも香帆を中心に、会話はどんどん進んでゆく。

「ひっ…人聞きの悪いこと言わないでって言ってるでしょうっ!?私が、いつそんなこと…っ…」

バレることが怖いのか、圭の顔をチラチラと伺いながら狼狽える香帆に、桐生は腕を組んで再び溜息を吐いた。

「誤魔化しても無駄だ。オレは、この目でしっかり見てたんだからな。ま、ここでチクるのは簡単だが、アンタだってこれ以上惨めな思いはしたくねぇだろ?色々暴露される前に、ここらで身を引いた方が賢明なんじゃねぇのか?」

呆れた様子で諭されて、香帆はふるふると身を震わせた。最初は狼狽えていただけだったのが、次第に怒りを蓄積していくように全身に力を込めて俯いていく。そうして、発せられた言葉は普段の声のトーンよりも随分と低いものだった。

「…なによ。みんなしてこの子を庇ったりして。今更なのよ。どんなに誤魔化したって、この子が掃除屋だっていう事実は変わらないんだからっ」

唸るように呟くと、香帆は顔を上げた。早々に吹っ切れたのか、あるいは何かを企んでいるのか、口元には再び笑みを浮かべている。

「ねぇ、知ってる?如月さん。地元のヤクザがね、掃除屋の正体を掴もうと動き出してるらしいの。それでね、もうあなたが掃除屋だってことは、すっかり知られちゃってるみたいよ?」

まるで勝ち誇ったように人の悪い笑顔を紅葉に向けてくる香帆に。皆の目が点になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。

みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』 俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。 しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。 「私、、オバケだもん!」 出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。 信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。 ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

亡き少女のためのベルガマスク

二階堂シア
青春
春若 杏梨(はるわか あんり)は聖ヴェリーヌ高等学校音楽科ピアノ専攻の1年生。 彼女はある日を境に、人前でピアノが弾けなくなってしまった。 風紀の厳しい高校で、髪を金色に染めて校則を破る杏梨は、クラスでも浮いている存在だ。 何度注意しても全く聞き入れる様子のない杏梨に業を煮やした教師は、彼女に『一ヶ月礼拝堂で祈りを捧げる』よう反省を促す。 仕方なく訪れた礼拝堂の告解室には、謎の男がいて……? 互いに顔は見ずに会話を交わすだけの、一ヶ月限定の不思議な関係が始まる。 これは、彼女の『再生』と彼の『贖罪』の物語。

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

処理中です...