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いらだち

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明らかに動揺している。だが彼の動揺は、こうして問い詰められていることそのものにではなく、彼女のその『行動』に対してのように見える。

「もしかして、本宮くんも彼女が『掃除屋』として活動していることを最近まで知らなかった…ということかい?彼女はそんなことをするような子じゃないと。君は、そう信じたいんだろう?」

「……っ…」

目を見張って黙り込む彼の様子に、それがあながち外れていないことを知る。

「本宮くん、悪いようにはしない。約束するから、彼女がいったい誰なのか…。それだけでも教えて貰えないかな?」

「そ、れは…っ…」

彼は眉を下げると俯いてしまったが、暫くして何か意を決したように歯を食いしばると、こちらに強い視線を向けてきた。

「ごめんなさい。言いたくないですっ。僕は彼女の『仲間』ではないけど、彼女を庇っていると思われるなら、それでも構いません。立花さんには申し訳ないですけど、僕から彼女について話せることは何もありませんっ」

「本宮くん…」

強い意志を宿した瞳。

彼はこんな顔も出来るのか。そう思える程に普段の柔らかく、どこか幼いイメージと違い、しっかりとした男らしい返答だった。

「失礼しますっ」

そう頭を下げ、立ち去ってゆく彼の後姿を無言で見つめる。

(成る程。君にとって彼女は、それだけ大切な子だという訳だ…)

それが分かっただけでも、ある意味収穫だと口の端を上げた。

彼の周辺を調べてみれば、遠かれ近かれ何処かで彼女に繋がることが約束されたも同然なのだから。



(まだ詳しくは調査中だけど…)

彼の家族構成から親類関係。そして友人関係など現在情報収集をしているところだ。

隣に視線を向ければ、未だに桐生は友人と話が弾んでいるようだった。

(本当は桐生さんにも話しておいた方がいいんだろうけど…)

実を言うと、あの夜撮った画像をその場で見せはしたものの、写っていた彼について心当たりがあるということを桐生には黙っていた。実際、被写体はとても小さく、拡大してもハッキリとした人相は判らない。その為、自ら確認を取るまでは余計なことは伏せておくことにしたのだ。

(まあ、本宮くんであることは確定した訳だけど…。でも、それを言っちゃうと桐生さん、あの子のこと力づくでも問い詰めちゃいそうだもんなァ)

流石にそれは気の毒な気がした。

(桐生さんを狼に例えるなら本宮くんは、さながら子羊ちゃんだよな)

獰猛な狼に襲い掛かられる可哀想な震える子羊を頭の中で想像して、その哀れな図に小さく首を振った。とりあえず、このまま彼の周辺を調べ、尚且つ彼自身の動向を監視する程度に留めておくことにする。


「よう」


再び挨拶を交わす桐生の声が横から聞こえてきて、立花は何気なく視線を向けた。

(ああ、あの子は…)

桐生の向こうに、声を掛けられて頭を下げている女子の姿が目に入った。最近、校内で桐生と話しているのをよく見掛ける、今どきちょっと珍しいタイプの子だ。

(桐生さんが思いのほか笑顔だし…。こういう光景もある意味、珍しいよな)

お下げの三つ編みに分厚い眼鏡。いかにも真面目そうな子だ。桐生の好みがこういう子だということは絶対…とは言えなくてもほぼ皆無で、前に聞いたときも逆に苦手なタイプだとハッキリ言い切っていたのに。

(不思議なんだよな…)
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