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追う者・追われる者

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(それにしても…)

圭は未だに混乱している頭の中を整理しながら自転車を漕ぐ足に力を込める。

(紅葉が例の掃除屋って…本当なんだろうか?)

最近、何かと噂になっている人物で、街に集まって来たワルを片っ端から片付けて行くことから『掃除屋』と呼ばれているらしい。

確かにさっき紅葉も溜まっていたガラの悪い連中をやっつけてはいたけれど。

(紅葉が…だなんて、にわかには信じられない…)

紅葉の柔らかな笑顔が目に浮かぶ。普段の紅葉は自ら相手に危害を加えるようなことは絶対にしない。それだけは胸を張って言える。

(でも、もしも紅葉が掃除屋なら今日みたいなことが頻繁に行われているということになる)

普段から夜の街へと日々繰り出していることになるのだ。

(そんなことって…。それに夢遊病も明らかに前より症状が悪化してるじゃないかっ)

日にち的なこともそうだが、何より駅前までの長い道のりを本人の意識のない状態で歩き回るなんて、どう考えても普通じゃない。

もともと紅葉の夢遊病に関しては謎なことが多かったが、ここまで来ると夢遊病と言うよりは紅葉の中に別の人格があって、それが夜になると表に出てきて動き回っているのではないかという恐ろしい考えまでもが浮かんでくる。

だいたい紅葉本人は、このことを把握しているんだろうか?

(っていうか、本当にあれで眠ってるなんて…信じられない。それに、夜な夜なあんなに暴れまわって紅葉の身体の方は大丈夫なんだろうか?)

怪我なども勿論心配だが、身体だって休まらないに違いない。

(もしかして…最近、紅葉が急に変わったのも、このことと何か関係があったりするんだろうか?)

夜な夜な動き回っている分身体の疲れが取れず、普段通り起きることが出来なくて、いつもの家を出る時刻に間に合わない、とか?

そんな考えが一瞬頭を過ぎって。

単に自分は、最近の紅葉の変化について何か理由を付けたいだけなのだと改めて思った。自分に都合の良い、言い訳が欲しいだけなのだ。

自分と紅葉の間には、特に仲を違えるような出来事は何もない。だから、今は色々な偶然が重なっているだけで、紅葉が敢えて自分を避けている訳ではないのだと信じたいのだ。

(女々しいな、僕は。今は、そんなことを言ってる場合じゃないのに)

紅葉にとって夢遊病は、他人には知られたくないトップシークレットだ。騒ぎが大きくなって足が付く前に、何とかして連れ戻してあげたい。

それに彼らには、あれが紅葉だとはまだ気付かれてない様子だった。正体がバレてない今なら何とかなる。

(でも、桐生さんと紅葉は顔見知りなんだ。いつバレたっておかしくない。桐生さんに追いつかれる前に何とかしないと…)

紅葉の足が早いのは知っている。だが、男と比べたら幾ら何でも無理があるだろう。

(それに、あの人運動神経良さそうだし。何より、強そうだ…)

あくまでもイメージではあるが、桐生という男は喧嘩慣れをしてそうな少々危なげな雰囲気を纏っているのだ。それこそが彼をワルっぽく見せてしまっている所以ゆえんなのだろう。そして、それがまたミステリアスな魅力を倍増させているのだ。
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