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追う者・追われる者

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駅周辺の街並みは、昼間の賑やかな雰囲気とは一変し、日暮れと共に不穏な空気を醸し出し始める。

人々の生活感溢れる商店街なども近くには点在しているものの、多くの店の閉店時間は比較的早く、気付けば歩く人もまばらといった感じであった。

そして、夜の十時を過ぎる頃になると、駅に面した比較的大きな通り沿いなどは帰路を急ぐ者や周辺にある塾などを利用している者の通行が多少見られるものの、少し奥まった場所へと踏み込めば、そこは悪の溜まり場『危険地帯』と化しているのだ。


既にそんな時刻を回ろうとする頃。桐生は、若干まだ人通りのある駅前の片隅で一人周囲を見渡していた。

勿論、余計な輩に絡まれないようにとの警戒心もあるにはあるが、実はただ人を待っているだけだ。

(そろそろ出て来る頃だな…)

通り向かいにある、わりと名の知れた予備校のビルは未だ煌々と明かりが灯っている。多くの生徒たちがまだ中にいるのだろう。待ち人もその中の一人だ。

この辺りには幾つか大きな塾が競うように存在しているが、その中でもここが一番の生徒数を誇っているらしい。そして、レベルも最高クラスと聞いている。

(こんな時間までお勉強とは…。ご苦労なこったな)

自分には縁のない、ある意味関わりたくもない場所である。

そんな場所から、授業が終わったのか多くの生徒たちが出て来た。

それらの群れに何気なく視線を彷徨わせていると、その中の一人がこちらへ向かって来るのが見える。車通りがないのを確かめると、ガードを超えて渡って来た。

「桐生センパイ」

それは後輩の立花であった。

「お待たせしてしまいましたか?すみません」

相変わらずの気使いに思わず笑いが漏れる。

「別に構わねぇよ。オレが早めに着いてただけだ。でも、お前もこんなに遅くまで大変だな。オレなら耐えられねぇわ」

すると、立花はにこやかに応えた。

「まあ、俺の場合はコレのお陰で夜の外出は割とルーズなので。逆に上手く利用させて貰ってます」

しれっと、そんなことを言うコイツは見掛けによらずなかなかの大物だ。

「立花…。お前、流石だな」

「お褒めにあずかり光栄です」

そうして二人して笑い合うと、どちらからともなく歩き出した。




「やはり、結構な数が集まって来てるんだな」

二人物陰に隠れながら、裏通りにたむろしている集団を見やった。薄暗い路地には十数人の見るからにチンピラ風な男たちが道路やガードに腰掛けて、何をするでもなく溜まっている。

「最近は『掃除屋』効果でどんどん色んなのが集まって来てますよ。自分らの手で噂の奴を仕留めてやるんだって躍起になってるんです」

「へぇ。何だかんだでしっかり有名人なんだな。だが、逆に奴が現れたことでうるせぇのがもっと集まって来るんじゃ意味がねぇよな。で…今夜も奴は来ると思うか?」

「そうですね。最近は比較的遅めの時間なんですが、このところ毎日現れてますからね。来る確率は高いと思いますよ」

「へぇ」

何処で仕入れて来るのか分からないが、立花の情報収集力は流石だ。毎回頭が下がる。

「そんじゃあ今日こそ、その噂の『掃除屋』とやらの顔を拝見させて貰うとするか」

桐生は不敵な笑みを浮かべた。
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