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思惑と葛藤

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「えー…と…」

あまりにもサラッと笑顔でそんなことを言われてしまい、紅葉は思わず混乱した。が…。

(それって、つまり…結局は狙ってやったってことだよね?)

流石に鈍い自分にだって、それ位は分かる。

それに何より彼女は笑顔を浮かべてはいるが、目が…何ていうか、敵意剥き出しなのだ。

でも、そんなに彼女をイラつかせるようなことを自分はしているのだろうか?

(タカちゃんから磯山さんは圭ちゃんのことを好きらしいとは聞いていたけど…。でも…)

そんなに恨みを買うようなことはしていない筈だ…と思う。


だが、そんな紅葉を他所に彼女は言葉を続けた。

「あなた、自分がどれだけ図々しいか分かってないって顔ね。自分の行いがどれだけ人を不快にさせてるか理解してないのね」

「人を…不快に…?」

「そうよ。可哀想だから教えてあげる。あなたのせいで本当は迷惑している人のこと」





キーンコーンカーンコーン…


校舎内に鳴り響く授業開始のチャイム。

それが鳴り止むギリギリのところで紅葉は教室へと何とか駆け込むと、自分の席へと着いた。丁度そのタイミングで教師が教室へと入って来る。

(良かった。間に合った…)

自然な動作で着替えの入ったバッグを机の横に掛けると、教科書やノート類をすぐに準備する。

遅くなったことを気に掛けてくれていたのか、教室に入った時にタカちゃんと目が合ったけれど普段と変わらぬ表情を貫けたと思う。


そう。本当は、すごく動揺していた。

彼女の…。磯山さんの言葉に。




『え…?圭ちゃんが?』

『そう。あなた…本宮くんと毎日途中まで一緒に学校に来てるけど、本当は特に待ち合わせとかしているワケじゃないんですってね?たまたま出る時間が一緒になるだけだって本宮くんは言ってたけど、でも本当はただの偶然なんかじゃないんじゃないの?』

『どういう…意味?』

『あなたが敢えてその時間を狙ってるんじゃないの?って言ってるのよ。偶然を装って、本宮くんが優しいのを良いことにそういう現状に甘えてる。そういうとこが何より図々しいって言ってるの』


(痛いとこ突いてくるよなぁ…)


授業を受けながら、先程の磯山さんとの会話を思い出す。

彼女の言葉に私は何も言えなかった。だって私は、本当に圭ちゃんの家を出る時刻に合わせて自分も家を出ていたのだから。

自分的には他の友人達と会うまでの僅かな道のりであっても、その少しの時間ぐらいは圭ちゃんと共有したいなって思っていただけだったのだけど。

いつものように、ただ「おはよう」って挨拶を交わして。

でも、それが圭ちゃんに迷惑掛けていたのかな…?


『そもそも如月さんは本宮くんのこと、どう思ってるの?本宮くんはあなたのこと、ただの幼なじみだって言ってたけど?』

『私は…。私にとっても圭ちゃんは、幼なじみ…だよ』

でも、それだけじゃない。とっても大切で、まるで家族のような存在。


(でも、言えなかった)


『もう小さな子どもじゃないんだからさ、そういうの止めたら?昔からの腐れ縁に付き合わされる本宮くんの身にもなってみなよ。あと、高校生の男の子にその「ちゃん」付けもないって。可哀想だよ』
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