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思惑と葛藤
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「そ。あのコが今、本宮くんに猛烈アピール中の性悪女。磯山香帆その人よっ」
「タカちゃん…」
声が大きいよ、と慌てて「シーッ」と唇の前に人差しを押し当てた。でも、タカちゃんは全く気にせぬ素振りで肩をすくめて見せる。
「別に聞こえても構わないわよ。私、あのコのこと好きじゃないもの」
と本音を隠すことなく言いきった。
(タカちゃんのそういうとこ、凄いなぁって思うけど…)
別に嫌いな者は全て敵…と割り切りたい訳ではないけれど、嫌なことを嫌だと言える部分は自分にはないもので。
そういう意思の強さや潔さみたいなものを持っているタカちゃんには、いつだって尊敬や憧れのようなものを少なからず抱いてしまう。
(それでも、やっぱりみんなが仲良くいられる方が良いけど…)
それこそ、己の知らぬところで他人に恨まれ疎まれ攻撃を受けるなんてことは正直精神的にはキツイ。実際には、こちらにそんなことをされるいわれはないのだけれど。
(もしも本当にあのボールが狙って投げられたものだとしたら…)
怒りよりは悲しみ、ショックの方がどうしても大きいのだ。
制服に着替え終わり脱いだ体操服を畳んでいると、
「あっ!次の時間、英語だよねっ?私、辞書忘れちゃったんだっ。借りに行かなくちゃだから紅葉、先行ってるねっ」
「はーい」
バタバタと荷物を抱えて更衣室を後にするタカちゃんを見送り、体操服をバッグへとしまうと、少しほつれてしまった三つ編みを直していた。
すると、周囲には殆ど人がいなくなってしまった。
慌てて身支度を整えて自分も更衣室を出ようとした、その時。
「如月さん」
突然、後ろから声を掛けられ驚き立ち止まった。
振り返ると、そこには先程顔を覚えたばかりの隣のクラスの少女が一人立っていた。
「えーと…。磯山、さん?」
だったよね?
さっき、タカちゃんとあんな話をしていただけに少々気まずい。それに敵対意識を持たれているかも知れないと思うと、心なしか緊張してしまう。
彼女は小さく頷くと笑顔で口を開いた。
「さっきはごめんなさい。急にあんなボールが飛んで来たら…流石に驚かしちゃったよね?」
意外にもしおらしく謝りを入れてきた彼女に、紅葉は目を丸くした。
「えっ?…あ、ううん。大丈夫だよっ。ビックリしたけど頭とかには当たらないで済んだし…」
(もしかして…わざわざ謝るために待っててくれたのかな?)
周囲にはもう他に誰の姿もなく、自分たちの声だけが更衣室内に響いている。
本当はタカちゃんが言うほど悪い人じゃないのかも。そう思い始めていた時、彼女の表情に変化が見られた。
「ほーんと。悪運だけは強いよね、如月さんて」
「…えっ?」
思わず耳を疑うような台詞が聞こえて来て反射的に聞き返したものの、彼女は普通に笑顔を浮かべていた。
「あ、ううん。何でもなーい。こっちのハナシ」
「………」
「でもね、ボールを投げたのはワザとじゃないのよ。それだけは信じて。ただ…、私って昔から自分の立場を理解してないKYな子を見ると許せないんだ。そうすると、つい…自然と手が出ちゃうことがあるのよね。自分の無意識下で、さ」
「タカちゃん…」
声が大きいよ、と慌てて「シーッ」と唇の前に人差しを押し当てた。でも、タカちゃんは全く気にせぬ素振りで肩をすくめて見せる。
「別に聞こえても構わないわよ。私、あのコのこと好きじゃないもの」
と本音を隠すことなく言いきった。
(タカちゃんのそういうとこ、凄いなぁって思うけど…)
別に嫌いな者は全て敵…と割り切りたい訳ではないけれど、嫌なことを嫌だと言える部分は自分にはないもので。
そういう意思の強さや潔さみたいなものを持っているタカちゃんには、いつだって尊敬や憧れのようなものを少なからず抱いてしまう。
(それでも、やっぱりみんなが仲良くいられる方が良いけど…)
それこそ、己の知らぬところで他人に恨まれ疎まれ攻撃を受けるなんてことは正直精神的にはキツイ。実際には、こちらにそんなことをされるいわれはないのだけれど。
(もしも本当にあのボールが狙って投げられたものだとしたら…)
怒りよりは悲しみ、ショックの方がどうしても大きいのだ。
制服に着替え終わり脱いだ体操服を畳んでいると、
「あっ!次の時間、英語だよねっ?私、辞書忘れちゃったんだっ。借りに行かなくちゃだから紅葉、先行ってるねっ」
「はーい」
バタバタと荷物を抱えて更衣室を後にするタカちゃんを見送り、体操服をバッグへとしまうと、少しほつれてしまった三つ編みを直していた。
すると、周囲には殆ど人がいなくなってしまった。
慌てて身支度を整えて自分も更衣室を出ようとした、その時。
「如月さん」
突然、後ろから声を掛けられ驚き立ち止まった。
振り返ると、そこには先程顔を覚えたばかりの隣のクラスの少女が一人立っていた。
「えーと…。磯山、さん?」
だったよね?
さっき、タカちゃんとあんな話をしていただけに少々気まずい。それに敵対意識を持たれているかも知れないと思うと、心なしか緊張してしまう。
彼女は小さく頷くと笑顔で口を開いた。
「さっきはごめんなさい。急にあんなボールが飛んで来たら…流石に驚かしちゃったよね?」
意外にもしおらしく謝りを入れてきた彼女に、紅葉は目を丸くした。
「えっ?…あ、ううん。大丈夫だよっ。ビックリしたけど頭とかには当たらないで済んだし…」
(もしかして…わざわざ謝るために待っててくれたのかな?)
周囲にはもう他に誰の姿もなく、自分たちの声だけが更衣室内に響いている。
本当はタカちゃんが言うほど悪い人じゃないのかも。そう思い始めていた時、彼女の表情に変化が見られた。
「ほーんと。悪運だけは強いよね、如月さんて」
「…えっ?」
思わず耳を疑うような台詞が聞こえて来て反射的に聞き返したものの、彼女は普通に笑顔を浮かべていた。
「あ、ううん。何でもなーい。こっちのハナシ」
「………」
「でもね、ボールを投げたのはワザとじゃないのよ。それだけは信じて。ただ…、私って昔から自分の立場を理解してないKYな子を見ると許せないんだ。そうすると、つい…自然と手が出ちゃうことがあるのよね。自分の無意識下で、さ」
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