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思惑と葛藤

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「私そのコのこと、ちょっと知ってるんだけどさ。まぁ、わりと可愛いコではあるんだけど、少しばかり厄介なトコがあってさ…」

「厄介?どんな風に?」

「うん。敵に回すと…っていう意味で」

「敵?でも、私はその人のこと全然知らないし敵でも何でもないよ?」

それなのに何故私が気を付ける必要があるんだろう?疑問に思っていると、タカちゃんは脱力した様子で私の肩に手を置いた。

「アンタにその気がなくても向こうからしたら大アリなんだってこと」

「?」

「アンタたちは付き合ってないっていうけど。彼を好きな子から見れば、彼が気を許してる紅葉の存在は邪魔者以外の何者でもないってワケ。何が厄介かって、その子嫉妬深くて面倒なコなのよ。だから、アンタも気を付けなさいよって言ってるの」

(ああ…またか)

そう思いながらも、心配してくれているタカちゃんには素直に「分かった。気を付けるね」と大きく頷いておいた。

実際、それがただの杞憂きゆうに終わることを祈りながらも。




そんな紅葉たちから少し離れた後方に。人知れず冷たい視線を二人の背に送り続けている者がいた。

否、二人にではない。正確に言うと紅葉に、である。

本人たちは知らぬことではあるが、噂をすれば…というやつだ。

少女は紅葉たちと同色の上履きを乱暴に床へと落とすと。

(あいつ、今日も本宮くんと一緒に登校して来て…。幼なじみだからって本宮くんの優しさにいつまでも甘えちゃって…ホント何なのよっ。いい加減図々しいの気付きなさいよっ)

イライラを隠さずに靴へと足を差し込むと、手提げ鞄を持つ手に力を込めた。

(今日こそは痛い目みせてやらないと気が済まないんだからっ)

少女は頭の中でシミュレーションを開始する。

今日の二校時目の体育は隣のクラスの女子との合同授業だ。その為、あの女と一緒になる唯一の授業なのである。

(何とかして皆の前で恥かかせること出来ないかしら)

実を言うと、今までにもあの女に色々と仕掛けたことがあった。勿論、傍から見ても意図的であるとは分からない程度に…ではあるが。

(でも、ことごとく今まで失敗してんのよね。運が良いっていうか…。何にしても生意気なこと、この上ないわ)


真面目を絵に描いたような地味な容姿。

(センスも何もあったもんじゃない。いまどき、あんなダサすぎなJKいないっつーの。この学校の恥よっ!恥っ!)

その典型の見た目から、運動神経もろくにないのだろうと判断していたら見事に出ばなををくじかれた。

50メートル走のタイム取りで隣のコースになったので上手い具合に妨害するか、スタート時に足でも掛けてやろうかと思っていたのだが、いざスタートしてみれば…。

あの女は、そのどんくさそうな見た目とは裏腹に、超綺麗なスタートダッシュで気が付いたら自分よりはるかに前を走り抜けていた。

自分だって足が遅い訳ではない。むしろ平均より少し早い位だ。なので意地でも追いつこうとするが、その距離は離されるばかりで。

(生意気だわっ!生意気!!)

それ以外にも体育館でバスケのプレイ中、コート外で次の試合待ちをしていたあの女の後頭部を狙って、仲間へのパスがうっかり失敗したかのようにボールをはじいたこともあった。
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