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街の掃除屋
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その時、先程出て行った養護教諭が戻ってきた。
「あら如月さん、もう起きて大丈夫なの?午後から授業戻る?」
「あ、先生」
途端に彼女の意識が養護教諭の方へ向いてしまい、桐生はどこか惜しい気持ちになりながらも二人の会話を横で静かに聞いていた。
(この子、きさらぎ…っていうのか)
彼女は先生と会話をしながらも使用していたベッドを取り囲んでいたカーテンを開き、端で纏めたりと随分と手際が良かった。何より見えるようになったベッドの上の布団は本当に綺麗に折りたたまれていて彼女の几帳面な様子が伺える。
(随分、しっかりしたコ…なんだな。っていうかマジメ?)
自分とは、ある意味正反対のタイプのようだ。
何より見えるようになった彼女の髪型は、いわゆる真面目な女学生の典型スタイルで。
(…ちょっと…意外だった)
髪型なんて別に関係ないが。
二つに分けた三つ編みが彼女が話す度に小さく揺れている。
「薬が効いたみたいで良かったわ。でも、あまり無理はしないのよ」
「はい。ありがとうございましたっ」
やはり、もう教室へ戻るようだ。
桐生は横になっていた身体を起こしベッドに腰掛けたままそんな二人のやり取りを眺めていたが、不意に彼女がこちらを振り返った。
「…お先に失礼します」
わざわざこちらにもペコリと頭を下げて来る。
それもある意味真面目の典型のような対応だが、その表情はどこか悪戯っぽく、若干肩をすくめるような感じで砕けた笑顔を見せていて変に嫌味な印象はない。
桐生はつられるように笑顔を見せると「おう、お大事にな」そう言って軽く手を上げて応えた。
その後、彼女は保健室を出ようと扉へ向かったところで突然「あ」と小さく声を上げると慌てて再び戻って来た。
そして、先程横になっていたベッドの傍へと歩み寄ると何かを手に取る。
(忘れ物か何かか…?)
その様子をずっと眺めていたオレは次の瞬間、思いっきり面食らった。
「これでよし」
満足げに振り返った彼女は、そのまま「失礼しました」と保健室を後にする。
その扉がガラガラと閉まる音でやっと我に返った。
(な…何だ、今のは…)
それは衝撃だった。
第一印象は、思わず見とれてしまう程の綺麗な寝顔。
目覚めても寝顔に負けず劣らず可愛くて。
真っ直ぐに向けられる大きく澄んだ瞳に、ちょっと良いなと思っていたのは確かだ。
彼女の上履きのラインの色は一年生の赤だった。
だから「今年の一年には、こんな子がいたのか…」と少し心踊る気持ちでいたのに。
(だが、あれは…)
保健室を後にする時の彼女の印象は最初のそれとは、まるで違ったものになっていた。
慌てて掛けられたのは分厚い眼鏡。
髪型と相まって、もろに典型的な地味な女学生の佇まいだった。
ある意味、自分が一番敬遠するタイプ。
(いや、敬遠とかそういうレベルじゃねぇよ。イマドキ、あんな…)
センスを疑うというか。
実際、あんな子を他所で見掛けた所で、きっと自分の中には何も印象に残ることはないだろうし、ヘタすりゃ視界にさえ入らない類の人種かも知れない。
人は見かけではない。綺麗ごとでは確かにそうだ。
だが印象は大事だ。異性なら尚更だろう。
いや、そんなことより何より…。
(もったいねぇ…)
彼女の場合は、その一言に尽きると思った。
「あら如月さん、もう起きて大丈夫なの?午後から授業戻る?」
「あ、先生」
途端に彼女の意識が養護教諭の方へ向いてしまい、桐生はどこか惜しい気持ちになりながらも二人の会話を横で静かに聞いていた。
(この子、きさらぎ…っていうのか)
彼女は先生と会話をしながらも使用していたベッドを取り囲んでいたカーテンを開き、端で纏めたりと随分と手際が良かった。何より見えるようになったベッドの上の布団は本当に綺麗に折りたたまれていて彼女の几帳面な様子が伺える。
(随分、しっかりしたコ…なんだな。っていうかマジメ?)
自分とは、ある意味正反対のタイプのようだ。
何より見えるようになった彼女の髪型は、いわゆる真面目な女学生の典型スタイルで。
(…ちょっと…意外だった)
髪型なんて別に関係ないが。
二つに分けた三つ編みが彼女が話す度に小さく揺れている。
「薬が効いたみたいで良かったわ。でも、あまり無理はしないのよ」
「はい。ありがとうございましたっ」
やはり、もう教室へ戻るようだ。
桐生は横になっていた身体を起こしベッドに腰掛けたままそんな二人のやり取りを眺めていたが、不意に彼女がこちらを振り返った。
「…お先に失礼します」
わざわざこちらにもペコリと頭を下げて来る。
それもある意味真面目の典型のような対応だが、その表情はどこか悪戯っぽく、若干肩をすくめるような感じで砕けた笑顔を見せていて変に嫌味な印象はない。
桐生はつられるように笑顔を見せると「おう、お大事にな」そう言って軽く手を上げて応えた。
その後、彼女は保健室を出ようと扉へ向かったところで突然「あ」と小さく声を上げると慌てて再び戻って来た。
そして、先程横になっていたベッドの傍へと歩み寄ると何かを手に取る。
(忘れ物か何かか…?)
その様子をずっと眺めていたオレは次の瞬間、思いっきり面食らった。
「これでよし」
満足げに振り返った彼女は、そのまま「失礼しました」と保健室を後にする。
その扉がガラガラと閉まる音でやっと我に返った。
(な…何だ、今のは…)
それは衝撃だった。
第一印象は、思わず見とれてしまう程の綺麗な寝顔。
目覚めても寝顔に負けず劣らず可愛くて。
真っ直ぐに向けられる大きく澄んだ瞳に、ちょっと良いなと思っていたのは確かだ。
彼女の上履きのラインの色は一年生の赤だった。
だから「今年の一年には、こんな子がいたのか…」と少し心踊る気持ちでいたのに。
(だが、あれは…)
保健室を後にする時の彼女の印象は最初のそれとは、まるで違ったものになっていた。
慌てて掛けられたのは分厚い眼鏡。
髪型と相まって、もろに典型的な地味な女学生の佇まいだった。
ある意味、自分が一番敬遠するタイプ。
(いや、敬遠とかそういうレベルじゃねぇよ。イマドキ、あんな…)
センスを疑うというか。
実際、あんな子を他所で見掛けた所で、きっと自分の中には何も印象に残ることはないだろうし、ヘタすりゃ視界にさえ入らない類の人種かも知れない。
人は見かけではない。綺麗ごとでは確かにそうだ。
だが印象は大事だ。異性なら尚更だろう。
いや、そんなことより何より…。
(もったいねぇ…)
彼女の場合は、その一言に尽きると思った。
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