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街の掃除屋

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「そうですね」と相槌を打ちながら男の半歩斜め後ろをキープしながら歩いていたその男子生徒は、周囲に視線を配りながらも再び口を開いた。

「でも…その掃除屋って、いったい何者なんでしょうね?巷ではどこのグループにも属してない一匹狼だって噂になってますけど。でも、もしそれが本当だとしたら相当な手練れですよ。昨日やられた『FLAMEフレイム』のメンバーは十数人現場にいたらしいじゃないですか。それを一人でしちゃうっていうのは流石に簡単に出来ることではないですよ」

声のボリュームは相変わらず控えめだったが、何処か興奮気味に話すその生徒に、前を歩いていた男は振り返りもせず鼻で笑った。

「それはまた絵に描いたような、すげぇ武勇伝だなァ」

顎に手を当てると唸るように呟く。

「桐生センパイ。…実は結構、楽しんでたりします?」

その桐生きりゅうと呼ばれた男は、その後輩のツッコミに破顔した。

「はははっ…まあな。何にしても面白くなってきたじゃねぇか。その掃除屋とやらが単なるヒーローごっこに興じているだけのおめでたい奴なのか、新たな勢力に変わる危険人物となるのか、まだ判断し兼ねるけどな」

「そうですね。とりあえず、早めに目撃者にアクセスしてみますね」

「ああ。立花、頼むな」

その立花たちばなと呼ばれた生徒は、小さく頷くと「また放課後に」と声を掛けて一礼すると桐生を追い抜いて小走りに駆けて行った。

その後輩の後ろ姿を見送りながら桐生はひとり小さく呟いた。


「早く、そのツラ拝んでみたいぜ」




そして…。

その日の三時限目の授業中。


紅葉は独り教室を後にすると、フラフラとした覚束ない足取りで廊下を歩いていた。

朝から続いていた倦怠感にプラスして次第に頭痛を伴うようになり、授業中痛みに苦しんでいるところを教師に気付かれ、保健室へ行くよう勧められたのだ。 

保健委員の生徒を付き添わせるかと心配されたが、紅葉は一人で行けると丁寧に断りを入れた。

自分の為に他の生徒の授業を邪魔してしまうのは、あまりにも心苦しかったから。だが…。

「痛…っ…」

階段の手前に差し掛かった所で、横の壁へとふらり手をついた。

少しだけ後悔していた。

(保健室が遠い…。頭が、ガンガンする…)

脈打つような強い痛みに思わず気が遠くなりそうだった。

それでも何とか意識を保って耐えると、手すりへと手をつきながらゆっくり階段を下って行った。


紅葉のクラスの教室は四階の端に位置しており、保健室へ向かうには一階まで階段を下りて校庭に面した渡り廊下を行かなくてはならない。簡単に言ってしまえば、かなり遠いのである。

それでも何とか一階まで階段を降りきると、渡り廊下のある方へとゆっくり足を向けた。

今日は天気が良いからか一階の廊下の窓は殆どが開け放っていて、春の爽やかな風とともに体育の授業が盛り上がっているのか賑やかな掛け声なんかも聞こえて来る。

(こんなに良い天気なのに体調悪いなんて…最悪だな…)

窓から差し込む眩しい日差しに、紅葉はうっすらと目を細めた。
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