上 下
10 / 95
風のウワサ

1-9

しおりを挟む
「これを機に警察もここぞとばかりに今までの事件やなんかの立件に動き出すらしいぜ」

「入院中なら逃げられることもないってか。ま、今まで散々手を焼いてたみたいだしな。これで少しは平和になると良いんだけどな」

「夜道とか、うかうか歩いてらんなかったもんなー」


実際、絡まれたり金品を巻き上げられた被害者の多くは学生で、泣き寝入りしてしまう場合が殆どなので事件にさえならないものが多いという話を聞いたことがある。

そのグループが原因かは不明だが、先日同じ塾に通っている別の高校の男子生徒がやはり帰り道に絡まれ、暴行を受け、かなりの怪我を負っていた。圭にとっても、もはや他人事の話ではなかった。

(ホント、これで少し落ち着くと良いけど…)

横で聞きながら圭は小さく息を吐いた。

自分も気を付けなくてはならないのは勿論なのだが、実はそれ以外に少し気になっていることがあった。


(紅葉…。もしかしたら、あいつ…。また…)


紅葉が例の夢遊病を発症しているかも知れない。

こればっかりは治る治らないではないのだが、ここ最近は外を出歩く程の症状はなく、落ち着いていたというのに。

(まだ確証はない。けど、あの後ろ姿はちょっと…。似すぎていたよな…)


先日、塾が終わって同じ塾の友人たちと話しながら建物の外へと出た時、何気なく向けた視線の先。遠くを歩いている人物の後ろ姿に圭は目を見張った。

(あれは…紅葉…?)

確信は持てなかったが、その後ろ姿はあまりにも似ていて。

友人と別れたその足で慌てて後を追ってみたものの、もうその人物は周辺には見当たらなかった。

その後、一旦塾の駐輪場まで自転車を取りに戻り、家に戻って紅葉の家のドアを確認してみると、とりあえず鍵は閉まっていたのだけど。

鍵が施錠されているということは、多分紅葉は家にいる筈だ。

だが、自転車を取りに戻った分のロスもある。その間に家に戻った可能性も捨てきれないと思った。


(でも、眠っていても帰宅してしっかり鍵を掛けられるということは、外出する時も普段のように鍵を掛けて出たりするのかな?)

そうなると、家のドアを確認するだけでは紅葉の在宅を確かめることにはならないのかも知れない。

(…分からないな。紅葉の夢遊病は特殊だからな…)

本人に聞いても、きっと有力な答えは出てこないだろう。

(でも、夜の女の子の独り歩き自体危ないことだし、やっぱり心配だよ)

それが本人の意識のないところでなら尚更だ。何かあってからでは遅いのだ。

(せめて、おばさんが家にいてくれたらな…)

いつも気付ける訳ではないにしても、少しはストッパーになってくれるのだろうけれど。

それでも夜勤で家を空けている紅葉の母親の苦労は近くで見ていて痛い程に知っているから無責任なことは言えない。

(言えるハズがない…よな)

それはきっと、紅葉も同じ想いの筈だ。

(そういう色んな苦労やストレスとかも少なからず影響してるんだろうな…)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。

山法師
青春
 四月も半ばの日の放課後のこと。  高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。

夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。

みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』 俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。 しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。 「私、、オバケだもん!」 出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。 信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。 ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

亡き少女のためのベルガマスク

二階堂シア
青春
春若 杏梨(はるわか あんり)は聖ヴェリーヌ高等学校音楽科ピアノ専攻の1年生。 彼女はある日を境に、人前でピアノが弾けなくなってしまった。 風紀の厳しい高校で、髪を金色に染めて校則を破る杏梨は、クラスでも浮いている存在だ。 何度注意しても全く聞き入れる様子のない杏梨に業を煮やした教師は、彼女に『一ヶ月礼拝堂で祈りを捧げる』よう反省を促す。 仕方なく訪れた礼拝堂の告解室には、謎の男がいて……? 互いに顔は見ずに会話を交わすだけの、一ヶ月限定の不思議な関係が始まる。 これは、彼女の『再生』と彼の『贖罪』の物語。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

処理中です...