3 / 95
風のウワサ
1-2
しおりを挟む
しっかりと家の施錠をして通りへと出ると、いつも通りキィ…と音を立てて隣の家の門から出てくる少年の姿が目に入った。
「圭ちゃんっ」
紅葉は軽く手を上げると、その人物の傍へと歩いて行く。
少年は目の前まで紅葉が来るのを足を止めて待ちながら、
「おはよう、紅葉」
そう挨拶をして笑顔を見せた。
「おはよう」
そうして二人は、それが当たり前のように並んで歩き始める。
彼の名は、本宮圭。紅葉の隣の家に住む同級生だ。
紅葉と圭は、いわゆる幼馴染みというやつで、この家に引っ越して来た幼稚園時代からの付き合いである。
小中学校は勿論のこと、高校も偶然同じ学校に通うことになり、時間が合えば、こうして一緒に登校したりもしている仲だ。
実をいうと、紅葉は圭が家を出る時刻を把握していて、敢えてこの時間に合わせて出ていたりするのだが、そこに特別な含みはなく『折角同じ学校に通っているんだし一緒に行こうよ』的な至って軽いノリでしかなかったりする。
それでも圭も嫌な顔などを見せることはないし、二人にとってこの距離感が普通なので、居心地の良い時間に変わりはないのだ。
「でも、まさかこうして毎日、また圭ちゃんと学校行けるなんて思ってなかったよね」
紅葉が嬉しそうに笑顔を浮かべると。
「そうだね。歩いて行ける距離だし、何だか中学の延長みたいな感じで高校生っていう実感もイマイチ湧かないけどね」
そう微笑みを返してくれる。
「それは確かにそうだね。でも、圭ちゃん、ブレザー姿すごく似合ってるよ。見た目はすっかり高校生しちゃってるかも」
中学の時は学ランだったので、これはこれで新鮮だと思う。
どちらかと言うと圭ちゃんは童顔で大人しいイメージの男の子で、『カッコイイ』というよりは『カワイイ』タイプなのだけど。制服が変わり、ネクタイを締めているだけで何だか大人っぽく見えるから不思議だ。
紅葉が素直に思ったままを口にすると、圭は少しだけ照れた様子を見せて笑った。
「ありがと。紅葉だって似合ってるよ。その制服」
「えへへ」
二人して褒め合い、互いに照れて…。傍[はた]から見れば何ともこそばゆい会話ではあるが、二人は大抵いつもこんな感じで、のほほんとしているのが常なのだ。
「そう言えば、紅葉…」
「ん?」
暫く歩いていて、何かを思い出したように圭が口を開いた。
「最近、良く…眠れてる?」
「うん?寝てるよ?」
首を傾げながら質問の意図を探るように見上げると。
言外に「何でそんなこと聞くの?」と、問われている気がしたのか圭は慌てるように笑顔を見せた。
「ならいいんだ。別に深い意味はないんだ。ただ…」
「…?」
「最近、割と早い時間に紅葉の家の電気が消えてたからさ。早く寝てるのかなって思っただけだよ。昨日も僕が塾から帰る頃には消えてたみたいだし」
「あ、うん。確かに、この頃は早く布団に入っちゃってたかも」
記憶を辿るように人差し指を顎に当てて言った。
「圭ちゃんっ」
紅葉は軽く手を上げると、その人物の傍へと歩いて行く。
少年は目の前まで紅葉が来るのを足を止めて待ちながら、
「おはよう、紅葉」
そう挨拶をして笑顔を見せた。
「おはよう」
そうして二人は、それが当たり前のように並んで歩き始める。
彼の名は、本宮圭。紅葉の隣の家に住む同級生だ。
紅葉と圭は、いわゆる幼馴染みというやつで、この家に引っ越して来た幼稚園時代からの付き合いである。
小中学校は勿論のこと、高校も偶然同じ学校に通うことになり、時間が合えば、こうして一緒に登校したりもしている仲だ。
実をいうと、紅葉は圭が家を出る時刻を把握していて、敢えてこの時間に合わせて出ていたりするのだが、そこに特別な含みはなく『折角同じ学校に通っているんだし一緒に行こうよ』的な至って軽いノリでしかなかったりする。
それでも圭も嫌な顔などを見せることはないし、二人にとってこの距離感が普通なので、居心地の良い時間に変わりはないのだ。
「でも、まさかこうして毎日、また圭ちゃんと学校行けるなんて思ってなかったよね」
紅葉が嬉しそうに笑顔を浮かべると。
「そうだね。歩いて行ける距離だし、何だか中学の延長みたいな感じで高校生っていう実感もイマイチ湧かないけどね」
そう微笑みを返してくれる。
「それは確かにそうだね。でも、圭ちゃん、ブレザー姿すごく似合ってるよ。見た目はすっかり高校生しちゃってるかも」
中学の時は学ランだったので、これはこれで新鮮だと思う。
どちらかと言うと圭ちゃんは童顔で大人しいイメージの男の子で、『カッコイイ』というよりは『カワイイ』タイプなのだけど。制服が変わり、ネクタイを締めているだけで何だか大人っぽく見えるから不思議だ。
紅葉が素直に思ったままを口にすると、圭は少しだけ照れた様子を見せて笑った。
「ありがと。紅葉だって似合ってるよ。その制服」
「えへへ」
二人して褒め合い、互いに照れて…。傍[はた]から見れば何ともこそばゆい会話ではあるが、二人は大抵いつもこんな感じで、のほほんとしているのが常なのだ。
「そう言えば、紅葉…」
「ん?」
暫く歩いていて、何かを思い出したように圭が口を開いた。
「最近、良く…眠れてる?」
「うん?寝てるよ?」
首を傾げながら質問の意図を探るように見上げると。
言外に「何でそんなこと聞くの?」と、問われている気がしたのか圭は慌てるように笑顔を見せた。
「ならいいんだ。別に深い意味はないんだ。ただ…」
「…?」
「最近、割と早い時間に紅葉の家の電気が消えてたからさ。早く寝てるのかなって思っただけだよ。昨日も僕が塾から帰る頃には消えてたみたいだし」
「あ、うん。確かに、この頃は早く布団に入っちゃってたかも」
記憶を辿るように人差し指を顎に当てて言った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる