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七章「最後の希望まで、あと」

01.檻の内側

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◆クロウ視点


 ――暗い部屋だ。
 窓がなく、物もない。しんと静かで、外の様子が何もわからない。
 少し身じろぎをする。それだけで、体を拘束している鎖がじゃらと鳴る。
 身動きが取れない。この鎖と、部屋自体にも結界術が張り巡らされているらしい。抵抗する意思はないが、試しに体内に集中して、魔術を出そうとしても、不発に終わる。たぶん魔人化もできないだろうと察する。なんとなく、いつも内側にいる異形の影が、身を潜めているのを感じ取る。

 〈聖下せいかおり〉の地下牢。
 目を覚ましたときには、すでに内部に入っていることを告げられたが、明確な場所も時間も俺自身は把握できない。
 地下牢、とは聞いたが、牢屋のような格子はない。ただ物がないだけの小部屋だ。本当に地下なのかどうかさえわからない。どこからも物音がしない、人の気配がない、ということくらいしか情報がない。
 場所がわからなければ脱出口もわからない。魔術も魔人化も使えないなら、こんな頑強な鎖から逃れる術もない。
 といっても脱出する気などないが。そういう取り決めだ。

 魔術も、魔人の力も、どちらも封じ込めることができるとは、結界術とは相当強力な力ではないのか。元は村の人間が独自に編み出した技術らしいが、俺からするとかなり恐ろしい存在だ。
 そもそも結界術はどのようにして生まれたんだったか。精霊を守るために編み出された、とバナードは言っていた気がするが、こんなことになるならもっとよく聞いておけばよかった。
 ダインなら詳しいのだろうか。しかしダインの使う結界術は明らかに異色だ。もしここを訪れる機会があるなら、そのときに聞いてみてもいいかもしれない。

 食事は基本的に、ティナと呼ばれていた女性が運んでくることになったらしい。魔族の間近まで近づく、という危険な役回りを押し付けられているだけでは、と思ったが、彼女はまだ俺に怯えずにいてくれるほうだ。
 変な感じだ、と思う。今まで人間面をしていろんな人々と接してきたが、生真面目だとか変わり者だとかは言われたが、はっきりとした恐怖の目で見てくる人は誰一人としていなかった。
 彼らも、もし俺が魔族だと知ったなら。魔人化した俺を見たのなら。いくら知り合いであっても、恐怖の対象として見てくるのだろうか。

 ……こんなことを考えても仕方がないか。
 今は、置かれている状況に身を任せるしかない。外ではきっと、何かしら変化がもたらされているはずだ。
 ミリアががんばってくれているはずだと。信じて、祈るしかない。

 この状態がいつまで続くのか、という不安はない。
 ただ、ミリアは無事なのか。またローレンスに殴られてはいないか。追い詰められてはいないか。それだけが心配だ。
 俺はいくらでも待てる。ここで大人しくしていられる。
 ミリア。信じることと、心配しないことは別だ。
 交渉が上手くいって、願わくばそれをミリアが伝えに、会いに来てくれることを、祈っている。
 敵地の地下牢で。周りの状況は何もわからないけど。ミリアも、同じ場所でがんばってくれているはずだから。
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