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六章「彼と彼女の理由」
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ダインたちとは一度、各々分かれることになった。
あちらはあちらで、仲間内のみで計画の内容を整理したいとのことだ。
降臨の儀式について。ローレンスへの交渉について。ミリアの考えた筋書き通りに果たして上手くいくのかどうか、検討するためだろう。
俺たちは、やれることはやったはずだ。あとは良い方向に転んでくれるよう、信じて待つしかない。
ミリアと二人で、丘陵の広がる町の外を歩く。
ミリアの計画は、無事に説明し終えた。ずいぶん長いこと時間を要したようにも感じるが、思い返せばあっという間だった気もする。
実際のところ、時間は経過している証拠に、遠目の空の端は茜色に染まりつつある。外気もやや肌寒くなってきた。
体内につんとくるような空気をよく吸い込む。この辺りは小高くなっているおかげで、見晴らしがいい。といっても景色は緑と空以外、目立ったものはないが。遮るものが何もないから、風をめいっぱい浴びられた。
気持ちがいい。それに不思議と、青々とした空がいつもより拓けて感じる。この穏やかさを肌で感じていると、なぜだか、呆気ないような気持ちになった。
「いろいろ、穴がありましたね。やっぱり、ちゃんと儀式の知識のある人に聞いてみないと、わからないことが多かったですね」
ミリアは、先ほどの話を振り返るように言った。
筋書きや説得材料を用意して、反論もある程度は予想を立てていたものの、推測だけで見過ごしている問題もあった。ダインらの知識によって可否が判断できたおかげで、改めて方法を定めた結果、当初の想定よりも大事になる事態は避けられなくなった。
ローレンスと交渉して、こちらの望みを叶えながらも儀式を行うこと。ミリアは相変わらず、利害関係が一致する、ローレンスを説得できるはずだと自信満々なようだが。
本当に、対面しても平気なのか。交渉以前に、まともに対話できるのか。この道を共に歩むと決めはしたが、不透明なことだらけで不安ばかりだ。
ミリアだけを助けたいのなら、俺が犠牲になればいい。けれどそれではミリアは幸せにはなれない。できることがあるなら、尽力しなければならない。
ミリアは、変わらず前を向いている。上手くいくと信じているのか、それとも信じざるをえないだけなのか。上手くいかないのなら、共に旅立つ心構えができているからだろうか。
俺は本当に、このままでいいのか。
儀式となれば、俺には生け贄の道しか用意されていない。それはいい。徐々に納得してきた気持ちはある。どちらにせよ滅ぶ道しかないのなら、ミリアに精霊という比類のない力を遺して死ねたほうがいい。
だが、そうではない問題があることに、違和感に、沸々と気づきつつあった。
「……クロウさん?」
今、ミリアは、何かしらの希望を持って前進しようしているように見える。俺よりもずっと前を向いているように見える。
俺が見えないものを見ているような感覚。何が見えているのかはわからないが、ミリアが前向きでいられるならそのほうがいい。
ただ、ここ数日、考えていた。
俺の行く先よりも。それよりもずっと、重大なことについて。
「やっぱり、不安ですか?」
「いや。……出会ったばかりの頃を思い出していた」
ミリアは足を止めて、俺の顔を窺ってくる。
出会ったばかりの頃。ミリアには、精霊が宿っていた。精霊術士だと言い触らして回り、精霊の力を悪用し、復讐するなどと豪語していた。
もしもミリアに再び精霊が宿ったとしても、今度は精霊術士だなどと公言しないし、力を間違ったことにも使わないだろう。それは信用している。
だが。
「出会ったばかりの頃……ですか?」
「そうだ。あの頃のミリアは、むちゃくちゃだったな。精霊術士だと言い触らしたり、制御できない力を使って森を焼き払ったり、たった一人で復讐だとか掲げたり。今思えば、とんでもない自暴自棄だったな」
「そ、それは、反省してますよ。今そんなことしないですよ」
「そうだろうな」
頭に手を置く。そう。それは信用しているのだ。
「不安には思わなくなった。短期間で、立派になったものだ」
ミリアといた時間は、一生分の内ではほんの一瞬程度だろう。
けれど新鮮なものだらけだった。知らないことだらけだった。新しい世界に訪れたような、未知の出来事の連続で、満ち足りた時間だった。
俺一人では絶対に経験できなかったこと。絶対に得られなかったもの。ミリアのおかげで、今までは想像もできなかったような時間が得られた。
「……全部、クロウさんのおかげですよ」
するとミリアは、俺が頭で思ったことと同じようなことを口にした。
「わたし一人だったらどこかで無茶が祟ってました。わたしはしょせん、精霊がいないと何もできない、ただの小娘ですから。復讐なんて達成できないまま、こんな人生なんだったんだろうって思いながら、どこか知らない場所で惨めに一人で死んでただけです」
俺と出会っていなければ、という想定の話だろうか。そんな想像は無意味だとは思う。が、ミリアは続ける。
「自分の命はちゃんと大事にしないといけないって。親から与えられたものだからって。でもそれを、つらいって感じさせないように、一緒に支えてくれた。一緒に歩んでくれた。一緒にいてくれたクロウさんがいるから、わたしは……」
ミリアは顔を上げる。また泣いてはいるが、胸が痛くなるような嫌な涙じゃない。水の張った瞳が光を反射して、夜明けを知らせる太陽のようにキラキラして見えて、きれいだと思った。
ミリアは両腕をめいっぱい伸ばして、うんと背伸びして、ぎゅっと抱きついてくる。その小さな体を支えるように、背中に腕を回す。
「大丈夫です、クロウさん。不安なのはわかります。でも、今度はわたしが、絶対助けますから」
触れあった胸があたたかい。今さら、感触にどきまぎするわけじゃない。変に昂るようなこともない。それでも、心臓を包まれたような、ドキドキとした鼓動が鳴る。
気まずい気持ちもない。静めようと、無視したくなる感覚でもない。高鳴ってはいるが、心地よい。身を任せていたくなる、あたたかい音だ。
あと、やや場違いで悪いが。ミリアのほうからの予期せぬ抱擁というのは、やっぱり、ちょっと嬉しいな。
……助ける、か。助けられたい、とは、正直微塵も思ってない。
まだまだ全然子どもだというのに、そんな大言壮語を。と前までなら、鼻で笑っていたかもしれない。
でも今は、子どもだとわかっていても、こんなにも大きく感じるようになった。この体に、体重を預けてみたい。預けていたい。そう感じるようになった。
「……やっぱりやめないかと、言おうとしていた」
ふと、口をついて出てきた。
言わないほうがいいかもしれない。また幻滅させるかもしれないし、今さらややこしくなる。そう思って押し留めていたことだが、吐き出してしまいたくなった。
「精霊の力が再びミリアに宿るのだとしたら、また、出会った頃のミリアに戻るのと同義なんじゃないかと。俺はミリアを救いたくてここまできた。ミリアに精霊なんて力は必要ないと、そうなるよう力をつけて、努力してきたつもりだった」
今までの俺を否定することになるかもしれない。そんな引っ掛かりが残っていたことだ。
「だから、振り出しに戻るような気がして、嫌だった」
ミリアにそんな力は必要ない。普通の子としての人生を歩んで、幸せになってほしい。それが俺の願いであって目的だった。
振り出しの状態に戻るのは、俺の今までの道は無意味だった、無駄だったと、否定されているも同然ではないのかと。それがずっと胸の内に引っ掛かっていた。
「でも、そんなのは今、ミリアの言葉を聞いて、どこかへ行った」
ミリアが、俺のおかげだと言ってくれた。俺がいたから、ミリアを助けられたのだと。俺がいたことで、ミリアを変えられたのだと。それがわかったから、必要のない迷いへと変わった。
「……クロウさん。怒られるかもしれないし、できるかどうかもわからないから、本当はまだ言いたくなかったんですけど……」
ミリアは、内緒話でもするかのように、顔を寄せてきた。
何を言うつもりだろうか。俺が怒るようなこと。今さら思いつかないが。
ミリアは、耳元で伝えてくる。本当はまだ言いたくなかったこと。それを聞いて、納得した。
「ああ……そうか。ミリアには、それが見えていたのか……」
「隠そうとしてごめんなさい。でも本当に、絶対そうなるって、あんまり信用はしないでほしいんですけど。一応、わたしは、そのつもりです。叶わないなら、やっぱり、最後までついていっちゃうと思うんですけど」
「いや」
隠したくなる気持ちもわかる気がした。たしかに、無条件で信用はできない。確約もない。けど。
「その気持ちがあると、伝えてくれただけで十分だ。俺の歩んできた道には、価値があったと思える」
ミリアは、最初からずっと、俺を助けるために。それが見えていたから、こんなに前向きでいられたのか。
そのために、こんなに必死になってくれていたのだと思うと、涙が溢れてきた。
ミリアの手を握って、引き寄せる。気持ちが溢れてきて止まらない。もうすでに伝えたこと、ではあるが。
「ミリア。好きだ。好きだ。大好きだ……」
これ以上に、どうしていいのかわからない。伝えなければ気が済まなかった。
「んん。し、しつこいです」
ミリアは恥ずかしそうに頬を赤らめて、握られた手をもぞもぞしている。
たしかにしつこかったかもしれない。でも何度でも好きだと伝えたい。そうじゃないと気持ちのやり場がないのだ。
「それに、クロウさんの言う、好きっていうのは、やっぱり恋愛的な意味には聞こえないんですよねぇ……」
ミリアは困ったように苦笑いしている。
「恋愛……? ああ、ええと、恋仲だのの話か……?」
「わたしはやっぱり、そういう対象じゃないんですよね?」
「……結婚はしたい」
ミリアは自身を指差す。
ミリアのことを、恋人のような、女として捉えることは難しい。長く一緒にいすぎたせいか、そういう意識は薄い。それよりか庇護しなければならない対象だという認識のほうが強い。
ただ、家族という形は欲しい。それは単純に、憧れのようなものかもしれないが。
「俺が生涯、心に決めたのはミリアただ一人だ。もしミリアとの間に子を設けるなりできたなら、最上の幸福かもしれんな」
「子!? こ、子どもですか!? それは気が早すぎませんか!?」
ミリアはぶんぶんと手を振り払おうとしているが、離すまいとがっちり掴む。
気が早すぎるとは思わないが。想いは通じ合えたというのに、なぜ嫌がるのか。
「好きな人間との間に子が欲しいと思うのは当然の欲求じゃないのか……」
「え、なんか、やだ! その言い方、なんか、動物的で……!」
「動物は生存本能としての繁殖が目的だろう。精神的な好意は関わっていない。そうではなく、俺は、ミリアに俺との子を宿――」
話を遮るように、べちんと平手打ちされる。さすがに手も振りほどかれた。
「そこまで嫌なことを言ったか……?」
「デリカシーに欠けすぎてます! ほ、本人に、直接言う言葉じゃないですよ!」
「叩くのはさすがにひどいんじゃないのか……」
「わ、悪かったですーう!」
ミリアはムキになったように真っ赤になって、びょんびょん飛び跳ねている。
人、というか、生物として当然の営みなんじゃないのか。何をそこまで恥ずかしがる必要があるのか。
「じゃあ、わたしのことも、叩いていいですよ」
俺が不満な顔つきをしていたからか。ミリアは、自分の頬を指差した。
叩かれるのを覚悟したように、口を閉じて、ぎゅっと瞼を瞑る。上を向いて、衝撃に身構えている。
その顔。強ばるようにじっと待ち構えているところが、なおさら、なんだか。
頬のあたりに手を伸ばす。一歩詰めて、後頭部のあたりを掴んで、ぐいっと引き寄せる。
少し腰を屈めて、ミリアの華奢な体を持ち上げるように抱き寄せて、唇を触れ合わせた。
「んっ……!」
ミリアはびくっと反応して、慌てたように引き離そうとする。
が、しっかりと腕に力を入れて抱き竦める。頭を押さえつけて、押しつけるようにさらに深く重ねる。お互い立っていると、身長差が結構つらいな。
「んんっ」
ミリアは、引き離すのは無理だと悟ったのか、耐えるほうを選んだようだ。
感触がよくわかる。熱もよく伝わってくる。口付けという行為にどんな意味があるのかはよく知らない。でも好きな相手としたいという気持ちはわかる気がする。
少し目を開けると、ぎゅっと瞼を瞑って、微妙にぷるぷるしているミリアの顔が見えた。眉間に小さく刻まれた皺が恥じらいを表しているようにも見える。
俺に見られているとも知らずに、一生懸命じっと耐えているのだろう。服を掴まれて引っ張られているのも感じる。手に力を込めて、体を固くして、それでも拒まずに受け入れようとしている。可愛らしいものだ。
ゆっくり唇を離す。ミリアは空気を求めるようにふぁっと息を吸い込む。体を離す。
ミリアは無言で後退して、俺から顔を背けている。てっきり即座に怒られると思ったが、反応がなくて逆に怖くなってきた。
また殴られたら嫌だが、どうだろうか。大丈夫だろうか。事後に確認するのも変な話だが。
「だ、大丈夫か……?」
「余計なこと聞かないでください……」
一応聞いてみる。今さら悪いとは思っていないが。ミリアは息が上がったように頬を上気させている。
「クロウさんって、なんでこう、いつも、急なんですか……?」
「責任を取るつもりならあるぞ」
不満に思われてもだ。こちらは事後の責任など承知済みでしているのだ。それなら文句はあるまい。
それにあの顔で待たれて、耐えろというほうが無理だった。ミリアにも若干の責任があるのではないか。
「全部終わったら結婚しよう」
両手を取って宣言する。
ミリアが俺を想い続けてくれている。それなら俺もこうだ。機会さえあれば、気持ちとしては、いつでも準備できているのだから。
「うん……少し前から思ってたんですけど」
ミリアは言いづらそうな、気恥ずかしそうな顔をしながらも、顔を寄せてきた。
「クロウさんには、やっぱり、こっちの言葉のほうが似合うと思うんです」
ミリアは耳打ちしてくる。
こっちの言葉。俺に似合うだろうと思った言葉を、伝えてくる。
ああ、そうか。聞いて納得した。親子でなくても言っていいとは、そういう意味か。
変な固定観念に囚われていたな。俺はそれを与えられる立場でしかいたことがなかった。その言葉を与えられる立場になるとは、思いもしなかった。
誰が使っていいかどうかなど、何も関係がないというのに。
考えてみれば。それは、親が子へ言う言葉でもあり、恋人間で言う言葉でもあり、夫婦間で言う言葉でもあった。
「ミリア。――愛してる」
ミリアから教えられた言葉を、素直に口にする。
これで、よかったのか。
なんだ。難しく考える必要なんかなかったな。最初から気づいていればよかった。
俺がどうしたいのか。ミリアとどうなりたいのか。具体的なことよりも、まずはこの言葉だったんじゃないのか。
好きよりも、ずっと、今の気持ちに近い。ミリアへの溢れてくる感情は、たったこの一言で言い表せるものだったんじゃないのか。
愛というものについては、形も色もないから、よくわからない。抽象的な現象なのか、感情なのか。どこから生まれて何を生み出すものなのか。
でもそれだって、きっと難しく考える必要はないんだろう。
自分を見つめて、それからミリアを見つめて考えてみれば、思ったよりずっと、簡単な答えだった。
「わ、わた、わたしも……!」
「ミリアには、この言葉はまだ早い」
ミリアは顔を赤くして、返そうとしてくる。
ぼす、と頭に手を置く。背伸びして俺の耳元に近づいていたミリアは、元の背丈まで縮んだ。
「大人が使う言葉だ。まだ与えられていればいい。もっと大きくなったら、そのとき、俺に返してくれ」
「じゃあ……そうします。大人になってから、クロウさんに返します」
ミリアは顔を上げる。やっぱり、まだずいぶんと目線よりも下の位置にある、あどけない顔つきだ。
大人びた、成長したとは言っても。やっぱり、まだまだ子どもだな。
目と目が合うと、ミリアは照れくさそうに、はにかむ。
子どもらしい、邪気のない明るさが可愛らしい。けれど、その笑顔が、たまらなく愛おしい。
今なら素直に、そう思えた。
俺の欲求は。願いは。
ただ愛したい。愛して、わかりあいたい。ミリアに愛を受け止めてほしい。願わくば、同じくらいに、返してほしい。それだけだった。
だったら、今、叶っている。なら、何も恐れることなんかない。
「……しかし子を作るとしたら、まずは資金を溜めなければな……。家庭を持ったら冒険者から足を洗う者が多いと聞いたが、何よりも金銭面が安泰でなければ、夫婦生活に支障が出てしまうな……」
「え……ちょっと、いきなり何の話ですか……」
「冒険者稼業を続けていていいものか……いやその前に住む場所がなければ、子作りもできんな。しかし待て、それより前に、俺に子を成せる機能が残っているのかどうか」
「え、あの、子作りって、だから、気が早すぎるって言いませんでしたっけ……」
「しかし、魔族と人間の子、ということになるのか。この血筋は残していいものではないが、どうしたものだろうか。子を成すにも問題が山積みだな。一つずつ確かめて対処していかなければ」
「えぇえ全然聞いてない」
「だが、子どもはそうだな、最低でも三人は欲しいところだがミリアはどう思う?」
「もうやだ怖いこの人……」
ミリアはなぜか戦慄したような顔だが。
今は、将来の話にうつつを抜かしている場合じゃないな。まず第一に、目の前の障害を打破しなければ。
ダインらも、仲間内での話し合いはそろそろ終えた頃だと思っていいだろう。
行こう、と手を差し出す。ミリアは若干青ざめていたものの、諦めのような緩い笑みをこぼすと、顔を上げて、手を握ってきた。
大丈夫。先が見えないまま進むのは怖い。でも願いは叶っている。ミリアと二人なら、どこまででも行けるはずだ。
二人で行こう。未来を掴むために。
※ ※ ※ ※ ※ ※
二人でダインたちのもとに戻る。
ダインと、魔術士らが揃って待っていた。数人は相変わらず警戒した様子で遠くに離れている。
ティナという女性も、怪我こそしていたが無事だった。俺たちに気づくと、若干ダインの後ろに隠れたように見えたが。
ダインだけは話し合いのときから変わらず、俺たちが近づいてきても平然としている。話し合いの最中も、それにずいぶん助けられた。ダインが間に立ってくれなければ、魔術士らを説得することは難しかっただろう。
「やっぱり心配なのは、ボスが応じてくれるかどうかなんだけど……」
開口一番、ダインは茶化してくる様子もなく、不安げに一番の心配事を口にした。
「もともと魔族は、死体は持ち帰れって言われてたんだ。けど、生きたまま連れ帰るってなると、研究員連中には絶対、そんな危険な奴を近づけんなって非難される」
「だが、生死は問わないとしても、生け贄は生きたままのほうがいいんじゃないのか?」
「そりゃ、最上の状態をいうんならだけど、安全面ってのが最優先だし。特に研究員連中は、話したとおり自己保身が第一だし」
先ほどの魔術士の男も、やや引いた立ち位置のまま、強く頷いている。
研究員らの安全を脅かすような真似は、最も裏切りと取られやすい行為なのだろう。
「そのあたりは任せた。上手くやってくれ」
だがそのあたりは、ダインらに任せるしかない。
儀式を行おうとしたレヴィは、俺を殺そうとはしなかった。生かしたまま、陣のようなものに縫い止められていただけだ。
ミリアから聞いたところ、儀式の成功率に、生け贄の生死は因果関係にないらしい。しかしできるのなら、生きているほうが結果は良いとのことだ。
「ミリアがローレンスに直々に交渉するまでの間だけだ。なんとか、尤もらしく理由をつけてくれ」
それまでの間だけだ。一時、その場での判断は下さず、交渉の場を作るよう計らってもらうしかない。
俺を無力化してもなお殺せと命令するのは早計だろう。精霊を求めているなら尚更だ。説き伏せる材料は揃っているように思う。それでもダインも魔術士らも、気が重そうな顔をしている。
「あと、言っとくけど、ボスは大の魔族嫌いなんだよ。俺としてはこっちのほうが問題だ。あんたのこと見た瞬間、発狂して殺せって言われるかもしれない。生かすにしても、心底嫌悪されてるから、どんな仕打ち受けるかも俺は保証できないよ」
「殺されなければいい。あとは構わん」
「……できるだけ庇おうとは思うけど。限界はある。あんたも、あんまりボスに向かってキレたり、挑発したりしないでね」
その程度は覚悟の上だ。ダインは若干苛立ったようなため息をつきながら、髪をガシガシ掻いている。
矢面に立たされるのは主にダインになるのだろう。組織内での責任問題にも発展する。しかしそれでもダインは、こちらの身を案じてくれている上に、庇うつもりではいるらしい。
態度こそ嫌々だが、その本質がにじみ出ていた。
「しかし、本当に優しい……情が深いな、貴様は……」
「は?」
素直に、そんな感想が出てきた。ダインは露骨にウゲエというような、気味の悪そうな顔をした。
「そもそもだ。なぜ最初から俺たちの味方をしてくれたんだ? 貴様が手を抜いたり、見逃したりとしなければ、俺はここまで生き延びられていなかった」
「え、だから、それがまずかったから、俺が糾弾されたんじゃん」
「自身の糾弾を背負ってまで、だろう。身を賭してまで、なぜだ、という話だ」
知らずのうちに、ダインには相当助けられているはずだ。ミリアを気に入っているにしても、そこまでされる理由は、いまだに判然としなかった。
「最初から、なんてつもりはないけどねー」
気まずそうな顔をしていたダインは、ふいっと背を向けた。
「わたしも知りたいです」
背を向けた、ダインの正面に、ミリアが素早く回り込んだ。
足を止めたダインの背中は、ますます気まずそうに見えた。
「ダインさん、もともと紳士な人だっていうのはわかるんですけど。やっぱり、最初から、味方してくれてたじゃないですか。仲間を裏切ってる、まずいことだっていうのもわかりながら、ですよね。そこまでできるのは、理由もなしじゃ、やっぱり不思議です」
ミリアは詰め寄るようにダインに近づく。またダインがミリアに手出しするのではないかとヒヤヒヤする距離だが。
ダインはやりにくそうだ。肩に乗せた太刀の先が、逃げ道を求めるようにゆらゆらしているようにも見える。横には、ダインに呪術を使った魔術士の男もいる。彼も口にしていた通り、相当疑問そうだ。
三方向から睨まれ、さすがに逃げ場がないと思ったのか、ダインは渋々口を開いた。
「……魔族と精霊術士がつるんで行動してるって、なんでと思って。逃げ続けてんのはどんな奴らかって気になって……知ろうと思っただけ。そんだけ」
ダインはそれだけ言って、今度こそそっぽを向いてしまった。
それだけ、と言われてもだ。言い逃れのためにしか聞こえなかった。それだけなわけがないと思うが。やはり疑問のままだった。
「……ああもう! やりづらいな!」
ダインはふとムキになったように声を荒らげると、振り返りざまに太刀でぶん殴ってきた。肩を打たれて、骨に若干響いた。
「いっ……」
「しつけーんだよ。運良く命拾いした、助かったんだーって、頭空っぽにして浮かれとけよ。生き延びる理由なんてそんなもんだよ。たまたまが続いてなんだか生き残っちゃったりするもんなの。そこに必然性なんてもんはねえんだよ」
「い、いきなり殴らないでくださいよ! ちゃんとクロウさんに謝ってください!」
「すいやせーん。すいやせーんっしたー」
「ふざけないでください!!」
「いや、もう……いい」
殴られた瞬間は腹が立ったが。ミリアが庇ってくれて、怒りも引っ込んだ。
今は、それで納得しておくしかないだろう。どうやら話したくないようだし。無理に聞き出そうとしても無駄だろう。
「じゃあ……ほんとにいいんだね、それで」
ダインもダインで何やら怒ったように太刀で自分の肩をバシバシしていたが、改まって聞いてきた。
俺とミリアは頷く。今さら確認する必要もない。
ダインは、ミリアの頭に手を置く。
「……頼んだよ」
「がんばります」
むっとしたが、ダインも追い詰められた立場の上で協力してくれているのだ。それくらいは許してやるか。
ミリアは両の拳を固めるが、思い出したように言う。
「頼まなくちゃならないけど、無理はしないでくださいね。ダインさんも、自分の命は最優先で……。特に、やっぱり、呪術があるから。危ないと思ったら……」
ミリアはダインに近づく。また危うい距離だ、と思ったら、ダインはミリアの肩を引き寄せた。ミリアの体が、ダインの腕の中に収まった。
「ううん。もう平気」
……待て。
ちょっと待て。だから。なんでだ。
「俺も、やっぱ、このままじゃいられねえって思うし……。もう少し、腹は括るよ。まだ怖いけどね」
なぜそういうことをする。理由がない。ミリアを奪い取るつもりなのか。ならばもはや徹底的に争うしかない。
しかもやっぱりミリアは嫌がっている様子がない。さっきまでの、誓いあったのはなんだったんだ。同じことを俺以外ともできるのか? だったらこの男の目の前で、さっきと同じことをしてやろうか。今度は本気で呼吸困難に陥れてやろうか。
「あー……クロウさん、大丈夫ですよ。わたしはダインさんのこと、男として見てないんで……」
「俺は見てるよ?」
「ダインさんは余計なこと言わないでください。あの、なんていうか、感覚的にはお父さんみたいなものなんで……」
「娘にこんなことしないよねえ?」
ダインはニヤニヤと下品な笑みを浮かべながらミリアに顔を近づけようとする。ミリアの腕を掴んで急いで引き離す。
こいつやっぱり殺したほうがいいんじゃないのか?
「おい、この魔族、本当に平気か……? やっぱり襲ってくるんじゃないのか?」
「とんでもない顔してるぞ……。手綱は握っててくれよ頼むから……」
周りの魔術士らがざわついている。
魔族といってもだ。普段はほぼ人間なのだから、そこまで怯えなくてもいいんじゃないかと思うが。
「じゃーやるよ?」
「頼む」
ダインがなぜか嬉々とした顔で俺に向きなおる。太刀を素振りしている。
俺を生かしたまま〈聖下の檻〉に連れ帰ることになった。が、意識があるままでは、研究員連中は訝しむだろう。
催眠の魔術は俺には効くかどうかわからない、どころか悪影響の可能性がある。よってつまり、殴って気絶させられることになった。
「お任せをー。最近よくやってますし」
目が覚めるまで、俺は、何もできない。何が起きたかさえわからない状態になる。
でも、信じよう。ミリアを。ダインのことも、それから戦闘員の魔術士らも。
〈聖下の檻〉を壊滅させるだけなら、こんな危険な橋は渡らなくていい。でもミリアの願いも叶えたいし、何より、俺自身の願いもかかっている。
ミリアは、俺と一緒に背負うつもりなのだと言った。俺が一人で破滅する道は、ミリアも望まない。
そのために。二人でいる未来を掴むために。
「クロウさん」
ミリアが声をかけてくる。
「大丈夫です。絶対に、どこまでも、一緒です」
握られた手を、握り返す。
「ああ。信じてる」
ミリアがいるから、大丈夫。
ダインの動作が僅かに見えた。
ミリアの手が離れたのを、感じた気がした。
何も見えなくても。何もできなくても。離れていても、大丈夫。
ミリアが絶対に、傍にいてくれる。ミリアが絶対に、迎えに来てくれる。
ミリアを、信じてるから。
あちらはあちらで、仲間内のみで計画の内容を整理したいとのことだ。
降臨の儀式について。ローレンスへの交渉について。ミリアの考えた筋書き通りに果たして上手くいくのかどうか、検討するためだろう。
俺たちは、やれることはやったはずだ。あとは良い方向に転んでくれるよう、信じて待つしかない。
ミリアと二人で、丘陵の広がる町の外を歩く。
ミリアの計画は、無事に説明し終えた。ずいぶん長いこと時間を要したようにも感じるが、思い返せばあっという間だった気もする。
実際のところ、時間は経過している証拠に、遠目の空の端は茜色に染まりつつある。外気もやや肌寒くなってきた。
体内につんとくるような空気をよく吸い込む。この辺りは小高くなっているおかげで、見晴らしがいい。といっても景色は緑と空以外、目立ったものはないが。遮るものが何もないから、風をめいっぱい浴びられた。
気持ちがいい。それに不思議と、青々とした空がいつもより拓けて感じる。この穏やかさを肌で感じていると、なぜだか、呆気ないような気持ちになった。
「いろいろ、穴がありましたね。やっぱり、ちゃんと儀式の知識のある人に聞いてみないと、わからないことが多かったですね」
ミリアは、先ほどの話を振り返るように言った。
筋書きや説得材料を用意して、反論もある程度は予想を立てていたものの、推測だけで見過ごしている問題もあった。ダインらの知識によって可否が判断できたおかげで、改めて方法を定めた結果、当初の想定よりも大事になる事態は避けられなくなった。
ローレンスと交渉して、こちらの望みを叶えながらも儀式を行うこと。ミリアは相変わらず、利害関係が一致する、ローレンスを説得できるはずだと自信満々なようだが。
本当に、対面しても平気なのか。交渉以前に、まともに対話できるのか。この道を共に歩むと決めはしたが、不透明なことだらけで不安ばかりだ。
ミリアだけを助けたいのなら、俺が犠牲になればいい。けれどそれではミリアは幸せにはなれない。できることがあるなら、尽力しなければならない。
ミリアは、変わらず前を向いている。上手くいくと信じているのか、それとも信じざるをえないだけなのか。上手くいかないのなら、共に旅立つ心構えができているからだろうか。
俺は本当に、このままでいいのか。
儀式となれば、俺には生け贄の道しか用意されていない。それはいい。徐々に納得してきた気持ちはある。どちらにせよ滅ぶ道しかないのなら、ミリアに精霊という比類のない力を遺して死ねたほうがいい。
だが、そうではない問題があることに、違和感に、沸々と気づきつつあった。
「……クロウさん?」
今、ミリアは、何かしらの希望を持って前進しようしているように見える。俺よりもずっと前を向いているように見える。
俺が見えないものを見ているような感覚。何が見えているのかはわからないが、ミリアが前向きでいられるならそのほうがいい。
ただ、ここ数日、考えていた。
俺の行く先よりも。それよりもずっと、重大なことについて。
「やっぱり、不安ですか?」
「いや。……出会ったばかりの頃を思い出していた」
ミリアは足を止めて、俺の顔を窺ってくる。
出会ったばかりの頃。ミリアには、精霊が宿っていた。精霊術士だと言い触らして回り、精霊の力を悪用し、復讐するなどと豪語していた。
もしもミリアに再び精霊が宿ったとしても、今度は精霊術士だなどと公言しないし、力を間違ったことにも使わないだろう。それは信用している。
だが。
「出会ったばかりの頃……ですか?」
「そうだ。あの頃のミリアは、むちゃくちゃだったな。精霊術士だと言い触らしたり、制御できない力を使って森を焼き払ったり、たった一人で復讐だとか掲げたり。今思えば、とんでもない自暴自棄だったな」
「そ、それは、反省してますよ。今そんなことしないですよ」
「そうだろうな」
頭に手を置く。そう。それは信用しているのだ。
「不安には思わなくなった。短期間で、立派になったものだ」
ミリアといた時間は、一生分の内ではほんの一瞬程度だろう。
けれど新鮮なものだらけだった。知らないことだらけだった。新しい世界に訪れたような、未知の出来事の連続で、満ち足りた時間だった。
俺一人では絶対に経験できなかったこと。絶対に得られなかったもの。ミリアのおかげで、今までは想像もできなかったような時間が得られた。
「……全部、クロウさんのおかげですよ」
するとミリアは、俺が頭で思ったことと同じようなことを口にした。
「わたし一人だったらどこかで無茶が祟ってました。わたしはしょせん、精霊がいないと何もできない、ただの小娘ですから。復讐なんて達成できないまま、こんな人生なんだったんだろうって思いながら、どこか知らない場所で惨めに一人で死んでただけです」
俺と出会っていなければ、という想定の話だろうか。そんな想像は無意味だとは思う。が、ミリアは続ける。
「自分の命はちゃんと大事にしないといけないって。親から与えられたものだからって。でもそれを、つらいって感じさせないように、一緒に支えてくれた。一緒に歩んでくれた。一緒にいてくれたクロウさんがいるから、わたしは……」
ミリアは顔を上げる。また泣いてはいるが、胸が痛くなるような嫌な涙じゃない。水の張った瞳が光を反射して、夜明けを知らせる太陽のようにキラキラして見えて、きれいだと思った。
ミリアは両腕をめいっぱい伸ばして、うんと背伸びして、ぎゅっと抱きついてくる。その小さな体を支えるように、背中に腕を回す。
「大丈夫です、クロウさん。不安なのはわかります。でも、今度はわたしが、絶対助けますから」
触れあった胸があたたかい。今さら、感触にどきまぎするわけじゃない。変に昂るようなこともない。それでも、心臓を包まれたような、ドキドキとした鼓動が鳴る。
気まずい気持ちもない。静めようと、無視したくなる感覚でもない。高鳴ってはいるが、心地よい。身を任せていたくなる、あたたかい音だ。
あと、やや場違いで悪いが。ミリアのほうからの予期せぬ抱擁というのは、やっぱり、ちょっと嬉しいな。
……助ける、か。助けられたい、とは、正直微塵も思ってない。
まだまだ全然子どもだというのに、そんな大言壮語を。と前までなら、鼻で笑っていたかもしれない。
でも今は、子どもだとわかっていても、こんなにも大きく感じるようになった。この体に、体重を預けてみたい。預けていたい。そう感じるようになった。
「……やっぱりやめないかと、言おうとしていた」
ふと、口をついて出てきた。
言わないほうがいいかもしれない。また幻滅させるかもしれないし、今さらややこしくなる。そう思って押し留めていたことだが、吐き出してしまいたくなった。
「精霊の力が再びミリアに宿るのだとしたら、また、出会った頃のミリアに戻るのと同義なんじゃないかと。俺はミリアを救いたくてここまできた。ミリアに精霊なんて力は必要ないと、そうなるよう力をつけて、努力してきたつもりだった」
今までの俺を否定することになるかもしれない。そんな引っ掛かりが残っていたことだ。
「だから、振り出しに戻るような気がして、嫌だった」
ミリアにそんな力は必要ない。普通の子としての人生を歩んで、幸せになってほしい。それが俺の願いであって目的だった。
振り出しの状態に戻るのは、俺の今までの道は無意味だった、無駄だったと、否定されているも同然ではないのかと。それがずっと胸の内に引っ掛かっていた。
「でも、そんなのは今、ミリアの言葉を聞いて、どこかへ行った」
ミリアが、俺のおかげだと言ってくれた。俺がいたから、ミリアを助けられたのだと。俺がいたことで、ミリアを変えられたのだと。それがわかったから、必要のない迷いへと変わった。
「……クロウさん。怒られるかもしれないし、できるかどうかもわからないから、本当はまだ言いたくなかったんですけど……」
ミリアは、内緒話でもするかのように、顔を寄せてきた。
何を言うつもりだろうか。俺が怒るようなこと。今さら思いつかないが。
ミリアは、耳元で伝えてくる。本当はまだ言いたくなかったこと。それを聞いて、納得した。
「ああ……そうか。ミリアには、それが見えていたのか……」
「隠そうとしてごめんなさい。でも本当に、絶対そうなるって、あんまり信用はしないでほしいんですけど。一応、わたしは、そのつもりです。叶わないなら、やっぱり、最後までついていっちゃうと思うんですけど」
「いや」
隠したくなる気持ちもわかる気がした。たしかに、無条件で信用はできない。確約もない。けど。
「その気持ちがあると、伝えてくれただけで十分だ。俺の歩んできた道には、価値があったと思える」
ミリアは、最初からずっと、俺を助けるために。それが見えていたから、こんなに前向きでいられたのか。
そのために、こんなに必死になってくれていたのだと思うと、涙が溢れてきた。
ミリアの手を握って、引き寄せる。気持ちが溢れてきて止まらない。もうすでに伝えたこと、ではあるが。
「ミリア。好きだ。好きだ。大好きだ……」
これ以上に、どうしていいのかわからない。伝えなければ気が済まなかった。
「んん。し、しつこいです」
ミリアは恥ずかしそうに頬を赤らめて、握られた手をもぞもぞしている。
たしかにしつこかったかもしれない。でも何度でも好きだと伝えたい。そうじゃないと気持ちのやり場がないのだ。
「それに、クロウさんの言う、好きっていうのは、やっぱり恋愛的な意味には聞こえないんですよねぇ……」
ミリアは困ったように苦笑いしている。
「恋愛……? ああ、ええと、恋仲だのの話か……?」
「わたしはやっぱり、そういう対象じゃないんですよね?」
「……結婚はしたい」
ミリアは自身を指差す。
ミリアのことを、恋人のような、女として捉えることは難しい。長く一緒にいすぎたせいか、そういう意識は薄い。それよりか庇護しなければならない対象だという認識のほうが強い。
ただ、家族という形は欲しい。それは単純に、憧れのようなものかもしれないが。
「俺が生涯、心に決めたのはミリアただ一人だ。もしミリアとの間に子を設けるなりできたなら、最上の幸福かもしれんな」
「子!? こ、子どもですか!? それは気が早すぎませんか!?」
ミリアはぶんぶんと手を振り払おうとしているが、離すまいとがっちり掴む。
気が早すぎるとは思わないが。想いは通じ合えたというのに、なぜ嫌がるのか。
「好きな人間との間に子が欲しいと思うのは当然の欲求じゃないのか……」
「え、なんか、やだ! その言い方、なんか、動物的で……!」
「動物は生存本能としての繁殖が目的だろう。精神的な好意は関わっていない。そうではなく、俺は、ミリアに俺との子を宿――」
話を遮るように、べちんと平手打ちされる。さすがに手も振りほどかれた。
「そこまで嫌なことを言ったか……?」
「デリカシーに欠けすぎてます! ほ、本人に、直接言う言葉じゃないですよ!」
「叩くのはさすがにひどいんじゃないのか……」
「わ、悪かったですーう!」
ミリアはムキになったように真っ赤になって、びょんびょん飛び跳ねている。
人、というか、生物として当然の営みなんじゃないのか。何をそこまで恥ずかしがる必要があるのか。
「じゃあ、わたしのことも、叩いていいですよ」
俺が不満な顔つきをしていたからか。ミリアは、自分の頬を指差した。
叩かれるのを覚悟したように、口を閉じて、ぎゅっと瞼を瞑る。上を向いて、衝撃に身構えている。
その顔。強ばるようにじっと待ち構えているところが、なおさら、なんだか。
頬のあたりに手を伸ばす。一歩詰めて、後頭部のあたりを掴んで、ぐいっと引き寄せる。
少し腰を屈めて、ミリアの華奢な体を持ち上げるように抱き寄せて、唇を触れ合わせた。
「んっ……!」
ミリアはびくっと反応して、慌てたように引き離そうとする。
が、しっかりと腕に力を入れて抱き竦める。頭を押さえつけて、押しつけるようにさらに深く重ねる。お互い立っていると、身長差が結構つらいな。
「んんっ」
ミリアは、引き離すのは無理だと悟ったのか、耐えるほうを選んだようだ。
感触がよくわかる。熱もよく伝わってくる。口付けという行為にどんな意味があるのかはよく知らない。でも好きな相手としたいという気持ちはわかる気がする。
少し目を開けると、ぎゅっと瞼を瞑って、微妙にぷるぷるしているミリアの顔が見えた。眉間に小さく刻まれた皺が恥じらいを表しているようにも見える。
俺に見られているとも知らずに、一生懸命じっと耐えているのだろう。服を掴まれて引っ張られているのも感じる。手に力を込めて、体を固くして、それでも拒まずに受け入れようとしている。可愛らしいものだ。
ゆっくり唇を離す。ミリアは空気を求めるようにふぁっと息を吸い込む。体を離す。
ミリアは無言で後退して、俺から顔を背けている。てっきり即座に怒られると思ったが、反応がなくて逆に怖くなってきた。
また殴られたら嫌だが、どうだろうか。大丈夫だろうか。事後に確認するのも変な話だが。
「だ、大丈夫か……?」
「余計なこと聞かないでください……」
一応聞いてみる。今さら悪いとは思っていないが。ミリアは息が上がったように頬を上気させている。
「クロウさんって、なんでこう、いつも、急なんですか……?」
「責任を取るつもりならあるぞ」
不満に思われてもだ。こちらは事後の責任など承知済みでしているのだ。それなら文句はあるまい。
それにあの顔で待たれて、耐えろというほうが無理だった。ミリアにも若干の責任があるのではないか。
「全部終わったら結婚しよう」
両手を取って宣言する。
ミリアが俺を想い続けてくれている。それなら俺もこうだ。機会さえあれば、気持ちとしては、いつでも準備できているのだから。
「うん……少し前から思ってたんですけど」
ミリアは言いづらそうな、気恥ずかしそうな顔をしながらも、顔を寄せてきた。
「クロウさんには、やっぱり、こっちの言葉のほうが似合うと思うんです」
ミリアは耳打ちしてくる。
こっちの言葉。俺に似合うだろうと思った言葉を、伝えてくる。
ああ、そうか。聞いて納得した。親子でなくても言っていいとは、そういう意味か。
変な固定観念に囚われていたな。俺はそれを与えられる立場でしかいたことがなかった。その言葉を与えられる立場になるとは、思いもしなかった。
誰が使っていいかどうかなど、何も関係がないというのに。
考えてみれば。それは、親が子へ言う言葉でもあり、恋人間で言う言葉でもあり、夫婦間で言う言葉でもあった。
「ミリア。――愛してる」
ミリアから教えられた言葉を、素直に口にする。
これで、よかったのか。
なんだ。難しく考える必要なんかなかったな。最初から気づいていればよかった。
俺がどうしたいのか。ミリアとどうなりたいのか。具体的なことよりも、まずはこの言葉だったんじゃないのか。
好きよりも、ずっと、今の気持ちに近い。ミリアへの溢れてくる感情は、たったこの一言で言い表せるものだったんじゃないのか。
愛というものについては、形も色もないから、よくわからない。抽象的な現象なのか、感情なのか。どこから生まれて何を生み出すものなのか。
でもそれだって、きっと難しく考える必要はないんだろう。
自分を見つめて、それからミリアを見つめて考えてみれば、思ったよりずっと、簡単な答えだった。
「わ、わた、わたしも……!」
「ミリアには、この言葉はまだ早い」
ミリアは顔を赤くして、返そうとしてくる。
ぼす、と頭に手を置く。背伸びして俺の耳元に近づいていたミリアは、元の背丈まで縮んだ。
「大人が使う言葉だ。まだ与えられていればいい。もっと大きくなったら、そのとき、俺に返してくれ」
「じゃあ……そうします。大人になってから、クロウさんに返します」
ミリアは顔を上げる。やっぱり、まだずいぶんと目線よりも下の位置にある、あどけない顔つきだ。
大人びた、成長したとは言っても。やっぱり、まだまだ子どもだな。
目と目が合うと、ミリアは照れくさそうに、はにかむ。
子どもらしい、邪気のない明るさが可愛らしい。けれど、その笑顔が、たまらなく愛おしい。
今なら素直に、そう思えた。
俺の欲求は。願いは。
ただ愛したい。愛して、わかりあいたい。ミリアに愛を受け止めてほしい。願わくば、同じくらいに、返してほしい。それだけだった。
だったら、今、叶っている。なら、何も恐れることなんかない。
「……しかし子を作るとしたら、まずは資金を溜めなければな……。家庭を持ったら冒険者から足を洗う者が多いと聞いたが、何よりも金銭面が安泰でなければ、夫婦生活に支障が出てしまうな……」
「え……ちょっと、いきなり何の話ですか……」
「冒険者稼業を続けていていいものか……いやその前に住む場所がなければ、子作りもできんな。しかし待て、それより前に、俺に子を成せる機能が残っているのかどうか」
「え、あの、子作りって、だから、気が早すぎるって言いませんでしたっけ……」
「しかし、魔族と人間の子、ということになるのか。この血筋は残していいものではないが、どうしたものだろうか。子を成すにも問題が山積みだな。一つずつ確かめて対処していかなければ」
「えぇえ全然聞いてない」
「だが、子どもはそうだな、最低でも三人は欲しいところだがミリアはどう思う?」
「もうやだ怖いこの人……」
ミリアはなぜか戦慄したような顔だが。
今は、将来の話にうつつを抜かしている場合じゃないな。まず第一に、目の前の障害を打破しなければ。
ダインらも、仲間内での話し合いはそろそろ終えた頃だと思っていいだろう。
行こう、と手を差し出す。ミリアは若干青ざめていたものの、諦めのような緩い笑みをこぼすと、顔を上げて、手を握ってきた。
大丈夫。先が見えないまま進むのは怖い。でも願いは叶っている。ミリアと二人なら、どこまででも行けるはずだ。
二人で行こう。未来を掴むために。
※ ※ ※ ※ ※ ※
二人でダインたちのもとに戻る。
ダインと、魔術士らが揃って待っていた。数人は相変わらず警戒した様子で遠くに離れている。
ティナという女性も、怪我こそしていたが無事だった。俺たちに気づくと、若干ダインの後ろに隠れたように見えたが。
ダインだけは話し合いのときから変わらず、俺たちが近づいてきても平然としている。話し合いの最中も、それにずいぶん助けられた。ダインが間に立ってくれなければ、魔術士らを説得することは難しかっただろう。
「やっぱり心配なのは、ボスが応じてくれるかどうかなんだけど……」
開口一番、ダインは茶化してくる様子もなく、不安げに一番の心配事を口にした。
「もともと魔族は、死体は持ち帰れって言われてたんだ。けど、生きたまま連れ帰るってなると、研究員連中には絶対、そんな危険な奴を近づけんなって非難される」
「だが、生死は問わないとしても、生け贄は生きたままのほうがいいんじゃないのか?」
「そりゃ、最上の状態をいうんならだけど、安全面ってのが最優先だし。特に研究員連中は、話したとおり自己保身が第一だし」
先ほどの魔術士の男も、やや引いた立ち位置のまま、強く頷いている。
研究員らの安全を脅かすような真似は、最も裏切りと取られやすい行為なのだろう。
「そのあたりは任せた。上手くやってくれ」
だがそのあたりは、ダインらに任せるしかない。
儀式を行おうとしたレヴィは、俺を殺そうとはしなかった。生かしたまま、陣のようなものに縫い止められていただけだ。
ミリアから聞いたところ、儀式の成功率に、生け贄の生死は因果関係にないらしい。しかしできるのなら、生きているほうが結果は良いとのことだ。
「ミリアがローレンスに直々に交渉するまでの間だけだ。なんとか、尤もらしく理由をつけてくれ」
それまでの間だけだ。一時、その場での判断は下さず、交渉の場を作るよう計らってもらうしかない。
俺を無力化してもなお殺せと命令するのは早計だろう。精霊を求めているなら尚更だ。説き伏せる材料は揃っているように思う。それでもダインも魔術士らも、気が重そうな顔をしている。
「あと、言っとくけど、ボスは大の魔族嫌いなんだよ。俺としてはこっちのほうが問題だ。あんたのこと見た瞬間、発狂して殺せって言われるかもしれない。生かすにしても、心底嫌悪されてるから、どんな仕打ち受けるかも俺は保証できないよ」
「殺されなければいい。あとは構わん」
「……できるだけ庇おうとは思うけど。限界はある。あんたも、あんまりボスに向かってキレたり、挑発したりしないでね」
その程度は覚悟の上だ。ダインは若干苛立ったようなため息をつきながら、髪をガシガシ掻いている。
矢面に立たされるのは主にダインになるのだろう。組織内での責任問題にも発展する。しかしそれでもダインは、こちらの身を案じてくれている上に、庇うつもりではいるらしい。
態度こそ嫌々だが、その本質がにじみ出ていた。
「しかし、本当に優しい……情が深いな、貴様は……」
「は?」
素直に、そんな感想が出てきた。ダインは露骨にウゲエというような、気味の悪そうな顔をした。
「そもそもだ。なぜ最初から俺たちの味方をしてくれたんだ? 貴様が手を抜いたり、見逃したりとしなければ、俺はここまで生き延びられていなかった」
「え、だから、それがまずかったから、俺が糾弾されたんじゃん」
「自身の糾弾を背負ってまで、だろう。身を賭してまで、なぜだ、という話だ」
知らずのうちに、ダインには相当助けられているはずだ。ミリアを気に入っているにしても、そこまでされる理由は、いまだに判然としなかった。
「最初から、なんてつもりはないけどねー」
気まずそうな顔をしていたダインは、ふいっと背を向けた。
「わたしも知りたいです」
背を向けた、ダインの正面に、ミリアが素早く回り込んだ。
足を止めたダインの背中は、ますます気まずそうに見えた。
「ダインさん、もともと紳士な人だっていうのはわかるんですけど。やっぱり、最初から、味方してくれてたじゃないですか。仲間を裏切ってる、まずいことだっていうのもわかりながら、ですよね。そこまでできるのは、理由もなしじゃ、やっぱり不思議です」
ミリアは詰め寄るようにダインに近づく。またダインがミリアに手出しするのではないかとヒヤヒヤする距離だが。
ダインはやりにくそうだ。肩に乗せた太刀の先が、逃げ道を求めるようにゆらゆらしているようにも見える。横には、ダインに呪術を使った魔術士の男もいる。彼も口にしていた通り、相当疑問そうだ。
三方向から睨まれ、さすがに逃げ場がないと思ったのか、ダインは渋々口を開いた。
「……魔族と精霊術士がつるんで行動してるって、なんでと思って。逃げ続けてんのはどんな奴らかって気になって……知ろうと思っただけ。そんだけ」
ダインはそれだけ言って、今度こそそっぽを向いてしまった。
それだけ、と言われてもだ。言い逃れのためにしか聞こえなかった。それだけなわけがないと思うが。やはり疑問のままだった。
「……ああもう! やりづらいな!」
ダインはふとムキになったように声を荒らげると、振り返りざまに太刀でぶん殴ってきた。肩を打たれて、骨に若干響いた。
「いっ……」
「しつけーんだよ。運良く命拾いした、助かったんだーって、頭空っぽにして浮かれとけよ。生き延びる理由なんてそんなもんだよ。たまたまが続いてなんだか生き残っちゃったりするもんなの。そこに必然性なんてもんはねえんだよ」
「い、いきなり殴らないでくださいよ! ちゃんとクロウさんに謝ってください!」
「すいやせーん。すいやせーんっしたー」
「ふざけないでください!!」
「いや、もう……いい」
殴られた瞬間は腹が立ったが。ミリアが庇ってくれて、怒りも引っ込んだ。
今は、それで納得しておくしかないだろう。どうやら話したくないようだし。無理に聞き出そうとしても無駄だろう。
「じゃあ……ほんとにいいんだね、それで」
ダインもダインで何やら怒ったように太刀で自分の肩をバシバシしていたが、改まって聞いてきた。
俺とミリアは頷く。今さら確認する必要もない。
ダインは、ミリアの頭に手を置く。
「……頼んだよ」
「がんばります」
むっとしたが、ダインも追い詰められた立場の上で協力してくれているのだ。それくらいは許してやるか。
ミリアは両の拳を固めるが、思い出したように言う。
「頼まなくちゃならないけど、無理はしないでくださいね。ダインさんも、自分の命は最優先で……。特に、やっぱり、呪術があるから。危ないと思ったら……」
ミリアはダインに近づく。また危うい距離だ、と思ったら、ダインはミリアの肩を引き寄せた。ミリアの体が、ダインの腕の中に収まった。
「ううん。もう平気」
……待て。
ちょっと待て。だから。なんでだ。
「俺も、やっぱ、このままじゃいられねえって思うし……。もう少し、腹は括るよ。まだ怖いけどね」
なぜそういうことをする。理由がない。ミリアを奪い取るつもりなのか。ならばもはや徹底的に争うしかない。
しかもやっぱりミリアは嫌がっている様子がない。さっきまでの、誓いあったのはなんだったんだ。同じことを俺以外ともできるのか? だったらこの男の目の前で、さっきと同じことをしてやろうか。今度は本気で呼吸困難に陥れてやろうか。
「あー……クロウさん、大丈夫ですよ。わたしはダインさんのこと、男として見てないんで……」
「俺は見てるよ?」
「ダインさんは余計なこと言わないでください。あの、なんていうか、感覚的にはお父さんみたいなものなんで……」
「娘にこんなことしないよねえ?」
ダインはニヤニヤと下品な笑みを浮かべながらミリアに顔を近づけようとする。ミリアの腕を掴んで急いで引き離す。
こいつやっぱり殺したほうがいいんじゃないのか?
「おい、この魔族、本当に平気か……? やっぱり襲ってくるんじゃないのか?」
「とんでもない顔してるぞ……。手綱は握っててくれよ頼むから……」
周りの魔術士らがざわついている。
魔族といってもだ。普段はほぼ人間なのだから、そこまで怯えなくてもいいんじゃないかと思うが。
「じゃーやるよ?」
「頼む」
ダインがなぜか嬉々とした顔で俺に向きなおる。太刀を素振りしている。
俺を生かしたまま〈聖下の檻〉に連れ帰ることになった。が、意識があるままでは、研究員連中は訝しむだろう。
催眠の魔術は俺には効くかどうかわからない、どころか悪影響の可能性がある。よってつまり、殴って気絶させられることになった。
「お任せをー。最近よくやってますし」
目が覚めるまで、俺は、何もできない。何が起きたかさえわからない状態になる。
でも、信じよう。ミリアを。ダインのことも、それから戦闘員の魔術士らも。
〈聖下の檻〉を壊滅させるだけなら、こんな危険な橋は渡らなくていい。でもミリアの願いも叶えたいし、何より、俺自身の願いもかかっている。
ミリアは、俺と一緒に背負うつもりなのだと言った。俺が一人で破滅する道は、ミリアも望まない。
そのために。二人でいる未来を掴むために。
「クロウさん」
ミリアが声をかけてくる。
「大丈夫です。絶対に、どこまでも、一緒です」
握られた手を、握り返す。
「ああ。信じてる」
ミリアがいるから、大丈夫。
ダインの動作が僅かに見えた。
ミリアの手が離れたのを、感じた気がした。
何も見えなくても。何もできなくても。離れていても、大丈夫。
ミリアが絶対に、傍にいてくれる。ミリアが絶対に、迎えに来てくれる。
ミリアを、信じてるから。
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