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おじさんはリアルでも奇跡を起こす

第031話 理想の生活

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「へぇ~、ここが今日の目的地か」
「うん、マジックシルクシープの生息地なの」

 俺たちがやってきたのは、森林浴に丁度よさそうな適度に日が差す森の中。木々の間隔もそれなりに空いていて歩きやすい。

 それに、近くのせせらぎが心地よく、空気が美味い。

 都市部からのアクセスもそれほど悪くなかったし、この辺りに住めたら非常に暮らしやすいのではないだろうか。

 少し開墾して畑を耕せば、なかなか悪くない実りも見込める気がする。

 俺はこの土地が気に入った。

「こういうところでひっそり暮らしたいなぁ」
「いいんじゃない? この辺りは空気もいいし、人も来ないし、おじさんが好きそうな場所だね」

 ポツリと呟いたら、隣で亜理紗がニッコリと笑って俺を見上げる。

「ははははっ。亜理紗にはバレバレだな」
「ふっふっふー。おじさんのことはよーく見てるからね」

 亜理紗は両手で眼鏡のような物を作って自慢げに笑った。

 亜理紗には動物好きがバレてるし、人付き合いが苦手なのも当然お見通しか。それなりに一緒に居た時間が長いからな。

「こういう場所で農業したり、鍛冶をしたり。あの子たちみたいな家族に囲まれて、物を作って生活できたら楽しそうだよな」
「うんうん、おじさんは戦闘職よりも生産職の方が向いてるよ、絶対」

 マヒルとヨルもじゃれながら楽しそうに森を駆けまわっている。ワラビモチとカシワモチもぴょんぴょんと跳ねながら彼女たちを追いかけていた。

 彼女たちは人間じゃない。都会で窮屈な生活をさせるよりも、こういう解放感のあるところで、のびのびと育てた方がいいような気がする。

 俺が理想の生活に思いを馳せながら語るのを、亜理紗は嬉しそうに聞いてくれる。

「生産職?」
「うん、戦う人たちを支える人たちのこと。アイテム作ったり、装備つくったり。ルウもその一人だね」
「なるほどな。絶対そっちの方が向いているな」

 聞き覚えのない単語に亜理紗の方を見ながら首を傾げると、彼女が説明してくれる。確かにその通りだった。

 俺は昔から人付き合いが苦手だったし、黙々と何かをしている方が得意だ。人に邪魔されずに、可愛い子達と戯れながら物作りに没頭する生活。

 それはまさに理想的だった。

「アイテムを作ったり、装備を作ったりするにはスキルが必要だけど、おじさんならその内なんとかしちゃうだろうし、最初は別に農業から始めてもいいだろうしね」
「ああ。ヨルが土壌操作と豊穣スキルを持っているし、マヒルも天候操作と成長促進のスキルを持っているから自給自足の生活をするのも悪くない」

 ヨルの土壌操作は、土の状態を変えることができるスキルで、豊穣は農作物の健康を保ち、実りを豊かにしてくれるスキル。

 マヒルの天候操作は狭い範囲で雨にしたり、晴れにしたりできるスキルで、成長促進スキルは農作物の実りを早めてくれるスキル。

 という話を亜理紗から聞いている。

 どれもこれも農業に最適で、向かうところ敵なしって感じだ。

「ホント、神様がそうしろって言ってるみたいなスキル構成だよね」
「そうだな。不幸のどん底に落ちた俺を哀れに思って神様がくれた……いや、違うな。これは亜理紗がくれた贈り物だ。ありがとな」

 全てを失ったあの日、絶望した俺だけど、今こうして生きている。

 何度でも言うが、これは神様のおかげなんかじゃない。俺にFIOを勧めてくれた、この娘のお陰だ。

 俺は隣にいる亜理紗の頭を撫でた。

「な、何言ってるの!?」
「ははははっ。俺にとって亜理紗が神様って話だよ」

 亜理紗は顔を真っ赤にして抗議してくる。
 照れてる顔も可愛いな。

「私は神様じゃないよ。姪だよ!!」
「はいはい、分かってるよ」
「もう!! 子ども扱いして!!」

 憤慨する亜理紗を適当にあしらう。

 たわいのない雑談をしながらマジックシルクシープを探す俺たちだった。

「あ、見つけたよ」

 暫く歩いていると、お目当てのモンスターが姿を現わした。

 いやでもあれは……

 ただ、俺はマジックシルクシープを見て愕然とする。

「亜理紗」
「ん、何? どうしたの?」

 亜理紗を呼び止めると、彼女は俺の方を向いて首を傾げた。

「いやいや、アレを倒すのか?」
「うん、言いたいことは分かるけどね」

 俺はマジックシルクシープを指さしながら尋ねると、亜理紗も複雑な表情で言い淀んだ。

 それもそのはず。マジックシルクシープは、どう見てもモンスターには思えないほどにデフォルメされていてモフモフで可愛いからだ。

 ゲームの開発者がこんなに可愛い存在を攻撃できるのかと、まるでプレイヤーを試すかのような見た目をしている。

「ヴェ~」
「ヴェ~」
「ヴェ~」

 そして、羊たちは俺達を見つけるなり集まってくる。ただ、そこにケムーシーやグミーのような敵意は感じられない。逆に好意的なものさえ感じる。

「その上、アクティブモンスターじゃないからこっちから攻撃しない限り、襲ってこないんだよね、あははは……」

 そんな彼らを見て亜理紗は乾いた笑みを浮かべた。

 一体どうしたらいいんだ……正直俺には攻撃できそうもない。

 しかし、予想外の結果が俺たちを持っていた。

「「「「「「「「「「仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか? Yes or No」」」」」」」」」」

 それは、マジックシルクシープ側の全面降伏だった。
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