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「じゅっ、順平さんっ。やはり凄いお方ですねー」
「こ、コラやめろっ!」

 瞳を潤ませ再び飛びつくサヤを再び即座に引き離す。ったく、ナナも見てるってのに。

「……お似合い」
「うるさいよ」

 コイツはわざとやってんのか。

「ナナさん、ありがとうございますですよー」
「……本当のこと。あ、それから」

 ナナが両手を前に揃えて、

「……ごめんなさい」

 深々と頭を下げた。

「な、何を仰りますやらっ。私、気にしてませんから。ささっ、顔を上げてくださいっ」

 サヤがナナの傍に行って、笑顔で肩をポンポンと叩いている。うんうん、ほほえましい光景だ。

「……何か、お詫び、したい」

 表情を変えずに顔を上げるナナ。でもあの激戦を交えた俺には、コイツが照れくさそうにしているのがよくわかる。

「そんな必要ないですよねえ、順平さん?」
「しかし、ナナは絶対って聞かないからなあ……そうだ。ここから脱出させてくれよ。これはナナにしか出来ないことだから、お願いしたい。いいかな?」
「……二人とも、ありがとう」

 意図を察したようで、今度は誰にでもわかるように、あのニラの時のよう――それ以上に、微笑んだ。

「そうですっ! 私、本部に帰るまでは数時間あるので、パーっとパーティーしましょうよー」
「……うっし。じゃあ、三人で盛大なやつをしようか」

 それが終わったら、本当のお別れが待っている。
 正直、寂しい。
 お礼もまだだし、言いたいことだって山ほどある。
 時間なんて、どれほどあっても足りないくらい。
 でも、こればっかりはどうしようもない。
 残念だけど、その時は精一杯笑顔で見送ろう。

「……楽しみ。この世界が解除されたら元居た場所だから。ワタシは、建物の前で立ってるから、すぐわかる」
「おうよ」
「はいですー」

 俺たちはぐっと親指を立てた。

「……解除」

 白の世界が歪み始め暗転、直後に視界が復帰。さてさて、ようやく地球の、あの部屋に戻って――

「あら?」

 前方、一時の方向に信号機。ちなみに青。なぜにある?

「おやおや?」
「……空間が歪んで、位置がずれた」

 左手を見ると、二人が歩道に並んで立っていた。
 一瞬ここはどこかと思ったけど、二人の背後に見慣れた事務所が見えるから無事地球に戻ってきている。

「……不具合が生じた」

 ああ、それで二人の体はうっすらと透けてるのか。
 ラクリエスも久方ぶりに力を使ったから相当負担がかかったんだろう。壊れて異空間に取り残されなかっただけ御の字だ。

「「……あ」」

 二人が右――俺の背後――を見て見事なユニゾン。

「何、どうし」

 ドン!! キキ――――!

「ぐぽっっっ!?」

 背中に驚くべき衝撃を受け、数メートル吹っ飛ばされて景色が快晴の空になり、街並みに移り、コンクリート。俺は無残に地面を転がった。
 ぜ、全身が、猛烈に痛い。動か、ない。

「だ、大丈夫かっ」

 俺を抱き起してくれたのは、スキンヘッドの男性。

「って旦那ぁ!」

 なんとまぁ……八頭さんじゃないですか。あははははは。

「バイク飛ばしてたら前方に突如現れて、半透明だったから幻と思い突っ切ってしまいました! ……すいやせんっ。腹掻っ切っておわびしやすっ」
「……俺が悪いの。やめてください」

 そうか。俺は運悪く、歩道から僅かにはみ出した車線に居たのね。だから、信号機が斜め右に見えたのね。

「順平さん!」
「……ジュンペイ」

 二人も心配そうに覗き込んでる。
「あ、姉御――し、白のっ、殺し屋かてめぇ!」
「……?」
「和解済みなので今は仲良しさんですよ~」
「そ、そうでしたか……。スンマセン」
「……気にしない」

 そんなやり取りが霞みゆく視界で繰り広げられる。

「そ、そんなことより順平さんをっ。救急車をコールしなくてはっ」
「わ、わかりやしたっ」

 震える手でスマホを必死で押す八頭さん。
 ……ああ、もう駄目だ。痛みが消えて、気持ちよくなってきたよ……。
 あれれ? 上空から太陽とは別の、とっても温かい光が、差し込む。羽の生えた子供が降りて来てるなぁ。

「じゅ、順平さん、大丈夫ですかっ?」
「……ジュンペイ、大丈夫?」
「サヤ……ナナ…………」

 俺は薄れゆく意識の中、力を振り絞り、

「どうしてお前たちは器用にギリギリに陣取ってるんだよ……」

 悪態をついた。


 ここから俺の記憶は、ない。
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