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「た、助けてくださいっ!」
「お助けを~」
疾走、電車、疾走を経て、見慣れた建物に息も絶え絶え駆け込んだ。
「旦那に姉御!? 血相変えてどうしたんすか? それに今は学校の時間じゃ……」
闖入者たちに、なぜか室内で縁台将棋に勤しんでいた八頭さんが駒を落としながら驚きの声をあげた。
「い、命を狙われて……! か、匿って、ください!」
「また例の女っすか!? 野郎共! 緊急事態だ集まりやがれ!」
乱れに乱れた鼓動を整えていると、八頭さんの合図で強面の方々が七人、俺たちの周りに集合した。モヒカンに長髪、坊主にリーゼント。金、銀や赤。髪形から色までより取り見取りでカラフル。先日お世話になった時に、お友達になって頂いた皆さんだ。
「旦那と姉御を狙う不届きものがいるらしい……! 命に代えてでも守り抜くぞ!」
「「「「「おお――――!!」」」」」
懐から声を大きくしては言えない物体を出し、野太い声の大合唱。味方になればこれほど心強い人たちはいない。
あくまで場の雰囲気が必要なので、命をかける必要や危害を加える必要はないのですけど、とってもありがたい。
「これだけ警戒すれば、敵もそう簡単に手出しできないでしょう。おいてめえら、旦那と姉御を安全な二階へご案内しろ。オレは少し空けるが、気張ってお守りしろや!」
「「「「「あいよ――――!!」」」」」
鼓膜がびりびりする。なんという一体感なんだ。
「あらら? 八頭さん、今からお出かけなのですかー?」
「俺たち押しかけちゃって。用があるのにすみません」
「違いますよ。不審者の確認と、近くに美味しい茶菓子屋があるんで買ってこようかと思いまして。こんな時は甘いものでリラックスしてください」
いかついのに、菩薩と錯覚するような笑み。
「そこまでしていただかなくても。俺たち、ここに居させてもらえるだけでも十分ですから」
「いえいえ。ここからバイクでちょっとの距離なんで、行ってきやす。お前ら! 念には念を入れて鍵はしっかり閉めとけよ!」
止めようとしたけど、足早に出て行ってしまった。朝っぱらから申し訳ないです。
「では、アニキが戻るまで二階で寛いでてくだせえ。俺たちが脇を固めますんで」
こう言ってくれるのは二日前八頭さんに掌底を受けて顎の湿布が痛々しいモヒカンのお兄さん。なぜか俺とサヤはこの場の全員からもこう呼ばれている。
「お忙しいのに手間を取らせてすみません」
「いつもありがとうございますです~」
改めて感謝の意を伝え、頭を下げると、
「「「「「滅相もございやせん――――!!」」」」」
全員がこっちへ向けて九十度のお辞儀。俺たちの礼が霞んじゃったよ。
「では、こちらへどうぞ。おい、アニキに言われた通りに玄関のカギをきっちり確認しとけや! おら、三秒以内に動かんかコラァ」
「あい喜んで!」
部下らしきボウズさんに命令すると、揉み手をしながら頷いた。おぅ、縦社会って怖い。特にこの社会は逆らうと身体で覚えさせられそうだ。
「すんません。驚かせたみたいっすね」
「あ、いえ」
階段に向かいながら、愛想笑い。
「これでもウチは緩いって評判なんですよ。他の組なんて――」
「ぐ、ぐぅ……!」
急に背後――玄関の方から、ボウズさんの苦悶の声が聞こえて来た。
「お助けを~」
疾走、電車、疾走を経て、見慣れた建物に息も絶え絶え駆け込んだ。
「旦那に姉御!? 血相変えてどうしたんすか? それに今は学校の時間じゃ……」
闖入者たちに、なぜか室内で縁台将棋に勤しんでいた八頭さんが駒を落としながら驚きの声をあげた。
「い、命を狙われて……! か、匿って、ください!」
「また例の女っすか!? 野郎共! 緊急事態だ集まりやがれ!」
乱れに乱れた鼓動を整えていると、八頭さんの合図で強面の方々が七人、俺たちの周りに集合した。モヒカンに長髪、坊主にリーゼント。金、銀や赤。髪形から色までより取り見取りでカラフル。先日お世話になった時に、お友達になって頂いた皆さんだ。
「旦那と姉御を狙う不届きものがいるらしい……! 命に代えてでも守り抜くぞ!」
「「「「「おお――――!!」」」」」
懐から声を大きくしては言えない物体を出し、野太い声の大合唱。味方になればこれほど心強い人たちはいない。
あくまで場の雰囲気が必要なので、命をかける必要や危害を加える必要はないのですけど、とってもありがたい。
「これだけ警戒すれば、敵もそう簡単に手出しできないでしょう。おいてめえら、旦那と姉御を安全な二階へご案内しろ。オレは少し空けるが、気張ってお守りしろや!」
「「「「「あいよ――――!!」」」」」
鼓膜がびりびりする。なんという一体感なんだ。
「あらら? 八頭さん、今からお出かけなのですかー?」
「俺たち押しかけちゃって。用があるのにすみません」
「違いますよ。不審者の確認と、近くに美味しい茶菓子屋があるんで買ってこようかと思いまして。こんな時は甘いものでリラックスしてください」
いかついのに、菩薩と錯覚するような笑み。
「そこまでしていただかなくても。俺たち、ここに居させてもらえるだけでも十分ですから」
「いえいえ。ここからバイクでちょっとの距離なんで、行ってきやす。お前ら! 念には念を入れて鍵はしっかり閉めとけよ!」
止めようとしたけど、足早に出て行ってしまった。朝っぱらから申し訳ないです。
「では、アニキが戻るまで二階で寛いでてくだせえ。俺たちが脇を固めますんで」
こう言ってくれるのは二日前八頭さんに掌底を受けて顎の湿布が痛々しいモヒカンのお兄さん。なぜか俺とサヤはこの場の全員からもこう呼ばれている。
「お忙しいのに手間を取らせてすみません」
「いつもありがとうございますです~」
改めて感謝の意を伝え、頭を下げると、
「「「「「滅相もございやせん――――!!」」」」」
全員がこっちへ向けて九十度のお辞儀。俺たちの礼が霞んじゃったよ。
「では、こちらへどうぞ。おい、アニキに言われた通りに玄関のカギをきっちり確認しとけや! おら、三秒以内に動かんかコラァ」
「あい喜んで!」
部下らしきボウズさんに命令すると、揉み手をしながら頷いた。おぅ、縦社会って怖い。特にこの社会は逆らうと身体で覚えさせられそうだ。
「すんません。驚かせたみたいっすね」
「あ、いえ」
階段に向かいながら、愛想笑い。
「これでもウチは緩いって評判なんですよ。他の組なんて――」
「ぐ、ぐぅ……!」
急に背後――玄関の方から、ボウズさんの苦悶の声が聞こえて来た。
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