上 下
19 / 186

定食屋始めますか?

しおりを挟む
 正直に食事にこんな感動があると言う事を忘れていた、いつの頃からだろうか、ただ腹を満たす為だけの食事をとる様になったのは、最初の頃は俺にもあれが食いたい、これが食いたいなんて欲もあった、色々な事情で妥協して、諦めて、時には簡単さを求め、時間の短縮の為、金銭的な理由でなど、いい訳を考えたらきりがない。 
 
 自分で丁寧に作った角煮とクリスピーポークは、調理に費やした手間暇以上の感動と幸福を俺に運んできた、更には俺が作った料理に喜んでくれる人達のあの満たされた顔、幸福の真ん中にいるかのような幸せそうな顔が、俺の脳裏に焼き付いて離れない。 
 
 ニーアさんやねねの、あの幸せそうな顔は素材がよかったのはもちろん理解してる、それでも自分が料理した物を満足そうに、それでいて宝物でも扱う様に丁寧に食べてくれる様子は、なんだか新鮮で俺自身が嬉しくなる感じがした。 
 
 なんとも言えない幸福感に包まれている時に、店のドアが開いた。 
 
 「やっぱり!何か美味そうなもん食ってるな!ちくしょ~出遅れたか」 
 
 「おい!俺の分も残ってるんだろうな!頼むぜ」 
 
 フィガロさんとルーカスさんが息を切らしながら現れた。 
 
 「なんとか二人前残ってますよ、二人も来るんじゃないかと思ってたんで」 
  
 二人分別に確保していたのだけど、それでも角煮もクリスピーポークも結構な量あったはずなのだが、気が付いたらみんなのお腹の中に納まってしまった、濃い脂身の旨味をあれだけ食べても胸焼けや気持ち悪くなる事がないのだから、凄い食材だ、寧ろ体の中で体が活性化されたかの様な清々しい感じがして、胃もすっきりとしている、不思議だ。 
 
 「七色豚の一部がうちに来る前に買い取られたって聞いてな、やっぱりニーアが出し抜きやがったのか!」 
 
 「うほ~!美味いなこれ!?とろっとろのほろほろじゃね~か!」 
 
 「あっこいつ俺より先に食いやがって!俺も食うぞ!うん?ほほ~こっちはザクザク皮がいい音立てやがる!肉の部分はぷるんぷるんだ!くっは~エールが飲みたい!斗真!こりゃ商売になるぜ!」 
 
 「そうですよね!斗真さんの料理には東国の醬油や味噌など使われる事も多く、ここいらの料理とは流儀がかな違います!それだけでも珍しく、そしてとても美味なのに!七色豚の角煮は確実に名物になります!もちろんもう一つのクリスピーポークも!!特にクリスピーポークのサクサク感とふわとろとしたお肉の感覚に、何とも言えない複雑な味わいの味付け、スパイスといいましたか?これほど多くのスパイスを混ぜ合わせて使った料理は砂漠の国の料理の様でした!」 
 
 「確かに砂漠の国は別名スパイスの国だもんな、あの国の料理人以上にスパイスを使いこなせる料理人はいない」 
 
 「我が国でもスパイスは使いますが、斗真さんの料理にポーションの材料になるものだったり、薬の材料を料理に使うと言うのは大変珍しいです」 
 
 「あたしはなんでもいいけど、斗真に料理屋を開いてもらえるならそれが一番いい!こんなに美味いもん作れるのに、もう食べられないと考えると、流石に辛いぜ」 
 
 「料理屋ですか・・・まぁやってもいいんですけど、どこまで応えられるか分からないのが不安なんですよね。どんなメニューにするかとか」 
 
 「俺の所やフィガロの所で仕入れる材料で、作れるもんを毎日変えたらどうなんだ?毎回安定して確実にある食材なんかは限られているし、ダンジョンからの入り具合でどんな肉や魚があるか、変わってくるからなぁ、メニューも日替わりみたいに毎日変わるって事でいいんじゃないか?」 
 
 入ってくる食材で毎日変わるか、それはいいかも、面倒な火はいっそカレーを大量に作るとかもありになりそうだしな、乾麺のそばやうどん、ソーメンを大量消費とかもできるなぁ。 
 
 「今回みたいな滅茶苦茶美味い!なんて料理、毎回作れる程料理の腕がある訳でもないんですけど、それでもいいと思います?」 
 
 「そりょ美味いにこした事は悪くないが、そんな王宮料理みたいなのを毎日望んでいる訳でもないぞ」 
 
 「そうですね、教会も質素なものですよ、毎日」 
 
 「商会で食べるのはパンだけ、なんて事も普通にありますから」 
 
 「酒類なんかも扱わないですけど、いいんですかね」 
 
 「飯屋ならあってもなくても問題ないんじゃないか?それこそ斗真の自由にしたらいい」 
 
 悩むなぁ、ここまで望まれているなら、料理屋開いてもいいかも儲かるかどうかはわからないけど、本業に支障ないレベルなら問題ないかな、う~ん優柔不断で悪いけど、やっぱり不安だよなぁ。 
 
 「ねねも手伝うよ!お野菜の皮を剥いたり、切ったりできるよ!」 
 
 「もちろん私も手伝いますよ。斗真さんがやってみたいなら、やるだけやって、やっぱりあわないならその後で辞めてもいいんじゃないですか?」 
 
 「そうだね、やってみて合わないようなら辞めてもいいなら、お試しでやってみようかなって気にはなるかな?」 
 
 「ならとりあえずお試しで開店してみる事をお勧めしますよ。お店の名前さえつけて頂ければ、ギルドでも紹介しますよ」 
 
 店名かぁ神様のお陰でここにいるし、日本の神様・・・八百万の神様かぁ。 
 
 「定食屋の八百万で、八百万と書いてやおよろずでお願いします」 
 
 こうしてお試しで、異世界定食屋 八百万は開店する事になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ
ファンタジー
 馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。  錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。  スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。  冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。  俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。  ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。  居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。  爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!  一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。  でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。  そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

処理中です...