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定食屋始めますか?

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 正直に食事にこんな感動があると言う事を忘れていた、いつの頃からだろうか、ただ腹を満たす為だけの食事をとる様になったのは、最初の頃は俺にもあれが食いたい、これが食いたいなんて欲もあった、色々な事情で妥協して、諦めて、時には簡単さを求め、時間の短縮の為、金銭的な理由でなど、いい訳を考えたらきりがない。 
 
 自分で丁寧に作った角煮とクリスピーポークは、調理に費やした手間暇以上の感動と幸福を俺に運んできた、更には俺が作った料理に喜んでくれる人達のあの満たされた顔、幸福の真ん中にいるかのような幸せそうな顔が、俺の脳裏に焼き付いて離れない。 
 
 ニーアさんやねねの、あの幸せそうな顔は素材がよかったのはもちろん理解してる、それでも自分が料理した物を満足そうに、それでいて宝物でも扱う様に丁寧に食べてくれる様子は、なんだか新鮮で俺自身が嬉しくなる感じがした。 
 
 なんとも言えない幸福感に包まれている時に、店のドアが開いた。 
 
 「やっぱり!何か美味そうなもん食ってるな!ちくしょ~出遅れたか」 
 
 「おい!俺の分も残ってるんだろうな!頼むぜ」 
 
 フィガロさんとルーカスさんが息を切らしながら現れた。 
 
 「なんとか二人前残ってますよ、二人も来るんじゃないかと思ってたんで」 
  
 二人分別に確保していたのだけど、それでも角煮もクリスピーポークも結構な量あったはずなのだが、気が付いたらみんなのお腹の中に納まってしまった、濃い脂身の旨味をあれだけ食べても胸焼けや気持ち悪くなる事がないのだから、凄い食材だ、寧ろ体の中で体が活性化されたかの様な清々しい感じがして、胃もすっきりとしている、不思議だ。 
 
 「七色豚の一部がうちに来る前に買い取られたって聞いてな、やっぱりニーアが出し抜きやがったのか!」 
 
 「うほ~!美味いなこれ!?とろっとろのほろほろじゃね~か!」 
 
 「あっこいつ俺より先に食いやがって!俺も食うぞ!うん?ほほ~こっちはザクザク皮がいい音立てやがる!肉の部分はぷるんぷるんだ!くっは~エールが飲みたい!斗真!こりゃ商売になるぜ!」 
 
 「そうですよね!斗真さんの料理には東国の醬油や味噌など使われる事も多く、ここいらの料理とは流儀がかな違います!それだけでも珍しく、そしてとても美味なのに!七色豚の角煮は確実に名物になります!もちろんもう一つのクリスピーポークも!!特にクリスピーポークのサクサク感とふわとろとしたお肉の感覚に、何とも言えない複雑な味わいの味付け、スパイスといいましたか?これほど多くのスパイスを混ぜ合わせて使った料理は砂漠の国の料理の様でした!」 
 
 「確かに砂漠の国は別名スパイスの国だもんな、あの国の料理人以上にスパイスを使いこなせる料理人はいない」 
 
 「我が国でもスパイスは使いますが、斗真さんの料理にポーションの材料になるものだったり、薬の材料を料理に使うと言うのは大変珍しいです」 
 
 「あたしはなんでもいいけど、斗真に料理屋を開いてもらえるならそれが一番いい!こんなに美味いもん作れるのに、もう食べられないと考えると、流石に辛いぜ」 
 
 「料理屋ですか・・・まぁやってもいいんですけど、どこまで応えられるか分からないのが不安なんですよね。どんなメニューにするかとか」 
 
 「俺の所やフィガロの所で仕入れる材料で、作れるもんを毎日変えたらどうなんだ?毎回安定して確実にある食材なんかは限られているし、ダンジョンからの入り具合でどんな肉や魚があるか、変わってくるからなぁ、メニューも日替わりみたいに毎日変わるって事でいいんじゃないか?」 
 
 入ってくる食材で毎日変わるか、それはいいかも、面倒な火はいっそカレーを大量に作るとかもありになりそうだしな、乾麺のそばやうどん、ソーメンを大量消費とかもできるなぁ。 
 
 「今回みたいな滅茶苦茶美味い!なんて料理、毎回作れる程料理の腕がある訳でもないんですけど、それでもいいと思います?」 
 
 「そりょ美味いにこした事は悪くないが、そんな王宮料理みたいなのを毎日望んでいる訳でもないぞ」 
 
 「そうですね、教会も質素なものですよ、毎日」 
 
 「商会で食べるのはパンだけ、なんて事も普通にありますから」 
 
 「酒類なんかも扱わないですけど、いいんですかね」 
 
 「飯屋ならあってもなくても問題ないんじゃないか?それこそ斗真の自由にしたらいい」 
 
 悩むなぁ、ここまで望まれているなら、料理屋開いてもいいかも儲かるかどうかはわからないけど、本業に支障ないレベルなら問題ないかな、う~ん優柔不断で悪いけど、やっぱり不安だよなぁ。 
 
 「ねねも手伝うよ!お野菜の皮を剥いたり、切ったりできるよ!」 
 
 「もちろん私も手伝いますよ。斗真さんがやってみたいなら、やるだけやって、やっぱりあわないならその後で辞めてもいいんじゃないですか?」 
 
 「そうだね、やってみて合わないようなら辞めてもいいなら、お試しでやってみようかなって気にはなるかな?」 
 
 「ならとりあえずお試しで開店してみる事をお勧めしますよ。お店の名前さえつけて頂ければ、ギルドでも紹介しますよ」 
 
 店名かぁ神様のお陰でここにいるし、日本の神様・・・八百万の神様かぁ。 
 
 「定食屋の八百万で、八百万と書いてやおよろずでお願いします」 
 
 こうしてお試しで、異世界定食屋 八百万は開店する事になった。
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